呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝) 作:navaho
その周りと周囲のキャラ達の動きです・・・
どうせ話が長引くのなら、やりたいことをやってしまおうと思う今日この頃です。
アスナロ市
アスナロ市全体は、暗雲が立ち込め冷たい空気が漂っていた・・・
これから起こる”嵐”の前兆を表すかのように・・・・・・
呼応するかのように様々な場所で”邪気”が発生し、路地裏、人気のない場所などでは”怪異”が発生していた。
そんな中、明良 二樹は人気がほとんどないオープンカフェで状況を見守っていた。
この天候の原因はおそらくは、”使徒ホラー バグギ”の影響があると察しているが、彼には誘いの連絡は来ていなかった。
LINEを送ってもメッセージは既読にならないことから、おそらくは取り込み中なのだろう・・・
「なぁ、アンタこんな時になんで此処に居るんだ?」
ふと視線を向けるとそこには、自分と同年代の青年が居た。見たところこのカフェの店員のようだが、
「こんな時だからかな・・・誘いが来るのを待っているんだよ。家に居てもやることが無くてね」
「誘いって、それは一体何なんだ?もしかして、この状況に何か関係があるのか!?!」
明良 二樹はこの青年は何を言っているんだと思ったが、このアスナロ市で起こっている異常を察しているようだた。
「もしかしてアレかい?伝説の雷獣が出たとか噂のことかい?」
その”雷獣”を間近でみたよと言いたくなったが、敢えて堪えた。
「そうなんだ!!みんな言っているんだ!!俺達の街に化け物が出たって!!!こんな時にこんなところで何もできないなんて!!!」
自らの正義感に従うように熱く語る青年だが、明良 二樹は
「それはそうと僕は少し落ち着きたいから、紅茶を頼めるかな」
青年の主張等どうでも良いのだが、とりあえずは注文を取りたかった。
「ったく!!そうじゃなくて!!!」
この青年はどうあっても自分の主張を通したいようだった。こちらを舐めているのかと思いたくなった時だった
「やっと見つけたわ」
気が付くとそこには、先日自分がお節介で手助けをした女性が立っていた。
「あれ?君は・・・そっち方面に流されたはずだよね」
明良 二樹は目の前にいる女性が何故、自分の元に来ているのかを一目見て察していた。
そう自分が持ってきている”魔号機人”が反応を示しているのだ。
「えぇっ、あなたのお陰でね・・・・でも私は・・力を手に入れたのよ!!!」
女性の衣装が奇妙な鎧を模した外骨格へと変わったと同時にホラーへと姿を変えた。
「な、なんなんだ!!!こ、こいつは!!こいつが、噂の化け物なのか!?!」
驚愕する青年に対し、明良 二樹は落ち着いていた。
「噂の”雷獣”は、こんな小物じゃないよ」
ホラーは夜中に活動を行うのだが、昼間に”ホラー”が出てくることを察するに”バグギ”の邪気の影響が強いのだろうと考える。
単体では夜になるまで何もできない”小物ホラー”が、大物ホラーのお零れに群がっているのは滑稽であった。
そんな小物ホラーが粋がったところで、明良 二樹が動じる理由にはならなかった。
「お、お前は一体?」
「さて、魔号機人 凱。そのホラーを殲滅してくれ」
『承知しました・・・我が主よ』
足元の大柄のトランクが変形し、一体の骸骨人形へと姿を変える。それは、プレイアデス聖団への襲撃に使った”魔号機人”らと違い、一回り大きく、装甲が多く追加されていた。
この魔号機人は”量産型”と違い”意思疎通”ができるように改良された上位機種であり、持ち主が命令をせずとも自律活動を行える・・・
『アハハ、なによそれ、下等な人間の道具如きに私に通じるとでも思っているのかしら』
