呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝) 作:navaho
一ヶ月ぶりに更新。最近、プライベートがゴタゴタしています。
今回はオリジナルの話になります。
オリキャラである蓬来暁美のダイジェストっぽいかも・・・
見滝原のとある場所にて……
60年以上前に見滝原で空襲があり、数千人の犠牲者を悼む慰霊碑が都市の中心に建てられている。その慰霊碑をキュゥべえは見上げていた。
人類とは一日二日の付き合いではないが、僕達インキュベーターと彼らの繋がりは、とても根深いものだと僕は思っている。
こういうのは、彼らに対して切欠こそを提供した物のその後の生き方、行動については僕らは殆どノータッチだったからだ。
彼らは知的生命体であり、一個の意思を持っている。そんな彼らに干渉し、僕らインキュベーターに依存をさせてはならない。将来、彼ら人類はこの宇宙を担う世代になりうるかもしれないのだから。
人類の為にもこの宇宙の為にも、僕達は彼らが忌み嫌う行為を行わなければならない。その過程で”悪魔”と呼ばれたこともあった。
悪魔に対する認識は、『人の弱みに付けこみ、契約を交わし。その対価として魂を奪う』と言うもの。
なるほど……こんなことを書き残したのは、心当たりがあるけど言わないで置こう。これこそが、大まかな悪魔に対する認識だ。
人類は様々な解釈を悪魔に持っている。かつてこの国では漢訳仏語に対する言葉の一つだったが、ここ最近では西洋のサタン、デビルに訳されている。
他にも悪魔は人智を超えた超自然的なものであるという事。人に悪を行わせるものとも……
ここまで悪口を言われるのは、僕としては心外だ。むしろ僕らよりもホラーの方がそれなんじゃないかと思うよ。ホラーの誕生、出現は僕らにとってはイレギュラーだったが、それについては後々語るかもしれないね。
自分から奇跡を求めておいて、それが意にそぐわなかったら、裏切りと呼ぶ。騙したとも言うが、それを口にしなかった君達に問題があると思うよ。まあ、それを言ったところで、都合よく解釈されて、結局は同じことかな?
彼女達に恨み、あるいは呪いの言葉を掛けられても僕は”いつものこと”として割り切っていた。もしくは、彼女達に対して”罪悪感”を抱くことは、あまりにもおこがましいと僕自身がそう思っていたのかは分からない。
今現在の見滝原もそうだけど、この世界において人類は何度も争いだけを繰り返していた。特に60年以上前のこの国を巻き込んだ大戦の時……
あの時だった。僕が蓬莱暁美に出会ったのは……
過去の見滝原を襲った”大空襲”。あの業火の中、僕は彼女にこう尋ねた。
”僕と契約して、魔法少女になってよ。そうすれば、この地獄から君は抜け出せる”
急なことに彼女は、良く分からないといった表情だった。だけど……
”じゃあ、キュウベえ。私、空を飛びたい。此処から飛び立ちたい”
その願いと共に彼女は胸の内から、灰色のソウルジェムを出現させ、灰色の翼をはためかせた魔法少女が生まれた。
僕を抱え込むと同時に彼女は翼を羽ばたかせて飛び上がった。眼下には、あの時代特有の木造家屋が多く立ち並んでいたが、今は激しい業火に焼かれていた。
その間を多くの人々が逃げ惑っていた。その様子を蓬莱暁美は、特に表情を変えることなく無機質な瞳で見つめていた………
”助けないのかい?君なら、彼らを助けることぐらい訳ないよ”
”まさか貴方。私に人助けをさせるために契約をさせたというの?”
何をさせるのだと言わんばかりだった。そうだ、魔法少女の願いは自分自身の為、それが何処に向けられるかは契約者次第だったのに……僕も何処かでこの星の少女達に毒されていたのだろうか?
