疫病神うずまきトグロ   作:GGアライグマ

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第二次忍界大戦の中で
九死に一生の連続


 せっかく転生したのに奇形だった。

 

 お腹にいるときはとても期待していた。耳は聞こえていたから、チャクラとかうずまき一族とか火の国とかそういうのから判断してここがNARUTOの世界だと当たりをつけていた。どんな母か楽しみだった。しかし俺が産まれる数日前、村が襲われ、母は山奥へ逃げることになった。体力を失った母は不衛生な環境で風邪を発症した。そんな状態で出産となった。

 難産だった。俺は相当成長してしまっていたようだ。しかしばた足とかでアシストしたので、ただの赤ちゃんよりは楽だったと思う。産まれた時は夕方だった。しかしずっと暗闇にいたので、あまりにも眩しくてほとんど何も見えなかった。ところが意識して目にチャクラを集めると母の顔が見えた。短い赤髪で青い瞳、しかし日本人っぽい雰囲気。NARUTOのキャラにありがちな顔だった。おそらく美人。年齢も20と若い。しかし、ひどくやつれていた。しかも、俺の顔を見て、ひどいショックを受けたようだった。

 

「ごほっごほっ。ごほっ」

 

 しかし母は、最期の時を味わうようにゆっくり俺を抱き寄せた。

 

「ごめん、なさい……。トグロ……」

 

 それが母の最期の言葉だった。

 俺は産まれてすぐに一人残されてしまった。ふつうに考えると死ぬしかない。しかし俺はまだ死ぬわけにはいかなかった。死した母の乳にかぶりつき、吸いまくった。食いだめするつもりだった。それでも足りるはずがないので、母が持っていた竹の水筒を開け、中に搾り取れる限りの母乳を入れた。当然それでも足りるはずがない。しかし赤子の肉体ではジャングルで生きていけない。俺はチャクラを使って食料を得る必要があった。

 

 俺はいろいろ試した。幸い胎内にいるころにチャクラを練る方法は気づけたので、あとは応用だった。赤ちゃんの食事に最も大事なのは火のはずである。ことことと煮て離乳食を作らなければならない。ふつうの赤子には厳しいがチャクラで肉体を強化できる赤子なら生き残れるかもしれない。そんなギリギリの賭けだった。夜の寒さは母の死体にくるまることで凌いだ。

 

 母の大切な母乳はたった一日で尽きた。俺は生後一日で狩りを覚えなければならなかった。カエルやミミズを捕まえることはできた。試しに水溜まりで洗ってから生で食べてみた。よおく噛んだが、胃が受け付けなかった。喉に詰まって死ぬかと思った。しょうがないからカエルを分解し、柔らかそうな足のゼラチン質の部分だけ食べた。当然足りない。俺は死を覚悟した。

 

 何日もそんな日が続いた。俺はガリガリに痩せ細ったが、驚くことに死ななかった。近くに小川があったのは救いだった。川の水にカエルをぐじゅぐじゅにして交ぜて、喉を潤し、太陽の光に当たる。それだけで活力がわいた。

 ある日俺は、頭の後ろにでっぱりがあることに気づいた。小川を鑑に見てみると、緑色の芽みたいなものが生えていた。もしかしてと思ってそこにチャクラを集めてみると、伸びた。

 

 絶望の中に巧妙が見えた。俺は木遁が使えたのだ。

 

 さらに何日もそんな生活が続いた。相変わらず俺は死ななかった。しかし母の死体が腐り始めた。これでは暖を取ることができない。俺はなんとか母から服を脱がし、自分で着た。裸の母にエロスは感じなかった。

 

 俺は穏やかに死に向かっていった。恐怖を感じないように思考しないよう意識していた。いくら時間が過ぎただろうか。ある日俺はしわくしゃの婆さんに出会った。

 

「うぎゃああああ! 化け物おおおおお!」

 

 婆さんは俺を見て大声を上げた。それからなんだなんだと大人が集まってきた。木の葉の額当てをしていた。

 

 その時俺は思考できる状態ではなかったので、後から話を聞くことになった。

 しわくちゃの婆さんは俺の母の叔母だった。赤子が産まれた時に鳴き声が迷惑にならないように、一人一族から離れてこっちで出産したらしい。婆は母も俺も死んだと思っていたそうだが、俺は生きていた。

