呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝)   作:navaho

7 / 95
第五話「相違」

 

とある場所にほむらは来ていた。

この場所は、見滝原の学校から離れ、街と工業地帯を結ぶ橋の真下である。

「ニャー……ニャー……」

近づくたびに寂しげな猫の声が聞こえてくる。この声の主をほむらは知っている。

「おいで、エイミー」

物陰から現れたのは、一匹の黒猫であった。黒猫の名はエイミー、別の”時間軸”で、”まどか”が助けた猫である。

 

 

 

 

 

 

 

 

ほむら

相変わらずこの子は警戒心がないわね。普通、猫は愛想が良くないはずなのに、この子はどの時間軸でも私やまどかに懐いてくれる。

時々であったけど、さやかと二人でこの子の様子を見に来たこともあった。

”なんで、ほむらばっかり!!!”

と騒がしく言っていたのは、ご愛嬌ね。この子を撫でているとそんな思い出が自然と浮かんでくるのは、私自身の甘さかもしれない。

腕の中で気持ち良さそうにしているこの子を見ていると、私もまどかにこんな風にべったりしていた頃を思い出す。

当時の私は、初めてとも言える友達であるまどかに甘えに似た感情を抱いていた。

「街にはあまり近づかないでよ。車に轢かれたら大変だから………」

まどかは、この子を助けるために”魔法少女”の契約を行った。彼女を”魔法少女”にしないためにもこうして、可能性の芽を摘んでおかなくてはならない。

「それと……夜はここでジッとしているのよ。この世界の夜はとても怖いから……」

つい最近知ったことであるが、”魔女”と同等、それ以上の”脅威”がここには存在している。

それは、あのインキュベーター達が持ち込んだ物ではなく、古からこの世界の闇に潜んでいたというもの……

エイミーが心配なので、私はこの子をこのまま連れて帰ることにした。少し心配なのは、この子が”あの二人”に爪を立てないかだ……

当然のことながら”あの二人”が猫をあやす光景など考えられない。そんな光景があったら、ある意味悪夢だ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原にあるマンションの一室で一人の少女がソファーの上で蹲っていた。

少女の名は、巴マミ。彼女も、ほむら、杏子同様に魔法少女である。

彼女は、腕の中に一匹の白い生き物を抱いていた。マミの不安な表情を見上げるように白い生き物 きゅうべえは

「マミ。どうしたんだい?小さな子供みたいに僕を抱きしめて……怖い物でも見たようだね」

「………えぇ、未だに気持ちの整理が付かないわ」

マミの脳裏に恐ろしい断末魔の叫びを上げる魔女の姿とそれを喰らう”闇色の狼”の姿がよぎった。

魔女を喰らうなどおぞましい以外の何物でもない。それにくわえ……

「きゅうべえ、一ヵ月後に”ワルプルギスの夜”がこの街に来るの?」

間違いであって欲しいという願いを込め、

「どこで知ったんだい?マミ。僕も近いうちに言おうと思っていたんだ。”ワルプルギスの夜”はこの見滝原にやってくる」

「来るのね……史上最大の魔女が」

 

 

 

 

 

ワルプルギスの魔女 

結界に潜む他の魔女と違い、結界を必要とせず現れる最大級の魔女。魔女は一般人にはその姿は確認できない。

故にこの魔女が齎した被害は災害として認識される。そして、この魔女と敵対し生き残った者は存在しないとされる……

 

 

 

 

 

 

 

「そうだね。でも、マミを助けてくれるかもしれない素質のある子をこの間、見つけたよ」

きゅうべえは、場違いな明るい声でマミに提案する。

「っ!?!そのこは、もしかして、魔法少女の素質を持っているの?」

「うんっ!!!」

愛らしく頷くきゅうべえに対して、マミは表情を和らげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おじさ~~ん。晩御飯、まだ~~~~~?」

妙に間延びした声がリビングから聞こえてきた。居たのは、テーブルの席に着くのは杏子である。

「ああ、今日はすき焼きだ」

「やったっ♪肉だ、肉♪」

杏子とバドは、この町における拠点にしている一軒家に居た。テーブルに二人で夕食を取る姿は家族そのものだった。

「それでさ、おじさん。今夜もやっぱり、狩りに行くのか?」

「いや、今は”暗黒騎士”の討伐を優先しろとのことだ。ホラー狩りは他の魔戒騎士に任している」

「”暗黒騎士”って、おじさん達、魔戒騎士のはぐれ者って事だよな」

「ああ、闇に存在する魔戒騎士のさらに深いところへ踏み込んだ存在だ。闇に堕ちた騎士は斬らねばならない」

バドの言葉に杏子は表情を曇らせた。彼女の苦い記憶が関連しているのだろうか?