”私が助けるのは、今のあの人達にとっては傍迷惑だわ。だって……死ねる時に死ねないのは地獄だもの……”
薄笑いを浮かべる彼女の事を、他の魔法少女たちが見れば何と言うかな?そう、僕は単に強い素質を感じて彼女 蓬莱暁美に契約を持ちかけたのだ。
この状況下なら、嫌でも僕に縋りつくのだから……普通の少女なら……
”蓬莱暁美……君は一体?”
”私の名前を知ったのだから、私の素性ぐらい察することはできるでしょう”
そうだ、素質のある子に関しては彼女達にインキュベーターのコンタクトを取れば察することが出来る。そして、彼女の事情を把握した。
彼女が居たところの遥か背後には、この国の陸軍管轄の軍事研究所があったことも………
”ねぇ、キュウベえ。どうして契約を交わさなければならないの?”
僕は、魔法少女の事に付いて全てを伝えた。彼女は笑いながら僕を抱きしめてくれた。ソウルジェムが魂であることといつかは、狩るべき魔女になることも………
”そう……貴方も頑張っているのね。私のお父さんと同じで……”
灰色のソウルジェムを見つめながら、蓬莱暁美は僕を優しく丘の上に降ろした後、何処かへと飛び去ってしまった。その間にも眼下は、夜なのに空は赤々と燃え上がっていた………
彼女は日本を離れ、各地を転々としていたことは分かっていた。グリーフシードは使い切ったらその場に放置しておいても僕らが回収しに来ることは彼女に教えていたから……
時間は、巴マミが柾尾 優太によりソウルジェムが奪われる数時間ほど前に遡る。
その時間、柾尾優太は河原の近くを散策していた。特に用事があったわけではなくただ何となく気分を変えたかったのだ。
理由は言うまでも無く、少し前にあった”不思議な出来事”の影響で今まで感じることのなかった苛立ちだけが胸のうちに募って居たからだ。
それにこの河原には彼なりに素晴らしい思い出があった。自分の想い人である蓬莱暁美に自分が告白をした場所でもあったのだ。
当時の彼は、蓬莱暁美に出会うまでは空虚な人間で周りからは空気以下の人間としてボンヤリとそこに居るだけで何の役にも、邪魔にもならない存在しても意味の無い人物だった。
そんな時だった。進級と同時にクラスメイトの入れ替えがあり、その時に蓬莱暁美と一緒になったのだ。
(………暁美は僕を見つけてくれた。僕を好きだといってくれたんだ)
あの時の光景は今でも彼の中で輝いていた。夕暮れで紅く染まった河原と少し紫がかった空の下に伸びた二人の影法師が重なったこと………
”ぼ、僕は君が好きなんだ!!僕と付き合ってください!!!”
居ても居なくてもよい人間が自意識過剰になっているだけと言われかねないが、彼にとっては彼女は”希望の光”そのものだった。
”うん♪良いよ、じゃあ、キスでもしましょうか♪”
突然の事に一番、慌てたのは柾尾優太であった。気がつけば、美人というよりも可愛らしい感じの顔が自分の前に迫っていたのだ。
そんな事も感じることが出来なかった彼にとって、自分が亡くしたと思っていたものを思い出させてくれた”蓬莱暁美”は希望そのものであった。
彼にとっては、色あせない素晴らしい思い出だった。話しかけられなかったクラスメイトにからかいの祝福の言葉を送られたこともあった。
だが、それは唐突に終わってしまった。今でこそ知る事ができたのだが、自分に内緒で”魔法少女”と言う者になり、さらには、その過程で忌まわしいあの少年に命であるソウルジェムを奪われ、殺されたのだ。
何処で彼女が魔法少女として契約したのかを知りたかった。そして、契約を促した存在を見つけ出さなくてはならなかった。
この決意だけを聞くならば、愛しい人を死に追いやった元凶に制裁をすべく行動しているように見えるが、本質を知る”インキュベーター”は……
「やれやれ……柾尾優太、君は君が思っているほど心を失っているわけじゃないよ。ただ、君はあまりに身勝手なだけで」
直接、会話をしたわけではないが彼が自分を見つけようとしているのはここ最近の行動で把握していた。正確には彼がマミの元で”魔法少女”の事情を聞いた後から、
インキュベーターことキュウベえは、相変わらず無機質な赤い目を彼に向けているが、その目の中に冷ややかな感情を宿していた。
「それにね……君は、彼女を想っているけど、彼女はそういう想いを君に持っていたわけじゃないんだよ。それは君もだよね」
ここ数年、彼を監視していたキュウベえは彼の本質が”身勝手”である事を理解していた。今回の行動も自分がなくした”心”と言うものを探すことが第一で想い人の事など、何とも想っていない。
自分に刺激を与えてくれる蓬莱暁美に反応していただけで、彼自身それが心地良かったので蓬莱暁美に付きまとっていただけだった。
「フフフフ、彼がアレを見たらどんな風に彼女を見るのだろうかな?」
ここでインキュベーターは口元を吊り上げて笑った。この姿を見た事情を知る者は目を見張るであろう。このインキュベーターは何なのかと?
