呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝)   作:navaho

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上条恭介を見送った、さやかのその後・・・・・・

彼女の願った奇跡を踏みにじった柾尾 優太は今も”この世”に”陰我”として留まっています

そして仁美は・・・・・・





第弐拾漆話「 回 転 (弐)」

 

 

 

上条家

 

痛ましい事件があった上条恭介の家は元通りとは言えなかったが、事件当時よりはマシな状態に戻っていた。

 

しかしながら、この家に住んでいた上条恭介とその母親がこの家で過ごすことはない。

 

何故なら、二人ともこの家に戻ることはなにのだから・・・・・・

 

逝ってしまったのだ・・・・・・妻は、理不尽に命を散らし、息子は絶望の果てに”陰我”に堕ち、消滅した。

 

上条恭介の父は、自宅でそれぞれの遺品の整理をしていた。

 

明日に息子とその妻の”葬式”を見滝原 メモリアで行うことになっていた。

 

その為の連絡も行っており、学校側にも伝えていた。

 

家族が自分一人を残して行ってしまったことに彼の心は暗く沈み、その影響なのか、たった二日ほどで、数年も歳を取ってしまったかのように老け込んでさえもいた。

 

彼は妻のお気に入りだった”花”を数本携え、さらには息子 恭介のヴァイオリンの入ったケースを持ち出した。

 

そしてある人物に連絡を取るのだった。

 

「突然の電話をしてすまないね。さやかちゃん、今から会えるかな?君にどうしても渡したいモノがあってね」

 

彼は愛おしそうに”息子”の形見ともいえる”ヴァイオリン”に視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

志筑仁美は、時刻が放課後になるのを見計らい、外出の準備をしていた。

 

普段の彼女らしからぬパンツルックにさらには、帽子と必要な”道具”をスポーツバッグに詰め込んでいた。

 

詰め込む”道具”の中には・・・・・・

 

「お父様のご友人には、よろしくないお付き合いもあったのですね」

 

もう居なくなってしまった、自身が手に掛けたことに何の罪悪感も抱くことなく仁美は書斎の引き出しにあった一丁の”拳銃”を詰め込んだ。

 

見滝原で大きく顔の効く”志筑”である為に、このような付き合いもそれなりにあったようである・・・・・・

 

「いいですわ。これはわたくしが大切に使わせていただきますわ」

 

少しだけ休めたのか、彼女はこれまでにないぐらい清々しい気持ちを抱いていた・・・

 

”拳銃”を持ち出したのは、万が一”魔法少女”に遭遇した時の為の保険であった。

 

自身の願いを邪魔する可能性がある為、その為の備えに彼女は”戦うため”の準備をしていた・・・・・・

 

彼女が玄関に向かおうとするものの二階の窓より見覚えのある制服を着た男子生徒が自宅に近づいていたのだ。

 

「あら?彼は・・・中沢さんですわね」

 

見たところ、今日休んでいた自分を訪ねてきたようである。理由は言うまでもなくクラス委員長としての仕事で、本日発行されたプリント類や課題を渡しに来たのだろう。

 

本来なら、少年は”因果”を高めるには向かない。だが、ほんの少しだけなら足しになるかもしれない。

 

そう考えた仁美は薄ら笑いを浮かべるが、このような表情を出してはならないと思い、いつものような笑みを浮かべて、迎えるべく玄関に向かうのだった・・・

 

後ろに回した手にナイフを携えて・・・・・・

 

「あら、中沢さん。クラスのお仕事ですか?」

 

「うん、志筑さん。体調は大丈夫?」

 

「ええ、一日休んだら落ち着きましたわ」

 

直ぐに扉の影に迎え入れ、このまま彼を”因果”の足しにしようと行動を移そうとしたが、

 

「おぉ~~い!!ゆうき!!!」

 

いつの間にかクラスメイトの保志が門の所に来ていたのだ。

 

内心、お調子者が邪魔してくれたことに苛立つが、すぐに行動を起こさなかったことに自身は”運命の神様”に愛されていることを彼女は感じた。

 

このまま勢いに任せて行動を起こしていたら、保志に一部始終を見られていたかもしれないのだから・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

さやかは、ここ数日の間、自宅に帰らず姉 蓬莱暁美と一緒に暮らしていた”家”に滞在していた。

 

家に帰る気がないというよりも帰っても誰も迎えることもないし、自身もまた迎える気などないので帰ることに意味がないことを知ってしまったからだ。

 

