呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝)   作:navaho

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筆が載ってきたので早めに投稿しました。




第弐拾玖話「 監 獄 (肆)」

 

 見滝原中学校で志筑仁美の煽りにより暴徒と化した見滝原中学校の生徒、一部の教員達はこの騒ぎの元凶とされた佐倉杏子、巴マミの両名に向かっていった。

 

気が高ぶり、目の前の二人に対し殺気を向けて得物を振り下ろす。

 

「おっと!!意外といい感じに振り下ろすな」

 

杏子は魔法少女の強靭な身体をもってしても集団によるリンチを受けいれる気はなく避け、カウンターとして飛び上がり鋭い蹴りを浴びせる。

 

普段の彼女の蹴りは、法師として鍛えられている為、一般人には致命傷を与えかねないが手心を加え、多少の痛みを与える程度に済ませていた。

 

一人を倒してもすぐに群がってくるため、息をつく暇がない。暴徒ではあるが、志筑仁美に煽られているだけでさらにはこの事態に巻き込まれているだけなのだ。

 

『杏子。一般人には手を上げるなとは言わないよ。YOUの身をしっかり守ることを優先するんだ』

 

「おう、ナダサ。魔戒法師としてこういう状況はどうなんだよ?」

 

『君の伯父は多少手荒な手段はだったけど、SPEEDYに済ませていたよ』

 

杏子の脳裏に伯父が得意とする瞬間移動の術を思い浮かべる。他の術を使えば暴徒達を傷つけることなく抑えられることも・・・

 

アレなら一瞬でこの場を切り抜けられるだろう。

 

伯父に稽古をつけてもらっているが、彼の得意とする風、水、雷の術に未だに基礎すら習得できていない。

 

術の習得については、それなりに長い修行の期間が必要である為、まだ一か月にも満たない自分が得られるものではないのは分かっていた。

 

だが、今その術が使えればと杏子は強く願った。

 

『杏子、無いモノを強請っても仕方がないさ。少しだけMEをTRUSTしてくれないかい?』

 

「あぁん・・・ナダサ、お前ならなんとかできるってかい?」

 

『杏子へのANSWERはYESさ♪魔導輪は元々ホラーさ。人間に後れを取るつもりはないよ』

 

この状況に対しナダサも僅かではあるが怒りを持っていた。英語と日本語が混ざった変な言葉遣いのお調子者の魔導輪ではあるが、杏子を様々な能力で助けており、少し前の爆発からも身を守ってくれた。

 

『EveryOneには、少しRestしてもらうよ』

 

ナダサは杏子に自身を頭上に掲げるように指示を出し、頭上に掲げられたナダサは目を輝かせたと同時に咥内より一筋の光を発したと同時に暴徒達は一斉に崩れ落ちた。

 

「お、おい・・・」

 

『大丈夫さ。殺しちゃいないよ・・・MEは、無暗に命を奪うつもりはないからね』

 

ウインクで杏子にナダサは応えた。

 

手前に倒れている人に触れると静かに寝息を立てていた。

 

「ナダサ・・・あんたこんな力を持っていたのか?」

 

『ナダサを名乗っているけど、かつては眠りのホラー バクーと呼ばれていたからね。相手の意識を眠らせることとその夢を覗くことが出来たんだよ』

 

「ホラーとしての能力は健在かよ、でも助かった。ありがとうよ」

 

『どういたしましてさ・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

マミは既に暴徒を鎮圧させており、そのほとんどがリボンで拘束されていた。

 

彼女自身が驚くほど冷静に・・・単純な作業をこなすかのように・・・

 

やろうと思えば意外と簡単にできるものだと感心すらしていた。

 

少し前の理想に妄信していた自分ならば取り乱し、不覚を取っていたかもしれない。

 

「おい・・・巴・・・お前は、そんな力を持っていて・・・俺たちを今まで馬鹿にしていたのか?」

 

見知った顔が自分を睨み上げていた。クラスでよく見かける同級生の男子だった。

 

「・・・別に何も思っていないわ。普通にこの学校で過ごしていただけ」

 

「じゃあ、なんでだよ!!!お前がへまをしたからこんなことになったんだろ!!!くそっ!!俺たちの平穏を滅茶苦茶にしやがって!!!糞女!!!」

 

「そうね。私が彼女に魔法なんて教えてしまったから・・・こんなことになってしまったのね」

 

彼の言うように志筑仁美を”狂気”に導いてしまった”遠因”は自分かもしれない・・・

 