同時刻 リンクしているインキュベーターの拠点に居る個体の前に一つの画像が映し出された。それは、蓬莱暁美と銀髪 赤目の少年が互いに肩を抱いている光景だった。
その固体の影が大きく伸びる。影の主は、白いぬいぐるみではなく、画像に写っている銀髪 赤目の顔立ちの整った少年であった。
「僕はこの姿で暫く居るとしようか。おっと、今の僕はキュウベえじゃなくてカオルでよかったかな?暁美」
優しげに視線を向けた先には、白い寝台の上に眠る”蓬莱暁美”だった少女が横たわっていたのだ。彼女の傍に近づき、カヲルは笑みを浮かべた。
「僕がこんな風にしているなんて、時間遡行者である暁美ほむらがイレギュラーの鹿目まどかが見たらどう想うのかな?」
以前にそのまどかから、”アナタは本当にインキュベーターなのっ!?!”と問い詰められた事があったが、自分は自分であるのが彼の持論である。
本来ならばインキュベーターには、感情は無い。一種の機械の様な存在であり、役割を果たすものでしかない。
感情を抱いたインキュベーターは、精神疾患として同胞達から処理されるのだが……
「やれやれ、君が時々分からなくなるよ。同じインキュベーターなのに……」
カヲルの前にもう一体のインキュベーターが姿を現す。
「それは人類に対しても同じだよ。言っておくけど、彼らを見下して、こっちの都合の良い存在と認識したら、僕らの破滅だよ」
「………その辺は、承知するよ。やはり君を加えておいて良かったよ。残念なのは、蓬莱暁美を失ってしまったことか……」
インキュベーターにとって”蓬莱暁美”はかなり大きな存在であった。その存在を失った後、インキュベーターは”計画”を断念せざる得なかったが、”見滝原”は魔法少女、インキュベーターにとって価値のある場所へと変化したのだ。
「それに関しては彼女も言ってたよ。自分は唯では転ばないと……だけど、彼女を失ってしまった事は、僕らインキュベーターも人類と同じく愚かさに差は無いという事だよ」
カヲルは、インキュベーターに対しアルカイックスマイルを浮かべる。
「本当に君は変わっているね。大抵の精神疾患を起こしたインキュベーターは、魔法少女と共に僕達に反旗を翻すけど、君は僕らと歩みを共にしている」
そして本当に意味で彼は”笑う”という概念を持っている。魔法少女の対応で、一応は笑みを浮かべることはできるが人のそれと違いぬいぐるみのような姿のためその違いを明確に指摘できる人間は少ない。
「ハハハハ、感情が芽生えたから優しくなる?それは間違いだよ。僕はこの仕事がいい意味で天職だと思っている。それに慈善事業じゃないんだ……砂糖菓子のように甘ったるい小娘達側についても一銭にもならないからね」
心底おかしそうにカヲルは笑う。身体を震わせ頬を吊り上げて笑う姿にインキュベーターは僅かに後ずさってしまった。目の前の現象に対して冷徹に物事を運ぶのがインキュベーターの性分であるが、この精神疾患は……
(………彼はかなり危険ではあるけど、そのおかげで僕らも危ない徹を踏まないで済みそうだ)