目の前の魔号機人 凱に対し、ホラーは嘲笑するが・・・
「じゃあ、魔号機人 凱に倒されたら君は下等な人間の道具以下ってことになるね・・・」
『なんですって・・・』
「だってそうじゃないか。ホラーに取り憑かれるのは、本当の意味で性根がどうしようもないぐらい腐っている奴なんだってさ」
「お、おいおい。何を言ってるんだよ・・・化け物を怒らせてどうするんだ」
青年が横で騒いでいるが、降りかかる火の粉を払う方が優先なので無視した。
『下等な人間風情が生意気!!!!』
「ハハハハハハ。じゃあ、君は腐った生ごみかな?」
迫ってくるホラーに対し、魔号機人 凱は刀を構えて立ちふさがる。
『こんな・・・にんぎょ・・・・』
白い線が過った瞬間ホラーの視線が左右にずれる。魔号機人 凱がホラーを一刀両断したのだ。
そのまま口から魔導の炎を吐き、ホラーを”魔戒騎士”のように殲滅したのだった・・・・・・
「ハハハハハハ!!下等な人間の道具に負けるなんて、君は人間を超えたと思ったらそれ以下だったね」
笑う明良 二樹に対し魔号機人 凱は刀を鞘に納め主である彼に一礼する。
「魔号機人 凱。流石だね・・・これからも頼りにさせてもらうよ」
『おそれいります。我が主よ・・・しかしながら、バグギの影響でホラーやその他の怪異の動きが活発になっております』
「あぁ~、そういうことか・・・」
明良 二樹は”魔号機人 凱”の言葉に彼はこれからどういう状況になるのかを察した。
『惧れ多くも我が主は、様々な人間を破滅させていらっしゃいます。そういう者達が”ホラー”に憑依されるのは当然の事かと・・・・・・』
「な、お前は!?!このロボットに悪いことをさせているのか!?!」
青年は、明良 二樹と”魔号機人 凱”の間に入る。まるで”悪いこと”をさせまいと・・・
「魔号機人 凱に善悪の概念はないよ・・・そいつはただの魔導具だ」
「なんだと!!こいつには”心”があるじゃないか!?それを・・・・・・」
『我が主の言葉に訂正することはない・・・私は”魔導具 魔号機人 凱”。人間でもなければホラーでもないただの”道具”。言葉を交わすこの機能もより効率を高めるために過ぎない』
「なっ!?!」
『私自身に自身の処遇を決定する能力はない。我が主にとって価値があるのなら、私は全力で”命令”に従い、価値がなくなれば存在理由などありはしない』
明良 二樹は”魔号機人 凱”の言葉に笑みを浮かべた。
世の中には自分が”悪”でありながら、それを認めようとしない人間が多く”真実”から目を逸らすものが多く、そういった人間を破滅に追いやるのを楽しみに生きてきたが、この”魔号機人 凱”は意思を持ちながら、自身を”道具”として認識し、それを受け入れている。
嘘つきな人間にはできない”偉業”に彼は、この”魔号機人 凱”を起動させて良かったと心から思った。
ここまでハッキリ自己を確立した存在はそうそうは居ないだろう。”心”を持たない真実を認めて・・・
”心”がないのにその”事実”に目を背けている”兄を殺した人形”が滑稽に思えた・・・・・・
『我が主よ・・・あの人間は?』
”魔号機人 凱”は直ぐ近くに佇んでいる赤黒い髪の蒼い瞳の青年に視線を向けていた。
「彼は・・・確か巴ちゃんが攫った”暁美ほむら”の兄だそうだよ」
上着の内側から彼は一枚のチラシを取り出した。それは”暁美ほむら”の写真がある探し人のビラだった・・・
ジンは、道中とんでもない状況に遭遇してしまったことに内心、焦っていた。
(よりによって・・・あの化け物の仲間に出くわしちまった・・・・・)
時間をほんの少しだけ遡る。
京極神社に巨大な爆発音が響き、家屋が大きく揺れた瞬間、ジンは咄嗟に近くに居たミチルとメイを降り注ぐ落下物から庇った。
「な、なに!?!」
