呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝)   作:navaho

36 / 95
 久しぶりの投稿です。昨年やるぞと言いながらも結局は、気持ちの問題でどうにもならずでした。昨年の夏より落ち込みやすくなっており、身近な人に裏切られたりと割とショックな出来ごともあり、さらには会社の方針が変わり、付いていけないといって辞めた方々により慢性的な人手不足もあり、ちょくちょく描いていました。

後編は頭の中で既に出来上がっていて後はアウトプットするだけです。

久々にバラゴが出たような気がしましたが、新しい牙狼では何故か”悪霊”と化していたことに驚きながらも私なりに彼を描いていきたいと思います。





幕間「暁美 ほむら 前編」

 

幕間「暁美 ほむら 前編」

 

 

 

 まどかは”探し人”のチラシを手にここに居るであろう人物を探していた。

 

「昨日はこの辺りに居たんだけど……今日はいるのかな……ほむらちゃんのお母さん」

 

数日前より行方不明になっていた少女”暁美ほむら”の母親。まどかの知る”記憶”にはほとんど出てこないというよりも全く知らないと言っても良い人物である。

 

現在、まどかは学校に行かずにほむらの母親が居た駅前に来ていた。先日ここで探し人のビラを配っていたのでもしかしたら会えるかもしれないからだ。

 

来てみるとほむらの母親は来ておらず、今日は別の場所にいるのではと思い周囲を散策していた時だった。

 

「ちょっと貴女。こんな時間でここで何をしているの?」

 

いつの間にか正面には怪訝な表情をした婦警が自分を見下ろしていた。

 

(どうしよう……)

 

内心、やってしまったと思うまどかだった。

 

 

 

 

 

同じ時刻、まどかと同じく”ほむらの母親”を探しに来ていた人物がこの場にもう一人いた。

 

「シンジおじさんの話だと、おばさん結構無茶してるかもしれないから様子を見てくれってか」

 

赤黒い長髪を靡かせる蒼い目が特徴的な青年は見た目こそ日本人離れしているが、自然な日本語でボヤいていた。

 

青年の名前は、ジン シンロン。暁美 ほむらとは幼少の頃から家族ぐるみで付き合いのある人物である。

 

「みたところおばさんは居ないみたいだから、とりあえずは大丈夫かな」

 

体の弱い”ほむらの母親”が無茶をしていないかこの場所に来てみたが居ないようなので、彼女に会いに行くべく

 

このまま見滝原における彼女らの家に行こうと踵を返したときだった…

 

”ジン お兄ちゃん”

 

ふと懐かしい”妹分”の声が耳元に聞こえてきたのだ。

 

「ほむら!?」

 

周囲を見渡すと一瞬であったが婦警に問い詰められている少女の姿が”暁美ほむら”と重なった。

 

その少女がほむらとは似ても似つかなかったが、ジンの”ほむら”という声に反応してこちらを見ていた。

 

ジン本人としては、見知らぬ他人ではあるがほむらと何らかの関りがあるのではと感じたのか、

 

「あぁ~っ、その子オレの知り合いの子でね。気分が悪いから今日は早退ってことになっているんで」

 

まどかに問い詰める婦警に赤黒い髪をした青年が説明する。

 

「そうですか……それでしたら早めに帰宅してくださいね」

 

婦警が去った後に青年 ジン シンロンは改めてまどかと向き合う。

 

 

 

 

 

 

初対面であるのだが、見たところこの少女は少し人見知りなのか、怯えに似た視線をこちらに向けていた。

 

「オレはこっちでのほむらの知り合いはよく分からないんだが、お互いに自己紹介をした方が良いかな」

 

少し緊張しているまどかに対してジンは彼女に目線を合わせて笑った。

 

屈託のない人懐っこい笑みに触発されたのか少女ことまどかも少しだけ笑った。

 

「ほむらと会った時もこんな感じでお互いに自己紹介をしたんだよな」

 

「ほむらちゃんの知り合い!?!」

 

と驚くまどかに対してジンは

 

「そうだぜ。ただの知り合いじゃないんだぜ、ほむらの兄貴分で小さい頃からの知り合いだ」

 

「そうなんですか。私の名前は 鹿目 まどかです」

 

「おっとっ!ほんとならオレが先に言うべきだったよな。オレは、ジン・シンロン。気軽にジンって呼んでくれや」

 

