始まりは欲望の街   作:ロピア

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第13話

さてさて。起きて直ぐ様昨日の反省を元に旅立とうとした俺だったが壁にぶち当たった。……何かは言わずともわかるだろう。革靴がまだ乾ききっていない+手入れも足りないためだ。幸い自転車には籠がついてるので靴はそこに入れておいてもいいが、代わりの靴は?

言わずともわかるだろうが、俺が歩く場所は森や山を切り開いた後や、うまく自然と調和している道なのだ。ビーサンなんかで歩いては、途端に傷だらけになる。つまり俺は革靴がなんとかなるまで動くことは出来ないのだ。……原因が不注意だけに、物凄く反省してるのだが。

 

というわけで、サザナミに留まることに。ジョーイさんに昨日のお礼を改めて言ってから、靴が乾くまで連泊することを伝えると、なら少しお安くしときますね、と言われた。彼女が神か!

サザナミは別荘地のため、此処にいる人は皆別荘を持っているし、夏ではないため観光客も少ないから、だそうだ。だから気にしないで、と。なんだか昨日からお世話になったり迷惑をかけたりばっかりだ。今回の事は本当に俺のミスから始まってる。音を意識していれば海辺だってのはわかったはずだ。緊張して他のことに意識が回らないのは危ない。…もっとしっかり周りを見ないと。

 

朝からポケモンセンターを出て、ポケモンたちを連れて向かったのは、今日も霧が深い14番道路だった。自転車はポケモンセンターに置かせてもらっている。で、なんのために来たかと言うと…。

 

「さて、ミロカロス。出ておいで」

 

ポン、と水の中に姿を現した美しい蛇のことで、…いや、正確には彼の技のことで調べたかったからである。

…彼ですよー。何故か俺の手持ちは可愛い、綺麗系がオスである。ていうかエーフィとミロカロスのことなんだが。いや勿論コジョンドも美しいし、シャンデラも可愛いよ?(オノノクス…とシビルドンは…まあ……黙秘権を行使します。)でもなんて言うか、…ミロカロスもエーフィもメスっぽくないか?…まあ感じ方は人によるか。

 

で、ミロカロスの技で調べたい、といえば勿論これ!「なみのり」ですな。ダンジョンをクリアしたり見えるのに届かない!という位置にあるアイテムを取るのに必須の、戦闘でも高威力かつ範囲も広いこの技!だがしかし、今俺はジムバッジを一つも持っていない。つまり、戦闘に関しては使用できるが、始めに言ったダンジョン攻略には使えないはずなのだ。

でもゲームでは既になみのりを使用できるバッジを持っていたし、ミロカロスになみのりをしてもらったこともある。

もしかしたらひでん技を戦闘以外でも使えるんじゃないか。これが今日、俺が確かめたい、調べたいことだった。もしこれが可能なら、そらをとぶがバッジを集めなくとも使えるかもしれないのだ。(手持ちに鳥がいないため、その場合はそらをとぶ要員を捕獲する必要があるが。)実はこの挑戦は案外勝率は高そうだったりする。何故なら、バッジを持っていないのに、俺は高レベルの「他人のポケモン」を持っているのだから。純粋に俺に懐いているのかもしれないが、まあちょっとした根拠になるんじゃないかな、と。

……いつも思うけどバッジって凄いよな…。今までダンジョンでは使えなかったひでん技が使えるようになったり、他人と交換したポケモンの言うことを聞かせることができるようになったり…。いつだかのシリーズでは確か自分の手持ちの能力が上がるって性能もあったような…。ポケモン協会パネェっす。やっぱり変なとこでオーバーテクノロジーなんだよなぁ…。

 

考えるのはやめにして、ミロカロスを見る。水が大変気持ち良さそうです。水温は俺が手を突っ込んでぴゃっと逃げ出すくらい。ミロちゃんすげー。一緒に遊びたいのかうずうず尻尾を揺らしているが、スーツまで失うのは勘弁なので我慢してもらうことに。ミロちゃんは俺の手持ちで1番若いから遊び盛りなのはわかってるんだけど…申し訳ない。

