疫病神うずまきトグロ   作:GGアライグマ

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紛争から戦争へ

「ミナト!」

「お待たせ。クシナ」

 

 やっと援軍の到着。一人だが巨大な戦力。

 

「ミナト! 他の援軍は何時くる!」

「綱手様なら、30分! ってところかな!」

 

 ミナトが傀儡と戦いながら言う。2体相手に優勢だ。やはり体術は一級品。

 30分か。希望が沸いてきたぞ。それくらいなら工夫次第でチャクラも持つ。

 

 と、逆に敵は焦ったか。様々な方向から全ての傀儡が突っ込んでくる。いくらか九尾の攻撃で破壊されたが、他は健在。ミナトでもあいつらの毒攻撃には対処できないだろう。

 

 持ってくれ俺の意識。一尾の力を借りて、木遁、木龍。

 

 地面から木の龍を出し、俺、クシナ、ミナトを持ち上げる。200mほどの高さまで。

 

「うわっ」

「ありがとう。だけど……」

 

 クシナは尻餅をつき、ミナトは巧く足場に適応する。

 傀儡達は、皆登ってくる。俺の樹海降臨と九尾の攻撃の影響で、傀儡者は500mも離れているにも関わらず、その影響をほとんど感じない。凄まじい使い手だ。攻撃手段がない? 傀儡に一方的になぶられる?

 いや、逆にチャンスだ。

 

「クシナ! ミナトをあそこへぶん投げろ! そこに傀儡の操縦者がいるぞ!」

 

 俺は雑木林を指差して言う。傀儡の弱点は術者本人! 俺は白眼で糸が見えるのだよ! 上手く隠れているつもりかもしれんがね!

 

「えっ」

「そ、そうなのかい!?」

「早くしろ! 気づいてあっちに逃げたぞ! 傀儡が護衛に戻る前に!」

「う、うん。ミナト!」

 

 クシナから、九尾のチャクラが凝縮されたチャクラの手がミナトに伸びる。ミナトがいそいそとそれに乗る。

 

「またちょっと動いたぞ! あそこだ!」

「分かった、ってばね!」

「ぐっ」

 

 クシナは気持ちいいくらい勢いよくぶん投げた。ミナトが超スピードで飛ばされていく。傀儡が間に入ろうとするが、間に合わない。

 

「調子に乗るなよ!」

 

 と、いつの間にかおっさんが俺の横にいた。反応する前に顔面を蹴飛ばされる。

 一発で意識が揺らぐ。俺は地面へ急降下する。

 

「トグロ!」

「バカが!」

 

 クシナと九尾の声が聞こえる。

 地面が恐ろしい速度で迫る。し、死にたくない。

 

 土遁、硬化。

 

 ギリギリ間に合い、地面と衝突。ぐおお、い、意識が。体が痺れていく。

 

「まだ生きているのか。しぶとい」

「トグロから離れるってば!」

「小娘は引っ込んでいろ!」

「ぐえっ!」

 

 俺を助けに来たクシナが、蹴り一発で吹き飛ばされる。おっさんは手刀を作り、俺の首へ伸ばす。

 

「待て。死にたいか小僧?」

 

 その時、九尾がぬうと顔を近づけた、口許に圧縮したチャクラの塊を浮かべている。俺を殺すなら諸ともという勢いだ。

 おっさんは一瞬動きを止めたが、次にはにやりと口端を上げた。

 

「化け狐が。わしに脅しなど通用しない。諸ともこやつを殺せばいいさ。できるのならな」

 

 そして、再びおっさんの手が動き出す。

 ここまで、なのか……? あとちょっとで、俺の理想郷が……。

 

「ま、待つんじゃエビゾウ!」

 

 ピクリ、おっさんの手が止まる。

 

「かふっ」

 

 喉が潰された。ギリギリ首の骨は助かった。

 チヨの声だった。

 白眼の視界におばさんとガキが映る。二人ともミナトに後ろを取られ、首にクナイを当てられている。ガキの方にいるミナトは影分身だ。

 

「姉ちゃん」

 

 おっさんが寂しそうに言う。このおっさんチヨの弟だったのか? ダンゾウみたいな雰囲気のクセに。そういや名前も似ているな。

 

「捕虜の取引を希望する。この2人とそこの彼。そっちは砂の英雄含めて2対1なんだ。悪い話じゃないだろう?」

 

 ミナトが珍しく強気な口調で言う。

 

