呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝) 作:navaho
とうとうこの拙作も通算90話になりました。
あと10話で100話になります。
90話ということもあり、最近ご無沙汰だった主人公が久しぶりに登場(笑)
バラゴは自身の表の顔である”龍崎 駈音”の姿で見滝原市のとある場所に来ていた。
そこは志筑仁美らの一族が運営する巨大製薬会社のオフィスであった。
「先日から志筑仁美さんが行方が分からなくなっていると私の知人が訴えておりまして、何かご存知でしたらお話を聞きたいのですが」
バラゴのいう知人とは、彼女のことを知っている暁美ほむらである。
彼女が志筑仁美のことを気にしているので嘘は言っていない。
彼の目的は・・・・・・
「いえ、そのようなことはわたくし共ではお答えしかねます」
アポイントを取って正式に面会しているのだが、彼らの答えは歯切れが悪い。
表情は明らかに都合の悪いことを聞きに来たと言わんばかりの苦虫を潰したかのようなものだったからだ。
昨夜の事件・・・志筑仁美の両親が何者かに殺害され、その娘である彼女は行方を晦ませていることは既に警察組織も把握し捜査が行われている。
だが、その事件は見滝原市では報道されておらず、規制がかかっていた。
言うまでもなく志筑家の者達が隠蔽工作をしたためであった。
警察上層部に働きかけ事件を極秘の内に解決を図ろうという魂胆であろう。
「・・・彼女の自宅で殺人事件があったことを報道しないのは何故ですか?こんな恐ろしい事件に年端もいかない女の子が巻き込まれているかもしれないのに」
事件を隠蔽している理由は、犯人がすでに分かっているからであろうとバラゴは察していた。
バラゴが察した通り、志筑仁美による犯行である決定的な証拠も幾つか見つかっていたのだから・・・
彼女が自身の両親を殺めたという事件と真相が明るみに出れば志筑の一族の地位は一気に没落する。
そのことを恐れているのだ。極秘の内に事件を解決し、有耶無耶にしてしまおうと考えている。
「そのことについてはお答えしかねます。これは私たち一族にとって一大事なのです。無関係であるあなたには分からないでしょうね」
尊大な態度を取りつつ、自身にプレシャーを与えようとしているがバラゴには何の感慨も抱かなかった。
自分を見下し自身の権力の強大さを見せつけようとしている目の前の志筑の一族に対し、バラゴはこの一族の底が知れていることと志筑仁美が”陰我”の道に走った土台は既に存在していたと考えるのだった。
「あなた達のお上の都合など分かりたくもありませんよ。一人の女の子が行方不明になっているのに心配もせず、いかに目立たずに処分しようと考えている身なりこそは綺麗だが、内面は浅ましいことこの上ないあなた達の事情なんてね」
「きさまっ!?!無礼が過ぎるぞ!!口を慎みたまえ!!!」
バラゴの嘲りに冷や汗をかきつつも自身の権力をもってすればと声を上げるが・・・
「さすがに私も言いすぎましたことは謝罪しましょう。ですが、あなた達が事件を隠蔽していることについては私も黙って見過ごすことはできません」
「なんだと?お前は分かっているのか・・・警察も私たちの意を酌んでいるんだ。お前が何をしようとも無駄なことだ」
男に対しバラゴは、これ以上何を言っても無駄であると察し、また無駄足であったことに軽く舌打ちをするのだった・・・
「私としてはあなた達のしていることのほうが無駄だと思いますよ。嘘は根付かない・・・いずれにせよ真実は白日の下に晒される。それも近いうちに・・・・・・」
男を笑いながらバラゴはこの部屋を後にするのだった。
壁に最近できたばかりの大型客船と見滝原湖が映った写真が飾られているのを一瞥する・・・・・・
「くそ・・・面倒なことを・・・」
「余計なことを話される前に何とかしなければ・・・」
「そうだな・・・私達の手のものに極秘の内に対応させよう。大丈夫だ・・・この見滝原に居る限りはどうにでもできる」
早速スマートフォンに電話をかけ、志筑家とつながる黒い団体に連絡を取るのだった・・・・・・
『ふん・・・人の世は来るたびに様変わりするから飽きないが、権力に魅入られた人間というものは何時の時代も変わらぬものだな』
バラゴの右腕に収まる魔導輪 ギュテクは先ほどの志筑家の者達に対し嘲笑う。
「ああ・・・何かしらの手がかりがあるかと来てみたが、なにもなかった」
無駄足であったとバラゴは吐き捨てた。
身なりこそは上等であるが、その心情はあまりにも醜悪であり人を人と思わぬというよりも食い物にすることを当然とする獣そのものであった。
バラゴが志筑一族の企業を訪ねたのは、志筑仁美の痕跡を探る為であった。
エルダによる”占い”でも使徒ホラー 二ドルの強大な邪気によりその先を見通すことが出来なかった。
アスナロ市でもバグギが自身の寝床にバラゴを誘い出したことでその所在が割れるまで、後手の対応になってしまった。
