呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝)   作:navaho

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今回で上条恭介編は決着です。

さやかの”願い”と”奇跡”の結末です・・・・・・








第弐拾六話「上条 恭介 後編 終」

”ねえ、お姉ちゃん。この楽器ってヴァイオリンだよね”

 

”そうね。クラシックではよく見かける楽器よ”

 

時折、TV等で見かけるヴァイオリンを興味深そうに幼いさやかは見ていた。

 

”うふふふふ。ヴァイオリンはお高いイメージがあるけど、意外とストリートで演奏したりする人も居るのよね。ステファン・グラッペリ辺りが有名かしら”

 

”えぇ?ヴァイオリンって、お金持ちの子がするもんじゃないの?”

 

”ほとんどがそういうイメージを持つ人が多いわね。ステファン・グラッペリはクラシック奏者じゃなくて、ジャズヴァイオリ二ストで中古のヴァイオリンを買って、路上や庭で演奏をしてて、89歳まで現役だったわね”

 

”えぇえええッ!!89歳っておじいちゃんじゃん!!!”

 

驚くさやかが微笑ましいのか、姉 蓬莱暁美は軽く笑いながら

 

”うふふふふ。そもそもヴァイオリンは放浪する人達が演奏することも多くて、その理由が持ち運びがしやすいということなのよ。本来なら、もっと身近で親しみやすい楽器なんだけどね・・・さっそくだけど、私が弾いてみましょうか?”

 

”おねえちゃん、ヴァイオリン持ってるの?”

 

”そうよ、この間、弓の張り替えと一緒にメンテナンスを頼んでおいたのよ。アレは私のお爺様の形見だからね”

 

二人は、楽器店に入りそのまま蓬莱暁美は預けていたヴァイオリンを受け取った後にさやかを連れて見滝原文化ホール前の公園へと足を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原市 見滝原文化ホール 公園

 

美樹さやかは、ソラと二人で見滝原文化ホールの施設の一つである公園に来ていた。

 

見滝原市における演奏会などのイベントで使用される施設であり、美樹さやかにとっては思い出深い場所であった。

 

「アタシと恭介が出会ったのは、ここだったんだよね・・・」

 

「そうだったんですか。さやかにとっては二人が初めて出会った場所と言うわけですね」

 

懐かしそうに公園に足を進めるさやかに対して、ソラは物珍しいのか周りを興味深そうに見ていた。

 

そんなソラの様子が微笑ましいのか、さやかは

 

「それでね、ソラ。ここは色んな発表会もやっててね。来月もヴァイオリンを含めた発表会をやる予定だって」

 

さやかは電子掲示板に表示される来月開かれる発表会をソラに教える。さやかの表情は得意げだった。

 

想い人であった上条恭介と出会ったのはこの公園で姉がヴァイオリンを弾いてくれた時、その音色に誘われるようにやってきた少年こそが彼だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

さやかの知っている”きらきら星”、”童謡”、”G線上のアリア”等の一度は聞いたことのある曲を蓬莱暁美は一通り演奏する。

 

初めて間近で聞く”ヴァイオリンの演奏”にさやかは終始笑顔で聞いていた。

 

演奏が終わるたびに拍手をし、その演奏を聞きつけて、数人の人達が足を止めて聞いていく。

 

人が集まるごとにさやかも満足そうに笑いながら、姉を見る。

 

一通りの演奏が終わり、拍手を受けて蓬莱暁美は軽く頭を下げて礼を行った。

 

人々が解散する中、一人の少年だけが熱心に蓬莱暁美と手に持つ”ヴァイオリン”を見つめていた。

 

”あら、貴方、熱心に見ているのね、ヴァイオリンがそんなに気になるの?”

 

少年は戸惑いながらも頷いた。そんな少年に蓬莱暁美は少年 上条恭介の元へ近づき、

 

”気になるのなら、一曲弾いてみる?”