メイは突然の出来事に声を上げるが、ジンと同様に彼女もまたミチルを抱きしめ庇っていたのだった。
「この感じは雷か?まさか、ここに落ちたとかいうんじゃないだろうな」
衝撃と爆発音は”雷”が落下したそれであり、ジンはまさかと思い、ほむら達が居る客間へと向かう。
「メイ!!ミチルちゃんを頼む!!オレは、カラスキ達の所に行く!!!」
背を向けるジンにメイは
「分かったよ、そっちも気を付けて・・・」
「あのメイさん・・・一体何が・・・」
不安そうに声を上げるミチルにメイは・・・
「うぅん、ミチルンは気にしなくていいよ」
安心させるようにメイはミチルの頭を撫でる。彼女は内心、京極神社に”嫌なモノ”が来ていたことを察していた。
「おい、カラスキ!!!って、エルダさんも!!!」
来てみると家屋が半ば崩壊し、エルダは酷い火傷を負っており、カラスキに至っては浅海サキを庇ったのか木材が肩に突き刺さり、さらには左腕が肘から反対方向に折れていた。
直ぐにジンは自身の医術のできる範囲で応急処置を施す。念の為、救急車を呼ぼうとするのだが・・・
「ジン・・・悪いが病院は辞めてくれ・・・こっちの事情をあまり知られたくないんだ」
今はそういうことを言っている場合じゃないだろうと声を上げるが、カラスキは”呪いの顔”を向ける。
「か、神主さん・・・その顔は・・・・・・」
浅海サキは、初めて見る京極 カラスキの”呪いの顔”に驚きの声を上げる。
「これは、生まれつきだよ・・・おいらの先祖が色々やらかした結果がおいらさ」
笑うカラスキに浅海サキは青ざめるが、そんなカラスキにジンは拳骨を当てる。
「・・・ジン・・・おいらは怪我人なんだが・・・」
「馬鹿野郎、その面は女の子にいきなり見せんなって、言っただろ。初めて見た奴は泣くぞ。殴られても文句は言わせねえよ」
「ったく・・・ジンは・・・だからこういうことを知らずに居てほしかったんだけどな・・・」
後頭部を描きながら笑うカラスキとジンのやり取りに浅海サキは思わず笑ってしまった。
「あん?どうしたの、急に笑って?」
”呪いの顔”で問いかけるカラスキの様子に浅海サキは
「いえ、貴方達はとても面白い方々なんですね」
昨夜は、同族である魔法少女も一般人も”プレイアデス聖団”以外は全て”敵”だと叫んだが、”異形”である京極 カラスキと一般人であるジン・シンロンのやり取りと自分を気に掛けてくれる対応に彼女は、狭い世界ばかりを見てきたのだと感じていた・・・・・・
「おいおい、こいつのこの顔は気味悪いが、見ようによっては・・・」
「どういうこったい。お前は、おいらをどうしたいんだ?」
未だに漫才を続ける二人にエルダは、興味がない様に視線を逸らし自身の治療に集中していた・・・・・・
カラスキらから、”バグギ”と”真須美 巴”が御崎海香と牧カオルに意識を憑依させて、この惨状を起こしたことを聞き、さらには、ほむらが連れ出されたことを・・・・・・
そのことにジンは、思わず近くの壁に拳を叩きつけて自身の苛立った感情を発散させる。
「ちくしょう・・・また情けないところを見せちまったのかよ・・・オレは・・・・・・」
妹であるほむらが危険に飛び込んでいることは承知していたが、まさかこのようなことになるのを気づかずにいた自分が情けなかった・・・
「そんな・・・ジンさんは・・・」
思わず浅海サキはジンをフォローするのだが、彼はそのようなフォローを望んではいなかった・・・
「オレが甘かったんだ。あの雷獣の事を何もわかっちゃいなかったんだ」
”雷獣”を倒すのはあの”闇色の狼”なのだろうと半ば楽観視していた自分の浅はかさにも原因があった・・・
危機が去っていないのに、自分には関係のないところで事態が収束するのではと考えていたことが情けなかった。
