呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝) 作:navaho
アスナロ市編と並行して進めています。
今回は、久々にこんなキャラいたっけという方が出ています。
「ふんふんふんふん♪ふんふんふん♪」
彼はとある空間で上機嫌で歌っていた。純白の髪に赤い目をした少年の姿をした インキュベーター カヲルであった。
現代でも古いとされるカセットレコーダーにカセットテープを入れ、再生ボタンを弾むように押す。
演奏されるのは、蓬莱暁美がヴァイオリンで演奏しているものであり、彼はこれはどうしても手に入れたかったのだった。
「我が名はオジマンディアス、王の中の王。我が業を見よ、汝ら力強い者よ、絶望せよ
傍らには何も残っていない。この巨大な残骸の断片の周りには、限りなくむなしく
寂しく平坦な砂地が遥か遠くまで広がっている」
誇るようにカヲルは詩をそらんじてみた。
「まったくもって素晴らしいよ。人類の文化とは奥深くて中々興味深い。こういうことを楽しまなければならないんだよ」
「18世紀の詩人が作ったものだよね。え~と、確か作者は・・・・・・」
「バイロン。本当に素晴らしいよ、過去には偉大な天才が居たというのに、だれもそのことには興味を示さない。
嘆かわしい限りだよ」
カヲルの背後には魔法少女には馴染み深い白い小動物の姿をしたキュウベえが座っていた。
作者を答えようとしたが、カヲルが先に言ってしまったのでその先を言うことはなかった。
「美樹さやかは良く動いてくれたよ。そして、あの人形もね・・・・・・あの場で魔女になってくれたら万々歳だったのにね」
さり気なく話す言葉には悪意が込められていた。自身が煩わしく思っていたあの人形は消えたのだ。
今まで何かの役に立つのではと自由にさせていたが、ここ最近になって煩わしく思い、処分しようと考えていたのだ。最後に役に立ってくれたことには感謝していた。
「・・・・・・君は少しばかり、干渉しすぎではないかい?それに”オジマンディアス”を持ち出すなんて、君が”神”を気取っているように思えるんだ」
「それはそうさ。魔法の意味をしっているかい?神の奇跡を神以外のモノが行うことを意味するんだよ。彼女たちに魔法をという奇跡を齎す存在。それを神以外になんというんだい?惜しむらくは、僕という存在を誰も知ることがないということかな」
笑顔で語るカヲルに対し、キュウベえは改めてこの”罹患者”に不安を抱いた。
(彼はあまりにも行き過ぎている・・・・・・全てが上手くいっているように考えているけど、イレギュラーはつきものだよ。この時間軸に”暁美ほむら”という時間遡行者、そして、暗黒騎士が居る)
それにあの暗黒騎士を見守る”東の番犬所”の神官もこの事態を見ている。
故に何が起こるか分からない・・・・・・
巴マミは街をさまよっていた。既に夜は深まっており、歓楽街の賑わいを背にする彼女は行く当てなどなかった。
表情は沈痛としており、普段ならば積極的に使い魔や魔女を狩るために奔走するのだが、今はそんな気すら起こらない。
改めて自身の魂が納められた宝石”ソウルジェム”を見る。なんということだろうか・・・・・・
自分の命とはこんなにちっぽけなものでしかない現実にマミの心に暗い影が差していく。
「言い訳とかさせちゃ駄目っしょ。稼いできた分はきっちり全額貢がせないと。女って馬鹿だからさぁ、ちょっとお金を持たせておくとすっぐにくっだらねえことに使っちまうからね」
