始まりは欲望の街   作:ロピア

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第10話

 

流石に突っ立ったまま話し込むのも申し訳ないので、ビルの近くのちょっとした窪みにおのおの腰掛け、話を聞く。

「えーと、先ず何から話そうか?」

「…何か、トレーナーカードについてまだ聞いてないことがあったような…」

 

しばらく考えて、思い付かないから取り敢えずどこまで聞いたか思い出していくことになった。…うぅ、まだ耄碌してはいないと思うんだが。

 

「トレーナーカードはお金が貯めれる、ポケモンの様子が見れる、ショップでポケモン関連のものを買うのに必要、ポケモンセンターでボックスを使える……くらいでしたっけ?」

「……ふむ。間違いはないね。注意することも……あ、そうだった!注意すること、だ」

「え?」

「たしか、パソコンの使い方によっては外聞が悪くなる、と言わなかったかな?」

 

……あ!!そう言えばそんなことを聞いた気がする。

 

「でも、今日早速パソコンを使ってみましたが、ジョーイさんからの注意も、チュートリアル(だったのか、本当に)にも特にそういった内容はありませんでしたよ?」

 

良く言えば純真なこの言葉に、苦笑していいやと彼は首を振る。

 

「あまりいい話ではないからね。知らなくても、言われなくてもしょうがないのさ。でも、実際にある話だ。……ボックスは使ってみたかい?」

「あ、いえ。空っぽなのを見てすぐに閉じました。…いい話ではないって…」

「パソコンにはポケモンを逃がす機能があるんだ。勝手にトレーナーにポケモンを逃がされると、生態系が狂ってしまうことがあるからね。トレーナーはポケモンを逃がしたい時、パソコンを通すことで、ポケモンを捕まえた土地や、そのポケモンの過ごしやすい土地に送ることができる。…でも、それが頻繁になると、そのトレーナーにはポケモンを扱う資格がないんじゃないか、とパソコンに忠告が表示されるんだ」

 

ゲームではパソコンからしかポケモンを逃がせなかった。まあ設定上、というやつだろうが、なるほど、つじつまがあうようになってる。実際はまあ、何処ででも逃がせるよな。

 

「……そっか、パソコンを通さなきゃポケモンを逃がせないのはそういう…」

「知ってたのかい?……まあ、普通にしていれば忠告なんてされないから気にしなくても大丈夫だよ。忠告が出された、というのは後ろで順番を待っている人や近くで佇んでる人、ジョーイさんやおまわりさんには伝わるんだ。目をつけられるわけだね」

「こわっ!!」

 

考えてみよう。治療施設の人と警察にいっぺんに睨まれる状況を。…詰みだろ、それ。

 

「あはは……で、まあそういう恐い状況を避けたい、だがポケモンを逃がしたい…そんな人たちがいてね。ポケモンを生態系もレベルも何も考えずに、逃がす人が出てきて、最近ポケモンに関する事故が多発しているんだ。おまわりさんも頑張って調査はしてるんだが、元凶を捕まえても全てが解決するわけではない上に、逃がす人は次から次へと現れる。オタチごっこだね」

 

…っ、ふ、不意に来られると困る……!!いや、イタチがいなくなってるからしゃーないけど、なんか、駄洒落みたいっ……!!!笑っちゃいけないシーンなのに!!落ち着け!

 

「った、たいへん、ですね!」

 

「あ、あぁ。そしてこの話はイッシュだけにはとどまらないからね。君も、旅をする時には気をつけたほうがいい」

「レベルの低いポケモンしかいないはずの所に、高レベルのポケモンが逃がされていて、それに遭遇してしまう可能性もあるから、ですか?」

「その例でいくと、高レベルのポケモンに住処を荒らされた低レベルのポケモンたちが暴れる場合もある。凶暴になったポケモンは、危ない」

「………」

 

どんな可能性もあり得るが、一つだけ確かなのは原因は人間ってことだ。そして被害を受けるのは、トレーナー以外の人々やポケモンたち。トレーナーには事件に対する力がある。どうにか対処できるだろう。でも、民間人やポケモンたちは?