少しおどけた態度をジンが取って自分を気遣ってくれることにまどかは感謝した。

 

「ジンさんって、日本の方なんですか?凄く日本語が上手なんですね」

 

まどかは改めてだが、ジン・シンロンを見る。彼の第一印象は赤黒い髪をした蒼い目の端正な顔をした異国の青年であった。

 

背も高く来ている衣服もセンスが良く正直言ってカッコいいというのがまどかの感想であった。

 

「あぁ、オレは日本人の母と独逸と中国人のハーフの父を持ってたからな。生まれはドイツで育ちは日本なんだな」

 

”日独中 三か国”友好の証と大げさな手振りで自己紹介をするさまにまどかは思わず笑みを浮かべてしまった。

 

”一緒に居るだけで明るくなる人だな”と思い、まどかは改めて

 

「私の生まれは別で小学生の頃にこっちに越してきましたから、育ちはこっちです。ちなみにお姉ちゃんです」

 

「奇遇だな。オレは一応……さっきも言ったけど、ほむらの兄貴分で通っていたんだぜ」

 

「じゃあ、お兄ちゃんお姉ちゃんですね」

 

二人の会話は大きく弾むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどな。まどかちゃんがほむらと出会ったのはつい最近なのか」

 

「はい。心臓の病気も一段落して、ここ見滝原の学校に通うことになったってほむらちゃんから聞きました」

 

現在二人は、ほむらの見滝原における住居へと向かっていた。その道中”ほむら”のことを話題にしていた。

 

ほむらとの出会いについては、体の調子が良いので病院を抜け出した時に出会ったと語ったまどかだが、何故かジンという青年は妙に納得していた。

 

「出会いについては色々とあるみたいだが……ほむらもアスカのことを引きずっているんじゃないか心配していたんだ」

 

「?アスカさんって誰ですか?ほむらちゃんのお姉さんでしょうか?」

 

父と母がいるのならば姉が居ても不思議ではないと思いジンに聞いてみる。

 

「あぁ、オレにとっちゃ本気で好きになった女でほむらにとっては姉そのものだったよ」

 

”本気で好きになった女”。年頃であるまどかは、そんな恥ずかしいセリフを堂々というジンに対して頬を赤くするが彼は過去形で応えた。

 

「あの~。好きになったって言ってましたけどアスカさんは今は……」

 

ジンの表情が一瞬ではあるが少し気まずそうになるが、このまま答えないわけにはいかないので

 

「随分前に亡くなったよ。あんなに明るくていい娘がなんでって思ったよ…古いが、これだな」

 

ジンは携帯電話の画像フォルダより一枚の画像を映し出し、まどかに見せた。

 

「凄く奇麗な人ですね……アスカさんって」

 

そこにいたのは赤みがかかった金髪に青い目が印象的な少女だった。日本人離れしたスタイルに勝気そうな笑みを浮かべてほむらに抱きついている写真を見る限り魅力的な少女だったのだろう。

 

「あぁ、実際こういう顔をするようになったのはオレがちょっかいを出してからだったかな」

 

「えぇっ!?!ジンさん、アスカさんに何をしたんですか!?!」

 

「なんつーか、ほむらと同じで心臓に病気持ちだったんだ。母親が早くに亡くなって親父さんとは仲があまり良くなかったってな」

 

実際のところジンはアスカの父親と出会ったことはなく、アスカが亡くなった時も姿を現すことはなかった。

 

「暗い顔をしてたからな。とりあえず笑わせようと体を張ったり話しかけたりしたかな」

 

当時の自分はかなり馬鹿をやっていた。 

 

アスカと出会った切っ掛けは警察のパトカーに勝手に乗り込みひったくり犯を追跡したことにより、犯人は捕まえたもののパトカーは大破し、ジン自身も数日の怪我を負い、入院する羽目になったことである。

 

「………パトカーに勝手に乗り込んだんですか」

 

当時のことを懐かしいなと話す人に対してまどかはこの青年と”ほむら”に共通しているものがあると感じた。

 

彼女が知る”暁美ほむら”もまた、自身の武器を調達する際に様々な場所に足を運びそこから拝借していくのだ。

 

平然とパトカーに乗り込んだのだから他にもいろいろやっているのではないかとまどかは察するのだが、そこは聞かないでいようと思うのだった。

 