マミの横を二人組のホストが通りかかった。酒で寄っているのか顔は赤く、スーツは着崩れしている。
「いやほんと、女は人間扱いしちゃ駄目っすね。犬かなんかだと思って躾けないとね。あいつもそれで喜んでいるわけだし。顔殴るぞって脅せば大抵は黙りますもんね」
「・・・・・・・・・」
マミは虚ろな視線を二人に向けた。ハッキリ言って下劣な会話だった。
「ちょっと油断すると籍を入れたいってつけあがってくるからさぁ、甘やかすのは厳禁よ?ったくテメェみてえなキャバ嬢が10年後も稼げるのかってえの。身の程をわきまえろってんの」
「捨てる時がさぁ、ほんとうに、うざぁいというかね。一人で勝手にどこかに行ってくれれば楽なんですけれどねぇ、そのへん、ショウさんは巧いから見習わないとねっ!!」
上機嫌に笑いあう二人の背を見てマミはやりきれない気持ちを抱いた。
「なによっ!?!みんなっ!?!どうしてこうも身勝手なのよ!!!!誰も他人を思いやることなんてないじゃない!!!みんな、みんなッ!!!!」
マミは膝をつき思いっきりアスファルトの上を叩く。魔法少女の力により砕けた路面。こんなことを普通の人間がすれば手に怪我をするのだが彼女は痛みを感じなかった。
どいつもこいつも身勝手な人しかいない。魔女と使い魔は人に呪いを振りまく、その呪いを生み出しているのはなんだ!!人間ではないか・・・・・・
「ちょっと・・・・・・君、中学生がこんな時間に・・・・・・」
マミに一人の警官が声をかけてきた。彼は美樹さやかの父 総一郎の部下である並河であった。
「き、君は・・・・・・」
「あの・・・・・・私をご存知なんですか?」
柾尾 優太に嵌められ、色々と手を貸していた時にこの少女を運んだことがあった。
どうやら、マミは並河のことを知らないようだった。
「あぁ、人違いだったよ。君は確かあのマンションに住んでいたよね」
並河が視線を向けると先ほどまで、燃え上がっていた火事は鎮火されていたのだが、マミはあそこに戻る気はなかった。あの男の部屋の向かい側で火の手は既に自分の部屋にも及んでいただろう。
「はい・・・気が付いたら燃え上がってて・・・・・・今夜はどうすれば・・・・・・」
言葉こそは困っている素振りを見せているが、内心はどうでもよかった。今はただ一人になりたい。
そして、早く彼女に帰ってきてほしかった。
「知り合いもいないようだし、今回は俺の方から署に言っておくよ」
並河は知り合いの婦警にお願いし、マミを保護するつもりだった。
普段ならば、こんな事をするつもりはないのだが、今夜だけは良い刑事として振舞っても良いのではと思う。
今まで柾尾 優太に利用されていたとはいえ、自身が警察でありながら多くの罪を犯してしまったのは事実なのだから・・・・・・
マミは流されるがままに刑事の運転する車両に乗り込むのだった・・・・・・
「ねぇ、刑事さん・・・・・・」
「並河だ・・・・・・えと、君は・・・・・・」
「マミです。巴マミ・・・・・・ちょっとお尋ねしても構いませんか?」
「なんだ?俺で答えられることなら・・・・・・」
突然のマミの質問に戸惑いこそ覚えるが、マミは虚ろな視線で・・・
「一般の人を護ることをどう思っていますか?」
「・・・・・・一応は仕事だからこそ、護るのかな。今はそういうことでいいかな?」
「・・・・・・・・・・・・」
並河の答えはマミの望むモノには程遠いが、一応は納得のできるものだった。
(それにしても・・・・・・あいつの所に行って、なんで無事なんだろう?)
