始まりは欲望の街   作:ロピア

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第5話

 

俺の日課は、社会人にもなって、と言う人も多いだろうが、寝る前にポケモンをすることだった。大学の時にはハートゴールドでポケウォーカーの通信をすることも日課だったが。ちなみにポケウォーカーのみでイーブイを50匹以上、15レベルまで育てたのはいい思い出だ。

で、ポケモンで毎晩何をするのかと言うと、1日1回しかできないイベントだ。

 

サザナミの北でアイテムを貰ったり、ネジ山で化石を貰ったり――ブラックシティで10人抜きをして、中央の建物のおっちゃんから1万を貰ったり。

ブラックシティはトレーナーの賞金も、持つポケモンのレベルもまちまちだから、本当はあまりお金稼ぎにも経験値稼ぎにも使えないのかもしれないけど、平日の忙しい時の息抜きとしては、自分としては使い勝手がよかったのだ。余裕のある休日は、寂しいことに独り身なので、タマゴを孵化させまくって育成したり、リーフグリーンをやってみたりして。都合があえば、高校の時の友人とポケモンセンターに行くこともあったり。

 

と、話がズレた。時間があれば、金をホーホーのみでクリアしようとして、バッジ8つ集めたらデータがとんだこととか、悔しくてリーフグリーンをヒトカゲのみでクリアしようとして、チャンピオンの岩地面に詰みかけたこととか語りたかったのだが、まあそれはまた今度。

 

で、まあ俺の日課はわかってくれたと思う。はい、ブラックシティで10人抜きね。

いやあ、まさかそれを現実でやることになるとは……。事実は小説よりも奇なり、だったか。確かにそうだなあ、と思いました。

 

「いけっ!ゲンガー」

 

「エーフィ、シャドーボール」

 

「ゲンガァァァー!!?」

 

スキンヘッズのタクロウから1440円を頂戴しながら、ふぅと息を吐いた。エーフィは…――俺がゲームで育てていたこいつは、嬉しそうにこちらを見る。

 

 

あの後。ポケモンたちとの顔合わせで、俺は確信した。此処は単なるポケモンの世界ではなく、俺のゲームの世界であると。

だが、可笑しな点も多々ある。俺は、いや俺だけじゃなく、ポケモンをプレイする人は皆主人公としてゲームする。それは俺も同じことで。しかし、今、俺は「俺」である。茶髪でもないしあんなに若くもない。今の俺はゲーム的に言うとビジネスマンだろうか。

 

のにかかわらず、俺はゲームでの手持ちを持っており、そして使える。トレーナーカードも持ち物も何もない。だが、ポケモンたちだけは、そのままだった。ポケモンに持たせていた道具も、レベルも、性別も、……懐き具合も。

ケンさんにIDの話を聞いた時、俺は交換したポケモンが言うことを聞くにはジムバッジがいると聞いた。それはポケモンをする上では常識でもある。だが同時に、ジムバッジはポケモンがトレーナーを認める材料でしかないとも聞いた。認めてくれさえすれば、彼ら彼女らは力を貸してくれるのだ、と。

俺はトレーナーカードを作ったばかり。つまり、俺の今所持しているポケモンは全員他人のIDであるわけだ。しかし俺に信頼を、友愛を、喜色を、表してくれる。

嬉しくない筈があろうか?いや、ない。だが、同時に、後ろめたいものも感じるのだ。

確かに俺はポケモンが大好きだ。だが、それは見た目や成長といった、「画面越しの、中身がない」ものであり、更には俺にとってポケモンはたくさんいるが、ポケモンにとって主人は基本的に1人なわけで。

そしてこいつらの懐き具合はゲームのまま。…わかるだろう?「それ」は俺が作り上げたものじゃないんだ。刷り込みに似た…なにか。いたたまれなさを感じるのも仕方ないと思う。

 

そして、これもまた大事なことなんだが、ブラックシティに俺が立っていると、「気がついた」時、遠くに人が見えるくらいだった。つまり、俺がどうやって此処にいるのかを知っている人はいないわけだ。――だが、ポケモンは?ボールの中にいても外の様子が分かるのは、エーフィがカタカタとボールを揺らしていたことからもわかる。なら、俺が突然現れたにしろ、俺という人格がどういうわけか乗り移ったにしろ、ポケモンは何かを知っているんじゃないのか?

