呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝)   作:navaho

53 / 95


バグギとの戦闘に入ります。

使徒ホラー バグギはかなり強い部類に入ると考えていますので・・・

この小説ではバラゴにとって風雲騎士に次ぐ強敵です。


呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 漆

「そんな・・・・・・・ルカ・・・・・・綺麗なモノが・・・黒いモノに燃やされた・・・・・・」

 

双樹 ルカ・・・ではなく双樹 あやせは暗黒騎士 呀により一刀の元、焼き切られたホラー ジャムジュエルの最期を嘆いていた。

 

「なんだ・・・アイツ・・・・・・狼か・・・確か噂だと・・・・・・」

 

ユウリは眼下に立っている 暗黒騎士 呀の姿である”狼”を模した鎧に聞き覚えがあった・・・・・・

 

まだ魔法少女になる前に好んで読んでいた”都市伝説読本”に記載されていた”狼を模した鎧の騎士”だった・・・

 

自身が負けを認めた”ホラー ジャムジュエル”をほぼ瞬殺した存在に冷や汗をかくと同時に、都市伝説、噂でしかないと思われていた”鎧の騎士”の実在に半ば興奮していた。

 

「・・・・・・やる気なくした・・・・・・帰る・・・・・・」

 

双樹 あやせは欲しいと願った”美しい怪異 ホラー ジャムジュエル”を目の前で消されたことによるショックで戦闘意欲が無くなり、肩を落としてこの場から離れていくのだった・・・・・・

 

「・・・・・・・・こんなのってないよ・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

『このまま静かにするのは、勿体ない。せっかくアスナロ市に来たのだ。”雷獣伝説”を見せつけてやろう』

 

バグギはそのまま暗黒騎士 呀のいる真下へと降りていく。

 

真須美 巴と明良 二樹はこれから始まる戦いに期待を寄せていた。

 

「”雷獣伝説”ってあの昔話の・・・あのバグギが雷獣本人ってことでいいのかい?巴ちゃん」

 

「本人がそういうのなら、そういうことじゃないの。キャハハ、ホラー食いのホラーが一般のホラーと比べてどれだけ強いのか・・・この目で見られる機会なんて滅多にないわよ」

 

「ハハハハハ。そうだね・・・惜しむらくはこの素晴らしい戦いを特等席で見られるのは限られた人でしかないんだよね」

 

 

 

 

 

 

重量を感じさせる落下音と共にトレンチコートの大男”バグギ”は暗黒騎士 呀の前に降り立った。

 

アスファルトの道路が揺れ、皹を入れる。赤い無機質な輝きを持つ目が呀の白い目と交差する。

 

「昼間に使ったあの下らない絡繰りと同じか?それならば・・・何度やっても結果は同じだ」

 

呀は、バグギの意識が宿ったと思われる”人型の機械人形”に対し挑発するように剣を振るった。

 

『クククククク・・・実験を伴って改良を重ねていくものだぞ、暗黒騎士・・・』

 

バグギの宣言に応えるようにアスナロ市全体のライフラインである”電気”に異常が発生した。

 

アスナロ市タワーを彩っていたイルミネーションが消え、町全体の電子機器が異常を起こし始めたのだ。

 

街頭のライトが割れていき、夜空は雷雲を伴った轟音を轟かせている。

 

全ての”電気エネルギー”がバグギを中心にしていたのだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

バグギによる”異変”をエルダは即座に感じていた。ホテル全体が停電に陥り、街の明かりが消えていく。

 

「これが・・・太古より雷雲と共に現れていた 使徒ホラー バグギの”力”か・・・」

 

これまでに相対してきたどの相手よりも強い。おそらくはこれまでに主人が戦った”相手”の中では最強格であろう

 

「え、エルダさん・・・これは・・・」

 

ミチルは正直に言えば、エルダが苦手であったが、この異常事態に不安を隠せないでいた。

 

「おまえは少し落ち着け・・・ほむらと合流する・・・そこにバラゴ様も居られる」

 