 

”ぼ、ぼくが・・・むりだよ”

 

楽器を触らせてもらえることは嬉しかったが、まさか弾かせてもらえるまでとは思っていなかった為、断ろうとするが・・・・・・

 

”大丈夫よ。私が一緒に教えながらだから、貴方の思うようにやって見せて・・・”

 

ヴァイオリンの持ち方を教え、弓を持つ手は不慣れなのがぎこちなく頼りないものだったが、傍に居る年上の少女に少し顔を赤くしながら、上条恭介は幼いながらも”きらきら星”の演奏を始めた。傍では、同年代のさやかがその光景をニコニコしながら見ており、三人を包む空気は穏やかなモノだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの時から恭介とアタシはお姉ちゃんと一緒にヴァイオリンを聞かせてもらったり、習ったりもしたんだよね」

 

「さやかは、以前はヴァイオリンを演奏していたんですか?」

 

「うん・・・・・・一緒に始めたはずだったんだけど、恭介の方がアタシよりもずっと才能があって、あっという間に差をつけられたんだよね」

 

一緒になって始めたのに、あっという間に差ができてしまった事で周りに比べられたりと悔しい思いをしたが、姉である蓬莱暁美は

 

「お姉ちゃんが、音楽は楽しむものだから楽しくない音楽をさせるぐらいなら、その人たちは演奏なんて聞いても居ないし、楽器だってロクに扱えないじゃないのって言ってくれたんだよね」

 

上条恭介の音楽を認めていたが、それと同じぐらい自分の音楽も認めてくれた姉の存在が嬉しかった・・・

 

姉はクラシックも嗜んでいたが、クラシックよりもジャズの方が好きだった・・・・・・

 

「当然だけど、恭介はヴァイオリンは凄く上手な上に音楽をする人には分け隔てなく接してくれたし、変に傲慢になることもなかった」

 

人柄も良かったのだが、周りの影響や期待もあり彼自身も悩むことはあった。

 

その辺りを自分はどこまで理解していただろうか?正直に言えば、ほとんど彼の事を理解していなかったのではないかと思う。その結果が”今の上条恭介”なのだから・・・

 

「そうですか・・・・・・上条恭介を意識されるようになったのは・・・・・・」

 

「うん。発表会の時にいつの間にあんなに上手になったのってぐらい上手くなってて、アタシ感激したんだ。それから・・・かな、恭介を意識するようになったのは・・・」

 

”発表会”で家族と姉と一緒になって、上条恭介の晴れ舞台を見たのだ。

 

あんな風に感動させる音楽を演奏できる”彼”は世界で一番素敵な少年だった。

 

「さやかは、何故、今はヴァイオリンを辞めたのですか?彼にも認められていたのですよね?」

 

「・・・・・・それはね。お姉ちゃんが死んだ後なんだ・・・・・・」

 

姉が亡くなった後、上条恭介は”お姉さんが居る天国まで届くようなヴァイオリニストになる”と言いだし、彼女はその彼を応援しようと誓った。

 

自分等ではとてもじゃないが”姉の居る場所まで届くような音楽”を演奏などできそうになかったのだから・・・・・・

 

「そうですか・・・・・・さやか。そろそろ、魔戒騎士と杏子との待ち合わせが近いですよ」

 

懐かしい思い出にこのまま浸って居たいところであったが、時間は刻一刻と迫っていた。

 

夕暮れ時の公園は先ほどまで遊んでいた子供らの気配が僅かに残っており、異様な雰囲気を醸し出していた。

 

「もうそんな時間なんだね、ソラ。行こうか・・・・・・」

 

さやかもまた、自身の手で”責任”を果たさなければならなかった。だが、自分の力では、ホラーと化した上条恭介を倒すことはできない。

 

故に級友の伯父である 風雲騎士 バドの力を借りなければならなかった。

 

「ねえ、ソラ。アタシと恭介、仁美はどうしてこんな風になっちゃったのかな?」

 

この事態を引き起こしてしまったのは、自身が”奇跡”を願った事が発端だった・・・

 

もしも、魔法少女の事も知らずにいたら、仁美との関係は親友のままで居られただろう。

 

そして恭介もまた、ヴァイオリンこそは弾けなくても別の形で”音楽”をしていたのかもしれない・・・・・・

 

だが、願った奇跡が齎した結果は、自分達の関係を大きく変えてしまった・・・・・・

 

それも誰も望んでいない”最悪な結果”を齎したのだった・・・・・・

 

「誰かのために奇跡を願う。それも自身の全てをかけることが裁かれなきゃいけないほど罪深いなんてことはないと私は思います」

 

「そ、ソラ・・・・・・それって・・・・・・」

 

「わたしはさやかのしたことは決して間違いではなかったと思います。少しばかり独善的だったかもしれませんが、上条恭介を救いたいと願ったことが悪いということはありません。今回は、色々と間が悪かったんでしょう・・・」