「おっ!!そろそろ、ほむらの家が見えたぞ!!」

 

気が付けば閑静な住宅街に来ており、新築の三階建ての家が目の前にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 見滝原に越してきたばかりの暁美 れいは応接室でカウンセラーである龍崎 駈音のカウンセリングを受けていた。

 

「それで……やはりあの子はまだ見つかっていないのですか……」

 

時間を見つけては我が子”ほむら”を探しているのだが、一向にその行方は知れなかった。警察にも届けを出しているのだが正直に言えば警察が真面目に捜査に取り組んでいる様子はなかった。

 

「美樹 総一郎氏のことですか…正直に言えば彼に関してはあまり良い噂を聞きませんね」

 

カウンセラーの 龍崎ことバラゴはほむらの周りとその過去を大まかであるが把握していた。彼女の過去は何というか様々な不運に見舞われていたのだ。

 

「えぇ、あの”ニルヴァーナ事件”の頃に一度誘拐されてしまい怖い目に遭いました。その時に大好きだったお義父さん。あの子にとっては祖父にあたる方でした」

 

応接室に飾ってあるその写真には小学低学年ぐらいのほむらと髭面のかなり厳つい”ヤクザ”面の男性が満面の笑みを浮かべるという違和感が強いモノだった。

 

はっきり言えば幼女を誘拐する決定的瞬間にも見えなくもない。

 

バラゴも内心この厳つい祖父の血を”ほむら”が引いていることに内心驚いていたが、自身の忌まわしき肉親の一人もこのような険しい顔をしていたことを思い出した。

 

唯一の違いはほむらはこの祖父に愛されていたということ。父親である暁美シンジが家を空けることが多いこと妻であるレイは身体が弱い為、娘のほむらの世話をお願いすることが多々あったのだ。

 

「彼は今……失礼しました」

 

「いえ、先生が気にされることではありません。私としては人を疑いたくはないのですがお義父さんとほむらを酷い目に遭わせたのはあの美樹 総一郎と思っています」

 

「そうですか、確かに彼は”ニルヴァーナの幹部”に連ねていましたね。今では洗脳も解けて警察官として職務を全うしているとか……」

 

内心バラゴは笑った。”真っ当な警察官”とはよく言ったものだと……彼の経歴は粗方調べがついていたのだった。カルト組織ニルヴァーナ事件は大きくなる前に教祖が亡くなったことで崩壊した。

 

残党は細々としているが、ほぼ解散状態でありまともに機能はしていないという。そのニルヴァーナ組織はある組織に目を付けられ壊滅させられた……

 

その組織については世間ではほとんど知られておらず、バラゴも関わり合いこそはなかったが番犬所と不可侵条約を結んでおり、魔戒騎士とは関わらないようにしていたと聞いていた。

 

だが、ほむらと関わることでその組織が魔法少女に大きく関わる集まりであり、またこの国の影で暗躍していたことも……裏表のない輪と目を掛け合わせたエンブレム”メビウスの目”。

 

その首魁として名前が知られる 蓬莱 暁美。この蓬莱 暁美が本来ならば罪に問われるはずの美樹総一郎が今も大手を振って表を歩いている理由だろうと察するのだった……

 

「確かに娘さんの誘拐事件については何故か、見滝原警察署には記録が無かった。当時もすぐ近くに美樹総一郎が居て、ほむらさんがその施設に連れ去られ、さらには祖父が殺害される事件までも起こっていました」

 

当時の”ニルヴァーナ事件”については数年程たったにも拘らずほとんど風化しており、そんな事件があったことでさえも知らないという有様であった。

 

人の悪癖ともいえる過去の忌まわしい出来事はなかったことにしたいという心情が働いているためか、年内には風見野にある本部施設跡が解体されることになっている。

 

「お母さん。今回は”ニルヴァーナ事件”の残党ではないと思いますよ。この見滝原にかつて存在した施設も今では解体撤去されていて当時の信者達のほとんどが逮捕され有罪となっています」

 

「ですが、先生!!どうしてあの子ばかりが怖い目に悲しい目に遭うのですか!?」

 

「僕にもわかりません。ですが、娘さんはいつか必ず無事な姿で帰ってきます。ですから今は落ち着いてください。お母さん、貴女もほむらさんと同じ病なのでしょう。興奮しますとお体に障りますから……」

 