エルダは自身の指先より金属製の爪を鋭い音共に出現させたと同時に”転移の術”を使い、ミチルと共に離れるのだった。

 

「・・・・・・私には何か言うことは他にないの?なんか・・・・・・ムカつく」

 

聖 カンナはミチルに触れることが叶わなかったことを悔しがったが・・・・・・

 

「真須美 巴のパートナーが動き出したか・・・あんな奴と手を組むなんて・・・”人間”の考えることは分からないな」

 

 

 

 

 

 

 

ほむらはまさかこのアスナロ市で”兄”と再会することになるとは思ってもいなかった為か心を乱してしまった。

 

脳裏に”正義 JUSTICE”の魔戒札が浮かぶ。

 

(あの魔戒札の心を制しよとは・・・このことも含まれていたのね・・・まだまだだわ・・・・・・)

 

魔戒導師はその術で僅かな先を見ることができる。だが、その先は常に変化しており予想だにしない展開を見せる。兄との再会がまさしくそれであったのだから・・・・・・

 

「き、君は昼間の!?!」

 

若葉 みらいがほむらの姿を見て思わず叫ぶ。アスナロ市で敵対行動を互いにとっていた為か両者に一瞬だけ緊張が走るのだが・・・・・・

 

「そうね・・・昼間の決着をつけたいのなら後にしましょう。私は兄を一刻も早くこの場から離れさせたいの」

 

「・・・兄?」

 

若葉 みらいは振り返りジンに視線を向ける。

 

ほむらとジンは容姿が大きく違うため血縁関係があるとは思えなかった。

 

「あぁ、みらいちゃん。ほむらは、オレの妹みたいな・・・いや、妹なんだ」

 

懐かしそうにいて愛おしそうに”肉親”を見るジンに若葉 みらいは先ほどまで胸中に存在していた”暁美ほむらへの敵対心”を消した・・・・・・

 

「・・・相手はさっきのホラーとは比べ物にならないほど恐ろしいわ」

 

”もしかしたら・・・ワルプルギスの夜よりも”・・・まさかここでそれ以上の脅威を見ることになるとは・・・

 

「ホラーってあの魔女じゃない怪物のこと?邪気が強すぎて・・・・・・」

 

若葉 みらいの首元のソウルジェムがホラーの邪気に影響されて濁っている。

 

「慣れていないとそうなるわね。これを使って・・・それと向こうのビルの屋上に”プレイアデス聖団”のメンバーが居るわ」

 

「もしかして・・・君がサキ達を助けてくれたの?」

 

まさか”プレイアデス聖団”の仲間が生きていることに若葉 みらいは表情を綻ばせた。

 

「えぇ、不本意だけど、ミチルが泣くから仕方なくね」

 

「それでも良いよ・・・ありがとう」

 

ほむらの口調こそは慇懃無礼ではあるが、若葉 みらいにとっては仲間を助けてくれた事は彼女にとって、ほむらのそんな態度などどうでも良かった。

 

「だったら、早くこの場から逃げなさい・・・アイツらは向こうに居て意識もバラゴとバグギに向いているから今の内よ」

 

「わかった。心配はいらないかもしれないけど・・・気を付けて」

 

若葉 みらいは魔法少女の脚力を使い、高く飛翔しその場を離れるのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「話はもういいのか?ほむら」

 

気が付けば、兄 ジン・シンロンが真っ直ぐ自分を見ていた。

 

思わず視線を逸らしたくなったが、ここで逃げ出してはならない・・・・・・

 

「うん・・・話は終わったよ。久しぶりだね、ジンお兄ちゃん」

 

「久しぶりもなにも・・・こんな夜中に何をやってるんだよ・・・馬鹿をやるのはオレだけでよかったのによ」

 

気が付けばジンはほむらのその華奢な身体を抱きしめていた。

 

「ったく・・・ちゃんと食べてたのか?おばさん達・・・すごく心配してたんだぜ。オレもだけどよ」

 

自分が知っている頃よりも大きくなった身体はかつて少年だった彼の面影を残していた・・・・・・

 

