呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝) 作:navaho
アスナロ市のとあるオフィスビルの最上階フロア全体に異様な光景が広がっていた。
かつては上層部のオフィスやプライベートルーム会議室があったのだが、下の階と違い昼間であるのに薄暗く、人の気配すら感じられなかった。
ホラー ガマールの巣があり、自身の同族が複数集まっている。
"陰我”のゲートから、まるで沼知から這い出るカエルのように次から次へと出現していく。
フロア全体に広がっているカエルの産卵場所のように広がるチューブ状の膜が広がっている。
ガマールの姿は擬人化したカエル・・・というよりも二足歩行のカエルであった。
”鳥獣戯画”に描かれるカエルを思わせるが、普通のカエルと違い、皮膚の至る所に吹き出物があり、目は大きく見開いており見ようによっては愛嬌のある面であるが、見る人によっては生理的嫌悪感を抱かせる姿をしている。
膨れあがった白い腹に奇妙なバランスで立っている姿は不気味以外の何物でもなかった・・・・・・
このビルの最上階の会長室では、ホラー ガマール達の長であるかつての常務が太陽の光を一身に浴び、日光浴を楽しんでいた。
ホラーの本領は夜であるが、人に憑依した為に”ホラー”としての能力こそは制限されていても、一般人のそれよりも強い力を振るうことが出来る上に”魔界”では、目に掛ることのない太陽の光を”ガマール2は楽しんでいた。
闇に潜むモノ、もしくは影の仕事に従事する者は明るい場所に姿を現すことを晒すことを嫌うのだが、ガマールにそれは当てはまらなかった・・・
ガマールは自分は”ホラー”として何一つ間違ったことをしていないのだと考えていたからだ。
何一つ間違ったことをしていないのに何故、光を恐れ、嫌わなければならないのだと逆に問いかけたいとさえ思っている。
今自身が憑依している”常務”もまた同じだった。
彼は自身の為に”様々な事”をしてきた。金を稼ぐため、より良い成績を上げる為、出世の為に・・・
多くの競争相手を蹴落としてこの地位にまで上り詰めることが出来た。
当然のことながら自身の手を汚してきた。故にそのことに対して弁明をする気もなかったのだが・・・
自身もそうだが、満たされると更に多くのモノを望むのが人間である。故に彼は、世間では”不正”とされることにさえ手を伸ばし、更なる”地位”を手に入れるに至った・・・
だが、それを”告発”という形で自身から”地位”を奪おうとする”存在”も現れた。
言い逃れのできない”証拠”を突き付けられたが、それもあの日自身が受け入れた”力”により解決した。
あの若造が何故、”内部告発”をしたかについては、”正義感”からとうものではないと今では理解している。
彼自身長年、様々な修羅場や経験を経ている為、対人関係でのその人のなりを察する”嗅覚”は非常に鋭かった。
告発者たちの目的は・・・・・・
BAR ”Heart- to- Heart ”
「俺は・・・会社の不正を・・・然るべきところに・・・」
なにかを隠すように言葉を選ぶ彼に明良 二樹は頬を歪める。
普段の人の好い笑顔ではなく、悪意に満ちており、まるで”悪魔”のようであった。
「内部告発なんて、やる意味が分からないよ。誰も得なんてしないし、やっても損するだけだよ」
内部告発というものは、上手く立ち回らないと告発者が破滅することもある上に、海外ならともかくこの国の倫理観や風俗を考えるとやらないで居たほうが良いというのが、明良 二樹の考えであった。
むしろ告発者の会社の事を考えると確かに”不正”ではあるものの特に一般の人には”被害”や”迷惑”は掛かっておらず、むしろ、告発者の方が会社の在り方もそうだが、関係のない人に迷惑をかけているのではと思うところがあった・・・
「だからかな~~。僕は問いかけるよ・・・君にとって内部告発は単なる建前で本当の目的は別にあったんじゃないのかな?相手は、人間じゃなくなってるから遠慮はいらないよ」
明良 二樹は、告発者の内に抱く本当の目的を察していた。ここは”陰我”を晴らす者達が訪れる場所なのだから・・・