言うまでもなく父 美樹 総一郎が死んだはずの”柾尾 優太”を追っていて、さらには母が行方不明になっていることに何も関心を持っていなかったのだ。

 

そのことで言い合いになり、そのまま喧嘩別れになってしまい今に至る。一応、学校には出ているが・・・

 

父曰く”柾尾 優太”は死んでいないのだそうだ・・・何故なら、死体があの場所で発見されなかったからという理由らしい。

 

父には言えないが”柾尾 優太”は自分が手に掛けている。

 

あの炎と爆発に巻き込まれて生きているはずがないのだ。

 

爆発で粉々になったかもしれないが、奇妙なことに遺体の一部すら見つかっていない。

 

もしもあの人形じみた柾尾 優太が生きている可能性があるのならば・・・・・・

 

「・・・まさかアイツ、恭介と同じようにホラーに取り憑かれたの?」

 

ホラー ミューゼフを討滅したあの後、さやかは魔女や使い魔等を狩りながら、ほぼいつも通りに過ごしていた。

 

杏子とその伯父 風雲騎士 バドらは見滝原にもう一体ホラーが出現していると話していたので、そのもう一体が柾尾 優太がホラー化したものではないかと考えていた。

 

あり得ない話ではないだろう。もしもホラーになっているのならば、自分の願いを踏みにじり、恭介を”陰我”に落すようなことをしてくれたことへの”仕置き”を行わなければならなかった。

 

ソラが魔法少女でも”ホラー”を討滅することのできる”武器”があると言っていたのを思い出し、

 

「ねえ、ソラ。今、暇ぁ~~?」

 

「はい、特に用事はありませんが」

 

さやかは居間で文庫本を読んでいるソラの隣に座ると早速、あの時、聞きそびれたことを改めて尋ねた。

 

「前に伯父様みたいにホラーを倒せる”武器”をお姉ちゃんが持ってた話だけど、実際の所はどうなの?」

 

「はい。ホラーは魔戒騎士らが使う”ソウルメタル製”の武器により討滅が可能ですが、だからと言って、それだけが倒せるというわけではないのです」

 

「それって、どういうことなの?」

 

「魔戒騎士の歴史はかなり長くもしかしたら魔法少女よりも長いかもしれません。さらに騎士よりも古い歴史を持つのが魔戒法師です」

 

「魔戒法師って姐さんが魔法少女と一緒にやってる魔導の力を使った術を使う人たちだよね」

 

「元々は陰我をゲートとして出現するホラーと戦っていたのですが、ホラーは日に日に強さを増し、法師達だけでは対処が難しくなり、ある日ホラーの爪を素材とした鉄を作り上げ、それを選ばれし戦士が矢に括り付けてホラーに当てたところ一撃で粉砕したことにより、それを更に詳細に分析し、鍛えられた”金属”こそが”ソウルメタル”です」

 

ソウルメタルは男のみが使えるモノであることを補足する。

 

「ホラーに対して決定的な攻撃を行うことのできる存在が”魔戒騎士”なのです。ですが、騎士が誕生する以前にもホラーを倒していた存在は居ました。今ではおそらくは居なくなってしまった”竜騎士”がそうです」

 

”竜騎士”については、謎が多く存在そのものを証明することが出来ない為ここでは語られることはない。

 

「ホラーに挑もうとしていたのは魔戒騎士、法師達がほとんどでしたが、彼ら以外にもホラーと戦うために武器を鍛えた方たちも存在していました」

 

ソラの話は、ほとんどが姉 蓬莱暁美によるものであることは間違いないのだが、改めて姉がただモノではなかったと思わずにはいられなかった。今は、それよりも”武器”の存在である。

 

「はい・・・ホラーを倒すためにとある刀匠が自身の命を捧げ、さらにはその刃に屈強な戦士の血と肉を沁み込ませた”霊刀”が一振り存在しています」

 

「屈強な戦士って・・・まさか・・・」

 

「悍ましい話ですが、”経験豊かな魔戒騎士の肉体”を鉄に溶け込ませて鍛えられた故に”ホラー”を斬ることができるのです」

 

”ソウルメタル”と違い、女が使用できるというメリットが存在するのだが、製法があまりにも外道な為に魔戒騎士や法師、番犬所、果ては元老院ですらも”その存在”を闇に葬った”忌まわしき一振り”である・・・

 

現存していようならば、即座に”破壊”されることになっている。

 