 しかも俺は、木遁が使える上に目が白かった。その気になれば白眼を発動することができた。母はうずまき一族らしいが、父はたぶん日向だったのだろう。

 俺は婆さんに引き取られ、母の従姉の家で暮らすことになった。幸い幼い子供がいたので母乳は出た。しかし家は貧しく、しかも俺は見た目が気持ち悪いので嫌われた。俺はマンガのゼツの戦闘時のような崩れた顔面をしていた。肌も茶色というか木っぽいところがあった。

 

 少ない母乳、少ない水だが俺はしぶとく生き永らえた。母の従姉の子どもとは一緒に遊んだりしてそれなりに仲良くなった。しかしそんな折り、俺は母の従姉の父に連れ出され、山椒魚の半蔵に売られてしまった。木遁はバレていなかったが、白眼がいけなかったらしい。

 

 俺はそこで施設に入れられた。今までより遥かに多くの食事が与えられたが、自由はなく、適度の運動と謎の注射と薬の飲用が義務付けられた。要するに人体実験であり、俺が充分大きくなったら眼球を盗もうというのである。

 俺はバカな子どもを演じた。ご飯をもらうと無邪気っぽく喜んだ。化け物と罵られ、蹴ったり突き飛ばしたり苛められても、頼まれたら犬のように靴を舐めた。しかし内心は焦りまくりで、隙を盗んではチャクラを練る練習をしたし、運動は怒られない範囲でかなりやった。

 

 7年ほど経ったある日、半蔵達は激しい戦闘があると言って遠出をした。施設の管理人がたった2人の中忍になり、夜は実験体とのセックスに夢中になることもあった。俺にはチャンスだった。今まで隠してきた木遁。木遁は水遁と土遁からなる。俺はチャクラを込めれば地面を簡単に掘ることができた。

 

 俺は一人で施設を抜け出した。やつらに匂いが届かぬよう風下を進み、道もできるだけ土は踏まないようにした。罠らしき糸や落とし穴は白眼で見切った。

 

 1日歩いて、追手はなかった。しかし腹は減った。俺は再び空腹と戦うことになった。

 と言っても、もうカエルやミミズに手間取ることはないし、自分で木を擦って火を起こすこともできる。問題は煙を忍者に見られないことだ。それは難しいので3日は生のカエルと光合成で我慢した。生来べらぼうに強かった胃腸が謎の薬で弱っていたので、腹痛との戦いになった。

 もうそろそろいいだろうと思って火を起こした。周囲を警戒しながら、竹を鍋にして蛇と魚のスープを作ることにした。俺は白眼による警戒を怠らなかった。そして見つけた。1000mほど離れて、まっすぐこちらに向かっている子どもの3人組を。彼等も俺かそれ以上に痩せており、目にはやっと希望を見つけたような輝きがあった。俺は急いで火を消し、スープを飲んだ。一度には飲みきれなかったので、地面に隠した。俺本人も木に登り、木に擬態して隠れた。しばらくして、3人がかつて煙のあった場所にやってきた。3人は警戒し俺を探っているようだった。

 

「ね、ねえ。大声で叫んでみようかな」

「いや、まだだ。やつが仲間だと決まったわけじゃない」

「でも、このまま3人でいても、食糧が……」

 

 見るからに親を無くして行き場のない子供だった。年齢も俺と近いし動きは素人。

 食事に関して余裕があるわけではないが、俺は餓死しにくい。手を組んでおくべきか?

 3人のうち一人は気の強そうな男で、一人は寡黙だが背の高い男、一人は気弱で優しそうな女の子だった。

 交渉の前に、立場を分からせておくべき。俺は木遁で木刀を作り、音を消して女の子へ飛び込んだ。

 背の高い男だけは俺に気づいた。しかしその時はもう俺の木刀は女の子の首元へ来ていた。

 

「小南!」

「ひっ」

「動くな。質問に答えろ」

「くっ」

 

 男二人が悔しそうな顔で俺を睨む。女の子は俺の顔を見て蛇に睨まれたように固まっていた。

 

「お前達は孤児か?」

「あ、ああ。そうだ」

「なぜここへ来た?」

「生き残りがいるかもしれないと思って。それに食料も分けて欲しかった」

「今までどうやって生きてきた?」

「それは……。ばったり会った人に食料を恵んでもらったり、果物を取ったり」

「盗んだんだな。追いかけられなかったのか?」

「うまく逃げたさ」

「森には猛獣がいるだろう。どうやって戦った?」

「石と木だ。でも逃げるのがほとんどだ」

「そうか。まあ、そうなるだろうな」

 

 俺はすっと女の子から木刀を逸らす。女の子はへたへたと座り込んだ。

 後ろの長身からプレッシャーが消えた。多少安心したらしい。しかしすごいチャクラだな。あの長身。俺と大差ない。俺も選ばれた子供ばかりの施設でチャクラ量はずば抜けていたんだがな。