そのことを反省したのか、二ドルと一緒にいる志筑仁美の周りを探ることで潜伏先を見つけ出そうと動いていたのだった・・・
『変わらぬものもあれば変わるものもあるものだな。バラゴよ』
「何が言いたい?ギュテク」
『クククク・・・お前の変わりようだ。短い付き合いではあるが、我とかつて戦っていた頃は我を喰らいその力を得ようと貪欲なまでの獣心を抱いておったのにな・・・』
「・・・・・・僕は変わったつもりはないが」
『噂に聞く暗黒騎士 呀は、噂のようなおぞましい存在から離れつつあると言っておこう。お前にとっては不服かもしれんが、事実なのだから言わせてもらおうか』
心底愉快そうにバラゴをいじるギュテクに彼の瞳にわずかな怒気の色が浮かぶが、それはかつての彼が抱いていた禍々しい殺気を含んだものではなかった・・・
『少しからかいすぎたか・・・我も少し調子に乗りすぎた。だが、奴・・・二ドルの潜伏先については把握できた』
「ただ黙っていただけではなかったのか?」
『我をその辺の三流魔導輪と一緒にするなよ・・・少しだけ奴らの端末を借りた。あの距離だ・・・直接触れずとも操ることはできる』
かつての”雷”を操る使徒ホラーの能力は健在であり、これを応用し先ほどの男のスマートフォンからネットワークに侵入し、そこからリモートコントロールを行い志筑家に関連する施設近辺の防犯用監視カメラをあたったのだった。
秋にオーブンする水上ホテル NAMIKAMIで昨日誰かが動かした形跡があり、その近くで志筑仁美の姿をギュテクは確認したのだ。
『壁に豪華客船と湖の写真が飾られていた。おそらくはそこを拠点としているのだろうな』
バラゴは素直に魔導輪 ギュテクの能力の高さに感心する。
魔導輪は魔戒騎士への助言と戦闘における補助を行うのだが、このように情報収集を行い、的確に相手を探るなど自身が知る黄金騎士 牙狼の持つ魔導輪ザルバでもできない芸当だからだった。
「さすがだな・・・そこに奴は・・・二ドルは居るのか?」
『さぁな。おそらく今は拠点を後にしているだろう。今朝捉えた画像を確認する限りあの小娘の左目には間違いなく二ドルが巣くっている。今は、何処かに足を向けているのだろう』
「今、そこに行っても二ドルは狩れないか・・・」
『そうでもないな。あの小娘が二ドルの力の恩恵を得ているのならば、やることは決まっているだろう』
快楽の為ならばあらゆることを行う使徒ホラー 二ドルと自身の願いの為多くの人々を犠牲にし、奇跡を起こそうとする少女の行先は・・・・・・
「・・・・・・まさかこんな時間に襲撃をかけるつもりか?」
『奴の結界ならば可能だろう。外側は何の変哲もない光景だが内側は想像を絶する惨劇になっているだろうな』
志筑仁美のあまりのやり方にバラゴも烏滸がましいかもしれないが嫌悪に近い感情を抱いた。
自身がまともであるとは言わないが、本人を目の前にしたらそこまでするのかと声を上げていたかもしれない・・・
(思えば・・・あの時美樹さやかを止めていれば・・・・・・)
自身に関係のない事として切り捨て、見捨てた美樹さやかの魔法少女としての契約さえさせなければこのようなことは起こらず、ほむらを見滝原で使徒ホラー二ドルという驚異に晒させることはなかったかもしれない。
今回の二ドルの件は、アスナロ市のように”伝説の雷獣”と語られていた”使徒ホラー バグギ”所縁の呪われた土地ではなく、美樹さやかの祈りから始まった不幸に不幸が重なった結果であった。
志筑仁美が凶行を起こさなければ二ドルも現れなかったかもしれない。
そんな可能性を考えていた・・・
これは母の面影たる彼女に執着し、その周りを疎かにしたつけなのかもしれない。
ほむらのことを気に掛ける自身が抱く甘さに怒りとも苛立ちにも似た感情を抱く。
だがその一方で、ほむらのことを考えると自然と心が穏やかになっていく・・・
”どうしてあなたは力を求めるの?こんなにも強いのに・・・”
”なんとなくわかるのよ。貴方は過去に大事な人を守り切れなかったんじゃないかって・・・そうじゃないとそこまでにして”力”を求めないものね”
”大切な人を失ったことへの心の痛みに抗って・・・それでいて自分の弱さが憎くてたまらないんだよね”
”ほんとに自分の弱さが嫌になるわね”
(そうだ・・・僕と君はよく似ているんだ。自分の弱さが憎くて、それでいて誰かを不安にさせることが)
故に力を求めた・・・誰もが成しえなかった誰もたどり着けなかった頂に達するために・・・
(母さんに似て居ながら君は僕とよく似ている。だけど、君はそんな僕に・・・強いと言ってくれた)
”あなたは本当に強かったのね。バラゴ”
誰も”強い”という言葉をかけてくれなかった。母も・・・そして複雑な感情を抱く冴島 大河も・・・
自分を見捨てないと気遣ってくれたことに感謝すらしていたが、自身の弱さを認められず反発し闇の道へと進んでしまった・・・
今の自分を見て大河もほむらと同じ言葉をかけてくれるだろうか?