美樹さやかは、魔法少女を知り、契約し願いを、奇跡を起こした。

 

その奇跡の恩恵を受けた少年は、理不尽な運命により絶望に突き落とされ更なる闇へと・・・身を沈めてしまった。

 

志筑仁美を凶行へと進ませたのは・・・美樹さやかに不幸を運んでしまったのは、もしかしたら自分ではないかとさえ思えてしまう。

 

美樹さやかの件を佐倉杏子より聞いた時、自分自身の軽はずみな勧誘が”原因”ではないかと・・・

 

「なんだよ!!お前がなにかやったのかよ!!なんなんだよ!!!むぐぅ!?!・・・」

 

口元をリボンで押さえられた。

 

「それだけの元気があるのなら、もう少し頑張りなさい。私なんかを罵る暇があるなら生き残ることを考えなさい」

 

何を言っているのかと自身に自重しながら背を向けた。背から感じられるのは自身に対する敵意の視線。

 

ここで志筑仁美の件を伝えても今度は彼女を標的にして暴徒と化す。彼女と同じ轍を踏みたくなかった。

 

彼らが首謀者である志筑仁美に対し立ち上がったとしても犠牲が増えるだけである。

 

(・・・・・・思えば、暁美さんの言うように魔法少女を増やすことは地獄へ道連れにすることだった。ほんの些細なことがこんな大事になってしまうなんて・・・)

 

美樹さやかと志筑仁美の二人をこのような”運命”に導いてしまったのは・・・

 

(私もキュウベえと対して変わらないじゃない。むしろ同類ね)

 

二人の日常に異物を持ち込んだのは巴マミという 浅はかな魔法少女だった。

 

(でも私は、これだけのことを起こした原因であるにも関わらずゆまちゃんと一緒に居たいと願っている。そうね。魔法少女が自身の望みの為にあるのならば、私は私の望みのままに生きるわ。その後で地獄に堕ちて、それまでのことを清算してやるわ)

 

今回の事態は、美樹さやか自身も自責の念から率先して動くであろう。だが、これは自分の手で決着を付けなければならない。

 

(待っていなさい。志筑仁美。私が貴女に持ったらしてしまった”陰我”をこの手で粉砕してあげるわ)

 

無言のまま先に進むマミに何かを感じたのか杏子は、鎮圧した暴徒らから離れて暫くたってから

 

「マミ。この事態がもしかしたら自分が原因だって考えているのか?」

 

彼女に問いかけた。この事態には杏子も思うところがあるようだった。

 

「・・・えぇ、佐倉さん。志筑仁美のこの行動は、魔法少女という存在と契約することによって得られる奇跡を知ってしまったからでしょう」

 

”素質”がないという理由で彼女に対し冷たい態度を取ってしまったことに間違いはなかった。

 

命のやり取りという現実をその身をもって味わってしまってからでは手遅れになるからだ・・・

 

「・・・・・・マミがさやかとまどかを勧誘しようとしたからは間違いないかもしれない。アタシも魔法少女の力を晒しちまった。本来なら忘れるように言うべきだったんだよ。それこそ、関わるなって強くいうべきだった」

 

マミが勧誘しなくとも魔法少女の存在を何処かで知るか、

 

「私達が関わらなくともキュウベえが契約を持ちかけてきたでしょうね」

 

何かしらの絶望を感じ、それを打開する方法として契約を持ち掛けるだろう。

 

マミ自身が死を間近にして縋り、契約してしまったのだから・・・

 

少なくとも素質の無いモノに知られるという失態をキュウベえは犯さないであろう。自分達のように・・・

 

言うまでもなく自分達がこの学園における惨状の原因は、志筑仁美の言うようにある意味正しかった。

 

「ったく、今回の件は考えれば考えるほど気が滅入る」

 

杏子は気怠そうにため息をついた。

 

「そうね。でも今は余計なことを考えている暇はないわ。志筑仁美の件はこの惨状を何とかした後に考えましょう」

 

マミも罪悪感を感じなかったわけではない。

 

二人の親友をこのように対立させ、後戻りのできない凶行に走らせてしまったことと二人の日常を壊してしまったことを思うと・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~~~二人とも嫌な思いをしながら戦っているんだねぇ~~~~」

 

廊下の奥より間延びした少女の声が聞こえてきた。その声に二人は警戒の色を浮かべる。

 

「ホラーか?」

 

「いえ、この反応は私達が良く知る・・・魔法少女よ、佐倉さん」

 