「……それと君に頼みがあるんだ。暁美ほむらにアスナロ市からファイルの回収をお願いできるかな?」
カヲルはインキュベーターに”ファイル”の回収を望んだ。”ファイル”と言う言葉に
「それは君自身がお願いすれば良いんじゃないかな?君は僕じゃないか」
「お互いに意識は複数の体でリンクしているけれど、僕よりも君のほうがずっとインキュベーターらしい。変に勘ぐられるのは本位じゃないからね」
「やれやれ、鹿目まどかの所には君が出たのに、君は君でどうするつもりだい?」
「一つの事に今は集中したいからね。暁美に付き纏っていた身勝手な人形がいい加減、目障りになってね」
赤い目にはっきりと映る悪意を浮かべてカヲルは笑った。どうやら、自分が描くシナリオが面白くて仕方が無いらしい。
「分かったよ。あのファイルでの実験は非常に興味深い。もう少しだけ観察しても良いんじゃないかな?」
今現在、アスナロ市で繰り広げられている”実験”についてインキュベーターは語るがカヲルの目に怒気が浮かんだ。
「………それは駄目だ。アレは僕と暁美との大切な記録だ。それを……神聖な墓を荒らして持ち去った小娘に……」
苛立ったようにあるモニターに移る”インキュベーター”に酷似した黒い毛並みの小動物に対しさらに苛立ち、憎しみに似た視線を向けたかと思えば、ストックしてある身体を掴んだと同時にそれを握りつぶしたのだ。
「もったいないのは君も分かっているだろ?いいさ、言っておくけど君の本体はここから出てはいけないよ?分かっているね」
「分かっているよ。リンクしている個体だと僕の感情が制限されるのは当然なのは、ルール上、仕方ないんだよね」
肩をすくめるカヲルに対し、インキュベーターは
「僕らはこの惑星にとっては部外者だからね。やれることは限られているのが辛いところだ」
インキュベーター本来の科学力、勢力ならば、この惑星そのものを人類等、牧場の家畜のように飼いならすことも分けなかったが、それが出来ない故に魔法少女への契約という地道なことを行っているのだ。
「そう思うと蓬莱暁美の提案と計画は、ギリギリではあったけど僕らにとっては画期的なものだった」
彼女 蓬莱暁美と再会したのは、数年前だった。変わらない姿で、彼女は僕にテレパシーで呼びかけてくれた。
魔法少女は年をとらない……何故ならその肉体は既に死んでいて、成長などしないからだ。
魔法少女はソウルジェムの魔力により、その肉体を維持しているに過ぎない。
この事実を知ったほとんどの少女達は絶望し、僕と敵対する道を選ぶのだが、
僕からしてみれば、あまりにも身勝手な主張だ。だけど、僕らの行為が人類にとって悪意があると思われても仕方が無い。
そして、そういう反応をされることが分かっているのに繰り返していることは、人類よりも高い文明を誇っていながら、彼らとなんら変わらない愚かさを自嘲せざる得ない。
宇宙の為に尊い犠牲、仕方が無いことと繰り返しているインキュベーターも人類の愚かさとの差は無い。
今現在、僕が居る慰霊碑の前で彼女はあの時と変わらぬ笑顔で
”インキュベーター。私と契約して、パートナーになってくれないかしら?”