「それを言うなら、”闇の世界”の住人だなんて思いあがっていたおいらの責任だ・・・ここをあの”雷獣”が襲いかねないことぐらい、少し考えれば予想がついていたのにな」
カラスキは直ぐに立ち上がり痛む腕を支えながら、バラゴらが休んでいた仮眠室へと向かっていった。
「何処へ行くんだよ?」
「ちょっと気になることがあってな・・・」
入れ違いで”バグギ”の元へ向かっていった”バラゴ”が気になったのか、カラスキは嫌な予感を覚えていた。
「待てよ、オレも付き添う。怪我人が働くんじゃねえ」
ジンはカラスキに肩を貸し、浅海サキも続くように二人の後を追った。
エルダは自身に治療の”術”を施しているが、火傷は酷く完治するには明日まで掛るであろうと判断し、その判断に内心、舌打ちを鳴らし、この場に居るしかない自身の現状に苛立っていた。
カラスキの嫌な予感を的中するように”バラゴ”は、”バグギ”を倒しうる”魔導具”雷清角”を置いて行っており、異常を察して飛び出し、そのまま頭に血が上って行ってしまったのだった・・・
さらには、ミチルが飛び出したとメイから
「大変だよ!!ミチルンが飛び出した!!!あの子、ほむほむの所に行ったんだ!!!」
まさか二人もほむらの所へ行ってしまったことに一同は声を上げてしまったが、直ぐに行動を起こさなければならなかった。
「不味いな・・・あの子はかなり不安定だ・・・バグギと魔法少女喰いの所なんかに行ってみろ、あの子自身の身も危ういぞ」
カラスキは急いで”雷清角”を手に取り、向かおうとするのだが傷が痛む為、思わずその場に座り込んでしまった。
「カラスキ、無茶すんなよ・・・そいつを届けて、ほむらとミチルちゃんを連れて帰ればいいんだな」
ジンはカラスキの手から”雷清角”を手に取り、自分が向かうと・・・
「ば、馬鹿かジン。これはただの”災害”でも”事件”じゃないんだぞ・・・下手したら、死ぬぞ」
「へっ、馬鹿ジンって呼ばれてたのは知ってるだろ。カラスキ、あのホラーって化け物を倒す魔戒騎士や暗黒騎士は最初からいたわけじゃない」
懐かしい”馬鹿ジン”にジンはニヤリと笑い、例え特別な力を持たなくても今はやれるかではなくやらなければならない時だと確信し、それをカラスキに告げる、
「あの化け物を大昔の人はどうにかしていたんだろ?だったら、オレにできることはこいつを届けて、ほむらとミチルちゃんを連れ戻す」
ジンの固い意志にカラスキはこの青年は何を言ったとしても妹の所へ向かうと確信した。
正直、これは良い判断ではないが今は、それに賭けるしかなかった・・・・・・
「分かった・・・こいつをバラゴさんに・・・龍崎駈音さんに渡してくれ」
そしてカラスキは、”バグギ”が居るのは”アスナロ市 第三ドーム”であることを教える。
浅海サキも同行を申し出たが、”雷”を力とする”バグギ”の傍に近づけば、それだけで”バグギ”に力を与えてしまう可能性がある為、同行は叶わなかった・・・
メイにこの場を任せて、ジン・シンロンは京極神社から駆け出し、バグギが居る”アスナロ市 第三ドーム”へと向かうのだった・・・・・・
そして現在、ジンは”浅海サキ”から事前に聞いていた”骸骨人形”、さらにそれを操っているであろう青年とも遭遇したのだった・・・
「君って確か・・・このチラシを配ってたよね」
明良 二樹は”探し人 暁美ほむら”のチラシをジンに見せる。
「君にとって彼女はどういう存在なのかな?」
薄笑いを浮かべている明良 二樹に対し、ジンは真っ直ぐに視線を向ける。
「ほむらは、オレの”妹”だ・・・今、アイツはいけ好かない化け物に攫われちまった。だから取り返しに行く」
明良 二樹はジンの”妹”という言葉に反応を示した。興味深いと言わんばかりに・・・・・・