「だが、救える可能性がゼロでなければ救える者は救いだす」

「……それって……」

「ああ、確かに暗黒騎士は掟では斬らねばならないが、奴はまだ本当の意味では闇に堕ちてはいないだろう」

「だからこそ、助けるってのか?」

「ああ、そういう事だ。それが俺の騎士としてのあり方だ。まあ、寿命を減らされる制裁は覚悟の上だ」

「魔法少女にもそういう掟があったら、アタシも今頃は誰かに追っ手を差し向けられたのかな?」

「魔法少女の事も良いが、杏子ちゃんにはもっと自分の将来は考えて欲しいものだ」

そう言いつつバドは一つの箱を取り出し、杏子に手渡した。

「おっ♪アタシにプレゼントか?」

上機嫌で杏子は箱を開けた。中の物を見た時彼女の表情が……

「お、おじさん?これって……」

「ああ、明後日から通う学校の制服だ」

「ってっ!!!おじさんっ!!!アタシは、魔法少女だ!!学校に行っている暇は……」

いきなりの事に杏子は席を立ってしまった。

「俺からしたら、杏子ちゃんはまだ子供だ。学べる時にしっかり学んでほしい。杏子ちゃんが虎狼のような人生を歩むつもりでいようと俺が生きている限りはさせん。だから行って来なさい」

「………ったく……こういう時に親面するなよな……」

口答えするようならば鋭い眼光が杏子を射抜く。実力が違いすぎて勝てる気がしないが、それ以前に温厚なおじが怒るとそれは恐ろしいのだ、杏子にとって………

それに……

(まあいいか。ていうか、アタシもこういう生活は嫌じゃないしな)

柄にもないことを思いながら自分が普通の学生であることに思いを馳せる杏子であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原中学校の教室で一人の生徒が机に伏していた。

「まどか。あんた、どうしたのよ?最近変よ」

机に伏しているまどかに話しかけるのは、彼女の幼馴染である美樹さやかである。

「・・・・・・さやかちゃん」

顔を上げるまどかの目は何処か遠くを見ているような目で応えた。

「何を憂いているのよ?アンタは・・・」

「うん・・・さやかちゃん。もし、知らない誰かが自分の為に人生を投げ出していたら、どう思う?」

「はぁ?何それ?アンタ、昨日映画でも見たの」

どことなく可哀想な人を見るような目で見る幼馴染に対して、まどかは

「う、ううんっ!!なんでもない!!!帰ろうか!!!」

直ぐに取り繕うように態度を変えて、鞄を持って教室から出ていくのだった。

「そう。アタシはちょっと寄るところがあるから、また明日ね」

「うん。また上条君のところ?」

「まあ、そんなところね」

互いに挨拶を交わして二人は教室の前で別れた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さやかと別れた後、まどかは普段は通らない場所に来ていた。ここは、まどかが初めて彼女と出会った場所であった。

冴えない自分を情けなく思っていた彼女に襲い掛かろうとしていた”魔女”から、”魔法少女”の自分が護ったと言う信じられない話だった……

昨日、自分が契約するに至った猫を探しに来たが猫はいなかった。おそらくは”彼女”が連れ出したのだろうと思う。

「……あの子。ほむらちゃんは、今も私の為に頑張ってくれているのかな……」

出会った事のないのに知っている友達。今も何処かにいるのだろうか?

「考えるだけなら何とでもなるんだよね」

気がつけば、”彼女”が暮らしているであろうアパートへと足を向けていた。ノックをしようと扉の前に立つが、部屋には表札さえなかった。

「あ、お嬢ちゃん。そこに越してくる人、まだ着てないよ」

横から大家と思われる人の声が聞こえてきた。

「えっ?着てないんですか……」

「うん、何でも、越してくる子。親元から離れて一人暮らしをするんだけど……君は越してくる子の友達かい?」

「はい……一応は………」

まだ出会ってもいないのに知り合いですとは、さすがに変だと思う。変に聞かれるのが苦手なのか、まどかはそのままアパートを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「あれが、暁美ほむらの戦う理由か………この場合は、今までとは勝手が違うようだな」

アパートを後にするまどかの背に視線を向ける”エルダ”の存在に誰も気づくことはなかった……

 

 

 

 

 

 

「皆さん、今日は先生から大切なお話があります。心して聞くように」

朝のHRで担任である早乙女 和子先生は、詰問するように一人の生徒を指名する。

「はい!中沢君、目玉焼きとは、固焼きですか、それとも半熟ですか」

「えっと、どっちでもいいんじゃないかと…」

指名された中沢は、戸惑うように応える。

「そう、どっちでも宜しい!たかが卵の焼き加減で女の魅力が決まると思ったら大間違いです」

無事正解したのか、中沢は気が抜けたようにヘナってしまった。

「女子の皆さんはくれぐれも、半熟じゃなきゃ食べられない抜かす男とは付き合わないように!!!男子は、そんな男にならないように!!!」

思いの丈を言い切ったのか、直ぐに彼女は真剣な面持ちになり

「それでは、転校生を紹介します。入ってきて…」

「そっちが後回しかよっ!?!」

さやかの乗りのいい言葉を気にすることなく、和子は言葉を続ける。

「それでは、佐倉さん。入ってきてください」

教室に入ってきたのは、活発そうな表情をした赤毛の女生徒だった。

(なんだ?あの小さい子…アタシを見て何驚いてんだ?)

教室に入ってきたと同時に自分を驚いた目で見る、鹿目まどかに杏子は少しの疑問を抱いた……

 

 

 

 

 

まどか

なんで……ほむらちゃんじゃないの?

あなたは……ここには、居ない筈だよ……杏子ちゃん……

ほむらちゃんは、何処に行ったの?あなたは、この”時間軸”に居ないの?

 

 





こちらも思い切って掲載しました。

次回の予告を・・・

いつもと違う”時間軸”。今までとは違う”時間”を私は過ごしている。

それでも私の行うことは変わらない。でも、私が居なくとも彼女たちは、彼女たちで動いている。

呀 暗黒騎士異聞 第六話「遭遇」

私の知らない”物語”がそこで始まっていた・・・・・・




▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。