始まりは欲望の街   作:ロピア

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第19話

 

ポケモンたちをセンターに預けたまま、外に出た。どうせ時間があるなら、町の人たちと交流したかったからだ。まあ、ゲームではストーリークリア→ポケモン育成の順で集中して行うから、町や街の人たち、道路の人たちとどんな交流していたか、全く憶えていないわけですが。利用する施設の人のことは憶えていても、流石に殆ど行かない町や人のことは…厳しいよな。

 

まず向かったのは道路を挟んですぐ隣の家。この町はちょっと複雑になっているから、適当に回ったら迷う。ゲームなら上空から見ている、いわゆる鳥瞰図だったからよかったが、今は壁や階段で全貌を臨むことはできない。下手をすれば、簡単な迷路より難しいかもしれない。それに、ゲームなら入れる家が限られていたが、いざ現実となってみれば、背景でしかなかった建物にも入ろうと思えば入れる。余計ややこしくなっているわけだ。

と、ここで悩むことになった。ポケモンセンターやブラックシティの大きな建物と違い、俺が入ろうとしてるのは一軒家だ。ゲームでは設定上仕方がなかったが、他人の家に、勝手に、しかも土足で入り込んでは、批難囂囂(ごうごう)だろう。

見知らぬ人の家のドアをノックするのも、変な気分だ。……行くのは止めた方がいい気がする。幸いにも、この町にはストーリーに関係することや、物を貰えるイベントはなかったはずだ。ジャイアントホールについての話なら、別に聞く必要もない。

 

結局、ポケモンセンターを出てしたことは町並みを眺めたり、散歩したり、家の外に出ている人と話すくらいだった。でも階段を上って眺めた景色は美しかったし、ジャイアントホールを遠目で見ることもできた。途中で喉が渇いたからと近付いた自販機には、おいしいみずとサイコソーダとミックスオレしかなくて、少し戸惑ったが。……コーヒーが、飲みたかった。

が、まあ仕方ない。初めて飲むポケモンのあの飲み物たちにドキドキしながら、ミックスオレを買った。350円は高い。俺にはちょっと甘かったが、美味しかった。ちゃんと人もポケモンも飲めると記載されていたから、ほっとしたり。

「ポケモン1匹のHPを80だけ回復する」という記載はなかった。ただ、「ポケモンのたいりょくを回復する効果がある」ようだ。数値として明確には表れない、ということだろう。

おいしいみずは50、サイコソーダは60、ミックスオレは80。昔からお世話になっていた回復アイテムたちだが、ミックスオレは、オレンやオボンのようなきのみとモーモーミルクで出来てたりするんだろうか。そうなら、モーモーミルクより効果は高そうなんだが。

あと俺は炭酸が苦手なんだが、ポケモンで炭酸が苦手な子はいないんだろうか。ドリンク系は飲みきらなくては回復量も少ないんだろうか。

飲み終わった後の缶を自販機横のゴミ箱に捨ててから、ミックスオレを買いだめしようかと考えて、やめておいた。買っても持てない。悲しい現実だ。

ドリンク系を系100近く余裕で入れれるバッグと、数十キロあるだろうバッグを担いで走り回れる主人公のこと、本気で尊敬しようと思った。ごめんな、ゲームであんなにモーモーミルク持たせて!

 

ゆっくり町を2周くらいして、ポケモンセンターに戻った。町の外を眺めるにはポケモンがいなくてはいけないし、大分太陽光も赤みを帯びてきた。人気もなくなってきたし、そろそろ頃合だろう。……たまにトレーナーじゃない人が町の外にいることがあるが、どうやってるんだろう。トレーナーの護衛でも雇ってるのだろうか。

 

夕日を背にセンターに入ると、ジョーイさんは休憩しているようで、センター内の空気も穏やかなものだった。ウィン、という自動ドアが開く音に気付いたのだろう。奥から出てきたジョーイさんと目が合うと、にっこり微笑まれた。

「おまちどおさま!お預かりしたポケモンはみんな元気になりましたよ!」

「ありがとうございます」

「またのご利用をお待ちしてます!」

渡されたボールが嬉しそうにカタカタと揺れるのに、ふふっと笑われて苦笑した。嬉しそうに見上げるこの子達に喜ばないはずがない。が、まあここまで反応されると、気恥ずかしいものがある。

 

「まちどおしかったのは、この子達もだったみたいですね」

とどめのように微笑みながら言われた言葉には撃沈するしかなかった。

 

最初に来たときより時間が遅かったからだろうか、ポケモンセンターを利用する人が1人増えていた。

グレーの帽子とシャツに、黒いズボン。帽子には金色のマーク。シャツの肩には赤いライン。どっしりした体型に、金髪と口周りを覆う金色の髭。ゲームにはいないジュンサーさんの代わりとも言える、おまわりさんがそこにはいた。

普段から悪いことをしていなくても警察と聞くと焦るのに、今の俺は犯罪者と言えるのだ。トレーナーカードの偽造と、そのための戸籍捏造。より焦燥感が募るのも仕方があるまい。

ビクビクしていて変に疑われてあれこれ調べられたら元も子もないから、普通に話しかけるが。

 

「こんばんは」

「あぁ、こんばんは。どうかしたか?」

 

近付いて話しかけた俺に、口端を男らしく上げて応じたおまわりさんも、次の俺の言葉に困ったように笑った。

 

「ああいえ、先程はお見かけしなかったので」

「本官、ここに赴任してからなーんもすることがないのだ。夜は外にだれもいないし、平和そのものだからなー」

 

もう今日の仕事は終わったから、最後にポケモンセンターに寄ったのだよ。苦笑しながらも穏やかに、嬉しそうに話すおまわりさんに釣られて俺も笑った。

 

「いいことじゃないですか」

「そうなのだよ」

 

顔を合わせて笑った。穏やかで、温かくて、平和な町。規則正しくて、夜になると外に人っ子一人いなくなるけど、決して人気がないわけじゃない。それぞれの家から漏れる明かりが、優しく町を照らす。

 

「いい町ですね、ここは」

 

ちょっと驚いたように目を見張ったおまわりさんは、直ぐに胸を張って豪快に笑った。

 

「自慢の町だ」




少し間があいてしまいましたが、いかがでしたか。次は12番道路に入ります。
お腹が痛くて更新できなかったのですが、そういうときには活動報告に一報入れるほうがいいのでしょうか。そろそろ活動報告を書いてみようかな、と思ってます。

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