 

 

ここまで考えて、ケンさんにポケモンたちを戻すように言われた。

此処は欲望の街だ。金の街だ。珍しいポケモンは売られるということをすっかり失念していた。ドラゴンタイプという珍しいポケモンだけでなく、書物ぐらいにしか残っていない美しいミロカロスがいるんだ。もっと警戒するべきだった。

 

それぞれ拙い手付きでポケモンたちを戻した後、鋭くなった周囲からの視線(ただし人影はない)の中、ケンさんに提案されたのはブラックシティ10人抜きだった。

今の俺は無一文だ。宿は何とかなるが、食事は格安になるだけで無料ではない。それに、すっかり忘れていたがポケモンたちにもご飯をあげなければいけない。こっちも味にこだわらなければポケモンセンターで格安で手に入るが、6匹、しかも全員進化済みで、大柄なポケモンも多い。まず必要なのが金だったのだ。

と、言うわけで、今日は一度ケンさんと別れて、明日もう少し詳しく聞くことに。本当にお世話になります。でもポケモン勝負を約束していったのは流石だと思います。

 

で今に至る。ブラックシティを回るようにトレーナーに挑戦していくと、やはり見覚えのある人ばかりだった。グラフィックとはやっぱり違うところもあるが、見た目で大体の職業がわかるようになっているのはそのままだった。大概のポケモン勝負はエーフィさんのサイコキネシスで一発KO。まあ、確か今の10人で一番強いのがケンさんだったから、当然だとも思うけど。

 

最後の1人であるエリートトレーナーのミク……じゃなかった、レナさんの繰り出すサーナイトにエーフィを出す。そろそろ連戦で疲れてるかもしれない。別の子を出した方が良かったのだろうとは思ったが、最初に会った子として、心強かったのだ。それに、どうやらこの子はすなおな性格のようだが、中には嬉しそうにしながらも、こちらをじろりと睨む子もいて、……はい、別の子に指示する勇気が出なかったんです。

 

ひらひらと美しい白い布?体?をしたサーナイトさんが何か嫌な気配のする技(おそらくふういんだ。エーフィとは技が被っていることがありうるから、されるとイタイ)を出す前に、エーフィさんのシャドーボールが当たる。バスケットボールくらいの大きさのソレはなかなか威力が高かったのだろう、サーナイトはぐらりと地に伏した。水色の髪のツインテールが驚いた顔をする。少女がサーナイトを優しくボールに戻した後、出てきたのはやっぱりエルレイドだった。

 

はてさて。確か彼は嫌な技を持っていた気がする。少女は俺のエーフィが強いのを実感しただろう。そして、彼女はきっとあの技を指示する。

 

ものは試しだ。ケンさんが言っていたことを思い出し、エーフィに言ってみる。

 

「エーフィ、たいあたり」

 

 

俺のエーフィが覚えているのは「シャドーボール」「サイコキネシス」「てだすけ」そして「でんこうせっか」

 

ケンさんはこう言っていた。

「覚えている技と使える技は違う」と。

 

でんこうせっかとはたいあたりの上位互換だ。なら、もしかしたら。

 

 

その予測は、思った通りに動いたエーフィと、うっすら緑色に輝く「まもる」を発動したエルレイドを見て、正しかったのだと知った。

 

 




独自解釈③覚えている技は4つでも、使える技は違う。
作中のでんこうせっかがその最たる例だと思います。たいあたりの完全上位互換。正しく言えば、「たいあたり」と言うより、「威力とスピードの弱いでんこうせっか」ですが。ポケモンが自分の力を使いこなしていく=レベルアップだと思っています。これもまた後々話の中に出てきそうですが、とにかく力を使いこなした上に成長したからより強い技が使える、と仮定し。なら威力を弱めた使用ならできるんじゃないのか、と。
まあわざわざ威力を弱めるのは、命中を上げたい時とかくらいだと思いますが。
IDと懐き、トレーナーの言うことを聞く云々は、まあ生き物であるならありうる話かと。

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