暁の本拠地に行くと、小南が出迎えた。
「あなたが私達に会って初めにしたことは?」
「お前を人質にとってお前たちの情報を集めた」
「いいでしょう。着いてきなさい」
簡単な本人確認をし、内部へ入る。罠や頑丈そうな壁が基地の周囲を囲っている。俺の集落より物騒な感じがするな。まあ安全のためには必要だと思うが。
基地内部に建物は10ほど。人数は100人くらいと聞いている。俺のような木遁使いがいないから、貧乏なこいつらはギュウギュウ詰めで暮らしているようだ。エロい。
長門、弥彦等は、ちょうど傀儡にされた風と川の民約50人にスープを与えているところだった。あの傀儡使いのガキは無事彼等をここへ送り届けたらしい。
しかし、ここも貧乏だから具は乏しい。これに加えて木の葉にいる孤児50人は無理だな。今でも相当無理をしていると思う。まあダムと集落は取り返せたから、全員こっちで引き受けることになるだろうが。
「よお。俺も手伝おうか?」
「……必要ない。それより木遁で何か食べるものを出してくれ」
弥彦が応えるが、俺と目を合わせようとしない。長門は口も利かない。まだあの日のことで拗ねてるんだな。
「いいけど、この体は分身だからそんなに多くは出せないぞ」
「なるほど。木の葉に魂を売ったということか」
「いやいやいや、あの里のことはめちゃくちゃ嫌いだ! 人質を取られて無理矢理従わされているようなもんだぞ!」
ここは言っとかないとな。
「ふんっ。どうだかな」
おっと、やっと長門が喋った。ニヒルな感じで笑いながら。
俺は難民のみならず暁含めて全員分の芋と豆を用意した。チャクラがギリギリになった。どうせ話し合いが終わったら分身は消すからいいけど。
食事を配るときに、一言二言声をかける。少年少女は素直に礼を言ってくれるが、おっさんおばさんには不満げな人間もいる。
「しっかし、空海さんが木の葉の若い忍びだったとはなあ。綱手さんの部下だから当たり前っちゃ当たり前だが」
「木の葉のことは嫌いなんで、綱手さんと知り合いのフリー忍者くらいに思ってください」
たいていは、木の葉の忍びだったことに言及された。大国に挟まれて、戦争の度に無茶苦茶に荒らされてきた人達だから、思うところがあるだろう。
「お前のせいで酷い目に遭った! 何が助け合いの精神だ!」
「私は趣味で人助けをしていたんです。あなたは自立する能力があるようですから、援助を打ち切ります」
「いや待て。その理屈はおかしい」
今回の戦いの責任を俺に求めるやつもいた。砂の中流域の人間に多かった。辛い目にあって誰かに当たりたくなっているのは分かるが、俺はそんな時でも甘くない。特におっさんおばさんに対してはな。
「私の目の前で弟も親友も死んでいった! どうして守ってくれなかったの! 山の人間ばっかり贔屓して! こっちには誰も助けにきてくれなかった!」
「ごめんな。それは俺が読み違ったんだ。あいつら砂の忍びだから、風の国出身のお前たちは殺さないと思っていた。でも、俺達も遊んでいたわけじゃないんだ。青年団と戦って、戦闘員は4割近く死んだ」
「そ、そういうことは聞きたくないのよ!」
「安全ってのはタダじゃないんだ。命を懸けて勝ち取らなくちゃいけない。今回は負けてしまった」
「ちがっ。うっ。ああっ、もうっ。うううっ」
美少女には甘いけどな!
俺に怒鳴りながら泣き始める少女。俺が抱き締める流れだ。しかしその前に、後ろにいたイケメンが抱き寄せた。おいコラア! 彼氏かてめえ! こいつの男ならお前が愚痴聞きやがれアホんだらがあ!