柾尾 優太に手を貸してきたからこそだが、彼の手に渡ってしまったら、助かるはず等ないのだから・・・・・・
「まぁ世間は厳しいってことっすよね、ショウさん」
「あぁ、まったくだ。オレもオレでその辺は弁えているよって、そういえばここいらで殺人事件が起きたんだよな」
いつの間にか二人は自宅マンションの近くに来ており、気が付けばつい先ほど事件があった住宅街に来ていたのだ。
「ハハハハハ、こういうのも運って奴なんですかね。あの時ショウさんが来てくれなかったら、俺は今頃、刺されていましたよ」
「まったく、お前はもっと上手くやれってのっ」
上機嫌で二人は”KEEP OUT”が張られた上条家を横切り、そのまま帰路に付く。
上条恭介の家は既に警察の鑑識が離れており、誰も居なくなっていたが・・・・・・そんな上条家の家を徘徊する影があった。
それは、柾尾 優太によって撃ち抜かれた彼の右手だった。右手が拳銃により撃たれ、吹き飛んでしまった右手は何故か見つからなかったのだ・・・・・・
生き物のようにそれは室内を徘徊し、そのまま家を飛び出していった・・・・・・
「それでさぁ、今相手にしている娘はどうなのよ?」
「ショウさん、凄く貢いでくれますよ。ただ、金は大丈夫かって心配しちゃいますけど、そこは俺たちが心配することじゃないっすよね」
「だから変に情を見せたら駄目だろぉ。相手は人間と思わず犬かなにかと思えば良いんだから・・・・・・」
『へぇ~~~~、犬にも心があるのかい?だからこいつも苛立っているのかな?』
「えっ?お前、何か言ったか?」
「いえ、喋ってたのはショウさんでしょ」
突然、割り込んできた声に対して二人は困惑の声を上げた。声の主は妙に寒気のする気配を持ち、何やら不気味な音が周囲に響いてきたのだ。
「お、おい・・・・・・な、なんだ」
ふと正面に視線を向けるとそこには、青白い女の顔が浮かんでいたのだ。
具合が悪いとかそういう顔色ではない。なんというか、恨めしい表情をしている。
『あれ?こいつもか、こいつも、こいつも・・・・・・』
目の前の女の顔の周りに一斉に無数の顔が現れた。
「しょ、ショウさん・・・な、なんですか?こいつら、おかしいですよ!!」
「ば、馬鹿!!あたりまえだろ!!」
『おかしい?こいつらをおかしくしているのはお前たちじゃないの?』
暗闇からそれは現れた。そうカエルの腹を思わせる真っ白いふっくらとした腹には、女の顔が無数に浮き上がっていたのだ。
腹の主はゆっくりと蛇のように長くなった首を擡げた。
「しょ、ショウさん!!!」
「な、なんだ、この化け物!!?か、顔が!!!!」
化け物 ホラー フェイスレスには顔がなかった。あるのは異様にまで裂けた口だった。
腹に浮き出た女の顔が一斉に触手となって二人に向かっていき、赤く染めあがった口を開き喰らった。
声を出すまでもなく一瞬にして二人はホラー フェイスレスに食われてしまったのだ。
二人を喰らったフェイスレスのガマガエルを思わせるでっぷりとした姿から白い比較的スリムな体躯へと変化する。やはり、顔は存在せず、異様に裂けた口だけがあり、夜空に浮かぶ三日月のように嗤った・・・・・・
『あははははははは!!!!僕を恨みながら、他も恨むのか!?!お前達のせいで暁美のトコロにイケナイ・・・・・・あぁ・・・あああああああああ』
覚束ない足取りと支離滅裂な呟きと共にホラーフェイスレスはこの場から消えた
見滝原 病院 特別病棟
「先生・・・どうですか?恭介の具合は・・・・・・」
「はい。精神が錯乱していて、暫くは鎮静剤を打たせて大人しくさせるしかないでしょう」
悲痛な表情で上条恭介の父親は、息子の姿を見る。息子は暴れ出さないように拘束され、さらには鎮静剤を点滴を持って投与している。半開きの何も映していない目には、奇跡が起きた時の彼とは思えないほどだ。
さらには息子の右手は手首の先から消失しており、もはやヴァイオリンを引くことは絶望的だろう。
できれば息子の傍にいてやりたいが、今はやらなければならないことが多い。恭介の母は最悪なことに殺されており、その確認と事情を警察と話し合わなければならないのだ・・・・・・
「先生。恭介を・・・息子をお願いします」