取り敢えず普通に泳いでもらう。すいすいーっと波を全く立てずに滑らかに泳ぐ様は流石、といったところ。今度は俺が乗れる程度に水中から体を出してもらい、同じように泳いでもらう。…うん、全く問題はなさそう。

「……さて」

首を傾げるミロカロスの頭を撫でてやってから、根本的なことを聞いてみる。

 

「俺を、おまえに乗せてくれないか?」

 

さっきとは反対側に首を傾げるのを見て、きゅんとしながら、どう説明したものか…と頭を捻る。

 

「おまえの体に乗って、海を渡りたいんだ。…ああいや、俺も泳ぎたいってわけじゃなくって」

 

くいくい、と口で俺の服を挟んで引っ張るのにぽんぽん、と頭を撫でながら言うと、寂しそうに離れていった。…罪悪感が…。再び首を傾げ、なんとなく言いたいことはわかったのだろう、形容しがたい幻想的な鳴き声を上げながら自分の首?背?を見やった。またこちらを見る。

 

「いい、かぁあっ!?」

 

言ってる途中で細い綺麗な赤い尻尾に包まれ(もしくは捕まれ)、宙に浮いていた。やや乱暴ながら、その背に降ろされて咄嗟に胴を掴む。つるっと滑らかな蛇肌だった。跨るような形で乗ったミロカロスの上は、想像していたよりずっと安定感があった。もっと水に浮いたビート板、というか。水に浮いてる!って感じだと思っていたのに、むしろ今地上?ってくらいにしっかりしてる。

と、振り返るようにこちらへ頭を向けていたミロカロスと目があった。なんとなく不満そうに見えて、え、えっと戸惑う。…やっぱり俺を乗せたくなかったんだろうか。いやでもむしろ無理やり乗せられたような…。

 

「えっと…イヤだったか?」

 

ぶんぶんぶん、と勢いよく首が横に振られた。と同時に足場がぐらぐら揺れる。

 

「わわっ、ちょっと落ち着いて落ちるっ!」

 

ぴたり、と止まった。慌てたようにこちらを見るのに大丈夫だよ、と苦笑する。

 

「んー…じゃあ、俺が重い、とか」

ぶんぶん

「説明がわかりづらかったから?」

ぶんぶん

「んーとなぁ……あー、さっさと乗れよ、みたいな?」

ぶん…ぴた、…ぶんぶん

「惜しかったのか。…自惚れていいなら、聞く必要なんかねぇんだよっ、て感じ?」

 

いやこれはないな、という前にこくりと頷かれた。…え、マジっすか。

乗るのなんて全然構わないし、一言「なみのり」って言ってくれたら早かったのに。あんなに遠慮されると疑われてるのかと思って寂しかった。大体こんな感じのことを繰り返した質問とジェスチャーで理解して顔が熱い熱い。こんなに好かれてるなんて。全幅の好意に、その元に嫉妬した。いや俺なんだけどね、なんていうか、ゲームの俺ではないっていうか…。

 

欝モードは省略。綺麗なミロカロスの鳴き声に顔を上げると、泳ぐの?泳がないの?と言ってるように見えて、そういえばミロカロスに乗ったままだった、と思い出した。

 

「待たせて悪いっ!…じゃあ、進もうか。えーとだな、あそこのでっかい木があるとこまで行ってくれるか?」

 

結論。方向転換時にはちょっと危ないが、気をつけていれば全く問題なくなみのりできた。よっしゃ、これで勝つる!…まあミロちゃんによると初めてじゃないっぽいんで、だから成功したのかもしれないが。

 

あと、バッジ考察を1つ。もしかして、バッジを手に入れたらひでん技を使えるようになるのは、ポケモンが持つ「トレーナーを乗せる」ことなどへの忌避感を押さえ込むからじゃないか、とか思ってみたり。言うことを聞かせるのも電波的な何かなら、ひでん技を「戦闘以外」つまり「トレーナーが何らかの形で必ず関わる動作」で使えるようになるのも、電波的にポケモンに作用するからじゃないか?…まあ、真実は製作者のみぞ知る、ってやつだろうけど。


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