らしくもない自身の心情に穏やかでありながら呆れにも似た複雑な感情を抱くと同時にバラゴは、ほむらとエルダが向かった見滝原中学校へと足を向ける。
志筑仁美と二ドルもそこに現れると考えてのことだった・・・
久方ぶりに思い出したかつての師 冴島大河のことで気になることがあった。
ここ最近奇妙なことが起こっていた・・・
それは、冴島大河の墓が何者かに暴かれたというものだった・・・
そのことを聞いたバラゴは当初気にも留めていなかったが、ここ最近は妙に胸騒ぎを覚えていた。
なぜなら、それと前後してポートシティで噂の外道魔戒法師 香蘭の目撃情報があったからだった・・・
アスナロ市 とある場所
志筑仁美達が見滝原中学校を襲撃している頃、アスナロ市のとある場所では香蘭が自身の魔導具を通じて見滝原での様子を見ていた。
「志筑ちゃんも頑張るね~~。香蘭ちゃん達が特に入れ知恵をしたわけでもないのにここまで頑張るなんてね」
彼女としては珍しく一般人に近い感想を志筑仁美に抱いていた、
魔法少女になる殆どのものが”心優しい”、”儚い”存在であると誰かが評していたが香蘭はそうは思わなかった。
”希望”=”欲望”である結論を抱いており、その為ならばあらゆる手段を用いて達成しようとする事が人間として当然の行いであることを・・・
「そこは香蘭ちゃんも変わらないかな。香蘭ちゃんが編み出した”この術”を教えても良かったけど、志筑ちゃんの望みには添えなかったかもしれないね~~」
彼女の編み出した術・・・それは、”記憶”の再生である・・・
”記憶”の再生とは、その人物の持っている”技能”、”技術””知識”なども含まれている。
香蘭の編み出した術は、個人であってもその人物の所縁の品、遺体の一部さえあれば”記憶”を再生させることが可能である。
再生させた人物は、知識、経験、生前の記憶を持ってはいるが、”感情”が抜けているという結果を見せた。
見た目だけならば完全に蘇っているのだが・・・・・・
これについては、香蘭もある一つの結論を出した。
いかなる方法を持っても”死者”を蘇らせることは不可能であるということだった・・・
だが、”交霊”という現象や死者の言葉を語る技能を持つ者・・・
また魔戒法師の術、サバックの優勝者が入ることが許される”死者の間”なる存在・・・
それらを組み合わせた時、”死者”の復活はかなうだろうか?
死後の世界が存在していることは、牙狼の一族における”英霊”達の存在が証明している。
生きている者たちの世界である”現世”と死後の世界では、法則が存在しており、両方の世界が混ざり合ったら因果律が乱れ世界が崩壊する。
特殊な条件が重なれば、不確かな”奇跡”としか言いようのない現象により、死後の世界の住人が現世の者たちに影響を及ぼすことも・・・・・・
牙狼の”英霊”はその最もな例の一つである・・・
”牙狼”の一族を調べていた際に名高い黄金騎士の墓を見つけ、その遺体の一部を回収できたのは香蘭にとっては幸運であった。
その遺体の一部を核として”記憶再生の術”を駆使することで魔号機人 凱を作り上げた。
彼女は”死者の復活”については、特に興味もないが自身の求める”モノ”の過程でやらなければならなかった為に”記憶再生の術”を編み出した。
上条恭介の記憶を再生させることで彼に似た人物を作り出すことは可能である。
これを提案すれば志筑仁美を喜ばせることもできたが、彼女の”上条恭介の復活”は既に建前でしかないのではと、香蘭は邪推していた。
魔法少女の存在を知ったのならば、彼女は”魔法少女となり奇跡を叶える”事に執着していると・・・
上条恭介の復活は、単なる理由付けでしかない・・・
「何が起こるかまでは分からないけど。香蘭ちゃんも時期を見計らって見滝原に行ってみるのもいいかもしれないね。君たちも偶には体を動かしたいよね」
背後を振り返るといくつもの棺が置かれており、そのうちの二つの扉が内側から開くのだった・・・・・・
あとがき
バラゴさんの心境に変化があります。当初は割と怖い方だったんですが、ほんの少しではありますが穏やかになっています。
アスナロ市での戦いでは、ほむらの心境に変化があったようにバラゴもまた変わっています。
バラゴについていますギュテク本体が書いていてすごく働いてくれます(汗)
電子機器を通じて色々とできます。現代社会での情報収集能力はかなり有効です。
前回の最後で魔号機人 凱は冴島大河の情報を元に作られ、如何にして作り上げたのかを今回最後のほうで出してみました。
活動報告にも書いていましたが、魔号機人のカスタム機達を募集します。