やはりダンジョンに出会いを求める俺の青春ラブコメはまちがっているだろうか【まちガイル】 作:燻煙
ーーーーーーーーミノタウロス。
《中層》である15階層に主に出現するとされる、大型モンスター。
第三級冒険者の壁となる雄牛の化物。
その肉は断ち難く、硬い。
盛り上がった筋肉から繰り出される攻撃はその巨体からは想像もつかないほど鋭く速く。
またその双角を使った突進はそのモンスターの必殺技と称されるほど強烈だ。
「何故ミノタウロスが、5階層に………!?」
なんで私が東大に!?と何処ぞの予備校のような発言をする雪ノ下。あの赤と緑の双子は一体何なんだろうか。
「ひ………ぁ、ぁあ」
「由比ヶ浜、しっかりしろ。大丈夫だ。」
恐怖に駆られた由比ヶ浜を鼓舞する。
状況が悪い。由比ヶ浜はLv.2だ。それに比べ俺と雪ノ下はLv.4、ミノタウロス程度に負けるとは思わない。由比ヶ浜も簡単にやられるようなステイタスではないはずである。
だが複数体となれば話は別だ。今ミノタウロスはまだ2匹しか現れていないが、ダンジョンはいつ何が起こるかわからない。いつ3体目、4体目が現れるとも限らない。この5階層でミノタウロスが発生していた場合、由比ヶ浜が多数のミノタウロスに囲まれる可能性もある。
由比ヶ浜を落ち着かせようと見栄を張ったものの、現状の最悪さには変わりない。
落ち着け、俺。
考えろ、思考を止めるな。
………まず今回の場合、逃げるのは得策ではない。ミノタウロスたちは既に俺たちを視認しており、現に今も俺たちに向かってきている。
だとすれば。
「雪ノ下、由比ヶ浜を任せる。」
「何を言っているのかしら?私が行くわ。貴方が由比ヶ浜さんを守ってあげてちょうだい。」
おっとぉ??雪ノ下さん?
………ちょっとかっこつけて言ったのに。
だがしかし。
「いや、俺が行く。任せたぞ。」
「ちょっと、比企谷くん!?」
雪ノ下に強引に由比ヶ浜を任せ、ミノタウロスたちのもとへと肉薄する。
「「ヴモォォォォォオ!!!」」
幸い十字路であるため、由比ヶ浜たちの元に向かうには俺を打破しなければならない。
………横や後方からミノタウロスが飛び出して来ないとも限らないが。
まずは。
「《泉に落ちた黄金の鞠》」
隠蔽の魔法《フラグ・プリース》を自身と武器にかけ、姿をけす。
(久々に、この魔法本来の使い方ができるな。)
まずは左のミノタウロスへ。
此方を視認できていないミノタウロス、その股下を滑るように抜けて奴の背後をとる。
(まずは………ここ、だ…ッ!)
すぐさま立ち上がり、抜刀。
狙うはミノタウロスの両脚。その丸太のような脚に連撃を放つ。
「ヴォァァァア!?!?」
背後からの不可視の斬撃により脚を失った為、前のめりに倒れるミノタウロス。
その隙にもう一体のミノタウロスへと向かい、その胸を突き破る。
唐突な攻撃になす術もなく塵と化す雄牛。
1匹を仕留めた隙に後方の雪ノ下たちを見やる。
………どうやらミノタウロスは出てきていないようだ。
とっとと片付けよう。
脚を失い満足に歩行できないミノタウロス、その背に刀を突き立てる。
………俺の魔法《フラグ・プリース》は本来、戦闘時に使う魔法だ。
隠蔽・変装の魔法は偵察や探索に適しており、昔俺がギルド職員になる前、ソロでダンジョンに潜り続けることができたのもこの魔法によるところが大きい。
隠蔽の常時使用による『不可視の攻撃』。俺が昔ダンジョンに潜る際に最も得意としていた戦法。
核である魔石を砕かれたミノタウロスは霧散し、跡形もなく消え失せる。
(………3体目は来ないようだな。)
2匹のミノタウロスがやってきた方に注意を向け、追撃が来ないことを確認。
「ガァァァァァァア!!!」
突如後方から声が響き渡る。
声に反応雪ノ下たちの方へと向き直ると、ちょうど雪ノ下がミノタウロスの左腕を切り飛ばしているところだった。
雪ノ下を残して良かった。恐らく横からやって来たのだろう。3体目のミノタウロスが雪ノ下に迫る。
「フッ!」
ミノタウロスの繰り出す攻撃を側面に刀身を当てて紙一重の差で躱し、そのまま残りの腕を斬り飛ばす。
それは技量、レベル、剣の性能全てによって成される攻撃。
雪ノ下を助けることも忘れて只々その姿を見つめる俺。
(綺麗だ)
状況が状況ではあるが、不意にそんなことを考えてしまった。
雪ノ下がミノタウロスの胸に3連の突きを叩き込み、ミノタウロスが砕け散る。
「………何かしら比企谷くん。」
「……あ、いや、別に。何でも。」
こちらを見やった雪ノ下と目が合う。好きだとは気づかないが。目と目が合う〜。
「由比ヶ浜さん、大丈夫?」
俺の返答を聞く前に雪ノ下が由比ヶ浜に駆け寄る。
「ゆきのーん!!!」
「きゃっ!ちょ、ちょっと由比ヶ浜さん!?」
安心したのか由比ヶ浜が目に涙を浮かべながら雪ノ下に飛びつき押し倒す。ちょっとお二人さん?マリア様が見てるぞ。
そんな2人を尻目に3体目のミノタウロスが来た方向を見る。
ここから更に奥は少し開けた場所になっていたはずだ。
「ヴォォォォーーー」
「ぅぁぁぁぁぁ!」
耳をすますと、その奥からミノタウロスの物と思われる咆哮。そして………冒険者の声。
(………襲われてるのか?)