”改めて契約をするにも、もう既に僕と君はパートナーじゃないか”
そうインキュベーターは、少女が夢見る魔法少女のマスコットなのだ。僕らとしては貴重なエネルギーである彼女らのケアはそれなりにさせてもらっている。
”フフフ、そうだったわね。それじゃあ、私の計画を聞いてくれる?”
”君は、本当に変わっているね。そうか……君は……”
”そういうこと。私はアナタが契約した少女達の誰とも違う存在。だから、アナタの事を受け入れられるの”
人間で言う親愛の表現である口付けを僕にしてくれた……
この時からだったか分からないが、僕は彼女 蓬莱暁美に対し特別な思いを抱くようになった……
彼女に対しての想いを自覚し始めたのは、彼女が僕に人の姿になれるのかと問い掛けられ、変化した時だった……
”ねえ、キュウベえ。いえ、今はカオル君ね”
”呼び方なんてどっちでも構わないよ。僕らにとって、名前なんて無いような物だから……”
”それは貴方達が全体で一つであるから?”
”そういう解釈でいいよ。僕ら……いや、僕と言った方がいいかな。他の個体に若干の差異こそはあっても根本的には同じだからね。それに比べて人類の個というものは非常に面白いと思うよ”
”へぇ~~、貴方からしてみれば人類は下等な、単なる電池でしかないと考えていそうなのに?”
”暁美。それは君達…いや、僕らが深く関わる人類を貶めちゃいけないよ。僕らの祖先も人類に似た知的生命体だったらしい”
”らしい?”
”途方も無いくらい過去のことだったから、今やそういうしかないよ”
”だからこそ、過去の自分たちによく似た生き物を探して、人類を見つけ、選んだのね”
”そうだよ。今の僕らには地球の人類ほど感情は豊かじゃない。何時の頃か、僕達は感情というものが分からなくなり、それが無いというように思うようになった”
二人は、今や閉館したショッピングモールを闊歩していた。天井部からは、近隣の超高層ビルのイルミネーションが星のように輝いている。
”でも、貴方は思うようになったと言っているだけで、本当は感情はあるんだけど、何を見ても何も感じられなくなったのかしら?”
”………そうだね。僕も生き物であることを認めざるえないよ。だって、生き物の記憶には許容量が存在している。おそらくは、その許容量を越える年月を生きてきた弊害か……”
それすらも分からなくなっていった。自分達がどのように生まれ、どこに向かうのか…インキュベーターには分からなかった。
だが、自分は他の者達の為にこの宇宙の継続を求めている。そうすることで欠けた何かを埋め合わせようとしているのかを気にしてもどうにもならないことだった。
”じゃあ、貴方にとって人類はどういう存在なの?カオル君”
微笑む蓬莱暁美に対し、カオルは赤い瞳に笑みを浮かべさせるように目を細め……
”人類は、本当に面白い生き物だ。それでいて愚かだけど、何となくやっていけそうなパートナーだと思うよ”
”あっははははははははははは♪じゃあ、私達にとっていいパートナーになれるかもしれないってことなのね。次は、あのお店に♪行こう、カオル君♪”
手を引く少女に戸惑いながらインキュベーターはそっと笑みを浮かべた。あのぬいぐるみの姿の時は、そうでもなかったが、この姿になってから自分は少し感情に影響されているのではと思うのだった。
”それでね、カヲル君。私達の拠点だけど、あそこを使いたいんだ。それと……”
悪戯を思いついたような子供、いや、途方も無い何かを胸のうちに秘めた獣に似た視線を向け……
”ほんの少しだけ”みんな”を幸せにする計画……私達とインキュベーターの共同戦線を張りましょう”
それは、僕らにとっては有意義な物であったが、人類にとっては同胞と星を異星人であるインキュベーターに売り渡した魔女の禁じられた言葉だった。
そこは、かつて旧大日本帝国陸軍が管轄していた軍事研究所跡……