頭を下げ、彼は病室を後にするのだった。そんな恭介の病室に視線を向ける少女が一人 志築仁美であった。
頭に包帯を巻いており、軽い脳震盪と頭部に少しの切り傷の軽症で済んではいるが、彼女の心は軽傷とは言い難いほど重傷であり、これまでにないぐらい苛立ちを覚えていた・・・・・・
「上条君・・・・・・どうして彼がこんな目に遭わなければいけませんの・・・・・・」
面会謝絶の文字が彼女の心をさらに重くする。
「全てはあんなものに・・・魔法なんかに頼ろうとするから・・・・・・こんな事になったのです」
資格のない自分ではどうあがいても何もすることができなかった・・・・・・
彼の為に何かをすることができなかった自分が恨めしい・・・・・・
自分を差し置いて”資格”のある子が叶えてしまったことが悔しい・・・・・・
「さやかさん・・・・・・美樹さやか・・・・・・全てはあなたのせいです。あなたが願いさえ祈らなけえれば
・・・・・・こんなことには・・・・・・」
結局のところここで何を言っても彼の不幸が覆ることはないのだから・・・・・・
肩を落とし、仁美は自身の病室へと戻っていった。
美樹さやかは、かつて姉として慕った蓬莱暁美と一緒に過ごした家に来ていた。
ここは定期的に掃除に来たりしているが、管理している人が居り偶に掃除も行っている。
姉が亡くなったとき真っ先にこの家に来た。そして彼女は遺産としてこの家をさやかが成人した暁に相続させるという遺言を残していた。そんなものは当時のさやかは望まなかった。望むのは姉ともう一度暮らしたいという願いだけだったのだ。その願いを聞き入れたものは当時存在しなかった。
「なんでよ・・・・・・どうして・・・・・・」
テーブルの上に置かれたソウルジェムが黒く濁る。手持ちのグリーフシードは無く、感情の赴くままにあの”男”の元へ行き、この手で制裁を加えた。そして、炎に包まれるという生きてはいない状況の中にあったのだ・・・
さやか自身の目的は果たせた。自分の願いを踏みにじった”人形じみた男”をこの手で・・・
そう思うと少しだけではあるが自分が笑っていることに気づいた。自分は十分に望みを叶えたのだ・・・
「アタシはやったよ。アタシ自身の手で望みを叶えたんだ・・・・・・」
このままソウルジェムが濁りきるとどうなるのだろうか?おそらくは何か良くないことが起こることだけは何となくではあるが分かる。
濁りきったら、自分はどうなるのだろうか?おそらくは”死”に近い、いや”死”よりも受け入れがたい運命を迎えるだろう。それでも構わなかった。勝手だが、恭介の絶望はもう誰にも癒すことはできないし、仁美との関係は修復など不可能になってしまった。姐さんこと佐倉杏子と彼女の伯父である魔戒騎士とも歩みを共にすることもできない。だったら、このままフェードアウトしても良い。
魔法少女としては自分は最低であり、落伍者なのだ。両親もそこそこではあるが自分が居なくなっても、最初は気にするが、数日たてば居ないもののように扱うだろう。
さやかは絶望こそはなかったが、諦めだけが心を占めていたのだっだ。ソウルジェムに視線を移すと
「さやか様・・・・・・」
自身のソウルジェムに似た青い光を放つ二つの目がいつの間にか目の前に存在していたのだ。
「あ、アンタ・・・キュウベえ・・・・・じゃない・・・・・・」
赤い目ではなく目が青く、所々のも配色がキュウベえとは異なっていた。
「今は私のことは後にしてください。それよりもソウルジェムを浄化させていただきます」
言葉こそは丁寧だが、慇懃無礼な無機質なキュウベえと違い、この青い目のキュウベえは自分を気遣っている。
器用に耳を手のように使ってグリーフシードを持ち、そのまま呆然とするさやかのソウルジェムの穢れを浄化する。
「ど、どういうこと?さっき見たアイツらはみんな同じに見えたけど……」
「私は、アイツらと違いリンクしていません」
「リンク?」
「はい。魔法少女がキュウベえと呼ぶ存在、インキュベーターは一つの意思が複数の身体を動かしている存在です。一つの個体を潰したとしてもまた、代わりが現れるのです」
「っていうことは、アイツら全部で一人分の意識なの?」
魔法少女のマスコットにしては、かなり気持ちの悪い存在だと思うが、この目の前にいる存在はなんだろう?
