始まりは欲望の街   作:ロピア

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第6話

 

あの後、50%の確率を見事に引き当てたエルレイドにサイコキネシスを遮られ、フェイントで先制を取られるもエーフィは集中を途切れさせることはなく、サイコキネシスを当てた。当たりどころが良かったのか(つまり急所に当たったようで)、微かな抵抗を見せることもなくエルレイドは力尽きた。

ぐったりとした姿を作り出したのは自分だと気付いた途端、ポケモン勝負とは…こういうことなのかとようやくわかった気がする。この子が…エーフィが強くなければ(それはレベルにおいてであれ、能力的にであれ)、ああなっていたのはこの子だったろうし、いくらフェイントがゲームでほとんどHPが減らなかった攻撃だろうと、痛かっただろう。まして、瀕死なんて。人間より強いと言っても、痛みを感じないわけではない。

俺は金のためにあの子達も、この子達も傷付けている。紛れもない事実だった。

 

「本当に負かしちゃったのね……おかしいな。少しくやしいの」

 

そう言われ、かざしたカードに7320円が加算された。気分が落ち込んでいるのを自覚しながら、お辞儀してその場を離れる。

ふと確認すると、ミロカロスのレベルが2つほど上がったようだった。がくしゅうそうちを持たせていたままだったのをすっかり忘れていた。

ミロカロス以外の面子は皆80レベル近くだが、ミロカロスだけは育成途中だったのだ。約42レベルと表示されていた。どうやらこの約、というのは大体という意味ではなく、42レベルよりは上、という意味みたいだ。あと38経験値が必要、などといった細かい数字は表示されないが、レベルの表記に誤差はないようだ。

ミロカロスは努力値を振り終え、技構成も終えていたから、後はレベルを上げるだけになっていた。で、がくしゅうそうちを持たせて金稼ぎ+経験値稼ぎをしていた、と。

 

エリートトレーナーのレナさんで10人抜きは最後で、ケンさんを除く9名から頂戴した賞金は、おまもりこばんを持たせていたおかげで、計35504円になっていた。此処は定価の大体3倍~10倍くらいの値段で物が売られるそうだが、希少品ほど高くなるのだから、消耗品はこれだけあれば大丈夫だと思う。あ、そういえば、もしかしたらもう1万貰えるかも。

 

というわけでやって来ました、中央のデカイ建物。特に受け付けもなく、入ってすぐに広い空間が一つあるだけだった。人は結構いるが、こちらに目を向け続ける人と、全く見ない人と、両極端だった。そのまま突っ立ってると絡まれそうだったから、一度中を見回してからはノンストップで歩く。

外から見るより大きく感じたが、5分もかからぬ内に入り口から一番遠い壁までついた。

入り口から見て、物を売る場所はゲームの通り左奥、右奥、左手前、右手前、中央となっていた。その左奥の売り場のすぐ近く。茶色いコートと帽子を身に付けた、やはりゲームのビジュアル通りの人がいた。

 

「あの、」

 

「この街には欲望のかたまりのような活きのいい奴らがそろっている……」

「そうですね」

「……そうだな。外にいる活きのいい奴らを10人倒してみな。そしたらおまえの欲望もかなえてやるよ……」

 

「あぁ、それなんですが」

 

「おお?もう10人も倒したのか……おまえ……意外に欲深い奴だな。腹の底がギラギラしてるぜ」

「……(毎度思うが、どうやって10人倒したかどうか把握してるんだろうか)」

「気に入った!その欲望かなえてやるよ」

「あ、ありがとうございます」

 

「次は20人まで倒してみな。そしておまえの欲深い腹の底見せてくれよ」

 

…………はい、まあ無事1万円頂けたわけですが。……これから毎回、あのやり取りをする必要があるんだろうか。

で、俺はゲームでは既に50回以上この人にお金を貰っているんだが、やはり最初の1回目だと言われた。どうカウントしてるのかがわからないので微妙だが、人相ならやはり“俺”が此処に来たのは初めてなんだろう。トレーナーカードで判断してるならどうにもならないが。