感情的な母 れいに対してバラゴは心配し気遣うのだがその心中は自身の振舞に対して自嘲していたのだった。

 

(………はははは。これでは道化だ。貴女の娘さんは今僕の傍にあり、何度も恐ろしい目に悲しい目に遭わせてきた滑稽な貴女方に返すつもりなどないのですよ)

 

本来ならば例え両親であってもバラゴとしては関わりあいたくもなかったのだが、ほむらという少女はそれなりに両親の事を懸念しており、時間遡行の際には場合によっては異物と判断され両親や彼女の過去に関わるものは一切存在しなくなることもあると聞いていたが、いつかの時間軸では両親が存在し、両親と引き取った養女と暮らしていたことがあった。その時の表情は普段よりも明るく彼女にしてはかなり滑舌だった。

 

その時バラゴが不機嫌になったが、表情にこそは出さなかった。その養女として引き取られた彼女はこの時間軸ではしておらず現在はこの家の仏間に写真が飾られている。彼女の名は 三国 織莉子。ここでは特に語られることはない少女の名前である。

 

 

 

 

 

 

 暗い雰囲気に包まれたリビングに”コンコン”と窓を叩く音がした。いつの間にとバラゴは庭に入り込んだ異国の青年に対して訝しげに見た。対してれいは青年に対して覚えがあるのか先ほどとは打って変わって笑みを浮かべていた。

 

「まったく貴方はいつになったら玄関からちゃんと入ってくれるのかしら?」

 

心底可笑しいのかレイは笑みを浮かべながら窓に近づいて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジンさん!?ちゃんと玄関から入らなくて良いんですか!?これじゃ…」

 

「オレはいっつもここから入ってたからな。ほむらの部屋からはいつも2階の窓から入ってたぜ♪」

 

勝手気ままに玄関をスルーし、そのまま庭に足を進めるジンに戸惑うまどかだったが……

 

(そういえば・・・ほむらちゃんも私の部屋の窓から忠告をしてくれた時間軸もあったような)

 

もしかしたら、窓からの忠告のルーツは”この兄貴分”が根底にあったのではないかと思うのだった。そういう忌では、間違いなく”ほむらの兄”なのだろう。

 

(あぁ……だからほむらちゃんとの出会いも納得してたんですね)

 

 

 

 

 

 

 

 

「お久しぶりです!!!おばさん!!ジン・シンロン、久々に参りました!!!」

 

「貴方とはお手紙で随分やり取りしていたけど、今更だけど留学の件おめでとう!!!」

 

笑顔で出迎えてくれたれいにジンもまた笑顔で応えた。

 

「どうも。ほむらが見たらオレのことなんて言うかな」

 

「貴方の破天荒ぶりと無茶苦茶ぶりは私自身も見てたし、特に一番近くにいたあの子はそれこそ驚くわね」

 

それもそうなのだ。かつてのジンの行動は破天荒そのものであり、”騒動の影にジンあり”と言わんばかりの悪名を轟かせていたのだ。

 

とはいっても彼の行動のほとんどが”人助け”がほとんどであり、納得がいかない理不尽なことがあれば相手が”学校の先生”、”いじめっ子”、”素行の悪い者”等に向かっていく。

 

弱い者いじめは一切しなかったため、彼に助けられた人からは今でも感謝されている。ほむらもまた彼に助けられた人間の一人だった。

 

「ほむらにとっちゃ俺は馬鹿な兄貴分だったもんな。まっ、今でもそのつもりで居るんだけどな♪」

 

「あの子も貴方のことを馬鹿のお兄さんと言っていたけど、ほんとに嬉しそうに話していたわね……」

 

途端に悲しそうに顔を伏せた れい に対しジンは自身が地雷を踏んでしまったと察し

 

「おばさん。今は辛いかもしれないけど暗い気持ちで居るとおばさんが病気になっちまうよ。だから今はほむらが無事に帰ってくることだけを考えよう」

 

「わかったわ。ジン君。ほんとに貴方が居ると明るくなるわね……アスカさんもあの頃は……」

 

そんな彼にも好きな人ができたのだ。彼が一目惚れし積極的にアタックしたという、破天荒な彼もまた女の子に恋をする普通の男の子だった。

 