無言のままほむらは、なされるがまま兄 ジンに身を委ねていた・・・・・・

 

かつて感じていた”兄”の温もりを懐かしく感じながら・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

去り際に気になったのか、若葉 みらいは血の繋がらない”兄”と”妹”の姿に笑みを浮かべていた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

去った若葉 みらいと入れ違うように京極 カラスキが複雑そうに兄妹を見ていた。

 

「ったく・・・難儀な兄妹だな・・・おまえらは・・・」

 

急いで離れなければと思い、近くにメイ リオンが居たのでそちらに声をかけることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

(何故・・・この場に彼が居る・・・・・・)

 

まさかこの場にほむらの”兄”が居合わせたことに内心驚いていたが、それ以上にバラゴの心を乱したのが、ほむらがなされるがままに彼に身を委ねている光景だった・・・・・・

 

激しい嫉妬を感じ、直ぐに彼女から”ジン シンロン”を引きはがしたい感情に囚われた。

 

二人は男女の関係ではなく”兄”、”妹”の関係である為、バラゴの考えるような感情を二人が抱くことはない。

 

だが、家族を知らないバラゴにとって、それを理解すること等できなかった。いや、彼は知らないのだ・・・

 

人が抱く”愛”という感情を・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうした暗黒騎士?我を前に何を気にしている?』

 

「っ!?!」

 

気が付けば巨大からは想像ができぬほどの素早さでバグギが迫ってきていたのだ。

 

らしくもない油断をしてしまい、呀は一瞬反応が遅れてしまうがバグギの拳を強引に掴む。

 

『ククククク・・・そうなくちゃ・・・面白くない・・・なぁあっ!!!』

 

拳からバグギの”雷”が放電される。信じられないことに・・・・・・

 

「っ!?!(手が熱い・・・まさか・・・・・・)」

 

バグギの雷は熱を伴い、鎧の下のバラゴの手に熱を与えていたのだ・・・・・・

 

さらに掌底を呀の胸元に叩きつけたと同時に強烈な衝撃が襲ってきた。その衝撃により呀は後退し、壁に叩きつけられてしまった。

 

「バラゴっ!?!」

 

まさかあのバラゴがやられるとは思っても居なかったのか思わず、ほむらは叫んでしまった。

 

「・・・・・・・・・」

 

バグギの拳を掴んだ左手を呀は見る。鎧はホラーのあらゆる攻撃を弾くはずなのだが・・・・・・

 

『暗黒騎士よ・・・ホラーもお前達も一般人から見れば非常識な超常の存在であるが、その鎧も金属には違いないだろう・・・当然のことながら我の”雷”も通用するであろうな』

 

その証拠に左手は痺れていたのだ。さらには急所である肺の付近に強い衝撃を受けた為か呼吸が乱れていた。

 

本来ならば特に支障などないはずだが・・・バグギが相手であれば話は別であろう・・・

 

さらにはイレギュラーな事に護るべき存在である”ほむら”がバラゴの感情を乱していた。

 

『ククククク・・・メシアと一体化するなどと言った割には所詮は、魔戒騎士・・・我の敵ではない』

 

勝利宣言をするようにバグギはさらに追い打ちをかけるべく迫ってきた。

 

自分を心配そうに見ているほむらに何を感じたかは彼のみ知ることであるが、少なくとも”悪感情”ではなかった

 

轟音と共に強大な雷のエネルギーが暗黒騎士 呀に迫るが、暗黒漸を召喚しそれを雷エネルギーへと投げる。

 

投げられた暗黒漸はそのまま”避雷針”となり、迫るバグギの雷エネルギーを逸らしたのだった。

 

黒炎剣を構え、呀はバグギのボディに斬る。斬られたバグギのトレンチコートが裂け、露わになるのは昼間と同じ機械部品を内蔵した金属の身体であった。

 

身体全体より”電気エネルギー”の結界を張るように放電を行い、呀を迎撃する。

 

