第1話
此処は、何処だろうか。
まるで頭が可笑しくなったようなセリフだけれど、言葉遊びでも何でもなく、……ああもう意味がわからない。
見えるのは曇った街並み。濃い霧がかかったビル街。全体的に黒を基調としていて、良く言えばシンプル、悪く言えば味気なく無機質。
そこそこ離れたところに人影が見えるけれど、それにしても活気がなかった。建物ばかりが目に入り、寒々しいほどに。
どこなんだ、ここは。
口の中で呟くも、答えが見つかる筈もなく。兎に角必死でここにいる直前までのことを思い出そうとした。
何をしていた?俺が覚えていることが正しいのなら、俺は眠りに着こうとしていた。
その前は?仕事でくたくたになっていて、寝る前の日課になっているゲームをやっていた。
いつ俺がここにいると気付いた?眠気に意識が飛んだ後、だと思う。何故か唐突に目が覚めて、気付けば此処に立っていた。
……訳がわからないよ。はい、俺もです。
白い兎っぽい宇宙生物は頭から叩き出して、改めて周りを見る。……何故だろうか、こんなとこに来るのは初めての筈なのに見覚えがある気がする。…もっと上の方から眺めてたような?
「……兎に角、あそこにいる人に聞いてみようか」
考えても解決できることなんて何もなく。スーツを着てるのに手ぶらで恥ずかしい気もするが、人に話を聞くのくらい構わないだろうとゆっくり歩き出し――…待て、スーツ?何故、スーツを着てる?覚えている限りの最後は、烏の行水で入った風呂の後のスラックスとTシャツじゃなかったか?そもそも、こんな厚手の生地のスーツは、冬物として片付けていたんじゃなかったか?
そこまで考えて足が止まった。ゾッとした。今まで夢うつつだったのが急に現実に迫ってきたように。そう言えば何だか肌寒いな、…なんて。
・・
今は9月なのに。
あ、男の人と、目があった。
「ポケモン勝負だけに打ち込んだ人生……」
「え」
「スペシャリストとして勝つ!」
「え、ちょっと待って、今、何か変な単語が聞こえた、ような……?!」
帽子を被った渋い熟達した雰囲気を持った男性が、嫌ってほど見覚えのある――それも画面越しやオモチャとして――丸いソレを投げる動作をして、固そうなソレがコツンと地面に当たって、ポンッというコミカルな音と共に濃い紫の刺々しい巨体が……?
「行け!ニドキング!!」
嗚呼。見覚えがある。聞き覚えがある。この街並みも、男の人の台詞も、そして出してくる「ポケモン」も。
体の奥底を震わせるような怪獣の鳴き声に、目の前が真っ白になった気がした。
いつの間にか腰に付いていたベルトのボールが、カタカタと揺れるのにも気付かずに。