始まりは欲望の街   作:ロピア

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第16話

 

どのように吹くのが正しいかはよくわからなかったから、兎に角吹いた。ゲームでポケモンのふえを吹いた時のようにメロディはなかったが、ピィィィ…と、なかなか綺麗な音だったように思う。

と言っても、これは後から思い返してみれば、というやつだ。実際は、吸った息を吐き終えた瞬間に、目の前にポケモンが躍り出ていた。それは黒い布をキュッと絞ったような、照る照る坊主のような見た目の。

 

「ッカゲボウズ!」

 

なんでここに、と思うよりも、周囲を囲むように現れた彼ら彼女らが興奮したように、怒っているようにこちらに迫ってくることに目がいった。中には同士討ちをしているものもいて、まるで暴走しているように見えた。そう、例えるなら「いばる」をされたように。2段階こうげきが上がって、混乱させられたように。

 

「な、なあエーフィ。……?エーフィ?」

 

「フィ、ィイイ」

 

「…エー、フィ」

 

そうだ!やせいのポケモンが笛のなんらかの作用で、遭遇しやすくなる=トレーナーに自分から近付くようになるなら、その影響がどういう原因であれ、エーフィに作用する可能性はあったのだ。様子のおかしいエーフィは、明らかに苦しそうに鳴き声を上げていた。

そうこうしている間に、カゲボウズはじりじりと輪を狭めてきていた。どうやら1番近いカゲボウズから臨戦態勢になっているようで、一気に襲い掛かられないことには安心したが、1歩間違えれば連戦は間違いない。興奮していても律儀な彼らを横目に、エーフィの様子を窺う。

 

「エーフィ!」

 

「フィ!?…フィー!!」

 

ハッとしたようにこっちを見て、ぷるぷると頭を振ってから、今度はしっかりと見上げてくるのにほっとして頷く。

 

「よし!――逃げるぞっ!!」

「フィー!」

 

律儀ゆえに完成していなかった輪の隙間を目掛けて一目散に走る。殿を務めてくれるエーフィが牽制してくれることでなんとか輪を抜けてからは、兎にも角にも彼らを撒くために必死で走った。ポケモンから逃げるときになんで出してるポケモンのすばやさが関係するのかなとか思ってたけど、こういうことでしたかと無駄に納得した。そうだよな、トレーナーの方が早くても、むこうの攻撃はポケモンじゃないとなんとかできないもんな。ポケモンを出したまま逃げるしかないもんな。

あとやせいと戦闘するとき色が薄い草むらでは1匹ずつとか、ゲームのまま過ぎて驚いた。流石に1列に並んで、じゃなかったけど、戦うものは他よりちょっと前に出て、戦わないものは1歩下がって見てるって…。まじめな性格のやつがいたから、とかいう理由かもしれないけど。

 

13番道路の入り口付近で脱力して座り込んだ状態から、ようやく落ち着いてきたから、ふうと息を吐いて勢いをつけて立ち上がる。砂を払いながら、どうしてカゲボウズなんか…と思ったところで、1つ思い出した。

13番道路。そしてカゲボウズ。これって、大量発生じゃないか?と。殿堂入り後、何かしらのイベントが用意されているが、その1つがポケモンの大量発生だ。俺は、入手し辛いポケモンをここで出るようにしといて、図鑑完成の手助けするためにあるんだと思っていた。特にルビー、サファイア、エメラルド――いわゆる第3世代のポケモンは、ゲームボーイアドバンスの形態しかないため、入手が困難になっている。そろそろDS媒体でリメイクしてくれてもいいんじゃないか…じゃなくて。えーと、つまり、2番道路ならソーナノ、3番道路ならバルビート(ホワイトならイルミーゼだったよな)、といった風に、日替わりで大量発生が起こるのだ。

そして、この大量発生は「普段そこにいないポケモンが現れる」イベントである。それどころか、「イッシュに本来いないポケモンが現れる」のだ。

13番道路には、オオスバメやフワライドなどが通常出現する。なのに、飛び出てきたのはカゲボウズ。これはもう大量発生で間違いないだろう。しかしそうなると、時間軸は俺が殿堂入りした後、ということなのだろうか?生憎ゲートで確認したのは天候だけだったので、大量発生の情報が流れてるかどうかわからないが。

だが、本当にストーリー終了後なのか?と考えると、違う気がする。確信はないので、これは本当にただの勘なのだが。

 

と、…ん?くいくい、とズボンの裾が引っ張られてる、と、エーフィ?

出したままだったエーフィが、俺が気付いたのを知って口を離す。フィー、と鳴きながら持ったままだった白いビードロを示されて、その存在を忘れていたことに気付いた。

 

白いビードロがどのようにポケモンに影響するのかは明記されていなかったが、あんな状態を引き起こすものだろうか、と思う。興奮し、暴走し、どちらかといえば怒りを滲ませたやせいたち。苦痛を顕にしていたエーフィ。

 

「なあ、エーフィ。この音は嫌いか?」

 

こくり、と素直に返ってきた返事にふむ、と考える。嫌いな音、というだけであんな状態にはならないだろうな、と。っていうか、正直俺白いビードロってポケモンの好きな音を出すんだと思ってた。で、ポケモンたちはその好きな音に誘い出されるってかたちかと。黒いビードロは逆で、ポケモンの嫌いな音を出すから、ポケモンたちはその音を避けるからポケモンに遭遇しにくくなるのかと。それがまさか、白いビードロはポケモンの嫌いな音で興奮させてポケモンと遭遇しやすくなる、なんて。

 

ただ1つ忘れてはならないのは、「ゲームではビードロが使えない」という点だ。吹けたし、実際にポケモンと遭遇しやすくなりはしたが、それは無理やり使用したことによる副作用かもしれない。遭遇しやすくなる、というより襲われそうになる、と言った方が状況を的確に表しているからな。

 

取り敢えずわかることは、これの使用は控えるべきだ、ということだ。警戒したようにじっとビードロを見つめるエーフィの頭をそっと撫でて、ビードロを仕舞おうとして、はたと止まる。今、俺にはポーチもリュックも何も無い。持ち物はビーチサンダルと自転車とモンスターボールくらいだ。自転車のかごに入れるにしても隙間から落ちそう。かと言って手で持ってるわけにもいかない。

……しょうがない、よな。

ボールがついたベルトにざくっと挿して、簡単に固定した。エーフィの嫌そうな顔に、悪いといって苦笑する。嫌いなもんを間近に置かれたらそりゃあエーフィさんでも嫌そうな顔するよな。…はい、すぐにリュックを購入します。ごめんよ、みんな。

 

さて!気を取り直して再び、いざ進まん13番道路!

 

「お!おまえさん!どんなすごいポケモンを釣ったかみせてよ!」

 

……あっちゃあ…。嬉しそうな釣り人がクラブを出してくるのに、思わず額に手を当てながら空を仰いだ。油断は禁物。身に沁みて実感したよ。オクタンが出てきて少しだけ癒されはしたが。

4096円を頂きながら、エーフィを褒めてもらって、油断から始まったバトルは無駄な心労を残して終わったのだった。


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