「そうです。本体は誰も見たことがありません、何処に存在するのかも・・・」
納得しつつも戸惑うさやかに対し、青い目のキュウベえは
「紹介が遅れました。私は蓬莱暁美様により創造された地球製のインキュベーター。創造主からは、ソラと名づけられました」
「えーと、ソラさん・・・お姉ちゃんは・・・・・・ま、まさか」
姉 蓬莱暁美の名前が出てきたことに戸惑うが聞かずにはいられなかった。答えは一つしかないのだが・・・
「そうです。蓬莱暁美様はあなたと同じ魔法少女でした。さやか様」
姉の真実に対し、さやかはすんなりと納得することができた。何かあるのではと幼心なりに感じていたが、まさか姉が魔法少女だったとは・・・・・・
「それで・・・どうしてアタシの所に・・・・・・」
「はい。もしもさやか様が魔法少女になり絶望する事態が発生した時、目覚めるように命を受けました」
「じゃあ、ソラさんは・・・アタシの絶望を感じて・・・・・・」
「ソラとお呼びください。私はその役目の為に目覚めたのです。インキュベーターには、さやか様とは契約を行わないように接触させないよう蓬莱暁美様は行動していましたが、アレは必要とあらば、平然と土足で約束やその人の思いを踏みにじってきます」
ソラの話のほとんどが理解することも受け入れることも難しいが、彼女は姉が自分を助けるために用意していたことと魔法少女の存在をしりながら、その過酷さを悟られないように振舞っていた彼女の想いを無碍にしてしまったことにさやかは、ある意味キュウベえと同じではないかと軽い自己嫌悪を感じるが、
「さやか様が罪悪感を感じることはありません。蓬莱暁美様の睨みが無くなれば、インキュベーターの行動は当然です。アレには人の心を理解することはないですし、その必要性も感じてはいないのです」
ある意味同族であるのに嫌悪感を出すソラ。
「私もそこまで人間の感情を理解しているとは言い難いのですが、さやか様の為に動きます。押しつけがましいかもしれません、それにさやか様に蛇蝎のごとく嫌われようともあなたに尽くします。あなたがこの場から出て行けと言われればそうしましょう・・・・・・」
さやかは、余りの事態というよりも目の前のソラに対し、
「ねえ、アタシのこと、さやか様じゃなくて、さやかって呼んでよ」
彼女はこのソラを信じることにした、いや、信じられた。彼女は必死になって自分が味方であることを訴えた。
なにより彼女の青い目には、インキュベーターの赤い目と違い、はっきりとした感情が存在していたのだ
いつまでも、さやか様というのはむず痒い。
「で、ですが・・・私はあなたの指示に従うように・・・・・・」
これはソラにとって想定外であった。
「そんな固い事言わないでよ、ソラ」
「は、はぁ・・・では、さやか」
「それで良し!!!」
先ほどまでは絶望を感じ、このまま消えてしまおうとさえ感じたのだが、ソラが自分の元に来てくれたこととソラが話してくれたように自分が消えてしまえばソラは存在意義を無くし独りぼっちになってしまう。
「それで、ソラの事はキュウベえ達は知っているの?」
「いえ、インキュベーターにも悟られないように創造され、その後も知られないように封印をされていますし、此処へ来るときは、この姿で・・・」
ソラの姿がさやから魔法少女が良く知るキュウベえの姿に変わる。
「その姿は、辞めてよ。他にないの?」
「はい、でしたら、本来の姿よりは人間の姿の方が都合が良いかもしれませんね」
「人間に成れるの?」
「はい・・・少し眩しくなりますが」
目を閉じると同時に眩い光が部屋を包み、収まると同時に一人の少女がさやかの隣に座っていたのだ。
何処となくではあるが、自分に似た顔立ちをしている・・・・・・
「アタシと少し似てるね、ソラ」