「いいんすよ。アスカのことはもう大丈夫です。ちゃんとお別れもできました。アスカの奴はこっちがウジウジしてたら”馬鹿!!”と言いながら背中を蹴ってくるような女だから、オレはオレで天国のアイツが安心できるようにいつもの馬鹿ジンで居るんすよ」

 

彼と彼女の関係はまさに理想的な男女の一つの形だったとれいは思った。もしも彼女が生きていたら二人は結ばれていただろうと。でもそれは、叶えられなかった。

 

「ジン君、あなたが連れているその子は?」

 

何処か見覚えのある少女に対してれいは疑問符を浮かべた。

 

「この子はまどかちゃん。ほむらのこっちでの初めての友達だぜ」

 

「あら?そうなの・・・・・・でも、ほむらは・・・」

 

ほむらは心臓の病で入院しているはずなのだ。そんな彼女に友達ができることなどあるのだろうか?

 

「え、えっと……」

 

「なんでも体調が少し良かったから病院を少しの間抜け出した時に出会ったらしくて…誰に似たんだが?」

 

助け舟を出したのはジンだった。ジンはジンなりにまどかとほむらの複雑な事情を察しているが、追及をする気はなかった。

 

「貴方でしょ。ジン君・・・・・・」

 

れいは呆れながらジンに返した。あまりよろしくはない影響ばかりだが、この青年と今は居ない彼女のおかげで”あの頃”の我が子がどれだけ救われたか感謝しきれなかった。

 

「そうなんですよね…ほむらちゃんったら、入院してるのに抜け出すなんて凄い子だなと思ったけどジンさんの妹って感じになってますよね。今の話を聞いてますと」

 

「まどかちゃんもそれを言うなら、オレのおかげって言ってくれよ。弟のたっくんも男なら多分……」

 

「たっくんはジンさんみたいに勝手気ままにはなりません。そうなったら、そうなったでジンさんのせいですからね」

 

「おいおい。オレの責任かよ」

 

三人はいつのまにか和やかな雰囲気になっていた。そんな三人に冷たい視線を送るものがこの場にただ一人だけ存在していた……龍崎 こと バラゴである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(………なんなんだ、彼は……そうか、彼がほむら君の話していた………)

 

バラゴが抱いた感情はこの場で最も場違いな”不快”の感情だった。かつての自分もまた”師”とは”弟子”でありながら家族のように過ごしたことがあった。

 

自分はあの頃、師である冴島大河と過ごした時にあのように”家族団欒”と和やかに過ごせただろうか?否、強い力を求めたその為に彼に師事しただけに過ぎない。

 

幼少の頃の冴島鋼牙を”弟分”としてみたことなどなかったのだから……あの男もそうだが……

 

(まさかここで本人を見ることになるとはな……)

 

バラゴはジンから視線を鹿目 まどかに視線を移した。ジンに向けていた不快感ではなく彼女には明確な嫌悪感と怒りの視線を向けたのだった。

 

(全ては君が彼女に関わったことが原因だ。本来なら魔法少女に関わることなく過ごせたかもしれないのに……何故、関わらせた……)

 

暗い感情が炎のように沸々と燃え上がっていくのを感じる。もしもこれがホラーを狩る魔戒騎士ならば、その時の記憶を消すか関わらないように忠告をするであろう……

 

何故かほむらに縁のある魔法少女は、素質があるのならば例え本人に今は願いがなくとも”願いが叶う”と告げ、願いを考えるように誘導してしまうのだ。

 

その最もたるものが今、ほむらが気にかけている”巴マミ”である。

 

彼女に関しては死の直前にインキュベーターと遭遇し、助けてほしいと願ったことによって魔法少女となった。その願い故に”正しい魔法少女”のあり方に固執し、魔法少女の真実に目を背け続けた居ることはあまりにも滑稽であった。

 

ほむらはそんな彼女に心を砕いているが、それを巴マミがどのように解釈しているだろうか?都合の良い自身の真実だけに目を向けているだけではなかろうか。

 

そもそも魔法少女は自業自得な存在であり、誰にも助けを求めることができず、また誰のせいにすることもできないのだ。

 

そして彼女の目は……

 

(何故だ……どうして、そんな全てを諦めた目で…希望などないのに未だにあんな小娘に縋るんだ……何故、母さんと同じ……)

 

全てがあまりにも自身の母に似すぎた 暁美ほむらに対しバラゴは苛立ちを覚えていた。そんな彼に対しいつの間にかジンが目の前に来ていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「………君は?」