 

無意識の内にさやかは自身が、誰かに裁かれることを望んでいたかもしれない。

 

だけど、ソラは自分に付いてきてくれると救うために姉によって”創造”されたと聞かされた。彼女はさやかの味方であり続けると言ったのだ。

 

例え、嫌われることがあっても拒絶されることがあっても・・・さやかが最終的に救われればそれで良いのだから・・・

 

「ありがと、ソラ。あんたはアタシを護るって言ったけど、ホラーは凄く危ないから、アタシもソラを護るから・・・背中・・・任せたよ」

 

瞳を僅かに潤ませながら、さやかとソラは公園の入り口の前に立つバドと佐倉杏子の元へと足早に進むのだった。

 

自分は決めなくてはならない・・・彼にこれ以上”呪い”を”陰我”を背負わせない為にも・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

見滝原 志筑仁美の自宅

 

志筑仁美は、今度こそ鹿目まどかを連れ出そうと自宅から抜け出そうとしていたが、思いもよらぬ人物が自分を尋ねに来たことにより断念せざる得なかった・・・・・・

 

「あの・・・・・どうしてあなたが・・・・・・上条さん」

 

「恭介は今晩、大事な用事があるんだ。仁美さん・・・・・・君に邪魔をさせられないようにする為に私は君に会いに来たんだ」

 

仁美を訪ねてきたのは、上条恭介の父だったのだ。彼の父ならば、上条恭介の身に起きていることを訴えれば自分の力になってくれるのではと希望を抱いたのだが、それは彼の言葉によりあっさり砕かれた。

 

「待ってください、上条さん。貴方は自分の息子が殺されそうになっているのを知ってそんなことを言っているのですか!!!今すぐ、止めなくてはいけません!!!その為の手段だって!!!!」

 

声に熱がこもるのだが、上条恭介の父は冷めた目で仁美を見ていた。何も見えていない少女には哀れみすら感じてしまう。

 

「・・・・・・さやかちゃんと同じ素質を持つ女の子に恭介を元に戻すように願わせるのか。さやかちゃんと同じように、これ以上息子のための犠牲は出せない・・・・・・」

 

「上条さん・・・・貴方は、恭介さんの手が治った奇跡を・・・・・・」

 

「知っているさ。大人だってしっかりと目の前のことを見ていれば非常識なモノだって真実だって分かるさ。全てはさやかちゃんとあの魔戒騎士が教えてくれたよ」

 

驚いている仁美に対して、上条恭介の父は冷静であった。彼は、息子 上条恭介の身に起きたことをすべて理解していた。幼馴染 美樹さやかが泣きながら話したのだ。何度も何度も謝罪をしながら・・・・・・

 

魔法少女の”願い”と”奇跡”とそして、人の”陰我”より現れる魔獣 ホラーが語られた・・・・・・

 

「さやかちゃんは、恭介の為に全てを捧げた・・・・・・あの子には普通に暮らす人生があったのに・・・それを息子の為に祈り”奇跡”を起こしてくれた・・・・・・恭介にはあまりにも過ぎた贈り物だった」

 

奇跡を得た息子は本当に喜んでいた。一度挫折した道にもう一度戻ることができたのだから・・・・・・

 

だがその奇跡を失うことで、彼はもう一度奇跡を願った・・・その奇跡を叶えたのが・・・・・・

 

「魔戒騎士の彼から詳しく聞いたよ。恭介は”奇跡”の旨味を知ってしまい、それをもう一度願ってしまった。その結果、魔獣 ホラーに憑依されることになった。これはさやかちゃんの責任ではない・・・恭介・・・馬鹿息子の甘えが原因だ」

 

やりきれない感情が胸中に渦巻くが、決してここでそれを爆発させてはいけない。今夜、息子に憑依したホラーは殲滅される。これは、真実を知った上で了承したことなのだ。自分の役目は”志築仁美”が余計なことをしないようにこの場に留めておくことなのだから・・・・・・

 

「貴方はそれでも親なんですか!!!!恭介さんは貴方の大切な息子ではないんですか!!!!あの方があんなふうになってしまったのは、美樹さやかが原因です!!!!こんなことになったのは全てあの女の限界が知れていたから『それ以上、何も言うな!!!!!』

 

喚く仁美に対して、上条恭介の父は彼女にこれ以上何も言わせるつもりもなかったし、聞くつもりもなかった。

 