「比企谷くん」
「ひゃ、ひゃい!?」
「気持ち悪い声を出さないでくれるかしら。………それより、まだ奥にいるわよ。」
びっくりした。心臓に悪い。発言が心に刺さることも含めて。
いつのまにやら雪ノ下と由比ヶ浜がこちらに来ていた。相変わらず由比ヶ浜は雪ノ下にしがみついたままだが。
「あぁ、みたいだな。どうやら冒険者も襲われてるみたいだ。」
「………比企谷くん。」
雪ノ下が顎に手を当て何かを思考しならが俺に問いかける。何をしても絵になるやつだ。
「なんだ?」
「上司命令よ。確認してきてちょうだい。」
だろうな、そうくると思ったよ。
「【奉仕部】としての活動よ。」
「お前は?」
「………由比ヶ浜さんを見てるわ。」
「はぁ………わかったよ。」
「あら、やけに聞き分けがいいわね?働く気になったのかしら?」
「そりゃお互い様だろ。」
さっきあんなに戦おうとしてたくせに。
「それに、ここで見捨てても気分が悪いだけだろ。上司命令だしな。仕方がない。」
「そう。」
そうだ、仕方がない。上司命令だからな。
「………行ってくる。」
気恥ずかしさから熱くなった顔を背けて声のする方へと駆け出す。
それにしても、何でまたこんなところにミノタウロスが?
モンスターはその階層を上下することはあってもせいぜいが1〜2階層だ。10も下のミノタウロスが理由も無しにこんなところへ登ってくるなんてことは普通考えられない。
ミノタウロスはLv.4の俺たちにとっては雑魚に等しい。雪ノ下1人でも由比ヶ浜を守れるだろう。あいつの技量は凄まじい。
ダンジョン内の広場を駆け抜け、音の発生する方向へ。
「うわぁぁぁぁぁあっ!!!」
冒険者の声だ。まだ幼さを感じる。ルーキーだろうか?
それと同時にミノタウロスの咆哮、壁を破壊する音が聞こえてくる。
「……こっちか。」
左へ折れると、まさに駆け出しという風体の白髪の少年がミノタウロスから逃げているのを目にする。
初心者用の胸当てとベージュのコートを靡かせて走る少年と、それを追うミノタウロス。
そして、その直後に走り抜ける、金の光。
(あれは、まさか【剣姫】か?)
青を基調とした軽装を身につけ、その美しい髪をはためかせ走るロキ・ファミリアの一角。
金の光の向かった先へ走る。
「ひぃぃぃぃい!!」
右へ折れると、そこは行き止まり。
「ヴモォォォォォオッ!!」
最奥の壁に背をつけ座り込んだ少年に迫るミノタウロスが見える。
不味い、とは思わなかった。
ミノタウロスは背後に迫る彼女に気づいていない。
ミノタウロスがその振り上げた拳を少年に叩き込もうとした刹那、その背後からその脚めがけて剣を振るう【剣姫】、アイズ・ヴァレンシュタイン。
脚をやられ膝を落としたにも関わらず向かってきたミノタウロスの攻撃を避け、その身体を真っ二つにする【剣姫】。
(これで一安心か。完全に徒労だったな。)
なんだか無駄に熱くなってしまった気分だ。
「うあぁぁぁぁぁああああああ!!!」
元来た道を引き返そうとして振り返る。何だ?また出たのか??
「うぉっと」
俺の横を悲鳴をあげながら通り抜ける真っ赤な少年。先ほどの剣姫の攻撃によってミノタウロスの返り血を浴びたのだろう。牛臭い。
「あ………。」
彼の来た行き止まりを見ると、そこにモンスターの影は無く、何故か惚けているアイズ・ヴァレンシュタインがいた。
(………ああ、そういうことか。)
あの白髪を赤く染めた少年、どうやら気恥ずかしさから逃げた様である。
(ま、頑張れ少年。)
砕け散ることで大人になるのだ。応援の仕方が完全に斜め下だった。
「そこに居るの………誰?」
少年に向けて叱咤激励していると、アイズ・ヴァレンシュタインが気づいたのか、通路の奥からその金の瞳でもってこちらを見ている。
え、ちょっとマジなの?見えないはずでしょ?気配的なやつ?何あの子サイヤ人?