 

「もしかしたらですけど、心理カウンセラーの龍崎駈音さんですか?自分は心臓を勉強している学生ですが、”心”の方にも興味がありまして龍崎駈音さんの本はよく読んでいるんですよ」

 

若干ながらバラゴは不機嫌な心情を露わにした目でジンを見ていた。ジンもまたジンで、まどかとれいを護るように間に入っていた。

 

「聞き耳を立てさせてもらったけど、君は随分と暁美さんの娘さん……ほむら君と随分親しげのようだね」

 

「ははっ、自慢じゃないっすが、一応は兄貴分で通っているんですよ。ちょっと自信のない可愛い妹なんだな、ほむらは」

 

「それは羨ましい限りだね。血の繋がらなくとも”心”は繋がっていると言うべきかな」

 

親しみのある笑みを浮かべ、バラゴは形だけではあるが彼に右手を差し出し、ジンもまた応えるように右手を差し出したのだった。

 

「………ほむらには情けないところを見せてしまいましたから、今度こそは大丈夫だってところを見せたいんです」

 

だからこそ、ジンは行方の分からなくなってしまった”ほむら”を想い、探し続ける。

 

「………そうだね。きっとほむら君も喜ぶだろうね」

 

バラゴは少し含んだように笑い、改めてほむらの母 れいに視線を向ける。

 

「れいさん。ほむら君を心配している人はこんなにも居ます。僕も微力ではありますがお手伝いさせていただきます」

 

”それでは”と断りを入れてバラゴはこの場を後にするのだが、去り際にまどかと僅かながらすれ違った。

 

まどかは自身を抱くように倒れこんだ。その様子にジンは彼女に駆け寄り

 

「まどかちゃん。大丈夫か?もしかして、あまり人に慣れていないのか?」

 

彼女と初めて出会った時、怯えるように自分を見ていたので、かつての”ほむら”と同じように人見知りなのかもしれない。

 

「ううん……大丈夫です。ジンさん…あの人……なんだかわからないけど……怖い」

 

まどかの脳裏にあの”闇色の狼”の影が龍崎駈音と重なった。

 

 

 

 

 

 

 バラゴの内面は普段の彼とは思えないほど荒れていた。言うまでもなく、ほむらの周りにいる人間の存在を彼は気に入らなかったのだ。

 

血の繋がらない赤の他人でしかないのに、実の血の繋がった兄妹のような関係を持ち、周りの人間に認められているあの青年が……

 

そして、彼女を”陰我”に引きずり込んだ切っ掛けであるあの 鹿目 まどかの存在が……

 

ここ最近のほむらは、自分に話しかけてくることが多くなっていることは喜ばしかったが、その話のほとんどが家族や親しかった友人の話だった。

 

家族や親しい者を作らずに只々。”力”を求めてきたバラゴにとっては創作物よりも遠い”異世界”のような存在でしかない”家族”。

 

”この時間軸に父と母、織莉子も居たわ……ジンお兄ちゃんも居るのかしら”

 

ああ……そうか、彼が君のお兄さんなんだね。でもね、ほむら君……君の過去は僕も把握しているよ。だからこそ、言わせてもらおう。

 

君を”悲しみ”から救ってあげられなかった”彼”よりも僕こそが君が居るべき場所だと……こんなことは言うべきではないだろう……

 

母さんを誰の手にも渡さないし、もう誰にも傷つけやさせないから……

 

 

 

 

 

 

 

「随分と荒れているな。バラゴ」

 

いつの間にか目の前にはいつかの魔戒騎士である バドが立っていた。

 

「そんなにほむらちゃんの家族に妬いているのか?あの娘はもう少し視野を大きく見るべきだと思うよ」

 

「・・・・・・貴様」

 

「おいおい。俺はお前とやりあいに来たんじゃない。ほむらちゃんの家族が気になってな」

 

偶然、出くわしただけだと弁解する様子からバドは戦いに来たのではないようだが、

 

「知っているか?私がこれまでに喰らってきたのはホラーだけではないことを」

 

「いつか聞いたような言葉だな。少し前はお前がほむらちゃんを優先したから決着付かずだったんだが」

 

「それに俺はお前と戦う気は今は無いんだ。俺も見逃すから、今日ばかりは手を引いてくれ」

 