「君たちは、血は繋がっていないよね?どうして”妹”だなんていえるんだい?」
見た目はハッキリ言って似ていない為、兄妹と言っても信じられないだろう。
「いちいち細かい言い訳なんて用意してねえよ・・・ほむらはオレの妹だ・・・誰がなんと言おうともな」
明良 二樹はジン・シンロンの目に自分にはない”純粋”なモノを感じていた。
今までに見てきた、関わってきた人間のほとんどが”純粋”とは言い難い、嘘つきな”不純”な人間ばかりを見てきたためか、彼はこのジン・シンロンは自分とは違う”真っ当な人間”であると考えた。
この場で既に”空気”になっている青年は”不純”な存在であると明良 二樹は認識している。
”バグギ”という脅威の前に”我が身可愛さ”に見捨てることなど仕方がないのに、彼はそこへ行こうとしているのだ
「君の妹を押さえている存在はハッキリ言って、どうしようもないぐらいの”化け物”なんだよ。そんな”化け物”を相手にしてまで、血の繋がらない”妹”の為に”命”を投げ出すのかい?」
明良 二樹は謎かけをするように問いかけた。
「”命”を投げ出す?そんなことをしたらほむらはもっと悲しむだろうが。アイツが無事でもオレが死んだら意味はない。助けるからには絶対に自分の命も守ってほむらを助ける。その覚悟はできているし、諦めるつもりもない」
自意識過剰でもなく、できるからではなくやらなければならないこそ行動を起こす。
「ハハハハハ・・・そうかい・・・そいつは良い答えだね・・・じゃあ、早く妹さんの所へ行きなよ・・・」
明良 二樹は何処か嬉しそうに笑い、ジンに”バグギ”が居るであろう”アスナロ市 第三ドーム”を指さした。
ジンは、彼の行動に疑問を感じる。
「お前・・・あの化け物とつるんでいたんじゃないのか?」
「まさか。ちょっとした顔見知り程度だよ。あの雷獣とはね」
成り行きで知り合いになったと明良 二樹は語る。彼らから見たら自分は”バグギ”側の人間なのだろう・・・
自分は真須美 巴の”遊び友達”であり、”バグギ”の下僕もしくは仲間になった覚えなどなかった。
それは”真須美 巴”も同様であると彼は確信していた。あの化け物は都合がよいから”遊び友達”を助けて自身の陣営に引き込んでいるだけなのだと・・・
”真須美 巴”自身も一応は、不利な状況を助けられた分だけの義理を果たしているだけだった。
本心では、利用しようと手を差し伸べた”バグギ”を疎んじており、隙あらば寝込みを襲うことはやってのけるだろう。
「そっちも色々あるみたいだが、深くは聞かない。オレはほむらが大事だから、このまま行かせてもらうぞ」
ジンはそのまま”アスナロ市 第三ドーム”へ向かおうとするのだが・・・
「ま、待てっ!!さっきから聞いていれば、お前達は街がどうなっても良いのかっ!?!街の人達のために戦おうとは思わないのか!?!」
先ほどからの様子に青年は声を上げて二人に抗議をする。明良 二樹は、空気を読めよと視線を向ける。
”自分の街の危機”と騒いでいるが、その実何もしないこの青年は”街の危機”に心を震わせているのではなく”危機を憂う自分”に酔っているだけの単なる”俗物”であると明良 二樹は評価を下した。
「オレはそんな大きなことができる人間じゃねえよ。妹が悲しんでいるときに自分の事しか見えていなかった情けない奴だったよ。だから、今度は情けないところを見せるわけには行かねえんだ・・・それに・・・」
蒼い目が青年を鋭く睨む。
「ほむらの居ない世界なんて、オレは嫌だね」
ジンにとっては、例え不幸も何もない理想郷であっても、そこに”大切な人達”が居なければ意味はない。
そのまま背を向けてジンは、走り去っていった。その背を青年は
「ま、待てっ!!?話はまだ・・・・・・」