だが、それが現存しているのだ・・・・・・

 

「それって・・・今、何処にあるの?」

 

「はい・・・今は、アスナロ市の京極神社に預けられています。早速ですが、数日中にはこちらに届けられます」

 

ソラは、そのような恐ろしい武器をさやかに齎したくはなかったが、いざという時に行動が移せるように準備だけはしておかなければならなかった。

 

出過ぎたことを頭を下げるソラであったが、さやかはソラを責めることはなかった・・・

 

自分の身は自分で守らなければならないのだ、ホラーが襲ってきた時に都合よくそこに騎士や法師が居るとは限らない。

 

自衛の為に備えは万全にしなければならないことを彼女は理解していた。

 

「使わない方がいいと思うけど、いざという時手に届くところに置いておかないと身を守れないかもしれないしね」

 

さやかは、そんな”霊刀”を迎えることに抵抗感を覚え、気が重くなる。

 

突然、自身のスマートフォンが鳴り画面には”上条恭介の父”の名前が表示されていた・・・・・・

 

「もしもし・・・おじ様・・・えっ?今から会えないかって?」

 

”上条恭介の父”からの誘いに息子 恭介を破滅させてしまった原因である自分に何のようがあるのかと”暗い”気持ちになるのだが・・・・

 

『さやかちゃん。君を責めるつもりはないんだ、思い出話をしたくてね』

 

さやかを気遣ってか、無理やり明るい声を出そうとしている様子にさやかは、彼が自分に怨みを持っているわけはなく、どうしても話したいことがあると理解し、放課後に”ミュージックスクールVerite”に行くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

ミュージックスクールVerite

 

さやかはソラと二人で上条恭介の父が経営する”音楽教室”に来ていた。

 

息子である恭介も生徒であり、さやかも付き添いで何度も足を運んでいる馴染みの場所である。

 

電光掲示板には”CLOSE”と表示されているが、手前のベンチに上条恭介の父親が座っていた。

 

「やぁ、待っていたよ、さやかちゃん」

 

笑顔でさやかを迎える上条恭介の父に彼女はぎこちない笑みで返すのだが・・・

 

「・・・さやかちゃん。君が悪いわけじゃない、馬鹿息子が調子に乗っただけのことだからね」

 

穏やかな笑みを浮かべて自分を気遣ってくれる彼にさやかは、泣きそうになるが・・・

 

「あぁ、泣かないでくれないかい。私は、女の子を泣かす趣味はないんだけどなぁ~~」

 

上条恭介の父は、さやかに戸惑い、何とか泣かないでほしいと願うのだが・・・

 

「あの・・・お二人ともお互いに落ち着いた方がよろしいのではないでしょうか?」

 

二人の様子を見ていたソラが助け舟を出す。

 

このままでは、二人とも整理の付かない感情のままだと先に進まないからである。

 

とりあえず二人を”ミュージックスクールVerite”の中へ入るように促し、ソラ自身は自販機に行き、”お茶”のペットボトルを二本購入するのだった。

 

 

 

 

 

 

「あの・・・なんだかごめんなさい。アタシ・・・気が動転しちゃって」

 

「わ、私も済まなかった。いやぁ~、格好悪いところを見せたかな・・・」

 

互いに謝る姿にソラは、この二人は似た者同士なのだろうと見ていた。

 

仮にだが、上条恭介がもしも去ることなく、さやかと付き合い、将来結ばれていたらきっと良い関係を得られたのではないかという飛躍しすぎた感想を抱いていた。

 

やはりこのままにしておくと堂々巡りなのでフォローは入れるべきだろうとソラは動いた。

 

「上条さんは、さやかに何かお話があったのでないですか?それを伺ってもよろしいでしょうか?」

 

「あぁ、そうだったね。君は・・・」

 

さやかによく似た姿をした少女とは、あの夜に見知っていたが特に話をしたわけではなかった。

 

「ソラと申します。よろしくお願いします、上条さん」

 

お転婆なさやかとは対照的に落ち着いた口調と態度にしっかり者の妹のような印象を受けた。

 

「よろしくね、ソラちゃん。ソラちゃんもさやかちゃんと同じ魔法少女なのかい?」

 

もしも彼女が魔法少女であるのならば、さやかと同じく誰かの為に”奇跡を願い”自分を犠牲にしているのではと言う考えがよぎったが・・・

 

「上条さんが考えているような存在ではありません。敢えて言うのならば”人に非ざる”存在です」

 