現れたのはマゼンタの長い髪をした暗い目をした笑顔の魔法少女 鼎 などかだった。

 

「えへへへへ。二人とも嫌なことがあるんなら、などかに言ってよ。などかが気持ちよくしてあげるから」

 

無邪気に見える顔立ちの少女であるが、目は暗く光はなく、とてもではないが正気とは思えなかった。

 

「なんだお前・・・ここで何をしていやがる」

 

槍の切っ先を向け杏子はなどかに問う。返答次第では・・・

 

「えぇ~~。それを聞くの~~?う~~ん、分かっているとは思っていたけど、分かっていないんだね

~」

 

不快感を感じさせる笑みを浮かべ、勝ち誇るように笑う様子に杏子は槍を持つ手に力を籠める。

 

「てめぇ・・・って、マミ?」

 

気が立っている杏子を制するようにマミが前に進み出た。

 

「ほとんど正解かもしれないけど、貴女は志筑仁美に依頼をされたかのかしら?”忘れ屋”さん」

 

「えぇ~~。などかのことを知ってるの!?!」

 

マミはやはりかと思い、視線を鋭くさせ、などかは自身の素性を言い当てられたことに驚いていた。

 

「マミ、”忘れ屋”って、どういうことだ」

 

「少し前に・・・と言っても二か月前にクラスメイトが一人自我が崩壊して、人として壊れてしまったことがあったわ。彼女からは魔法の気配がしたから、もしかしたら記憶に干渉する魔法少女の仕業かと思って調べてみたら、彼女は”忘れ屋”というサイトでそれを依頼したのよ」

 

信じたくはなかったが、別のクラスの人間にいじめられて、辛い思いをしたくないと言ってそのことを忘れようとした為に魔法により自我が壊されてしまった。

 

これ幸いと学校側はイジメの事実を隠蔽したのだ。この行いにマミも学園側に嫌悪感を抱いた。

 

イジメの主犯は厳重注意とされ何事もなかったかのように学園生活を過ごしていたが・・・

 

「そういえば、少し前に見滝原に出張したことがあったよ~な。どうだったけ?」

 

なんとなく覚えているという態度を取る鼎 などかの背後より彼女が自我を壊した生徒らが続いてきた。

 

「・・・あなた達も忘れ屋に忘れさせられたのね・・・因果応報とはよく言ったものだわ」

 

鼎 などかの背後に現れたのは”忘れ屋”に縋るまでに傷つけたイジメの主犯たちだった・・・

 

「「「「あ・・・あっぁ・・・あああああ・・・・・・」」」

 

人一人を楽しみの為に傷つけ、のうのうと過ごしていたことに腹を立てなかったわけではないが、一般人であることと主犯たちが悔い改めてくれる時が来ると希望すら抱いていたが・・・

 

「なんだよ・・・この学園は色々とヤバイじゃねえか。上条の件もだけど、マミの住んでるマンションが火事になった時も話題にすらしなかったらしいからな」

 

さやかも上条恭介を見滝原中学校のブランドを上げる道具のように扱う姿勢に怒りを覚えていた。

 

志筑仁美は自身の目的と一緒に怒りを覚えるこの学園への復讐を同時に行っている。

 

「それは初耳だわ。佐倉さん。こんなことになったから、ちょうどいい機会ね。ゆまちゃん達と一緒にこの街から出ていくのもいいかもしれないわね」

 

「・・・ここまで大事になったらアタシももう普通に通えないしな。どこか適当なところに転校かな」

 

見滝原より遠い土地で新しく暮らすのも悪くないかもしれない。

 

「そうね。”神浜”なんていいかもしれないわ。あそこのラーメン食べてみたかったのよ」

 

「アスナロ市はやめておこうぜ。あそこは、ほむらが言うには色々とヤバイ土地っだって言ってたぜ」

 

「むぅ~~~~~。楽しいことを考えないでよ・・・などかがせっかく嫌なことを忘れさえようと思ったのに・・・」

 

薄ら笑いを浮かべていた鼎 などかが目に見えて不機嫌な表情へと変わる。

 

「意外と沸点が低いんだな。”忘れ屋”さんよ」

 

「嫌なことから逃げて自分を誤魔化してきた子よ。逃げても自分のやってきた行いからは逃れられないわ」

 

鼎 などかの様子に杏子とマミはあえて余裕を感じさせるように振舞った。

 

「知ったような口をたたくな!!!などかのことを何も知らないくせに!!!」

 

そのことが気に入らないのか、鼎 などかはブレードが付いたトンファーを展開させた。

 