大量の熱と衝撃を伴う攻撃に呀の鎧が僅かに焼け、煙すら上げていた。

 

バグギの力は凄まじく、近隣にすら影響を与え無差別に電気エネルギーと衝撃がアスナロ市全体を揺らす。

 

足元が揺れ、さらには轟音が常に夜空に響く。過去に起こった”アスナロ市”の”災厄”の再現であった・・・

 

繁栄を謳歌していた近代都市群の灯りは失われ、暗い夜の闇の世界がそこにはあった・・・

 

破壊と嘆きと悲鳴を伴って・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・バグギ・・・この世界はお前の支配する世界であっても、私はお前達ホラー喰らう」

 

僅かに焦げ、赤熱化した鎧は生身であるバラゴにもダメージを与えていた。

 

だが彼はここで負けるわけには行かなかった・・・全ては”究極の存在”になる為にも・・・・・・

 

 

 

 

 

 

           ”・・・・・・・バラゴ・・・・・・・・・”

 

 

 

 

 

 

 

 

他者によって奪われてしまった最愛の存在を二度と奪われない為にも”力”を手に入れなければならない。

 

今現在、自分に寄り添ってくれている”暁美ほむら”と”最愛の母”の姿が彼の中で一つになる・・・・・・

 

「お前達ホラーが闇であるならば、僕はその闇をさらに超えよう!!!さらに深い闇そのものに!!!」

 

振り下ろした黒炎剣をそのまま突き立て、呀は眼前のバグギにその拳を振るった。

 

鈍い金属音が響きバグギの身体が揺れる。

 

関節が脆かったのか首が折れ、垂れるが痛がる様子もなく反撃の拳を振るうがバラゴは今度は受け止めずに同じ拳で応戦し、強引に関節ごと破壊し、がら空きになった胴体に突き立てられた黒炎剣を突き上げてバグギの身体を切り裂いたのだった。

 

『ククククク・・・さらに深い闇だと・・・暗黒騎士風情が・・・思いあがるなよ』

 

「っ!?!」

 

破壊されたボディから強烈な雷光を伴ってバグギ本体が飛び出してきた。

 

それは黒い瘴気を雷雲のように纏った”金色の獣”だった・・・・・・

 

『ハハハハハハ!!!!実に愉快だ、暗黒騎士 呀!!!お前は絶対に我が喰う!!絶対にだ!!!!』

 

雷雲を伴い、バグギは轟音と共に姿を晦ました・・・・・・

 

『いずれまた・・・会おう・・・その時は、人間らしく無様な最期を見てやろう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バラゴ!!」

 

”闇色の狼”に駆け寄るほむらに合わせるように呀の鎧を解除した。

 

解除した際に黒いローブで被っていた素顔が明らかになった・・・

 

「・・・・・・龍崎駈音・・・あいつ・・・・・・」

 

ジンは、先日暁美家で彼に会っていたのだ。

 

その彼はほむらの行方を知っていながら、意図的に隠していた。

 

さらに、龍崎駈音のことを”バラゴ”とほむらが呼んでいることにも疑問が浮かぶが、

 

彼、龍崎駈音には聞かなければならないことが山のようにある。

 

表情が険しくなったジンに対し、いつの間にか来ていたカラスキは

 

「ジン・・・言いたいことはおいらもわかる。ここは一旦抑えてくれないか」

 

「カラスキ・・・これが今夜厄介になるって言ってたお祓いか?それよりも、お前もほむらの事を知ってて隠してたのか?」

 

正直に応えろとジンは視線を厳しくし、語気を強める。

 

「いんや、正直、龍崎駈音さんの連れがアスナロ市に入っているって聞いただけでほむらちゃんって知ったのは、ついさっきだよ」

 

カラスキはジンに事情を話す場を設けると話す。

 

「・・・納得はしねえけど・・・・・・場所を変えるのは賛成だ。だけど、直ぐにその場所へ行くぞ」

 

これだけは譲れないとジンは語気を強めた。

 

「分かった・・・おいらの自宅兼仕事場の京極神社で全部話す」

 