「え、エビゾウ! あたしゃのことはいい! サソリの命を!」

「姉ちゃん……」

「情けなんぞいらん。どっちに益があるかを判断すればいい。木の葉が約束を守るとは限らんがな」

「これ! 黙っときい! あんただけは生きられるようしちゃるけん!」

 

 どうもチヨはこのガキに執心らしい。孫かな? そしてエビゾウはチヨに頭が上がらない雰囲気だ。取引成立だな。

 ん? あっ。このおっさん、密かに土遁で壺を作ってる。俺の持ってる一尾の壺と似せた柄の。密かに取り替える気かな? 当然ミナトは気づいていると思うが。だって動きが怪しすぎるし、なんで壺が2つあるのって話になるじゃん。

 

「いいだろう。その取り引き受ける」

「賢明な判断に感謝する」

 

 ミナト! 騙されるな! これは3対1の取り引きになっているぞ! さすがに虫が良すぎる! この悪魔のような連中に対して!

 ちっ。ならば最後に嫌がらせしてやる。

 

 捕虜の三人は縄でグルグル巻きにされた。500mほど離れ、俺とエビゾウ、ミナトと砂の二人が相対する。クシナと九尾に至っては付近の山の頂上まで離れている。距離は2キロくらいだろうか。

 

 一歩、二歩、三歩。ミナトとエビゾウは歩いていく。エビゾウは一尾の入った壺を持っている。

 ダンッ。二人同時に瞬身の術を使い、ミナトは俺に、エビゾウはチヨに、文字通り一瞬で肉薄する。

 

「バカもんが! サソリから先に解きんしゃい!」

 

 チヨはまだ孫バカだった。と、ヤバイな。風影達がこっちに来てる。ダムの修復をしていたが、終わったのだろうか。

 綱手達もそろそろだと思うが、風影の方が早い。やはり嫌がらせは必要だったな。

 

 意識など途切れてしまえばいい。一尾のチャクラを絞り尽くす勢いで、チャクラを吸い、木遁を練る。

 

 木遁、餓者髑髏。

 

 壺から木の巨人が飛び出す。同時に一尾も。

 込められたチャクラが無くなるまで、自動で付近の人間に襲いかかる餓者髑髏。プラス人間にいいように扱われて怒り心頭の一尾だ。足止めくらいにはなるだろう。

 

「おのれ! 卑劣な木の葉め!」

「何が無償の孤児院か! これだけの戦力を集めておきながら!」

 

 チヨとエビゾウは愚痴を言いながら怪物と戦う。ざまあ見やがれ。

 

「何を……。くっ」

 

 ミナトは俺を連れて山へ逃げる。そこで俺の意識は途絶えた。

 

 

 深く、長い眠りだった。疲労、怒り、悲しみ。過剰なこれらを癒すには時間が必要だった。

 

「うっ」

「起きましたか」

 

 初の声が聞こえた。周囲は真っ暗。夜か?

 

「どれくらい寝ていた?」

「15時間と少し。今は午前3時です」

 

 午前3時か。肝心な戦闘は終わってしまったな。情けない。砂の難民は逃げ切れたのだろうか? 第二ダムはどうなった?

 

「そうか。あれからどうなった?」

「私も、私がいたところしか分かりませんが」

 

 初は語り始める。

 彼女達は中忍試験中に、カツユを通して砂の侵攻を知った。綱手はすぐさま初達の試験棄権を宣言し、その場で同志を募る。三代目火影は「きちんと部隊を整えるべきだ」と反論したが、綱手も「それでは遅い! やつらは一般市民を虐殺している!」などと応酬する。情に脆い三代目火影は渋々承諾する。ただし少数精鋭。綱手と月、長袖、初はもちろん、他に、クシナに会いたくてたまらない波風ミナト。久しぶりに綱手に会えてセクハラばっかりしていた自来也(殴られて気絶していたので後から来た)。勝手に飛び出したうちはミグシ。妹の恋を応援したいうちはミコト。ミコトが心配なうちはフガク。確認したいことがあるという日向ヒザシ。他、砂が憎くて仕方ない中忍10数名。

 優秀な忍びが本気で走れば1時間少しの距離だが、消耗しきった状態で援軍に来ても死ぬだけ。怪物であるミナトを除き、移動速度は抑えられた(ミナトも彼にとっては抑えていたが)。

 初が戦場に着いたのは約2時間半後。何百人ものクシナの影分身が歩けない難民を運び、同じくらい多くの影分身が砂の忍びと戦い、侵攻を食い止めていた。が、最も目立っていたのは、巨体と圧倒的破壊力を持つ九尾だ。一尾、木遁の骸骨、巨大な山椒魚も目立っていた。一尾は初めから弱っていたが。骸骨と山椒魚の戦いは激しかった。