「ちょっと、ソラっ!?!」

 

「さやか、上条さんには真実を伝えても構わないと思います。貴女と上条さんは似た者同士ですから」

 

ソラの正体は”インキュベーター”を模した”人工生命体”である為に、そのことで彼女を上条恭介の父に奇妙な目で見られるのではとさやかは、とっさに彼女を庇う。

 

「私の疑問は撤回するよ。何も聞かないでおくよ、そっちのほうがさやかちゃんも安心するし、それに私とさやかちゃんが似た者同士と言ってくれるなんて・・・さやかちゃんのような子が娘だったら、きっと毎日が楽しかったんだろうね」

 

その様子に上条恭介の父は、二人がまるで”姉妹”のような関係であることを察し、それ以上の事を聞かないでおくことともしかしたら”訪れたかもしれない未来”を話してくれたソラに感謝しつつ、彼は本題を切り出した。

 

「すっかり遅くなってしまったけど、さやかちゃんに渡したいモノがあってね・・・」

 

上条恭介の父は、一旦背を向けてから、あるものを取りに行き、それを彼女らの前に出した。

 

「おじさま・・・これって・・・・・・恭介の・・・・・・」

 

「そうだよ。恭介のヴァイオリンだ」

 

事件があった自宅に残されており、それを上条恭介の父が回収していたのだ。

 

「どうして、これをアタシに?」

 

「君に持っていてほしいんだよ。恭介が生きていた証を・・・君が人生を投げ出してまで恭介を思ってくれていた君に」

 

「おじ様。そんなんじゃない・・・そんなんじゃないんだよ・・・アタシは、恭介を救った気で居ただけで、本当に恭介を支えるんなら、魔法じゃなくてもっと別の・・・正しいことをすべきだったんだよ」

 

上条恭介の父の想いに対し、さやかはそれは違うと否定する。

 

彼の失われた”才能”と味わった”絶望”を助けたくて、彼自身ではなく”その一面”だけを見ていただけだった。

 

彼自身が生きているだけでも奇跡で、そこからまた新たに始める事だってできたはずなのだ。

 

”ヴァイオリン”は弾けなくても”作曲”という形で”音楽”をしていたかもしれないし、”リハビリ”を続けて、時間こそは掛かるかもしれないが、彼はヴァイオリンをもう一度弾けるようになったかもしれない。

 

自分は上条恭介を信じることが出来ずに彼に”奇跡”を捧げ、その果てに”陰我”に突き落としてしまったのだ。

 

上条恭介と言う少年を信じられずに、魔法という奇跡に手を出してしまった自分は、彼を裏切ったも同然ではないかと・・・・・・

 

”陰我”に堕ち、ホラーと化した彼が災いを振りまく前に殲滅せざる得なかった・・・・・・

 

それも結局は、風雲騎士 バドに頼まなければならなかった・・・・・・

 

自分は何もできていない・・・自分は、彼を不幸にしてしまっただけなのではと・・・・・・

 

「さやか。私はあの時、貴女に言いましたよね。もしかしたら貴女の独りよがりな部分もあったかもしれませんが、彼を上条恭介を救いたいという気持ちに間違いはないと・・・ですから、貴女は自分を責めないで」

 

「そうだよ、さやかちゃん。私もソラちゃんと同じだよ。恭介を救おうとして、君はあまりにも自分を犠牲にしすぎた。だから、これからは君自身の時間を過ごしてくれないかい?その時間に”恭介”が大好きだった”ヴァイオリン”を時々で良いから弾いてあげてほしい」

 

二人の言葉にさやかは、涙ぐみながらもやはり自分は彼が、上条恭介が大好きだったことを自覚した。

 

そんな彼は”陰我”に堕ち、魂をホラーに喰われたことで真っ当な所に行くことは叶わない。

 

だが、何処かの”時間軸”で呪いに身を堕とした”もう一人の自分”が居てくれたことで、彼自身の魂は救われていた。

 

これからの自分は彼との思い出を胸にしまい、生きていかねばならない。

 

彼が生きていた証、彼が情熱を捧げた”ヴァイオリン”を連れて・・・・・・・

 

さやかは無言で彼の遺品であるヴァイオリンを受け取り、久方ぶりに本体を肩に当て、弓を構える。

 

彼女の様子に上条恭介の父は、少しだけ後ろに下がり、ソラも彼に続く。

 

さやかが弾きたいと思った曲はパッヘルベルの”カノン”であった。

 

