始まりは欲望の街   作:ロピア

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第9話

 

まだ今日の10人抜きをしていなかったから、また後でケンさんと会うことになり(ケンさんもニドキングの治療をするため)、早速10人抜きに取り掛かった。今日はケンさんに話を聞いたらすぐにでも出発するつもりなので、ポケモンセンターで治療してもらわなくても済むように、また、俺自身が慣れるために、皆を出して戦うことにした。…いや、戦ってもらう、か。

ケンさんの近くにいた研究員の繰り出すニドクインには再びオノノクスを出し、相手が薬(たしかクリティカット)を用意しているうちにさくっとじしんで終わった。…ドーピングは普通に行われるようだが、下手したらトレーナーにポケモンの技が当たる。今回は相手がドーピングする前に攻撃してしまったが、ゲームのように待ったほうがいいかもしれない。

トレーナーとポケモンの距離には注意が必要そうだ。慌てて研究員に近付き声をかけると、とてもイキイキしていたから怪我はなさそうでほっとした。謝罪しながら様子を窺うと、むしろ嬉しそうで少し怖気づく。

 

「ぜんぜんだいじょうぶさ!それより、君は昨日エーフィを使っていたよね。昨日のエーフィも素晴らしかったけど、今日のオノノクスも素晴らしいね」

「あ、はぁ、…ありがとうございます」

「君の勝負は本当に研究し甲斐があるよ。そして結果は敗北。美しく明確な答えだ」

 

満足そうに白衣の埃を払ってから、トレーナーカードを取り出すのにあわせてカードを取り出す。増えた数字にちょっとずつ貯まってきたな、と少し感動を覚えながらお礼を言って、もう一度謝罪を言って別れる。またバトルしよう、には苦笑するしかなかったが。

 

「いけっ!ゲンガー!」

 

「いけ、シャンデラ。シャドーボール」

 

「ゲンガーァァァー!!?またかよぉぉぉぉーー!!!」

 

再びスキンヘッズの以下略からお金を頂戴し、あ、今のミロカロスの方がよかったかなとちょっぴり後悔しながらすぐ隣のビジネスマンへ勝負をしかける。確か40レベのフーディンだったよな。んで残ってるのは強めはフライゴン、サーナイト、エルレイド、ケッキングくらいか。レベル低いのはマリルリ、レントラー、ワタッコ、だったか。ワタッコにはミロカロス、レントラーとサーナイトはコジョンドかな。フライゴンとエルレイドはエーフィのごり押しで。んーじゃあ、

「いくっス、フーディン!」

「もっかい頼んだ!シャンデラ」

 

「ちょ、…」

「シャドーボール!」

 

「そりゃないっスよぉおおおーっ!!」

 

てへぺろ。……ッハ、今何か変な電波を受信してしまった。ちなみに、いつも彼のフーディンは即座に倒すので、技やらなんやらの知識が全くないので、参考までに何を指示しようとしたのか聞いたところ、「リフレクター」だったそうな。…おいおい。

頂いた3200円が増えたカードを懐に戻してから、一応、と聞いてみる。

 

「このシャンデラさ、特攻が高いのは知ってた?」

「え?そりゃそうっしょ。覚える技も完全に特殊攻撃寄りっスよねー」

「(そこまで知ってて…?)……さて、リフレクターの効果は?」

「相手からの攻撃の威力を……あ」

 

あっちゃーー!!と叫ぶ見た目同僚(だって俺もスーツ姿)の肩を優しく叩いて次へ向かう。まあ、よくあること、だよ。たぶん。きっと。

 

さくさくっとフライゴンがすなあらしをする前にサイコキネシスで沈め、レントラーをコジョンドのねこだましで一発KOをして、着々と金を稼ぎ経験値を得る。ミロちゃんはまたレベルが2つほど上がっていた。今の手持ちは皆他人のIDだから余計に成長が早い。むしろ成長し過ぎないか心配なレベルだ。

どこかチャイナっぽい雰囲気のバトルガールと対峙して、ボールに手をかける。挨拶もそこそこに、それぞれボールを宙へ投げた。

 

ダルそうに横たわった毛むくじゃらの巨体と、つるりとしながらばちばち電気を纏った大ナマズ(であってるのか?)が現れる。ようやく出番だからか、心なしか張り切ってるように見えた。…うん、かわいい。

 

「ケッキング、なしくずし!」

「シビルドン、10まんボルト!」

 

シビルドンは足が遅い。ケッキングも遅いほうだったはずだし、レベル差を考えればこっちが先行だとは思うが――

 

「…はぁ。よかった。シビルドン、お疲れ様」

「ケッキング!」

 

びりびりとした電気を纏わせながらぐったり仰向けに倒れているケッキングが見えた。同時に、ピンピンとしたシビルドンも。…ええはい、取り越し苦労ですね。ごめんって、ちゃんとおまえが勝つのは信じてたから。だからぐりぐりすんなって。

 

「本当に、勝負で学ぶことは多いわね。もっともっと勝負したいわ!」

「また、勝負しような」

「次は負けないわよ!」

 

恒例のようにカードを翳して別れる。若いっていいな、としみじみ思った。

 

その後。マリルリにくさむすびをしたり、サーナイトにとんぼがえりしたりしてあっさり10人抜きを終え、建物に入り1万円頂戴し。思っていたより早くケンさんと再会することができた。あちらはニドキングはジョーイさんに預けてきたらしく、今はいつも連れているが戦闘要員ではないポケモンを腰に付けているそうな。ふむぅ。元々6匹全部が埋まっていないからそういうことができるのか、そうではないのかいまいちわからないな。まあ今俺はこの子達以外を捕まえる気も、連れる気もないから関係ない話かな。

 

「それじゃあ、コウジくんはもう此処を発つんだね」

「はい、そのつもりです。ちょっと高めだとは思いますが自転車も手に入りそうなので、急いでデパートにでも向かおうかと」

「そうか。しばらく勝負はお預け、ということだね」

すぐに出てきたのがポケモン勝負、でやっぱりなと思いながらすいませんと頭を下げた。

 

「いろいろと助けて頂いたのに、全然ご恩もお返しできてないのに」

「ここでお別れ、もう会えませんってわけでもないだろう?」

「え…は、はいっ!」

「お互いにポケモントレーナーであり、そしてどちらも再戦を願っている。叶わないはずがないよ。また、会ったら勝負してくれ」

 

なんとなく、じんときた。此処にいてもいい。また、会おう。地に足がついてないようなふわふわした状態から、帰れる場所ができたような、そんな瞬間だったように感じた。

 

「――はいっ!是非、お願いします!!」

 

「それに、まだ説明してないこともあるしね」

 

悪戯っぽく笑ったその言葉に、そういえばそれを聞くために今日会う約束をしていたのだと思い出し、まるで今生の別れかのように挨拶していた数秒前の自分を殴りたくなったのは、まあ仕方がないかと思う。…はい、まだまだ出発には早いデスヨネ。数時間ほど。


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