始まりは欲望の街   作:ロピア

11 / 19
第11話

 

さて、ケンさんが見送ろうと言ってくれて、ゲート近くまで来たときに、俺はあらゆる確認のためにこう聞いた。

「プラズマ団って知ってます?」

と。いくらブラックシティがイッシュの中でも特殊な街とはいえ、もし事が起こっていたら無関心ではいられないだろうし。しかし、俺の目論見は違った…それも俺には全く嬉しくない情報をくれた。

 

「プラズマ団…?いいや、知らないな。ロケット団のようなものかい?」

 

ロケット団――赤緑青ピカチュウ版や金銀クリスタルで登場し、悪行を繰り返し、金のためにガラガラを殺すというポケモンシリーズの悪役の中では随一の非道さを持つ集団。後のLG、FRやHG、SS(ちなみに俺はHGよりゴールデンサン、SSよりシルバームーンという名前がつくことを期待していた)といったリメイク作品にもきっちり登場して、幹部級が名前とグラフィックを得ていたりする。そしてそんな彼らの活躍の舞台はカントーやジョウト。…海を隔てたイッシュで、まさかそんな名前を聞くなんて。

 

「いえ。……ロケット団を知っているんですか?」

 

「あぁ、言ってなかったか。私はカントーの出身なんだよ。それにイッシュに来てからはブラックシティにいるからね。申し訳ないが、あまりここの情勢には詳しくないんだ」

 

ゲームでは、ブラックシティの人は、ホワイトフォレストから連れてくるんじゃ、…。

 

「……カントーから、ですか」

 

「ブラックシティのトレーナーは大概よそ者なんだよ。此処は流れ者が行き着く先さ。そしてここからまた流れていく」

 

確かに皆他地方のポケモンを使っていたけど…でもまさか。

 

「……ハイリンク、は…」

 

「ハイリンク?…聞いたことがないな」

 

……俺は一つの仮説を立てていた。「ハイリンクが俺が此処にいる原因ではないか」と。

ハイリンクは別の主人公がいる世界に、主人公ではない姿で入っていくものだ。そしてポケモン勝負がハイリンクの依頼をクリアする条件になることもあるんだから、ポケモンを連れていても可笑しくはない。しかし今、それは見事に崩れ去った。

ハイリンクによって「ここの風潮があわない」や「もっと刺激のある暮らしがしたい」と言う人たちを、ホワイトフォレストからブラックシティに連れて来ることによって作られる、“この街のトレーナー”がハイリンクを知らないのなら、「ハイリンクは無い」し、「俺がハイリンクで来れるはずもない」ということだ。

ブラックシテイは幾つかのホワイトとハイリンクし、数人ずつ連れ去ってくる(というと人聞きは悪いが)ことによって、街の住人が増え、街は栄える。だだっぴろい平地がビル街になるのだ。そして最も栄えた状態でトレーナーは10人、――つまり今の状態になる。今のこの街の状態は、俺のゲームの状態と酷似している、がハイリンクが原因ではない。

…ブラックシティの住人が他の地方からの流れ者になっているのは、整合性をあわせるためか、それとも…。

 

兎に角、もし此処が俺のゲームの世界なら、プラズマ団などのイベントは終えているはず。後でゲートの人に確認してみるのもいいが、「今が原作前」であることも想定しておく必要がありそうだ。

 

と、ここで俺の顔色が悪くなっていたんだろう、心配そうに声をかけるケンさんに大丈夫ですと返して一歩踏み出す。

 

「それでは、また!」

 

「…ああ。連絡手段が手に入ったら、すぐに一報入れてくれよ」

 

「はい。それじゃあ」

 

「良い旅を!」

 

緑色のゲートに足を踏み入れる。傍らには折り畳みはできないけどブラックシティにしては良心的(だと思う)お値段をした黒色の自転車。自転車に乗ったままでも通れるゲートは勿論手押しの自転車も通してくれた。ドアは無いものの、エアカーテンのようなもので外気と区切られていることに感動しながら、入ってすぐ左側に見えるテレビに釘付けになった。さて、言い忘れていたかもしれないが、俺が出たのはケンさんに一番近いゲートだったりする。つまり上――サザナミタウンに行くための道だ。ブラックシティは左のゲートから行けばライモンシティに直通する。そうした方が最終目的地点には早く着くのだが…いかんせん、可及的速やかに必要な物資の調達には、C9へ向かう必要があるのだ。そしてそこへ向かうにはライモンシティ側からは遠回りになってしまう。サザナミ、カゴメ、ソウリュウへと逆周りするしかないのだ。

そして密かに入手していたタウンマップがゲームのものと全く一致しているのは確認したのだが、やはりゲームとの違いはサイズスケールだろう。ゲームでは数分でソウリュウまで辿り着けるが、今日中にカゴメまで行けるかどうか…。サザナミまでは行けると思うんだが。

 

テレビに映っているのは今まさに出てきたブラックシティの様子。パッパと切り替わる画面に、あ、こんな場所もあったんだと見ていると、上の電光掲示板が目に入った。

 

『日 サザナミタウン:晴れ 14番道路:霧 ブラックシティ:晴れ …』

 

丁度日付を見逃したことに無意識に息を吐きながら、14番道路の霧という天候に顔を歪ませた。ゲームでなら霧でも何にもぶつからずに進めるくらい慣れているが、実際に霧は慣れない土地を行くには厳しいものがある。ゲートのお姉さんにプラズマ団のことを聞いても芳しい返事はもらえないまま、肩を落としながらゲートを出たのであった。

 

ゲートを出て、視界の白さにうわっと思わず声を上げた。少し離れた所にある看板さえ、かなり見えづらい。そういえば看板の向こうって道ないよな、と思い出しながらゆっくり看板に近付くと、「14番道路」と表記されていた。その向こう側に地面はなく、柵も無い。覗き込んでも真っ白で、そっとそこを離れた。…いや、頼むからあそこ柵設置しよう?ゲームでも度々霧になるってことはここ霧がかかりやすい土地だってことだろ?これ落ちるって!!

戦々恐々としながら看板の前を右に曲がって自転車を押しながら進むと、水色の人影が見えた。…エリートトレーナー、だったか。それほど強くなかったはずだから問題ないだろう、と目の前を横切る。予想通り声をかけられたので、さくっとバトル。その後の彼女の発言に、まるで彼氏彼女みたいな関係だよなあとか思いながら賞金を頂いた。

水色の髪のツインテールの隣の看板に書いてあるのはパソコンのボックスのことだからさっくり流して。色の薄い草むらと濃い草むらの違いに驚きながら霧の中を進んでいった。…階段を自転車でかっ飛ばしてたゲームの俺すげぇ、と内心呟きながら。




作中のエリートトレーナーの発言とは、「うれしいことは2倍。悲しいことは半分ずつ……それがポケモンといる意味よ」というものです。主人公の呟きと作者の心情がリンクしている場合が多々ありますが、流してくださると幸いです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。