 

一応そのまま外に出ることはせず、何が売っているのか確認したが、ゲームで売っていた物しか見当たらなかった。かみなりの石やたいようの石、リーフの石やあおいかけらなどだ。石は個人的に見てみたかったが、1万は高い。というわけで諦めて外へ。

と、暗くなってきていたので急いでポケモンセンターへと向かった。

 

………今ってそう言えば何時くらいなんだろう。ポケギア的な物がないから、時間というものをすっかり忘れていた。

俺が寝た時間は0時近くだったが、此処にいると気が付いた時、辺りは明るかった。肌寒さから秋か冬だと思うけれど、そもそも色々ありすぎて体感時間が信用できないし、秋か冬かで日照時間にも大分差があるから、何時くらいに何が起きたかを一切把握していない。…結構大事なことだと改めて思う…。……時計は此処で売ってるだろうが、高そうだしな…。R9だったか。金を集め次第、あそこに向かった方がいいかもしれない。

 

「今晩は、お疲れさまです」

 

入った先の明るさと優しい笑顔に、嗚呼ブラックシティでもジョーイさんはジョーイさんなんだと少しほっとしたのだった。

 

 

あ、どうやらブラックシティに来るトレーナーは大概此処の空気に嫌気がさしてさっさと出ていくか、此処の空気を求めて来るか、らしく、部屋の数は余ったまま変動が殆どないらしい。ポケモンセンターの壁にかかっていた時計は短針が6時を指しており、もう少し遅い時間だと、他の街では部屋が空いていないこともあるのだとか。……ブラックシティでよかった、としみじみ思った。

 

食堂に着いて思ったのは、肉が無いんだな、くらいだった。

確かポケモンは新種が発見される度に、その元となったであろう動物が消えていく、だったか。乳牛はミルタンクに、闘牛はケンタロスやアフロのアレにだろうけど、肉牛はどうなったんだろうか。

結局頂いたのは野菜スープとパン。小麦粉がポケモンになったらどうしようか。……確かヤナップの頭の葉っぱって美味しいんだっけ。なんてとりとめもないことを考えながら、エーフィとコジョンドとの食事を終えた。

 

……オノノクスとシビルドンとミロカロスはデカさから、シャンデラは食べるものの特殊さから食堂では食べれなかったことは蛇足である。

 

 

今日、ポケモン勝負をして、色んなことを考えた。痛いだろうなとか、罪悪感とか、そんなもの。

勝てて、やった!って気には、どうしてもなれなかった。確かに、思ってた通りの光景になったり、強そうなポケモンを一発で倒す全能感がなかったとは言えないが。ポケモンたちが目の前で生きてるからってのと、自分のポケモンが圧倒的だったからだと思う。

…それでも、きっと俺は今のスタンスを変えないだろう。ポケモン勝負をしてお金を稼ぐしか今は手がないことと、やっぱり画面越しだったとはいえ、大切にしてきた子達を、傷付けさせたくないから。

傲慢だ。ああ、これは俺の傲慢だ。それをはっきりと自覚した上で、もう迷うのはやめよう。

迷って判断ミスして、…取り返しのつかないことには、したくないから。

 

この子達の想いが、誰へのものであれ、俺に向けられる限りは――最善を尽くそう。

 

窓の外に、月は見えなかった。




ここまできてまだ一日目というのに果てしない長さが想定されるのは自分だけでしょうか。もっと主人公の心情は詳しく、自分なりに書きたいものがあったのですが、ぐちゃぐちゃになってしまいました。時間があれば書き直すのですが。
ここでお知らせです。2月26日まで更新が出来ません。もしかしたら3月2日までかもしれません。もともと遅筆な上に、そろそろ勉強しなくては…と、……はい。というわけで、この第6話の手直し含め、更新がストップします。拙いながら50を超えるお気に入り登録をして頂き真に恐縮ながら、お休みしてしまいます、申し訳ありません。

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