「君と話すことは何もないよ。正直言って君は不快だ」
「な、なんだと!?!」
気が付くと青年はそのまま明良 二樹に振り返りざまに殴られ、そのまま伸びてしまった・・・・・・
気絶した青年に対し、明良 二樹は改めて笑みを浮かべた。
それは、ジンに向けられたものとは程遠い”悪意”に満ちたものだった・・・・・・
「ふぅ~ん。貴方って・・・極悪人なのにそういうことをするんだ」
明良 二樹の背後のテーブルにいつの間にか聖 カンナが座っていた。
「あぁ、君か・・・極悪人でも心を動かすものの一つや二つはあるものさ」
「それは、貴方にとって何なの?」
聖カンナの問いかけに明良 二樹は少し寂しそうに笑い
「僕が愛してやまない・・・失ってしまったモノ・・・それは”兄弟”だよ」
自分と同じ日に生まれた半身であり、お互いを誰よりも想っていた唯一の”肉親”・・・・・・
明良 二樹という”悪”に遺された最後の”良心”であった・・・・・・
「・・・兄さんは帰ってこなかったけど・・・」
内心、兄弟が再会できることを柄でもなく祈りつつ彼は、魔号機人 凱に視線を向ける。
「やれやれ・・・・・・被害者の会の集合か・・・」
明良 二樹はカフェを取り囲む見覚えのある顔をした”ホラー”の群れに対し、
「魔号機人 凱・・・・・・”鎧装展開”を命じる」
彼の指示に応えるように魔号機人 凱は自身の前方に”円”を描き、そこより”異空間”に秘匿している自身の”鎧”を召喚する。
それは”白骨化した狼”を模した”鎧”であった・・・・・・
単なる機械人形風情が”魔戒騎士”のように鎧を召喚したことにホラー達は驚きの声を上げるが・・・
「・・・単なる自立型 魔導具じゃないよね・・・凱は・・・一言でいうなら、”人造魔戒騎士”だね」
彼の言葉通り、魔号機人 凱は一分も掛けずに取り囲むホラーを一刀の元、切り伏せていた・・・・・・
せめて明良 二樹だけでもと向かうホラーも居たが、それすらも切り伏せ、一歩たりとも彼に触れさせることはなかった・・・・・・
『こ・・・この太刀筋・・・何故、こんな人形が・・・牙狼のモノを・・・・・・』
消滅していくホラーは、過去に存在した”最強”と言われた”魔戒騎士”の姿を魔号機人 凱の太刀筋に見た。
その頃、ほむらは、真須美 巴との戦いを繰り広げていた・・・
イベント会場全体を戦場として、ほむらは”楯”よりサブマシンガンを取り出し迫りくる真須美 巴達に向けて放つ。
チョーカーに埋め込まれたソウルジェムを狙って打つのだが、依然として彼らは平然としており、人数も2人からさらに4人、5人と増えていたのだ・・・
「キャハハハハ!!!貴女、そういうのも使うのね?奇遇だわ、私もよ!!!」
背後の影から”真須美 巴”が飛び出す。その手には銃器が握られており、ほむらに向かって発砲をする。
発砲された弾丸は勢いよくほむらへ向かうが、それらをほむらは回避し逆にカウンターで”真須美 巴”を撃破するのだが、依然として真須美 巴は弾丸により、ソウルジェムはもちろんのことながら、頭部の半分を損壊させても口元は相変わらずの笑みを浮かべていた。
「昔の私は、ここまで”力”は強くなかったのよ♪そこらで武器を盗んでたのよね~~」
その話にほむらは、戦いの最中であったが彼女の発言に若干の”身に覚え”を感じた。
(こんどから、そういうところから調達するのは辞めましょう・・・)
今の自分には近接用の武器、弓等も持っている為、戦力にこれといった不満はないのだが、真須美 巴の過去等どうでも良いが、彼女の同類にはなりたくないと心から誓うのだった・・・
「貴女も多分、能力と魔法で武器を作っていないところから、多分”時間停止”に比重が大きいから、一般の魔法少女よりも”弱い”ってところかしら・・・」