「他人の君にこそ何が分かる。恭介は確かに大事な息子だ・・・だが、息子はホラーに食われてしまった。食われてしまったらもう元には戻れないし・・・息子の姿を使って世の中に災いを振りまくんだ」

 

歯を食いしばり上条恭介の父は

 

「あの子にそんな地獄を歩ませられない!!!だったら、あの子は今夜終わりにさせてあげなければいけないんだ!!!」

 

この決断を下すにはあまりにも時間が足りなかった・・・身を切る思いで決断を下した。

 

亡き妻にはなんと言えばよいのか分からない・・・こんな決断を下した自分は決して天国には行けないだろう。

 

仁美は親の仇を見るような目で上条恭介の父を見た。

 

「なんて親なんですか・・・貴方は・・・・・・」

 

「なんとでも言いなさい。私はもう決めたんだ・・・恭介にこれ以上、罪を犯させないために・・・・・・」

 

仁美は一刻も早く上条恭介の元へ行きたかったが、この家に居る者達もまた上条恭介の味方をしており、何もすることができなかった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

見滝原 文化ホール

 

近くに美術館も併設しているこのホールは、本場欧州の建築物を参考に作られてはいるが所々が近代化に伴い改修されている。その入り口の前に四人の人影が立つ。

 

バド、佐倉杏子、美樹さやか、ソラの四人である。

 

「ホラー ミューゼフは既にこの建物の奥にSTAYしているよ」

 

バドの契約魔道具である ナダサがホラーの気配を正確に察知する。それに伴い異様な邪気が周辺に僅かながら漂っている・・・・・・

 

「そろそろ時間のようだな・・・パンフレットがあるのなら先に買っておいた方がいいかな?さやかちゃん」

 

「伯父様、今の恭介の音楽は一度聞くと嫌になりますから、形に遺さなくてもいいですよ」

 

若干強張った表情をしているさやか達に対してバドは、ホラーの開くコンサート入りを楽しむような素振りを見せた。そんな年長者、保護者なりの気遣いが嬉しいのか、さやかも笑顔で言葉を返した。

 

「アタシは、こういう音楽ってのはあんまり聞いたことはないんだよな・・・前に声楽をお袋に教えてもらったぐらいかな・・・・・・」

 

かつて教会で暮らしていた際に聖歌を妹と共に歌っていたことがあるが、このようなコンサートホールに入るという経験は杏子にはなかった。最近でいえば、伯父と一緒に映画館へ足を運んだことぐらいなのだが、音楽をほとんど聞かない杏子にとって、コンサートホールは未知の領域であった。

 

「杏子もですか・・・わたしも音楽は最近になって、さやかに勧められたのですが・・・こういうところで間近で演奏を聞くとまた印象が変わるんでしょうね」

 

「なんだソラ・・・お前もか・・・じゃあ、アタシ達がここで聞く羽目になるのは、ホラーの聞くに堪えないオーケストラってわけかよ・・・」

 

せっかくこういうところに来たのだからと思わなくもないのだが、ホラーの楽士という気取ったミューゼフを倒さなければと思い直し、杏子は”魔戒筆”を構える。

 

「連中は人間と違いますからね。その辺りは感性の違いもあると思いますよ」

 

ソラの応えに杏子も”それもそうだな”と返し、4人は異様に暗くなった見滝原 文化ホールの中へと入るのだった。

 

 

 

 

 

 

コンサートホール ステージの中央に陣取った上条恭介・・・ホラー ミューゼフは”人魚の魔女”の協力の元”使い魔”達に集めさせた”陰我”のゲートとなるオブジェを配置していた。

 

その配置した場所は、オーケストラにおけるポジションのような位置であり、魔界に住まう仲間達をこれより呼び出すつもりなのだ。

 

自身の結界と”人魚の魔女”が張る結界は、互いに混ざり合うことによりこの建物全体を要塞のように機能させることすら可能だった。

 

ここを拠点とすれば、人間は食い放題であり、これ以上にない快適な空間を作り上げることができるのだ。だが、自分だけでは難しく、仲間のホラーの協力により強固なモノに仕上げなければならない。

 

「おや・・・さっそくネズミが4匹入って来たか・・・・・・さっそくだけど、このホールを楽しんでもらおうかな」

 

白い手袋をしており、器用にフィンガースナップで音を出すことで要塞が動き始める・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