カラスキはバラゴに視線を向けた。バラゴは”すきにしろ”と言わんばかりに無言であった。

 

今夜は拠点としていたホテルに戻るのは難しくなった為、不本意ながらも”ジン シンロン”と共に京極神社へ行くことを無理やり納得するのだった・・・・・・

 

「ジンお兄ちゃん・・・その・・・」

 

今更ながら身内に心配をさせてしまったことに罪悪感を抱くほむらだったが・・・

 

「お前はオレの妹だから・・・こういうことをするものだって納得させてくれ」

 

”アスカ”はかなり問い詰めるだろうが、ジンはそういうことができなかった・・・

 

「まったく・・・君って奴はぁ~、ジン。妹に甘すぎるんじゃないの?」

 

「うるせーやい!!世の中の兄貴ってのはそういうモノなの!!!」

 

ジンとメイのやり取りを傍目にカラスキはほむらに近寄った

 

「え~と、ほむらちゃん・・・騒がしいところなんだが、ソウルジェムは大丈夫かい?」

 

「はい・・・先ほどの戦闘で少し濁りましたが・・・貴方は・・・もしかして、カラスキさんですか?」

 

「えっ?おいらのこと覚えててくれたのかい?ほとんど、話さなかったのにな~~」

 

数える程しか顔を合したことがなかったのに自分を覚えてくれていることにカラスキは純粋に驚いていた。

 

「アスカお姉ちゃんが良く話してくれましたし、私も何度か話しましたから・・・・・・」

 

妙に距離を置いている態度を取っていたことが気になっていたが、彼はソウルジェムが濁ることが”大事”に至る事を知っている為、元々そういう位置に居た人間であると察したのだった・・・

 

そして、アスナロ市でのバラゴの協力者がカラスキであることも・・・・・・

 

「数年前のことなのにな・・・まぁ、手持ちもそうだが、こいつを使ってくれ」

 

頭を掻きながらカラスキは懐からグリーフシードを取り出し、ほむらに手渡すのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市 御崎海香の自宅 リビング

 

時刻は既に深夜を回っており、時計の針は午前二時半を指していた・・・

 

一時間前に降り始めた雨が今も降り注いでおり、窓を容赦なく叩いていた。

 

リビングには無言の四人の少女が各々過ごしていたのだが、誰一人として会話を行おうとはしていない。

 

数時間前の出来事があまりにも彼女ら”プレイアデス聖団”にとっては受け入れ難いモノだったからだった。

 

今夜の敗北に各々が重い雰囲気を出していた。

 

「ねえ・・・本当にアタシ達はさ・・・ミチルを取り戻せるのかな」

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

牧 カオルが話題を振るのだが、浅海サキは無言であり表情を険しくしていた。

 

「わからないわ・・・私達プレイアデス聖団の目的は”ミチルの復活”と”魔法少女システムの否定”だった」

 

御崎海香が悲痛な顔で”プレイアデス聖団”の目的を語る。何れも達成できていないのが現状であった。

 

「認識阻害が上手く機能しない・・・どうやっても・・・・・・」

 

自分達が思い描いた”魔法少女システム”はほとんど機能していなかった。

 

記憶捜査の魔法をアスナロ市全体に掛け、インキュベーターをジュウベえに置き換えるというものであり、さらにはグリーフシードに代わる代替品も生み出し、実行に移したのだが・・・・・・

 

最初は巧く行っても直ぐに認識阻害はエラーを起こしてしまう。ジュウべえによる浄化は効果を見せたと思われたが実際には表面を綺麗にしただけで浄化はほとんどできていなかった・・・・・・

 

中途半端に作用した魔法は、インキュベーターことキュウベえを認識しなくなる効果だけを残していた。

 

キュウベえに代わるジュウベえは、希望通りに機能せず・・・今はある場所に封印を施すに至っている。

 

「何が原因なのかしら・・・・・・」

 