 

「……その人たちが、ポケモンを逃がすのって、」

 

「色々な理由があるだろうが、簡単に言えば自分の利益のためだろう」

 

りえきの、ため。口の中で繰り返す。

唾液の粘り気が増した気がした。

 

「あるポケモンしか持っていないアイテムを得るため、強いポケモンを得るため、オスメスの違い、色合いの違い。あとは性格の違いや特性の違いもあるかもしれない。」

「………」

 

たかがゲーム、とは思う。だが、俺がしてきたことは、確実に批判されることだ。俺は確かにボックスから逃がしてはいたが、「今」と「ゲーム」の“設定”が一致していると何故言える?

それに例え理想的な生活環境の所に送られたって、人によって卵から孵されたばかりのか弱い存在が、何十匹、いや何百匹も逃がされて、幸せになれたのか?

ポケモン廃人なら誰だってやるだろう個体値選別。そう、「確実に強くなる」個体を得るという利益のために何匹も孵しては逃がして。卵はポケモンが何処からか持ってくると言うが、本当に負担はないのか?

……否、今俺の手持ちである6匹は、皆そうやって生まれて、選別されて、育ったんだ。やらなければよかった、はこの子達を否定することになるかもしれないから、そうは言わない。言わないが、……俺にポケモントレーナーと名乗る権利はないだろうと思わせるのには十分過ぎる切っ掛けだった。

 

「あまりにも事が大きくなれば、ゲートで呼び掛けもあるだろう。あそこには電光掲示板があるからね。旅する人はあそこで気候を確認する。君も、気にかけておくといいよ」

「……はい。ありがとうございます」

 

どこまでリンクしているのかイマイチわからないけど、取り敢えず気候は行動する上で大切だから素直に頷く。……なんか今更だけど、この人すごい情報持ってるよな…。

 

「話しておくべきことはこんなものかな?これから、どうするつもりか聞いても?」

「足りないものが多すぎるので、C9でしたっけ、あそこに向かうつもりです。途中途中のジムは、ひでん技は欲しいところですがまあ仕方ないので諦めて、自転車で飛ばして一通りイッシュを回ろうと。可能であればアララギ博士にお会いして、その後はゆっくりジムに挑戦しながら見て歩こうと思ってます」

「ということは、カノコタウンに向かうんだね」

「はい」

「ジムに挑戦したら、どうするんだい?四天王やチャンピオンには…」

「ああ、それはしません。イッシュをゆっくり見て回ったら、…そうですね、他の地方を見に行きますかね」

 

ここでケンさんは朗らかに笑った。だろうね、君らしい、と。

 

「じゃあ、もうお別れかな?」

 

「……お世話になりました。ケンさんは、ずっと此処に?」

 

「そのつもりだよ。君みたいに強い人がまだまだいるかもしれないしね」

 

ああ、本当にこの人はポケモン勝負が好きなんだなあ、そう思って、じゃあ此処に強い人が辿り着くのを待つより、この人がたとえばシロガネ山といった強者の集いそうな所に行った方が、この人が求めることに近いんじゃないかと至って…ふと一つの考えが浮かんだ。

もしこの人が別の地に発ったら、俺はこの人に恩を返せなくなる、と。

 

「絶対に恩返ししますから、待っていてください。それで、良かったらですが…連絡先を教えてくれませんか?その、連絡がつかなくってお金を返せない、というのは本意じゃないので…」

「あぁ、その方が確実かもしれないね。よし、………はい、これだ。悪用はしないでくれよ」

ウインクしながらのその言葉に勿論です!と言ってから笑った。

…以前は携帯電話にあまり興味が無かったが、今は他者との繋がりを持てることにどことなくほっとした。いやまあ、ケンさんの希望があれば、お金を返すことと、ケンさんが思う存分ポケモン勝負の相手になるというノルマさえクリアできれば、いつだって処分しますが。




この小説では滅多なことがなければ新しいポケモンは手持ちにしないんだろうな、と思うと、別のポケモン小説が書きたくなってきてしまいまいした。…いや、今の手持ちも大好きなんですが、ブラッキーとかもこもこウインディとか、ホーホーとかオクタンとかも愛しくって。あと10万ボルトと冷凍ビームを覚えた状態のニドラン♂をパートナーにする少年の話とか…欲は止まりません。さて、次回でようやくブラックシティを出発します。3月12日からは一週間ほどお休みすることになるので、それまで一日一話頑張っていきたいです。

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