文化ホールはいくつかのエリアに分かれており、演奏などが行われるコンサートホールは奥に存在している。

 

四人は、コンサートホールを目指して入り口の購買コーナーを抜け、現在はイベントエリアで展示されている絵画が飾られている通路を取っていた。

 

現在の開催されているイベントは、ある画家の作品をテーマにしているのだが、花がほとんどではあるが、見ようによっては霊魂が漂う湖のようにも見える絵が多数存在し、暗く人気のない建物に不気味な印象を与えていた。

 

「アタシにはわかんないな~~。芸術ってのは・・・」

 

横目で絵画を見ながら杏子は、それらの価値がまるで理解できなかった。見ようによっては汚い落書きでしかなさそうなものもあり、上手く描けているモノは素直に感心するが、だから何だと言うのが彼女の感想であった。

 

「実を言えば俺もなんだ・・・杏子ちゃん。こういうのは俺達には無縁なんだろうな」

 

バドもバドで絵に対して関心はないのか、杏子に同意する。

 

「伯父さまも姐さんももう少し視野を広げるべきだと思うんですよ」

 

さやかは、姉の影響なのか”絵”に限らず芸術全般に理解はあった。こういうのは、どれだけ身近に感じるかによるものなんだろうなと彼女は思うのだった。ソラは何も言うことはないのか一同の会話に相槌を打っていた。

 

和やかに進んでいたのだが、途端に建物全体が生き物のように呻き声をあげだした。

 

”ウゥウウウウウウウゥぅぅぅぅぅ”

 

それに伴い建物全体が歪み、景色が変化していく。ホラーの結界よりも”魔女”のそれに近かった。

 

「どうやら、おしゃべりタイムはここまでのようだ」

 

二振りの風雲剣を構えたと同時に杏子、さやか、そらの四人は戦闘ができるようにそれぞれが魔法少女へと変身を完了する。

 

通路の奥より使い魔とそれに交じって”素体ホラー”の姿も存在していた・・・・・・

 

「Everybody、Be Careful!!!ホラーと使い魔が来たよ!!!」

 

魔道具 ナダサの変な英語と日本語が入り混じった言葉に対し

 

「ったく、ナダサよ・・・・・・気が抜けるっての!!!」

 

杏子は伯父の契約魔道具はポンコツではないかと思うが、ここで気を抜くようなことをしてはいけないと気を引き締め・・・・・・

 

「俺が率先してホラーを斬る。皆は使い魔を頼む、絶対に油断をするなよ」

 

バドが切り込むと同時に杏子、さやか、ソラはそれぞれ三方向に展開していく。

 

杏子は槍で牽制しつつ、魔戒筆による攻撃の術で応戦し、さやかはサーベルを幾つも出現させ一斉に飛ばし、ソラは薙刀で使い魔達を払い、時折、現れる素体ホラーはバドが術を使うことによって、三人をフォローしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

ホラー ミューゼフは迫りくる脅威に対し焦っていた。

 

いうまでもなく、前回自分を圧倒する魔戒騎士の強さに対し対抗する術がなかったからだ。

 

この場所を突き止めたのは流石としか言えなかったが・・・

 

称賛するほど余裕があるわけでもなかった。だが、ここの文化ホールを歩いているときにあるエリアでの興味深い論文に目を通したことを改めて思い出したのだ・・・・・・

 

それは物質には”固有のパターン”が存在するというモノである。そこに干渉することにより物質の強度を下げたり、場合によっては破壊することもできるというモノだった・・・・・・

 

”固有振動周波数”と呼ばれるものであり、これは物質の固有周波数が分かればいかなる物質でも破壊が可能である。

 

「魔戒騎士の鎧も精製方法こそは特殊なものだが、物質であることは間違いないんだよね・・・とすれば・・・・・・」

 

試してみないことには分からないが、この攻撃ならあの忌々しい鎧を”無効化”できるかもしれない。

 

だが、鎧そのものの固有周波数を調べるのは戦闘中には困難である。だが、鎧を纏っている人間ならばどうだろうか・・・人間ならば、古の時代から”陰我”を通じて憑依している・・・・・・

 

そう考えると魔戒騎士も恐れるに足らない・・・・・・

 

先ほどまでの怯えに似た感情も消え、むしろ感情は高揚していく・・・・・・

 