 

 うちはミグシ、その他中忍は、戦闘のあまりの激しさに怖じ気づいてしまった。覚悟ができていなかった。初自身もレベルの違いをひしひしと感じ、私程度に何ができる、と絶望しかけた。

 そんな頃、クシナの影分身の一人が初のもとにやってきた。彼女は気絶した俺を抱えていた。

 

「こいつを頼むってばね!」

「えっ」

「迷ってる暇はないってば! 第二ダムに連れていくってば!」

 

 そう言ってクシナは初に俺を渡した。彼女はすぐさま戦場に戻っていった。

 

「わ、私なんかが! うわっ」

「死ねえ!」

 

 俺を殺そうと砂の忍達が凄まじい勢いでかかってきた。一人だったらこの時点でやられていたかもしれない。

 

「ご主人様はやらせない!」

 

 しかしそこで、恐ろしい目をした月が出てきた。彼女は元々初より強く、差も開くばかりだったが、この時の動きには信じられないものがあった。苛烈、果敢、暴力的、しかし無駄のない動き、で容赦なく敵を殺していった。怖くもあり、美しくもあった。

 

「私より、月の方が」

 

 初は月に俺を任せようとした。しかし月の返答は蹴りだった。一瞬遅れてそこに起爆札付きクナイが飛来し、爆発した。

 

「あなたも足の速さは私とほぼ同じ。だったらこれが一番効率がいい」

「えっ。だけど」

「狼狽えるな! お前が一番贔屓されてるんだろうが! 死んでも守ると言え!」

 

 初めて、月の怒鳴り声を聞いた。普段のおだやかな雰囲気とはかけ離れた凄まじい剣幕だった。

 これが他人だったらむしろ萎縮してしまったかもしれない。しかし、怒鳴った彼女は目を潤ませていた。その表情を見て初の中で何かが変わった。吹っ切れたような気分になった。

 

「援護を頼みます」

「言われずとも!」

 

 そうして二人は駆け出した。長袖はうちはミグシの方に付き合っていたので来なかった。

 

「絶対にやつを逃がすな! 見つけ次第殺せ!」

「仲間の仇だ! あいつだけは許さん!」

 

 敵の大半は木の葉の精鋭部隊との戦闘に入ったが、初の方にも20人程度やってきた。その多くは青年団であり、負傷が多いのも特徴だった。

 月と初は隠れながら移動した。時には霧隠れ、変化させた分身、氷に映る自分の姿、などで敵を惑わせた。相手が劣ると見ると躊躇なく殺した。

 

「いたぞ! こっちだ!」

「くっ」

「当たるかよ!」

 

 しかし、ある時実力の拮抗した相手に見つかってしまった。戦闘が長引き、応援がやってくる。

 このままではマズい。徐々に囲まれていく。徐々に傷が増えていく。

 

「かはっ」

「月!」

 

 月が毒を食らっていたようで、吐血する。大地の実を呑んで無理矢理体を動かす。

 

「霧隠れの術!」

「風遁、カマイタチ」

「あっ」

 

 咄嗟に張った霧も風で簡単に離散させられてしまう。

 

「終わりだ。偽善のペテン師め」

 

 止めとばかりに砂の塊がやってくる。

 月が雄叫びを上げ、砂に突っ込んでいく。

 

「あ゛あああああああー!」

「何!?」

 

 骨で砂の壁を破壊、次々に破壊。そして突進していく。

 

「ぐっ」

 

 骨は青年団のボスに届いた。しかし直後、砂の礫が四方から月を襲った。

 

「回天!」

 

 としかし、そこで木の葉の忍びが現れた。

 

「貴様!」

「なっ! その眼は日向か!」

 

 試験会場で「確認したいことがある」と言ってついてきた日向ヒザシだった。

 

「行け! ここは私が預かる!」

「えっ!? でもこの人数!?」

「舐めんじゃねえぞボケがあ!」

 

 ヒザシの言葉に触発され、砂の忍が次々と襲いかかる。しかしヒザシは、優雅な独特の動きで躱し、いなす。一連の動きの中で攻撃も加えていく。

 結果、5人から攻撃されたにも関わらず、無傷。

 

「すごい……」

 

 唖然とする初と月。

 

「ふっ、覚えておけ。日向は木の葉にて最強!」

「えっ」

「日向は木の葉にて最強!」

 