「・・・・・・そうさ。俺は出世したかったんだ。だけど、まともに働いても上は馴れ合いばかりで全く評価なんてしてくれなかった・・・だから、あの”不正”を見つけた時はチャンスだと思ったんだ」
告発者の本音は、長い事勤務しているたが、ここ最近の不景気もあり、解雇こそはされなかったものの必死に働いても、成果を上げてもそれを評価されることがなかった事に暗い感情を募らせていた。
いつしか”出世”して周りを見返してやると思い続けるようになっていた・・・
そして、その機会が巡ってきたことに彼はこの”機会”を最大限に利用することにしたのだった。
慎重に証拠を固めて、自身が不正を正す者として表舞台に上がり、そのまま誰もが認める地位に上り詰める為に・・・・・・
だが、それは一晩の内に砕かれてしまった。訳の分からない怪物と化した”常務”により、自身と同じく志を持つ者、または自身の目的の為に煽った者達を含めた全てを・・・覆されてしまった・・・
「ハハハハハ。良いよ、それでいいんだよ・・・ここでは、何も隠すことなんてないんだからね」
明良 二樹の肯定に告発者は、言われてみればここは真っ当な人間の来るところではないと今更ながら、思い当たるのだった。
今にして思えば、あの怪物に殺された仲間達の件も自身が出世した後の障害になることは間違いなかっただろう。
故に自身だけが生き残ったこの状況はある意味好都合とも言うべきだろう。
後はあの化け物と化した邪魔者の始末だけを行えれば、それで良いのだから・・・・・・
先ほどまでの真面目な好青年と言った告発者の表情は、どこか下卑たモノへと変化していた・・・
その表情を見て明良 二樹は改めて思うのだった。
(・・・・・・人間ってやっぱり嘘つきなんだよね・・・・・・)
こういう自分を真っ当な人間であると自身に嘘をついている人間の本性を暴くことに彼は、心地よさを感じていた・・・
そして、このような人間をどのように料理すべきかと思案するのであった・・・・・・
スタッフルームでは、聖 カンナはあの二人は何を話しているのだろうとアレコレ考えていた。
「カンナちゃん。あんまり此処に来る人の事を詮索しない方がいいっすよ。大抵、二樹さんに注目されるような人のほとんどがロクデナシしかいないんっすから」
気が付くとカンナの座る長机にジュースが置かれていた。ジュースを置いてくれたのは”半グレ”然とした青年であった。
名を”火車”と言うが、これは本名ではなく”偽名”であることをカンナは本人から聞いていた。
「火車もそう思うの?二樹って、悪人には違いないんだけど、分別はちゃんとしているのよね」
そうなのだ。明良 二樹は悪人であるが、手を出す人間を選別している。
それは・・・
「まぁ、世間のロクデナシの本性を暴いて、それでいて思いっきり玩具にするって奴っすよね。俺っちもそこそこロクデナシだから、いつかはそういう目に遭うかわからないっすしね」
火車は愉快そうに笑った。彼自身の出自は、彼から聞いた話によると・・・
とある地方に居たのだが、ある日、都会に出ていった先輩から”仕事”の話を持ち掛けられて、地元に居ても仕事も何もすることがなかったために、その話に乗ったことが”事の始まり”だったという・・・
その”仕事”というのは、世間を騒がしている”特殊詐欺”の類であり、火車は”受け子”をやらされていた。
一番リスクの高い仕事ではあったが、彼自身の持ち前のフットワークで何とか警察に捕まることはなかったが、ある日、先輩がヘマをやらかし、上納するはずだった”金”が上納できなくなり、火車を人身御供に差し出したのだった。
当然のことながら”火車”は、追われる身になり、とにかく逃げれるだけ逃げ出した。
「だからこそ、二樹さんに出会って・・・ここに居るわけっすよ」
愉快そうに笑う火車に、聖カンナはその人達を恨んでいないのかと言わんばかりに視線を向けるが・・・
「自分が何にも考えずに流された結果が今なんすよ。正直、あの時も自分の将来に希望もなければ、やりたいことも何もなかったしね・・・」
ハッキリ言えば、自分の身の丈など正直知れていて、誰かに認められたいとも何かを成し遂げたいとも考えたことなどなかった。