いつの間にか目の前に”真須美 巴”が立っており、”鉤爪”を使い、斬る。
「だからどうしたの?私のような雑魚は、余裕だと言いたいわけ?貴女は」
「キャハハハハハ!!!そういう訳じゃないのよ!!!むしろ魔法少女は”魔法”を誇るから、そういう相手は色々と付け込む隙が大きいから攻略は簡単なのよ・・・貴女の場合は・・・ちょっと厄介なのよね」
真須美 巴は、ほむらを褒めているようであるが、ほむらはこれを自分に”時間停止”を使わせようと誘導しているように考えていた。
「だったらこのまま、継続させてもらうわ」
ほむらの言葉に応えるように迫ってきた真須美 巴達の攻撃を回避するために”中距離用の武器”を取り出す。
移動補助用のワイヤーを発射するワイヤーガン型の魔導具を上空に放ち勢いよく上昇することで回避する。
移動補助用ではあるが、ワイヤーに魔導火を纏わせることもできる為、武器としての用途も高い。
上空に上がり、さらに反動をつけてほむらは移動し、真須美 巴らとは距離を取る。
「キャハハハハハ!!!!良いわよ!!!お姉さんは付き合いは良い方なのよ♪」
気が付けば真横に真須美 巴が居た。
だが、この真須美 巴は自分を攻撃する意思がないのかただ笑っているだけだった。
(こいつの能力は・・・一体何?・・・気が付いたら”影”のように・・・直ぐ近くに・・・)
ほむらは自身の足元に視線を向けるとイベント会場の展示物やら鉄骨などの影が至る所にできている。
そして真須美 巴は自分を視線で追いながら、別の場所にも気を配っていることに気が付いたのだった・・・
影魔法少女達を囮にして”何か”をしているのだ・・・
(真須美 巴の能力は・・・試してみる価値はあるわね)
ならばこの場ではっきりさせなければならなかった。
手持ちの閃光手榴弾をすべて楯から放出しそれらをワイヤーで切り付けることで発動させた。
会場全体が白に染まるほどの光が弾ける。音と光により御崎海香は思わず目を閉じた。
真須美 巴は怯むことなく目の前の光と音に対し・・・
「あ~あ、ばれちゃったわね・・・」
光により会場全体の影が消えるが、一部の影が残りそれらは一斉に”真須美 巴”の所へ集まり始めたのだ。
「貴女の能力はそういうことだったのね」
魔法少女の残留思念を嗾けたのは自身の影を操る能力を悟らせない為であった・・・
魔法少女の残留思念を”囮”にして、自分の魔法を隠していたのだろう・・・
最初は分身、もしくは”水銀”等を操る能力だと考えたが・・・奇妙な違和感を感じ、閃光手榴弾で全てを明るくし、影が真須美 巴に集まるのを確認したのだ。
「キャハハハハハハ!!!!随分と頭が回るじゃない!!!私の能力を見破るなんて!!!!」
能力が割れたのに、真須美 巴は笑っていた。少なくとも能力を知られた程度で”攻略”される気はないらしい。
「・・・お互い様よ・・・」
こちらも時間停止を見破られている。何故、時間停止の発想に真須美 巴が至ったのかまでは分かりかねていたが、彼女の能力を知り理解した。
昨夜の時に、真須美 巴は影から”時間停止”をする瞬間を見ていたのだ・・・
真須美 巴の能力は”影に干渉する”こと・・・
”自身の影を分身に見立て、さらに意思の及ぶ範囲で様々な影に干渉、操ることが出来る”
このような”相手”では”時間停止”は通用しない・・・
「私の魔法”影への干渉”だけど・・なにも影は物理的なモノばかりじゃないのよ。こんな風にね」
牧カオルは突如として身体に何かが・・・ソウルジェムに誰かの意識が入ってくるのを感じたのだ。
「キャハハハハハハ!!!!(な、なに?これ・・・私の身体が勝手に!?!)」
彼女は自分の身体を操っている存在は”真須美 巴”であることを理解した・・・