ここは仲間をある程度呼んだうえで対策をするべきだが、ホラー ミューゼフは自身の手で風雲騎士にリベンジを果たすことを優先し、ここで待ち構えることにしたのだった・・・・・・

 

ホラー ミューゼフが笑みを浮かべるが、”人魚の魔女”は言葉を発することがないのだが・・・・・・

 

”・・・・・・・キョウスケ・・・・・・”

 

言葉を発するはずのない”人魚の魔女”は何かを確かめるように呟いたことにミューゼフは気が付かなかった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 コンサート会場の入り口を開くと観客席の照明は落ち、ステージに立つ上条恭介の姿をしたホラー ミューゼフがオーケストラの指揮者のように立っていた。

 

「ようこそ、魔戒騎士、そして魔法少女の諸君。よく、ここが分かったね」

 

尊大な態度で語りかけるホラー ミューゼフ。

 

「恭介が来そうな場所ってここぐらいだってことを伯父様達に教えたのはアタシよ」

 

「さやか・・・・・・君との縁は本当に腐れ縁とも言うべきだね」

 

内心、あの場で殺しておけばもう少し時間を稼げたのではないかと考えたが、過ぎてしまったことは仕方がない。

 

「さやかちゃんのおかげで早く動くことができた。仲間を呼んでいないようだが・・・それで十分なのか?」

 

バドは見た目少年のミューゼフに対して挑発的に語り掛ける。

 

「ハハハハ!!あの時は、驚いたけれど今回はここで君たちへのレクイエムを演奏してあげるよ!!!」

 

上条恭介の姿からホラーミューゼフの姿へと変化する。

 

昆虫を思わせる黒い異形がステージの上で咆哮を上げた。それに合わせるように”人魚の魔女”もまた出現する。

 

「伯父さん、アタシとさやか、ソラで魔女をやる」

 

「魔女も能力や使い魔次第では、下手なホラーよりも厄介だからな、杏子ちゃん、さやかちゃん、ソラちゃん、頼むよ」

 

「任せてください伯父様。それと・・・恭介の事をお願いします」

 

既にさやかは、覚悟を決めていた。だが、ホラーを倒す術を持たない彼女にできることは”風雲騎士 バド”の力を借りる事しかできないのだから・・・・・・

 

「ああ、彼の”陰我”も・・・あの魔女の”呪い”もここで断ち斬ろう」

 

バドは、鎧を召喚し、装着し、ミューゼフへを駆け出す。

 

一方、杏子ら三人の魔法少女は”人魚の魔女”へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勢いよく向かってくるバドに対し、ミューゼフは背中の羽のチューニングを行う。

 

そしてホラーが勝手知ったる”人間の肉体”の感触をイメージしながら”物質が持つ固有振動周波数”を発生させ、バドはに向かってはなったのだ。

 

通常の衝撃なら鎧で防ぐことができるのだが、その衝撃波は鎧を通過しそのまま本体であるバドを貫いたのだ。

 

「ッ!?!」

 

予想もしない攻撃に対し、態勢を崩し、バドは観客席に落ちてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「伯父さん!!!」

 

「伯父様!!!!」

 

バドがホラーの攻撃で倒れたことに杏子とさやかは声を上げるが、

 

「今は俺よりも目の前の魔女に集中するんだ!!大丈夫だ・・・ほんの掠り傷だ・・・少しだけ胸が痛むがな」

 

杏子たちを心配させぬようにバドは軽口を叩いて応える。伯父の様子に三人の魔法少女らも安心し、すぐに気持ちを切り替え上空を泳ぐように佇む”人魚の魔女”に視線を向けた。

 

「ん?さやか・・・なんか変じゃないか・・・」

 

「どうしたんですか?姐さん」

 

「あの魔女この間、伯父さんに向かってきて、使い魔は志築仁美を襲ったけど、アタシ達には攻撃してないし・・・・今も・・・・・・」

 

杏子が視線を向けると”人魚の魔女”は何故か三人の魔法少女を牽制するように居るだけで、使い魔達を呼び寄せることもせず、さらには攻撃の意思すら感じられなかったのだ。

 

「・・・・・・言われてみれば・・・そもそもあの魔女どうして恭介を助けたんだろ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

さやかは、”魔女”の不可解な行動に疑問符を浮かべ、ソラはあり得ない正体を察するとあるその行動は当然であると胸中で納得していた。

 