全くもって分からなかった。ただ蓬莱暁美らが残したファイルには、曰くつきの土地等での魔法はどういう訳かその土地に沁み込んだ”陰我”によって修正され、機能しなくなるというモノが記載されていた・・・・・・

 

「このアスナロ市が呪われているっていうの?」

 

御崎海香は、かつてアスナロ市の取材でその歴史を調べてみると目を覆いたくなるような”歴史”が過去にあり、その為か一部では”曰く付きの土地”とも言われていたことを思い出していた。

 

かつてアスナロ市は”戦”、”飢餓”、”天災”が多発し、多くの人達が亡くなった忌まわしき土地であるとのことであり、さらには”雷獣”が人々に災いを振りまいていたという伝説も存在していた・・・・・・

 

当時の御崎海香は、過去の人達の迷信、世迷い言であると一笑したが、結局はこの状況を見る限り”アスナロ市”は自身の魔法”認識阻害”の結界が根付かないことと更には、あのビル街を襲った”雷”を思わせる衝撃は伝説に伝わる”雷獣”のその強大な力によるものではないかと彼女は考えていた・・・・・・

 

”伝説”が真実であったことに改めて身体を震わせていた・・・・・・

 

「つまり・・・過去に死んだ亡霊が私達の邪魔をしているということか」

 

浅海サキが苛立ったように呟いた。

 

彼女にとっては自分達の”目的”が達成できていない事の原因は”アスナロ市”そのものが自分達を邪魔していると考えていた。

 

今夜、一般人である 明良 二樹が忌まわしき”真須美 巴”と共に自分たちを攻撃したこともまた浅海サキに暗い感情を抱かせていたのだった・・・・・・

 

「サキ・・・そんな言い方はよくないよ・・・死んだ人達を悪く言うのは・・・」

 

若葉 みらいが浅海サキのあまりの言いように反論するが、それが彼女をさらに苛立たせた。

 

「みらい。私達の味方は私達しかいないんだ。それを邪魔する存在は一般人だって敵だ」

 

苛立つように”プレイアデス聖団”以外は敵であると語る 浅海サキに若葉みらいは友情以上の気持ちを抱いていたが、彼女に対し気持ちが若干ながら冷めていくのを感じていた・・・

 

「それはあの人だけだったでしょ。魔法少女は希望を見せるってミチルはボクらを救ってくれたのに・・・今のボク達は希望どころか”絶望”を振りまく”魔女”と変わりないよ」

 

若葉 みらいは、暁美ほむらと彼女の身内であった兄 ジン シンロンとその友人である メイ・リオンに危ないところを助けられた。

 

彼女が魔法少女になろうと思ったのは「トモダチが欲しい」というモノであったが、サキと友達に成れたことによりその願いはいつもそばに居てくれた”テディベア”の為に使うことにした。

 

関わり合いのない自分を損得なしで助けてくれた”一般の人”の存在が彼女を変えたのだ。

 

暁美ほむらとの因縁がないわけではないが、二人を護ろうとしていた場面を間近で見ていた為に彼女に対する敵対心はなかった。

 

かわりに抱いた感情は、”プレイアデス聖団”だけを見ていた自分が如何に視野が狭かったという事実と”プレイアデス聖団”の異常なまでの排他的な性格に対する失望であった・・・

 

「サキはもうボクが大好きなサキじゃないんだね・・・こんなことを続けてもミチルは喜ばないよ」

 

「何を言っている、私達の味方は私たち以外に居ないんだぞ!!!一般人ですらも私達の敵だ!!!」

 

自分達の身は自分で守るしかないということと守ってやれるのは”プレイアデス聖団”だけだと訴えるが・・・

 

「そんなことを言っているからだよ・・・じゃあね、サキ。大好きだったよ」

 

背を向ける若葉 みらいに対して浅海サキは

 

「待てっ!!どこへ行くつもりだ?」

 

自分を慕っていた若葉 みらいの離反に彼女は信じられなかった。一番の友達は自分であるはずなのに・・・

 

「何処へでもいいよ・・・私は魔法少女だから・・・希望を見せるのが仕事だから・・・」

 