「だから・・・良い話に流されたんすよ。あの後、先輩は聞いた話だと、またヘマをやらかして、怖いお兄さん達を怒らせて、二度と人目に付かないようにされたって・・・」
半ば”ざまぁみろ”と思う自分は、ロクデナシであると火車は思うのだった・・・
「俺っちみたいなのは、人から後ろ指をさされて、悪く言われるんだろうけど、世の中はもっと酷くて表を真っ当な生き方をしている振りをするロクデナシが五万と居る訳っすよ」
あの告発者は、まさにロクデナシ以外の何物でもない。自分と同じなのだ・・・
故に明良 二樹は飽きることがないのだ・・・
玩具はそこら中にあるし、壊れたらまた何処からか調達すればよいだけなのだから・・・
「真っ当な人間ってのは、ちゃんとした家族が居て友達が居る奴の事だとおもっているんすよ。俺っちは」
「それだったら、火車も私からすれば、この一団の中では紅蜥蜴さんと同じように真面だと思うわ」
火車は、世間から見ればいわゆる犯罪者の類である。だが、そんな火車もこの”一団”の中では比較的真面に見える程、他のメンバーは我が強くそれでいて強烈であった・・・
「ここが運よく来れたというべきか、不幸かどうかは俺っちには何とも言えないっすよ」
自身が真っ当な人間であるとは思えない火車は、カンナに差し出したジュースに合うお菓子を棚から取り出すのだった・・・・・・
意気揚々とBARから出ていく”告発者”の背に呆れにも似た視線を向ける者が居た。
ドレッドヘアーが特徴的な筋骨隆々の逞しい男 紅蜥蜴だった。
「・・・・・・フン・・・あんな奴でもホラーから護らなければならないとは・・・”護りし者”の在り方等、考えても理解などできんし、したくもない」
紅蜥蜴は、自身もまたかつては”魔戒騎士”として生きようとしたが、世の中はホラーの陰我以上の薄汚れたモノばかりであり、護るに値しない存在だけが幅を利かせている有様だった。
ホラーが関わらない限り、陰我が現れ、犠牲が出てから初めて本腰を入れる魔戒騎士の在り方に疑問を抱いていた。
故にホラーの陰我が憑依される前の”人間”に手を掛けたことで番犬所に追われることになった。
自身の信じるやり方でホラーと対峙することを決めたのだった。
ホラーに憑依されそうな存在は、災いを振り向く前に斬ると・・・
その過程で明良 二樹と出会い、行動を共にするに至った・・・
彼こそ、陰我に憑依されるのではと考えたが、そのようなことはなく、むしろ陰我に屈することのない清々しいまでの”悪”の在り方に紅蜥蜴は、口にこそは出さないが、感嘆の念を抱いていた。
「悪を持って、何かをなせるのなら・・・それこそが俺の生き方なんだろうな・・・」
魔戒騎士もまたホラー狩りを生業とする”影の仕事人”であり、自分はその”影の仕事人”から落第した単なる”狂人”である。
悪を持って何かをなそうと考える・・・
”外道”極まりない香蘭の事をどうこう言える立場ではないと自嘲するのだった・・・
「紅蜥蜴、ホラーについて教えてもらえる?カンナちゃんに聞いたら嫌な顔されてさぁ~~」
明良 二樹が紅蜥蜴の背後より話かけた。
少し前にホラーの事を話していたことを察していたらしいが、聖カンナ自身が蛙を苦手としている為、進んで話をしたくないのだと察するのだった・・・
「・・・女の子の嫌いな生き物は、カエルと言うからな・・・」
彼女に嫌なことを言わせるわけにはいかないので、紅蜥蜴は明良 二樹にホラー ガマールについて話すのだった・・・・・・
「・・・なるほど・・・人手が居るね・・・・・・じゃあ、久々に皆を呼ぼうか♪」
明良 二樹は自身のスマートフォンに登録されたLINEのグループにコメントを投稿するのだった・・・
”カエルの姿をした害獣が大量に出たよ。人で求む”
既読が1、2とカウントされていった・・・
あとがき
明良 二樹の仲間である”紅蜥蜴”と”火車”についての軽い紹介になりました・・・
二人の軽い紹介になりましたが、本編で割と暗躍している香蘭については特に言うこともないので・・・
二人については割と事情持ちですが、自身の在り方については特に弁明するつもりも何もないのでどうこう言う気はないのです。
以前からやってみたかった、キャラ募集についてですが本格的にやりたいと思います。
詳細は活動報告にて・・・・・・