なんてことがありながら、全員に食事を配り終える。食べながら、長門、弥彦と話をする。
「俺達がダムを取り返したのは知っているな」
「俺達? お前はやはり木の葉の人間になったのか? いや、元々そうだったな」
「長門、いちいちトゲを刺さなくていいでしょう」
小南もやってきた。後ろに大勢の子どもを連れながら。特に男子がうれしそうに小南の足や尻に抱きつく。エロガキだな。
「ダムの次に、中流域へ進軍した。しかし途中で川が汚染されていることが分かった。誰かが毒を撒いたんだ。ダンゾウは雨隠れか砂隠れの仕業だと言っている。木の葉に奪われるくらいなら、使えなくしてしまえとな。特に雨隠れの可能性が高い。そこで一旦砂隠れと停戦し、協力して雨隠れを討つという話になっているんだ」
一気に話したが、弥彦達の反応が薄い。どういうことだ?
「お前達、俺はここが戦場になるかもしれないと言ってるんだぞ?」
「ええ、知ってたわ。こっちにも木の葉の使いが来てたもの」
「こっちにも使いが? どういうことだ?」
「要するに、木の葉は砂隠れと雨隠れを戦わせたいってことだな。こっちに言ってきたのは『砂が川に毒を撒いた。砂はそれを雨の責任にすることで、木の葉と停戦しようとしている。やつらの狙いは木の葉と協力して雨を奪うことだ。卑劣な砂の手を討ち砕くために、諸君が奮闘することを願う。』って感じだった」
弥彦が呆れたように言った。
なるほど。なるほど。つまり、木の葉は毒を理由にして砂と雨を戦わせ、自身は傍観に近い形で二里を消耗させようとしているわけだな。そして最後には木の葉が漁夫の利を得る。
ありえる。むしろダンゾウらしい手だ。となったら、木の葉が毒を撒いた可能性も出てくるな。なぜ気づかなかったんだろう。目から鱗が落ちるとはこういう感覚だろうか。
「だが、もしダンゾウが毒を撒いたのだとしたら、木の葉はとんでもないことになるぞ。ダンゾウは綱手、火影の主流派から決定的に切り離される。あいつは大勢の部下がいるから、下手したら木の葉が2つに割れて戦争になる。当然、そのチャンスに他の5大国も黙っていない。第三次忍界大戦に突入だ」
「させないさ。俺達がな」
弥彦が決意を秘めたような目で言う。
ありえん。お前には無理だ。
「でもね、たぶん毒は砂が撒いたことになるわよ」
ふと、小南が言った。
「どうしてだ?」
俺が尋ねる。弥彦と長門も不思議そうな顔をして小南を見ているから、彼等にも話したことがなかったのだろう。
「雨隠れは砂隠れと手を結んだことで、岩隠れから攻撃を受けた。木の葉隠れも敵に回した。雨隠れだけでは絶対にこの2つの大国を相手にできない。しかし頼りにしていた砂隠れは、たった一夜で木の葉隠れに風影を倒された。これでは砂にも期待できない。このままでは滅ぶしかない。ところが、五大国最強の木の葉が、雨隠れが砂隠れへ攻撃する条件で手を差し伸べると匂わせた。どうかしら? 半蔵なら裏切るんじゃないかしら?」
「ちょっ、ちょっと待て! 岩隠れの侵攻ってそんなに激しいのか!?」
「ええ、かなり激しいわよ。既に10分の1くらい領土を奪われた。というより、国境は常に戦争状態よ。忍界大戦が終わってからもずっと続いているわ」
「それは知ってたが。……うーん。そうすると、ダンゾウの策が成功してしまいそうだな。腹立つことに」
恐ろしい男だな。ダンゾウ。利益をチラつかせて、敵を惑わせ、同士討ちさせる。正義を語って民衆を操りながら、疑念によって民衆同士の信頼関係は崩していく。信じられるものは何もない。しかし指導者は信じるしかない。
そうやって独裁者の地位を築いた人間が、いたような気がする。
「いずれにせよ、毒を撒いた犯人は明らかにする。その上で、これ以上戦乱が広がらないように積極的に話し合っていく」
「だな」
おいおいおい! この薄汚れた世界のどこに話し合いの余地があった!? やるとするなら指導者の糾弾とか民衆の教育だろ! 長門の当然ような『だな』がやけにムカつくんだけど!
言ってもケンカになるだけだろうから、言わないけどね。そろそろ本体に情報を渡したいし。