「そうかもしれません。この姿は、もしかしたら蓬莱暁美様がさやかを想って私を創造されたからではないでしょうか?」
「だったら、アタシの後に生まれたんだから、妹みたいなものね!!」
上機嫌にさやかはソラに抱き着いた。
「なっ、さやか・・・」
「ソラ・・・・・暫くだけこうさせて・・・・・・良かった、ソラがアタシの所に来てくれて・・・・・」
抱き着いたさやかは震えていた。ソラは何も言わずに彼女を抱き返した。抱かれた感触が心地よいのかさやかはそのまま目を閉じ、ソラから感じられる温もりに身を委ねた。
見滝原 病院 特別病棟
上条恭介は鎮静剤で混沌とする意識の中にいた。
(・・・・・・僕はまた見放されたんだ。世界から・・・・・)
体中の感覚が鈍いが右手の感覚はどうあっても感じられない。あの時よりも酷く、何もない。その通り右手は完全に失ってしまったのだから・・・・・・
(くっ・・・・・・なんでだ・・・さやかが奇跡を願えて・・・僕は僕自身に奇跡を起こせないんだ・・・魔法のような奇跡が・・・・・・)
悔し涙が零れる。自分には何もない・・・・・・終わってしまったのだと・・・
(なんでもいい・・・僕はもう一度音楽ができるのなら、なんだってやってやる、そうだ、この命だって・・・・・・)
『それは・・・本当か?お前にもう一度、手を与えてやろう。我を受け入れるのなら』
それは、上条恭介に話しかけてきた。
(な、なんだ?この声は直接僕に話しかけている、それも心に・・・)
『上を見ろ』
視線を天井にやるとそこにはなんと引き千切れた筈の自分の腕が張り付いていたのだ。
(ぼ、僕の手!!!僕の手だ!!!)
直ぐに起き上がりたい。だが、鎮静剤の影響もあり動くことは叶わない。
『我を受け入れろ。そうすれば手を与えてやる、お前の望みを叶えるがよい』
(かまわない!!!僕はオマエヲ受け入れるよ!!!僕の手!!!僕の手!!!)
『その言葉に嘘偽りはないな。さあ、我を受け入れよ』
天井に張り付いた手が離れ、上条恭介目掛けて落下する。
(僕の手!!!僕の手!!!!僕の手!!!!僕の手!!!僕の手!!!!)
落下した手は上条恭介の目の前で弾けたと同時に黒い悪魔を思わせる異形が目前に迫る。
(僕の手!!!僕の手!!!!僕の手!!!!僕の手!!!!)
黒い悪魔ことホラーは霧状に変化し、上条恭介の身体と重なった・・・・・・
時間にしてほんの数秒ほどで上条恭介は起き上がった・・・・・・
引き千切られたはずの右手が存在し、それを愛おしそうに眺める。
窓に反射した彼の目には、ホラーに憑依された人間に現れる”魔戒文字”が浮かび上がっていたのだった・・・・・・
あとがき
自分で書いておいてあれなんですが、見滝原がヤバいことになっています(笑)
ホラーが退治されているどころか増えてしまいました。
上条恭介のホラー化は元々考えており、今回実現しました。実は手と本体それぞれが別のホラーになることも考えたのですが、それは少し絡ませにくいので没にしました。
改めて思うと、今作で一番の被害者は上条恭介ではないかと思わなくもないです。
今作では、強化されている魔法少女は ほむら、杏子に続いてさやかも強化されます。
しかも頼もしいというか”仲間”ができました。
柾尾 優太に顎で使われていた刑事 並河 平治さん。あまり印象的な感じではありませんが、再登場。
そして、感情を持ったインキュベーター カヲルが今回も登場しましたが、彼は何もかも自分の思い通りに進んでいると考えていますが・・・イレギュラー、しかも自分が入れ込んでいた蓬莱暁美が内緒で何かしてました(笑)
ソラはさやかに似た姿に成れるインキュベーターですが、実際のところは人工的に作られた魔法少女に近い人造人間だったりします。