 すっと後ろを向く。

 

「ひっ」

「うっ」

「気持ち悪いか? 俺の顔が」

「い、いや。そう言うんじゃ」

 

 気の強そうな男の子が口で否定しようとするが、顔は苦い。やはり気持ち悪いらしい。

 

「まあ、それも仕方ない。俺だって自分で気持ち悪いと思う。だが、俺と協力する気なら慣れろよ」

「え?」

「お前達孤児だろう? 俺もだ。仲間は多い方がいい」

「あ、ああ。そうか。そうだよな。よろしく。俺は弥彦。こっちのノッポが長門で、そこの女は小南」

「そうか。俺はトグロだ。姓は、どうなんだろうな。母はうずまきだが父は日向だ」

「うずまき?」

「日向だと!?」

 

 と、男の子二人は違った感じで驚いた。気の強そうな弥彦は怒った風に、長身の長門は迷っている感じだ。

 ガキだと思って姓を名乗ったが、まずかったかもしれない。そう言えばこの世界は部族単位で争っていた。

 

「待ってくれ。俺は両親ともに会ったことがないんだ。忍者に捕まって実験施設に入れられていた。だから姓に意味はない」

「そうか。まあ、俺たちも似たようなもんだ。村が襲われて、父さんも母さんも死んだ。頼れるものはお互いだけだ」

「すまない。俺達は木の葉と雨隠れにいい印象がないんだ。あいつらが戦争でこのあたりを無茶苦茶にしてしまった」

「なるほど。いや、俺の方こそ軽率だった。すまないな」

「いや、いいって。それと、難しい言葉は分からないから使わないでくれ」

 

 それが長門、弥彦、小南との出会いだった。

 俺は白眼と木遁を使って簡単にカエルや魚を取ることができる。見張りもできる。だからいつも俺が多めに食料を集め、彼らに分け与えた。彼等はすまなそうにしたが、実質20歳を越える俺が少年達に不平を訴える気にはなれなかった。それに、彼等も必死で食べられるものを探したし、野犬が現れたら協力して戦った。助かったのは風邪をひいた時だ。俺が寝込んでいる間に彼等が水と食料を用意し、自分達の分は減らして俺に食べさせてくれた。一人では死んでしまったかもしれない。

 少しずつ山の生活になれ始めた頃、恐ろしい冬がやってきた。食糧が減り、寒さも辛くなる。俺は火の国へ向かうことを提案した。森で薪や木の実を集め、あそこに売る。そうしないととても冬を凌げない。火の国を選ぶのは、ここから近く、最も大きな国だからだ。

 長門、弥彦は渋った。火の国が雇った忍び、木の葉のせいで両親が死んだと考えていたからだ。俺は切り換えるよう言った。

 

「木の葉がどうしても憎いなら、内側から寄生してやるくらいの気持ちで、潰してしまえ」

 

 俺の言葉に乗りはしなかったが、それ以外に方法はないという方向で纏まった。

 道中、夜は俺が木遁で風雨を凌げる小屋を建てた。それでも寒いので、中では4人でくっついた。小南とくっつけたらうれしいが、彼女は弥彦を好いていたので、横になれる確率は半分だった。

 

 知らない道を長門の乏しい知識を頼りに進んだので、迷いまくりだった。夜盗に見つかることもあったが、幸い忍者とは会わなかった。俺の木遁で楽に対処でき、逆に夜盗の服や食料を奪えるのでよかった。武器も手に入れた。俺は必要ないので3人に渡ったが。

 

 もうすぐ木の葉。俺達は油断していた。ばったり恐ろしい忍者に出会ってしまった。

 

「あら? こんな山奥に子どもが4人? 怪しいわねえ」

 

 蛇みたいなオカマみたいな青年だった。恐ろしい顔で恐ろしい雰囲気。チャクラも並々ならぬものがあった。

 勝てない。死ぬ。

 

「逃げろ小南! ここは俺達が!」

 

 勇ましく長門が小南の前に出た。弥彦もビビりながらだが小南を庇おうとはしている。しかし俺は、その声より早く背を向けて逃げ出していた。小南でさえ、二人を残して行けないと悩んでいるのに。

 情けない。でも怖い。お前達のことは忘れないぞ。と考える間も惜しい。

 

「賢明ね、あなた。でもどうして白眼を持ってるのかしら?」

 