 なぜか二回言ったヒザシ。表情はとてもイキイキしていた。

 

「戦場でボケてんじゃねえぞオラあああ!」

「八卦空掌!」

「ぐわっ」

「早く行け! 娘よ!」

「は、はい!」

「ふっ。理想に殉じる日向というのも、悪くない」

 

 なお、ヒザシは行けと言ったが、ヒザシもふつうに初と月についてきた。

 当然である。敵の狙いはヒザシではなく、俺なのだから。「私が相手だ!」と言って待っていても向かってこない。

 それに気づいたヒザシは、月や初と走りながら、敵を煽った。「日向は木の葉にて最強!」「無駄だ! これが才能の違いというもの!」「砂は強欲すぎる! 自分を抑えることを知らぬ野蛮な人種である!」などと。

 しかしヒザシも人間だ。遠距離攻撃により徐々に体力を奪われる。相手が有利になっていく。

 

 今度こそこれまでか。

 

 そう思ったとき、空から大量の起爆粘土と起爆札が飛来してきた。それらは砂と初達を分断するように落ちた。

 

「なっさけえねえなあおい! 偉そうに言っといてその様かよ! 殺す価値もねえ!」

「砂は引きなさい! こんな戦いで無駄に命を失ってはならない!」

「お、お姉ちゃん!」

「ほよよー。皆ボロ雑巾みたいだね」

 

 援軍だった。ボッチの泥人形と小南の紙に乗って、集落の戦闘員が大勢やってきた。

 

「皆! それにボッチさん! 小南さん! どうして!」

「私達は戦争の犠牲者を救う活動をしている。今回はあなた達が難民となり、私達の守る対象に入ったということ」

「あたいはバカが死にかけって聞いて獲物を横取りされないよう見張りに来たんだよ!」

「僕達は戦える人を募ってこっちに来ていたのですが、途中で彼女達に見つかって乗せてもらいました」

「やはり日向の勝利は揺るがぬか。此度の戦、我々の勝ちだ」

 

 皆が俺と初を守るように展開する。人数比が初めて覆った。その上、新しく来たメンバーのほとんどが元気いっぱい。砂は誰もが疲労困憊。

 敵に焦りや絶望の表情が浮かぶ。

 

「舐めるな! この程度で我々の、仲間達の遺志を砕けはしない!」

 

 しかし、扇を持った青年団の女は闘志を失っていなかった。

 

「愚かな……」

「戦いは何も産み出さない! あなたはまだ悲劇を広めるつもり!?」

 

 ヒザシ、小南が発言する。戦闘に備えて皆が構える。

 

「カルラ。いい。止めだ」

 

 としかし、そこで青年団のトップがやってきた。木の枝を杖がわりにして、明らかに弱っていた。

 

「で、でも!」

「ここで戦えば俺達は壊滅する。俺達の意志を受け継ぐものが誰もいなくなるということ。それだけは避けなければならない」

「だけど! 死んでいった仲間が!」

「退けと言っているんだ! 聞こえないのか!」

 

 青年団のボスは、足を引きずる男とは思えない勢いで凄んだ。敵が一気に静かになる。どころか、初も小南も呑まれかけた。

 

「賢明だな」

「ほよよー。声のでっけー兄ちゃん」

 

 いつも通りだったのは、アラレとヒザシくらいか。

 そうして青年団との戦いは終わった。俺達の多くはボッチの泥人形に連れられて第二ダムへ向かった。小南とヒザシ、それからアラレと釜倉は砂と木の葉の主戦上へ飛んだ。

 

 綱手達が砂の難民を救うために戦っていた。この頃には、自来也と彼の口寄せした巨大な蝦蟇、それに意外や意外で、大蛇丸と彼の口寄せした蛇もいた。きっと裏があるが、木の葉の三忍が久しぶりに集ったのである。

 逆に、クシナがダウンして大量の影分身は消えていた。木遁の髑髏と一尾も完全に停止。九尾にも疲れが見えた。

 また、弥彦率いる暁が、難民を逃がすために木の葉側で参戦していた。主に活躍したのは長門である。

 砂は暁の意外な力に驚異を覚え、戦闘中に無駄に木の葉以外の人間を殺すことを禁じる。そのしばらく後、岩隠れが雨隠れに侵攻したという知らせが入る。半蔵は顔を青くして部下に撤退を命じた。

 

 これが契機となった。砂は暁が用意した木の葉との対話のテーブルに応じた。一時休戦。ここに仮初めの平和が訪れた。条約など守る気はなく、定期的に襲撃が繰り返されているが。


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