未練はないのか、彼女は決して振り返らなかった。その様子に呆然とする浅見サキ、御崎海香 牧 カオルであったが彼女を引き留めることができないのか見送るしかなかった・・・

 

意外な離反者に対し、さらに空気が重くなる。

 

この雰囲気を何とかしようと牧 カオルは未だに来ていない神那ニコの話題を振るが、

 

「そういえば、ニコは?ニコの姿が見えないけど・・・」

 

「やられたわ・・・多分、あの時に・・・・・・」

 

おそらく魔法少女ではなく骸骨人形の手によって葬られてしまったのだろうと二人は考えた。

 

事実テレパシーによる連絡が全くつかないのだから・・・・・・

 

プレイアデス聖団は離反者である若葉 みらい等を含め、その数は四人にまで減ってしまったのだ。

 

「何とかしてミチルを取り戻そう!!そうすれば、みらいも戻ってくれるはずだ」

 

そのミチルを取り戻すためには12人目を処分しなければならない。

 

問題は、ホラーと戦えるほどの戦闘力を持つあの”暁美ほむら”を如何にして攻略するかだった。

 

だそれを行うのはあまりにも困難であった。浅海サキに同意する牧カオル 御崎海香に対し

 

宇佐木里美はその光景に対し、”プレイアデス聖団”は既に崩壊していると察した・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・私の事を探そうともしないんだ・・・あっ、私じゃなくてニコか・・・・・・」

 

御崎海香の自宅近くでワイヤレスイヤホンから聞こえてくる会話に聖カンナは呆れたように呟いた。

 

黒い雨傘を指し、雨に濡れながら遠のいていく若葉 みらいを見送る・・・・・・

 

ここで襲っても構わなかったのだが、とてもではないが”プレイアデス聖団”から離れた彼女を襲う気持ちになれなかったのだ・・・彼女に対する怒りも当然あるのだが、今はそれを発散すべき時ではないかもしれない・・・

 

「・・・・・・嵐が過ぎるまで大人しくしておいた方がいいわね」

 

アスナロ市に現れた”使徒ホラー バグギ”と”暗黒魔戒騎士 呀”との対決は”嵐”である・・・・・

 

”嵐”の中を出歩くなど、愚か者のすることである故に聖カンナは待つことにしたのだ・・・

 

嵐が過ぎるのを・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市 明良 二樹 自宅マンション

 

「今夜は楽しかったな・・・・・・それにお土産も貰ったしね」

 

1LDKの一室に設置してあるベッドに腰を掛けながら、明良 二樹は今夜の出来事を振りかえり、楽しんでいた。

 

サイドテーブルの上には箱に詰められた”グリーフシード”とその脇には”トランク”に収納された”魔号機人”があった・・・

 

あの後、彼は真須美 巴から魔号機人を譲り受けそのまま彼の持ち物となったのだ。

 

魔号機人に対し、明良 二樹はトランクに触れ語り掛けた・・・・・・

 

「君達には本当に感謝しているよ・・・これからもっとやれることが増えそうだ・・・今までは対抗策がなかったから”魔法少女”とは距離を置いていたけど・・・こちらから攻めてみるのも面白いよね」

 

本当に楽しかった・・・全てをぶち壊す瞬間が本当に愉快だった・・・・・・

 

魔法少女の絶望する様ときたら本当に愉快なモノだった・・・

 

堕ちた後の事なんて、あまり楽しいものではないと思っていたが堕ちて更に壊れていく・・・

 

なんて愉快なんだろうか・・・ああ、これからの日々が楽しみになる・・・・・・

 

「巴ちゃんは・・・もっと楽しいイベントに出るみたいだけど・・・いいなぁ、僕も参加したいよ」

 

あの”闇色の狼”の強さは想像を絶しており、魔号機人を束にしても勝てそうにないと彼は考えていた・・・

 

”使徒ホラー バグギ”に至っては、単純な破壊力ならば”闇色の狼”を上回る。

 