魔法少女三人から、”人魚の魔女”は睨みつけるような視線を”ホラー ミューゼフ”に向けていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハハハハハ!!!どうだい!!!人間の知識も大したものだよ!!!』

 

まさかこの方法が本当に効力を持つとは思わなかった。固有振動周波数は鎧を通過し、装着者であるバドにダメージを与えたのだから・・・・・・

 

痛む胸を押さえながら、バドはまさかの方法に驚くが・・・・・・

 

「なるほど・・・そういうやり方もあるのか・・・固有振動周波数に合わせればこの鎧も破壊は可能か・・・」

 

ホラーの予想外の攻撃はいつもの事だが、人の知識 科学をこのような形で使ってくることにホラーの脅威はこれから先の時代ますます大きくなるかもしれない。

 

「フフ・・・それで勝ったつもりか?お前達ホラーは古の時代よりこちらに現れているが、どのホラーも決して長くは居られなかった」

 

『減らず口を!!!直ぐにお前を粉々に吹き飛ばして!!!そこの三人の魔法少女を絶望させてやるよ!!!』

 

今度こそ、固有振動周波数をバドそのものにチューニングし、決着をつけようと動くミューゼフ。

 

バドは自身と瓜二つの幻影を出現させ一直線に向かっていく。

 

好機と見たミューゼフは、固有振動周波数にそのような攪乱は無意味であることを笑った。

 

固有振動周波数は、特定の物体のみの破壊が可能な為本体である生身のバドを木っ端微塵にすることができる。

 

背中の羽を大きく振動させようとした瞬間、バドと鎧が突如として解除されたのだ。

 

『逃げても無駄・・・っ!?!!』

 

嘲笑おうとした瞬間、分離した鎧はそのまま人が耐えられないほど加速しながら、ホラーミューゼフへ突っ込んでいったのだ。

 

鎧は意思を持つかのようにミューゼフの両腕を切り裂き、さらにその羽すらも完全に両断する。

 

バドがモノを動かす術の応用で鎧を操作したのだ。もとより継承してから慣れ親しんできた鎧の為、その操作は容易なモノだった。

 

さらには、魔戒騎士といえども生身の肉体には変わりはなく、限界というモノは存在する。だが、鎧に中身が無いゆえにその限界を考慮しない加速をつけることもできた。

 

留めと言わんばかりに、雷の術を幾つもミューゼフに落すことによりその身体は燃え上がると同時に衝撃により吹き飛んだ。

 

『う、うわぁあああああああ・・・・・・』

 

まさかの風雲騎士の反撃にミューゼフは瀕死に誓い重傷であった。

 

バドは瞬間移動で再びミューゼフの前に立つと同時に鎧を再装着する。

 

「これでお前も終わりだな・・・・・・お前が仲間のホラーを呼んでいたら俺も危なかったかもな」

 

『くっ・・・うううう・・・・・・』

 

悔しそうに声を上げるミューゼフの後ろにはいつの間にか”人魚の魔女”が立っていたのだ。

 

「こいつは杏子ちゃん達が・・・・・・まさか」

 

まさかと思い、周囲に意識を向けると三人は無事であり、”人魚の魔女”だけが此処にやってきたようだった。

 

前回と同じように逃げ出すつもりなのだろうか?

 

『ハハハハハ。君は本当に僕を助けてくれる!!!今度は、別の・・・』

 

”人魚の魔女”に再び結界を張るように声を上げるがミューゼフは声を上げることができなかった・・・・・

 

「なんだとッ!?!」

 

バドも目の前の光景に驚いてしまった。

 

何故なら”人魚の魔女”は、ホラーミューゼフの頭に剣を突き立てていたのだ。

 

時折、魔女同士が潰し合うこともあるが、まさか魔女がホラーを攻撃するとは・・・・・・

 

前回はミューゼフを助けたにも関わらず・・・・・・

 

”・・・・・・・アンタハ・・・・・・キョウスケジャナイ”

 

ミューゼフは、今まで言葉を話さなかった魔女の言葉にこの物言わぬ”人魚の魔女”の正体がおぼろげに分かってしまったのだ・・・・・・

 

近くに居るバドも・・・また杏子も”人魚の魔女”のあり得ない正体に・・・・・・

 

「まさか・・・そんなことがありえるのか?」

 

「お、おい・・・あの魔女の声って・・・」

 