弦に指を当て、静かに呼吸をし、さやかは弓を引くことで演奏を始めた・・・・・・

 

ぎこちないながらも彼女の奏でる音色は心地よかった・・・

 

曲を終えた彼女は、普段使わない左腕の指と久しぶりの演奏でいつも以上の疲労感を感じるのだった・・・

 

「どうでしたか?」

 

「うん。やっぱり、君は辞めるべきではなかったよ」

 

久しぶりに聞けたさやかの演奏に上条恭介の父は満面の笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

練習用のスタジオで上条恭介の父親は、つい先ほどまで演奏していたさやかの事との話を思い返していた。

 

彼女はもう一度”ヴァイオリン”を始める言ってくれ、その為のレッスンを来週の予定に入れていた。

 

準備として、どの楽譜から始めようかと彼は久しぶりに”楽しい”と感じていた。

 

家族二人が亡くなったことは寂しいが、いつまでも自分が悲しんでいては二人を心配させてしまうと思うと悲しんでばかりではいられなかった・・・

 

きっとさやかもそうであろうと思い、彼女に生きがいを何か希望を与えられないかと考え、息子の形見である”ヴァイオリン”を贈ったのだ。

 

まずは、基礎練習から初めて曲に入ろうかと基礎練習本を数冊、揃えていたのだが・・・・・・

 

”CLOSE”にしていたスタジオの前のエレベーターが点滅する。

 

エレベーターから帽子を目深に被り、スポーツバックを携えた少女が下りる。

 

志筑仁美であった・・・

 

彼女はこれ以上ないほどの憎悪に満ちた目で”ミュージックスクールVerite”の看板を見ていた・・・

 

「息子を見殺しにした罰ですわ」

 

彼の父親と名乗るのも烏滸がましい。

 

息子が殺されることを容認するような肉親など居なくなって当然であると仁美は考えていたのだ。

 

自宅の書斎から持ち出した”拳銃”を試すべく、彼女はスポーツバックより取り出し、そのままスタジオへと足を進めた。

 

「今日はスタジオは休みだよ。志筑さん」

 

上条恭介の父は、自分を尋ねに来た志筑仁美の様子がただ事ではないと察していた。

 

「ええ・・・今日はお休みでしたわね。貴方はもうお休みになってよろしいのでは?」

 

彼女が手に持っているのは、玩具などではないだろうと察したうえで上条恭介の父は・・・

 

「君も恭介を好いているようだが、君のそれは・・・恭介のことなんか何も見ていない。君が見ているのは、君自身の身勝手な”陰我”だけだ」

 

「わたくしの奇跡を叶うためには、必要なことですの。息子さんに詫びてください」

 

容赦なく仁美は、引き金を引いた。その瞬間鈍い音と硝煙が発生すると同時に上条恭介の父の身体が崩れ落ちた。

 

胸に強烈な痛みが走り、意識が彷彿とする中、近づいてくる仁美の足音が止まり再び銃撃による衝撃が襲った。

 

(すまない・・・さやかちゃん。来週のレッスンはお休みだね・・・・・・)

 

彼は見ることは叶わなかったが、志筑仁美は狂ったような笑みを浮かべながら、上条恭介の父をナイフで何度も何度も刺し続けていた・・・・・・

 

差し込んだ夕日に照らされた彼女の影もまた笑い、”空のソウルジェム”もまた因果を蓄え、異様な輝きが灯り始めていた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

仁美は、自身の因果を高める為に”多くの生贄”を求め、怨みを晴らすかのように”上条恭介の父”を手に掛けました・・・・・・

さやかは、柾尾 優太がホラーとして今も存在していることをある程度確信し、自身の手で倒せる外道の製法で作られた”霊刀”を得るか迷っています・・・・・・

そして上条恭介の遺品である”ヴァイオリン”を受け取り、彼が残した情熱を思い出にこれから歩むことを誓いました。

もう一度ヴァイオリンを始めようとし、上条恭介の父と約束したにもかかわらず・・・

さやかと仁美の因縁がさらに深くなる予定です。

まどマギ本編では、さやかが割と中心になっていたのでこの辺りも”回転”の軸になります。

中沢君久々に登場しましたが、保志くんのファインプレーで危機を回避しました(笑)
最初は別のクラスメイトが訪ねてそれを仁美が手に掛けるというものでしたが、中沢君だとどういう訳かそういう危機を回避してしまいます。




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