自ら消してしまった”自分自身の過去”が目の前にあらわることへの可能性を指摘されたことが、この上なく腹立たしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

志筑仁美の言葉に呼応するかのように多くの生徒らのほとんどが暴徒と化していたが、一つの教室では・・・

 

授業用の液晶ディスプレイに表示された佐倉杏子と巴マミの画像と学園中に宣言された志筑仁美の言葉に対し・・・

 

「あの二人が原因なの?じゃあ・・・」

 

一人が声を上げようとした時だった。

 

「みんな!!待ってよ。杏子ちゃんとマミさんはこんなことをしないよ!!!」

 

「なんだよ、鹿目・・・お前、二人のことを知っていたのか?」

 

男子生徒が二人を庇う鹿目 まどかに対し胸ぐらを掴み問い詰める。

 

「知ってたよ。二人が魔女と戦っているのを見たこともあるよ」

 

「じゃあ、二人じゃないなら誰なんだよ!!こんなことをしたのは!!!」

 

「待ちなよ!!!鹿目っちは、二人がこの件の犯人じゃないって言ってくれたんだ」

 

「鹿目さんの言う通りなら、二人に向かっていくことは襲撃者の思うつぼだってことじゃん」

 

二人の女子生徒がまどかを庇い、少し大柄の男子生徒が掴みかかっていた生徒を引き離す。

 

「というか、なんで志筑さんはこんなことを言ったの?って、これやらかしたのって」

 

情報を歪め、都合のいいように生徒らを二人に嗾けようとしている様は・・・

 

まどかの脳裏に少し前にさやかのあの言葉が響いた・・・

 

”仁美の事はアタシが何とかする。だけど、もしもアタシだけが帰ってきたら、まどかはアタシを絶対に許さないかもね”

 

”例え誰にも理解されなくても・・・恨まれても・・・こんな思いをするのはアタシだけで終わらせる。他の誰にもこんな思いはさせない”

 

「じゃあ・・・さやかちゃんは・・・仁美ちゃんとずっと・・・」

 

まどかは、膝をつくように倒れこんでしまった。理解が追い付かなかった。

 

こんなことは、今までになかったのだ・・・何故、友達がこんなことを・・・

 

「鹿目っち、志筑さんは多分脅されているだけだって。犯人は、校庭に現れたっていう変なピエロだよ、絶対に」

 

呆然とするまどかを励ますようにお調子者のクラスの女生徒が元気づける。だが・・・

 

「二ドルには協力してもらっていますわ。いい加減に現実を受け入れてはどうですか?皆さん」

 

いつの間にか教室の扉が開いており、そこには眼帯をした志筑仁美が立っていた・・・

 

「仁美ちゃんなの?」

 

思わずまどかが問いかけるほど彼女は変わっていた。

 

どことなく青白い肌と暗く淀んだ絶望に染まった単眼の少女は、かつての志筑仁美ではなかった・・・・・

 

「ほかにだれが居るというのですか?現実を受け入れてください」

 

禍々しく微笑むとともに彼女は拳銃を取り出し、まどかを元気づけていた女生徒目がけて引き金を引いた。

 

銃声とともに彼女の眼前で血が弾けると同時に鈍い音を立てて女生徒が倒れる・・・

 

その様子にまどかは驚愕に目を見開いた・・・・・・

 

あまりにも現実感のない光景であり一瞬、何が起こったのか分からなかった・・・

 

目の前で起こったことを理解した時、鹿目まどかは悲鳴を上げた・・・・・・

 

「人一人死んだくらいで叫ばないでください。鹿目 まどか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

杏子とマミさん、今回の件はある意味自分達が発端ではないかと考えています。

魔法少女のことを志筑仁美が知るきっかけを作り、さらには美樹さやかとの間に修復不可能までの対立、彼女らの日常に異物を持ち込んでしまったことに対し・・・

今回の見滝原襲撃もその果てに起こってしまった惨劇です。

さやかは、二人については恨みはなく、むしろ上条君のことを信じられずに、奇跡を押し付けてしまった自分自身の罪に対する罰だと考えています。

仁美は、素質のある魔法少女らを逆恨みし、自分ならもっとうまくやれるという根拠のない自信故の行動です。

鼎 などかの”忘れ屋”は意外と魔法少女の間では知られています。

他の魔法少女の縄張りに現れては、性質の悪い魔法を使っていることも。

まどかと仁美が対面。あまりにも変わり果てた彼女は・・・・・・




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