とりあえず、面倒臭いことになる前に逃げよう。
そう早々に決断して元来た道を引き返す。
追ってくる気配はない。確か【剣姫】は現在Lv.5、俺より1つ格上だ。俺も敏捷には少し自信があるが、先ほど目にした彼女のスピードには恐らく負けるだろう。
(それにしても【剣姫】がここにいる、ということは。)
来るときに通った広場を通り抜け、雪ノ下たちの居場所へ向かう。
(帰ってきてるんだな、ロキ・ファミリアが。)
雪ノ下たちと別れた十字路へ到着すると、雪ノ下たちはその向こう、逆側の広場に行ったようだ。壁に真新しい矢印が刻まれている。
十字路を直進して雪ノ下たちの元へ。
広場が見えてくるにつれ、そこに人影が2人以上いるのに気がつく。
広場に立てられた旗に刻まれしは道化。
狡智の神・ロキの眷属であることを示す大派閥のマークだ。
「《泉に落ちた黄金の鞠》」
《フラグ・プリース》を再度唱えて変装し、その速度を緩める。
「ヒッキー!!!」
広場の中心にいた由比ヶ浜がこちらに気づいたのか、手を振り合図してくる。
ちょっと由比ヶ浜さん?その名前大声で呼ぶの止めてくれません?
「冒険者はどうなったのかしら?」
「ああ、問題ない。ミノタウロスは【剣姫】が倒した。」
雪ノ下の問いに答えつつ、2人の居る場所へ。
どうやらロキ・ファミリアの眷属と話をしていたようだ。
「君も彼女たちの仲間かい?この度は迷惑をかけて本当に申し訳なかった。」
俺と目が合うと、すぐにそう言って頭を下げる金髪の小人族。
「僕の名前はフィン・ディムナ。ロキ・ファミリアの団長を務めさせてもらっている。よろしく。」
「………ああ、よろしく。」
こいつがあのロキ・ファミリアの団長、【
細身の身体、幼い顔立ち。小人族特有の体型と容姿をした少年はLv.6にして大派閥を纏め上げる能力を持った第一級冒険者。マジで人は見た目に寄らねぇな。
「君たちが倒したミノタウロス、あれは実は僕たちの責任なんだ。こちらの不手際で17階から上へとミノタウロスを逃がしてしまった。討伐協力に感謝するよ。」
(成る程、そういうことか。)
ディムナの話を聞き、どうやら今回の騒動が俺たちの極秘任務に関係がある物ではないことを知る。
管轄外、ということになれば後は知らん。
「雪ノ下、どうなんだ?」
こちらのリーダーである雪ノ下に丸投げする。
「別に気にしないわ。由比ヶ浜さんも、それでいいかしら?」
「うん!3人とも無事だったしね!」
どうやら俺がくる前に話をしていたのか、若干食い気味に答える2人。
「ありがとう。」
ディムナが一言だけそう告げ、その後二言三言雪ノ下と会話してからチームを引き連れて去る。
戻ってきていたアイズ・ヴァレンシュタインと一瞬だけ目が合った気がしたが、恐らく気のせいだろう。美少女と目が合うだなんてことは大体がこちらの勘違いだ。自意識過剰。
去っていくロキ・ファミリアを見送り、取り残される俺たち。
「………今日はもう引き上げましょうか。連携という程ではないけれど、実力の確認は一応できたのだし。」
「時間も時間だしな。」
あれからそれなりに時間が経っている気がする。地上は夕方手前くらいだろうか、今から中層へ行って帰ってくるには時間が足りないだろう。
「由比ヶ浜さん、《月の石》はまた明日、ということで大丈夫かしら?」
「うん!まだ日にちには余裕あるし、全然大丈夫だよゆきのん!」
3人で隊列を組み、地上を目指してひたすら歩く。
(今回の件、一応平塚先生に報告しといた方がいいだろうか。)
帰りも殿を務める俺は、列の後ろで今回の件について考えていた。
17階層からミノタウロスが逃げた。確認しているだけで4体、恐らく逃げた数はもっと多いだろう。
ただ、何故ミノタウロス達は逃げたのか。
そして、何故ロキ・ファミリアが逃げられなければならなかったのか。
早速始まった
やはりダンジョンは、最悪の場だ。
願わくば、厄介なことになりませんように。
ダンジョン回&ベルくん登場回でしたね。とりあえずダンジョンから出た八幡たちは今後どうなるのでしょうか。予定は未定です。
まだまだ八幡やゆきのんの手の内は明らかになっておりませんが、もっとかっこよく八幡を活躍させてあげたいと思っております。
ベルくんの躍進がここから始まります。今後ベルくんたち、ロキ・ファミリアの面々と八幡たちがどう絡むのか、絡まないのか。次回更新が何時になるかは定かではありませんが、ゆっくりゆっくりやっていく方針でございます。読んでいただき、ありがとうございました。