穏便に済まそうとするバドであるが、バラゴにはその気はなく、むしろ戦闘意欲を高めている。

 

「正直に言おう。今の僕は気分が悪い。この気持ちを晴らさなければ気が済まない」

 

「口調が変わったな。それがお前の素か?意外と頭に血が上りやすい性質のようだな」

 

バドの指摘通りバラゴは普段の彼では考えられないほど激昂していたのだ。

 

自身の手元にあり、誰にも触れさせることを許さない”彼女”を求め、探す”家族”が許せなかった。

 

何故、自身が”家族”に対してここまで嫌悪を抱くかは定かではない。だが気に入らないのだ。

 

彼女が悲しみに暮れている時に守ることのできないただ血のつながりがあるだけの他人が・・・

 

目の前にいる男が”彼女”のことを気にかけていることが・・・

 

普段の彼ならば真っ先に剣を抜くのだが、口元を吊り上げる目の前の魔戒騎士の顔面目掛けて拳を振るっていた。

 

「ハハハハ。結局はこうなるか!!!良いだろう!!!今回はとことん付き合ってやるさ!!!」

 

拳を往なし、カウンターとしてがら空きになったバラゴの胸に強烈な衝撃が襲う。

 

「っ!!!くっ!?!!」

 

外壁を背に更なる衝撃がバラゴを襲った。肺に衝撃を受けたためか呼吸が荒い。

 

「どうした?バラゴ。まだ始めたばかりだぞ」

 

気が付けばバラゴは自身が膝を付いていたのだ。

 

耐え難い屈辱だった。最強の存在を目指す自身が膝を付くなど決して許されない。それをさせたこの魔戒騎士も。

 

このまま激情に任せたまま戦えば、自身が敗北する可能性のほうが高い。

 

不覚にも彼は急所を突かれてしまい、戦闘を続けることは難しかった。

 

故に彼はこの場からの撤退を選択した。撤退するしかできない自身の今に・・・

 

”この程度の力”しか持たない自身への怒りの視線をバドに向け

 

「このままでは済まさない。必ずお前も僕の糧にしてやる!!!必ずだ!!!!」

 

ホラーを思わせる淀んだ黄色い目と感情に呼応するように浮かび上がった痛々しい十字傷。

 

バラゴはバドへの”再戦”を告げたと同時に一瞬にして姿を晦ました。

 

「なあ、バラゴ。お前もまだ迷っているんだろ。いい加減に認めろよ。内なる光を・・・」

 

その場から背を向け、バドは誰にも告げることのなかった己の胸の内を呟く。

 

「お前の境遇をどうこう言える立場じゃないのは分かっているさ。俺は家族から背を向け続けてきた臆病者でしかないんだから」

 

自身の姪に今更ながら家族をしている自分は情けない以外の何物でしかないのだから・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




呀 暗黒騎士異聞におけるバラゴについて

呀 暗黒騎士異聞のバラゴは小説版を基にしています。鋼牙はバラゴについては人伝いに存在を聞いたというのがTV本編ですが、大牙の下で修業をしていた時は幼少の頃の鋼牙とあっており夕食の席を共にしていたのが小説版。この時少しだけ、話をしたのですが、冴島家に馴染めないバラゴは大牙の下を飛び出していきます。
故にバラゴは”家族”というものを知らずに育ち、唯一の肉親である父親からは母親とともにDVを受けており、唯一愛してくれた母親に対しては肉親以上の気持ちを持っていたのではないかと考察しています。故に母親とそっくりであるほむらに執着し、彼女自身を束縛し、関わるものを忌み嫌っているという具合です。


ほむらはほむらで少し流されやすい部分がありますので、本来ならば直ぐにでも逃げ出さなければならないバラゴに対して彼女なりに近づこうとしています。
これはバラゴが自身を守ろうとしてくれている事に理解を示していて、悪い気がしないという部分もあります。バラゴの本性というか真実を知らないので、ただ単に危険だけど、自分に似ている部分がある放っておけない存在としてみています。
そのまま流されるように一緒に行動をしております。

この二人は、意外と良い組み合わせなのではと今更ながら思いますが、他のキャラからみれば、まどかは「すぐに別れなきゃだめだよ」と言いますが、ほむらは「意外と頼りになるし、結構話しも合うのよね」と応えてしまいます(笑)



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。