驚く二人に対してさやかとソラは、あの魔女の正体を理解した・・・・・・

 

「ソラ・・・・・・あんたが居なかったら、アタシ、ああなってたんだね」

 

沈黙するソラの態度を肯定とみたさやかは

 

「伯父様!!!!断ち切って!!!アタシ達の”呪い”と”陰我”を!!!!」

 

ミューゼフは、身体を修復するために”人魚の魔女”を取り込もうとするが、”人魚の魔女”はさらに体重をかけるように抵抗をする。

 

バドは二振りの風雲剣に必殺の太刀筋を描き、ミューゼフと”人魚の魔女”のそれぞれを断ち切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

二つの影が消滅し、その刹那に二人の少年少女の姿を見ることは叶わなかった・・・・・・

 

ただ一人を除いて・・・・・・

 

「・・・・・・恭介をお願いね・・・もう一人のアタシ・・・・・・ごめんね、恭介。あんたの事、大好きだったよ」

 

「おい・・・今、なんて言ったんだ?」

 

さやかの言葉に疑問を投げかける杏子であったが、いつの間にか来ていた伯父が肩に手を置き、

 

「今はそっとしておこう」

 

さやかの傍に居るソラもまた頷いていた。

 

少し納得がいかなかったが、今はさやかも気持ちの整理をつけたかったのではと思い、杏子もこれ以上は追及しなかった・・・・・・

 

戦いが終わり、コンサート会場は何事もなかったかのように静まり返っていた・・・・・・

 

この場に”陰我”も”呪い”も残っていなかった・・・もうこの場でできることは何もない・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

誰も居なくなった見滝原 文化ホール コンサート会場 ステージ

 

 

 

 

 

 

 

”こんなの僕の音楽じゃない・・・僕の・・・僕の・・・・・・”

 

”恭介の音楽はアタシが一番知ってるよ・・・もう終わったよ、恭介・・・”

 

”君は・・・・・・あぁ・・・・・・僕は取り返しのつかないことを・・・・・・”

 

”良いんだよ。アタシが馬鹿だったから、恭介は何も悪くないよ”

 

”疲れたよね・・・・・・恭介・・・・・・独りぼっちは寂しいから・・・アタシが一緒に居てもいいかな”

 

”こんな・・・こんな僕の傍にいてくれるのかい・・・さ・・・や・・・・・・か・・・・・”

 

”うん!!!これからずっと一緒だよ、恭介”

 

”じゃあ、そろそろ行こうか、恭介”

 

”そうだね・・・・・・行こう、さやか”

 

 

 

 

 

 

 

コンサート会場のステージを二人の少年少女が手を繋いで降りていく・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

二人のこれからの行先は・・・・・・誰も知らない・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”アタシさ・・・恭介のことも恭介のヴァイオリンも大好きだよ”

 

”今更だけど僕も君の笑顔が大好きだよ、さやか”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

もしかしたら、さやかもヴァイオリンを習っていて早々に恭介との才能の差を知り、彼の音楽をずっと応援しようと決意しヴァイオリンを辞めたのではと言う考えの元、描いてみました。

上条恭介の結末は、少しだけ救われるラストにしました。単純に殲滅されて終わりというのもなんですので、まさかサプライズで出した”人魚の魔女”が動き出した為にこのようなラストになりました。

何気に読み返すと、まどマギ関連の親、家族をやたらと出していることに今更ながら気づいてしました。

ちょっとまとめると。

鹿目まどか  父 知久 母 詢子 弟 タツヤ 名付け親 冴島 大河

暁美ほむら  父 シンジ 母 れい 義理の姉 アスカ 義理の兄 ジン 祖父 ドウゲン

佐倉杏子   父 名不明 母 名不明 妹 モモ 伯父 風雲騎士 バド

美樹さやか  父 総一郎 母 咲結  義理の姉 蓬莱暁美 妹?ソラ

上条恭介   父 名不明 母 名不明

中沢ゆうき  父 名不明 母 名不明




纏めてみると結構出ています。親、家族については何気にマミさんだけ描写していないのでどうしたものかと悩んでしまいます。今回、上条恭介の父親が出張ったのは自分でも驚いています・・・・・・

次回は、ここのところご無沙汰していました マミさんが中心になります。
あのフェイスレスもまた出てくる予定です(汗)

ほむらはバラゴと一緒にアスナロ市からまだ帰ってきません。



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