その範囲は、心に潜む”影”にも干渉することが出来、波長が合えばその人物の身体を乗っ取り自身と同じようにさせることが可能であった・・・・・・
「こういうこともできるのよね♪ どうかしら?」
得意げに語る真須美 巴にほむらは薄ら寒いモノを感じつつも彼女に向かっていくのだった・・・
(この能力だとソウルジェムも体にはなく何処かに隠している可能性が高い)
影から影へと本体である”ソウルジェム”を移動させることが可能であるとほむらは、推察した。
事実本体である”ソウルジェム”を京極神社”で攻撃の道具として使っていた・・・
牧カオルの”影”を通じて”ソウルジェム”を移動させて・・・・・・
単なる小心者の”悪”ではなく、自身の命すらも”攻撃”に使う彼女にほむらは改めて”強敵”であることを認識した。
”能力”は把握したが、決定打を欠いていた・・・
「キャハハハハハ!!でも、そろそろ・・・飽きてきたわね」
真須美 巴は会場全体の”影”すべてに意識を広げる。魔法少女らの残留思念すらも飲み込んでいく・・・
その際に表情を変えることが出来ない”彼女”らが苦痛な視線をほむらに向けていく。
会場全体の影がまるで一つの”生き物”のように動き出し、ほむらの”足”を掴んだのだった。
「し、しまったっ!?!これじゃあ、”時間停止”も・・・」
今更、何を言っているんだとほむらは自嘲する。最初から”時間停止”が通じない相手に何を言っているのだと
「キャハハハハハ!!!見えるわよ・・・貴女の心の”影”が・・・貴女はどんな”影”を持っているのかしら?」
ほむらは、まるで心臓を掴まれるような不快感が自身の中に入り込もうとしているのを感じ、苦痛に表情を歪ませた・・・・・・
続 呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 拾参
あとがき
明良 二樹と名もなき青年(笑)のやりとり・・・
新たに起動させた”魔号機人 凱”。この魔号機人は他とは違い、自身の自我を持っていますが、自身を道具として認識し、価値観や善悪に悩む心を持ち合わせていない存在です。騎士が契約している魔道輪のように話せますが、あくまで話す真似事の範囲です。
故に明良 二樹にとってはこれ以上いない”相棒”です。
デッドコピーですが、魔戒騎士のように”鎧”を召喚することが可能。
魔戒騎士としての戦闘技術は”とある騎士”の情報を元に作成されています。
ちなみにこれも”真須美 巴”が彼に渡したモノ。バグギには見せていません・・・
明良 二樹にも若干の”良心”に近い感情が残っています。それは”兄弟愛”という感情です。実を言えば彼は、人を貶めて破滅させることを好みますが、”兄弟”、”姉妹”には手を出さなかったりします。それは自身が”兄弟”であり、双子の兄を失ってしまったことが原因です。
彼は彼でホラー バグギとは顔見知り程度の知り合いで、仲間に等なった覚えはないと公言しています。これは、真須美 巴も同じです。
真須美 巴の能力は”影に干渉する”というモノで、影を操り自身の分身を作り出せるだけではなく、さらには心に”影”があり、相手の思考に近ければ同調し相手を操ることも可能というモノです。
影を通して様々なモノを見ることが可能なので、ほむらの”時間停止”も影を通じて把握していました。
”時間停止”を使った場合、ほむらの影を通じて一瞬で仕留める算段を整えていました。
バグギ側に居る二人ですが、あくまで協力者の立場で居る為”下僕”になった覚えなどなく、隙あらばという具合です。
何故なら二人は”悪”ですので、敵は同じ”悪”なのですから・・・
ほむらの”兄”。ジン・シンロンが主人公していますが、主人公は”バラゴ”なので、決してほむらは兄のヒロインではありません。