「あ~あ、早く遊びの誘いが来ないかな~~」

 

今現在、アスナロ市で繰り広げられている一大イベントに彼は子供のように高揚していた・・・・・・

 

「誘いが来るまでの遊び相手は・・・そうだ・・・あの中には確か・・・・・・」

 

直ぐにスマートフォンである人物を検索する”作家 御崎海香”を・・・・・・

 

「やっぱり居たよ♪ひゅぅ~~~♪明日さっそく遊びに行こうかな、もちろんアポなしでね♪」

 

彼の部屋には魔号機人が5機ではなく、さらに2機追加された7機がトランクでの待機状態となっていた。

 

 

 

 

 

雨が上がったアスナロ市の朝は普段と違い、混乱の極みにあった・・・・・・

 

突如として発生した異常な現象による都市部の一画が崩壊したことと都市中の電子機器が過電流により破壊されており、都市のセキュリティ機能は完全にダウンし、人々は昨夜の出来事に不安と恐怖を抱いていた・・・

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市 御崎海香自宅 

 

「ここか~噂の売れっ子小説家にして・・・魔法少女の御崎海香先生の自宅は・・・・・・」

 

失意に沈む”プレイアデス聖団”に単なる人間による”悪意”が追い打ちをかける・・・・・・

 

「プレイアデス聖団のみんなぁ~~~、あ~そび~ま~しょ~」

 

明良 二樹の背後には6機もの”魔号機人”が赤い目を光らせて佇んでいたのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

続 呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 捌

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

物語上の退出された方 まとめ・・・

双樹 あやせ 欲しくてたまらないけど手に入らない美しさを持ったホラー ジャムジュエルに魅入られるが、呀に殲滅させられ、意気消沈したためそのまま退出・・・
先の未来で”ホラー”に魅入られた為、何かしらやらかす予定。

若葉 みらい 一晩で色々ありましたが、現状の自分達の状況がかつて自分を救ってくれた”和沙ミチル”が望んだことと正反対である事、プレイアデス聖団の排他的な性格に嫌気が差し離れます。またほむらとジンの関係を見て、このままではいけないと考えて、プレイアデス聖団を去りました。

聖 カンナ  使徒ホラー バグギと暗黒騎士 呀がアスナロ市で激突することに危機感を覚え、”嵐”が過ぎるのを待つ為、身を隠します。
先の未来で”双樹 あやせ”同様に何かしら騒ぎを起こす予定。

プレイアデスより離反者が二人ほど出ましたが、キバ時間軸でもかずみ☆マギカの出来事は起こる予定です。ただ、その展開はかなり異なりますが






そしてジュウベえ・・・モブ以下になってしまいましたが、未来では活躍できる時代が来るでしょう・・・・・・

できれば、ほむらと対面させたかったのですが、それは叶わなかったのは私の力量が足りなかったのでここは、今後の何かしらの課題にしたいところです・・・・・・

以上が退出された方々ですが、ジュウベえはちょっと違う気がしないでもありません。



明良 二樹さん。チョイ役の筈がほぼメインの悪役に(笑)

彼は良い仕事をしてくれます。まさかの単独でのプレイアデス聖団を攻撃・・・

次回は、プレイアデス聖団を攻撃する明良 二樹さんが出張ります。




バラゴは、ほむらを危ない目で見ています(汗)

カッコいい悪役というよりも色々拗らせた”主人公”ってやっぱり重い・・・・・

危機感のないほむらに、誰か一言をと思わなくもないです・・・・・・

まどか「ほむらちゃんにはジンさんが居るでしょ!!そんな危ない〇ジさんから早く離れないとだめだよ!!!」

ほむら「えぇ~~、ジンお兄ちゃんはお兄ちゃんだし、バラゴは別に〇ジさんって感じもしないし、話も合うから、一緒に居ると気が楽よ。皆が言う程危なくないわよ」

何気にほむらを巡る修羅場まで(汗)見滝原の風雲騎士一家と違い、バラゴ、ほむら組は展開が何だか重い・・・・・・


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。