 ひゅっと変な声が出た。絶望が押し寄せる。蛇オカマは弥彦達を無視して俺の方へ来た。しかも一瞬でここまで移動した。まるで弾丸のように。

 勝てるはずがない。

 気づけば、俺は土下座していた。

 

「ち、父親が日向らしいのです。産まれた村は山奥で、この戦争で滅びました。本当です! 許してくだい! なんでもしますから!」

「あら。なんでもなんて滅多に口にするもんじゃないわよ。でもいいわ。あなたは生かしてあげる。それだけの価値があるかもしれないからね」

「大蛇丸よ。もしかしてそれは、悪どい実験が目的じゃないだろうのお」

「あら? 今どき実験してない里なんてないわよ。もっとも、日向を敵に回してしまう可能性を考えると、この子で実験するのは難しいけどね。残念ながらね」

「そういうことを言っとるんじゃないんだがのお」

「分かってるわよ。まったくあなたの甘さにはヘドが出る」

 

 新しく人の良さそうな白髪の青年がやってきた。助かる雰囲気だ。よかった。

 

 その後、綱手というかなりの美女もやってきた。自来也、大蛇丸、綱手は昔からチームを組んでいる木の葉の優秀な忍びらしい。自来也は特にお人好しで、俺達が一人立ちできるまで面倒を見ると言った。綱手と大蛇丸は、自来也なりに戦争の犠牲者に罪滅ぼしがしたいのだろうと言ったが、俺はそれだけではない気がした。ふと気付くと、自来也が長門をじっと見つめているのだ。俺も彼はとんでもない天才だと思っていた。弥彦や小南と比べるとなんでもかんでも出来すぎる。戦闘はもちろん、家事や気配りまでだ。食事だって自分が一番ガリガリなのに他の二人により多く食べさせようとする。このくそったれな幼少時代を過ごしながら信じられない自己犠牲の精神だ。

 

 自来也は俺達を忍者として育てようとした。と言っても半蔵のように利益のためには何でもやるのではなく、人情重視だ。甘いのは間違いなかったが、弥彦達に笑顔が増えていくのはよかった。自来也も暇ではないのでいつでもいるわけではなく、むしろ子どもだけの時間の方が長かった。しかし狩りや家事はもはや手慣れたものだった。

 俺達はすくすくと戦闘能力を伸ばして行った。特に長門が目覚ましく、あっという間に俺に追いついてきた。俺も焦って本気になり、長門も俺を越えようと頑張り、相乗効果のように二人で強くなっていった。綱手は偶に俺達の様子を見に来た。そんな時に限って自来也は綱手の下ネタで盛り上がっていたりするので、盛大に殴られていた。小南と弥彦は笑うが、俺は笑えなかった。忍びでなければ死んでいる。ゾッとした。俺に綱手の尻や胸を注視する癖があったのもその原因だろう。白眼を使って乳首や割れ目だって見ていたから、いつバレてしまうか心配だった。

 

 ある日、綱手が俺に話があると言って、一人だけ離れに連れ出した。俺はとうとうその時が来たかと覚悟した。しかし綱手はいつになく真剣な表情で、ギャグの雰囲気ではなかった。

 

「血継限界について、自来也は何か言っていたか?」

「ええ。この目や小南の紙のように、血筋でないと使えない術や瞳力のことでしょう?」

「そうだ。そして貴重な血継限界は狙われやすいのだ。特に三大瞳力の1つである白眼は大昔から……」

 

 綱手の話は、要するにいくら自来也が鍛えても白眼を守りきれるほど強くはなれないから、木の葉に来るべきというものだった。白眼は木の葉の日向家が大層大事に守ってきたので、俺も分家として受け入れてくれるらしい。

 

「3人と一緒に、という風に交渉はしてみるつもりだ。しかし、木の葉も戦中で余裕がなくてな」

「ええ、そうでしょうね。仕方ないことです。僕はいいですよ。というかありがたい話です。受けさせてください」

「そうか。だがそんなの簡単に判断してしまっていいのか?」

「いいですよ。どう考えたって僕がいた方が彼等は危険なんです。だったら木の葉でじっくり力をつけて、時々彼等に仕送りした方がいい」

「ふん。意外にドライなんだな。だが言っておくぞ。木の葉もそう甘くはない」

「でしょうね。大蛇丸さんのような方だっているでしょうから」

 

 その後、弥彦達に別れの挨拶をした。皆泣いてくれた。俺はドライなつもりだったが、さすがに命の危機がある中で頑張ってきたことや、彼等の眩しすぎる愛を思うと泣けた。


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