ここは、地下に広大な施設を誇っていて空襲の爆撃により上の建造物は消失し、別のビルが建っていたが、そこも90年代のバブル崩壊により、壊されること無く残っていた。
かつては繁華街であったこのエリアは、都市開発計画より外され、一画に廃墟だけがそこに佇んでいた。
元々は地下施設こそ、中心であった。多少は崩れている物の拠点としては機能は可能だった。蓬莱暁美は、インキュベーターと共に掌握し、そこで様々な実験、試みを行っていた。
”暁美。君の計画だけど、あくまで僕らは影に徹するというわけだけど、直接的な干渉はルールで禁じられているよ”
”貴方達はあくまで協力者。私がお願いをしてインキュベーターの知恵を借りるんです。それを後に結果として返すの”
”なるほどね。人類の発想……いや、知的生命体として…魔法少女という種としてみれば当然か……”
”ええ、均等に渡るようにするための、グリーフシードを安定して供給することが必要なの。だからこその……”
”そのための魔女の養殖……この場は、魔女を育成するための養殖場と言ったところか”
かつては、様々な兵器が生み出されていた広大なドックの至る所にアンティークを思わせる台座に浮かぶ奇怪な怪物達が漂っていた。そして、その台座の元には、かつては魔法少女だった少女の亡骸がインキュベーターによって処理されていた。
”やっぱり、アレは食べちゃうんだ”
無数のインキュベーター達が倒れている少女の亡骸に群がる光景は生理的嫌悪感を抱きかねない。だが、少女、蓬莱暁美は平然としていた。
”彼らについては、気をつけるように言っておくよ。人の味を憶えたのか、少し見境がなくなっているからね”
同じ自分ではあるが、処理するインキュベーターに関しては別にリンクしているらしく、別に行動するように制御している。
この魔女の養殖は、魔法少女にとっては有意義なモノになることは倫理的に考えれば御法度ではあるが、事情が事情ならば仕方が無いのかもしれない。
かつて狩猟生活を行っていた人類は農耕、畜産等を発達させ、その勢力を拡大させる礎を築いたのだから………
”お~い、ボス。今日も鴨を一匹、狩ってきたぜ”
一人と一匹の背後に青い髪のポニーテールの少女が現れた。背中に巨大な刀を背負い、首元には割れたソウルジェムを数珠繋ぎにしている。
手に掴んでいるのは血だらけになっている魔法少女だった。その表情は明らかに敵意と屈辱に満ちていた。
”単位が違うわよ。鴨は一羽よ”
”あっ、悪いな。じゃあ、こいつもあそこに行っとく?”
視線を向けるとそこには、待機状態のソウルジェムに似た巨大な容器があり、そこにはおぞましい色をした液体が渦巻いており、それを見た少女は一瞬にして青ざめた。
理由は言うまでも無く、ソウルジェムが濁るほどの呪い、邪気や、瘴気が渦巻いていたのだ。
”そうね。ソウルジェムは?”
”おぉ、こいつのはちゃんと持ってるぜ。ほらよ”
投げ渡されたソウルジェムを蓬莱暁美はその容器の中におもむろに投げ込みいれた。
”いやああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!”
魂がおぞましく変化していく感覚を感じたのか、少女は悲鳴を上げた。だが、この場に居る他の者達は無表情にその光景を眺めていた。
投げ込まれた瞬間、ソウルジェムは瞬く間に黒く染まっていき皹が割れ、グリーフシードへと変化していった。
液体の中を生まれたばかりの魔女が敵意を向けて、容器を突き破ろうとするが、その容器を突き破ることは叶わなかった。
”いつみても凄いもんだな。これ?”
青い髪の少女 杏 櫻は、興味深そうに容器のガラスを叩いていた。
”滅多に使わないけれど、遮断結界の応用だよ。今の人類の科学力で魔女を拘束なんてできないからね”
”そうか。よ~~く育てよ。腹いっぱい食わせてやるからな”
心底愉快そうに笑う杏 櫻に対し 蓬莱暁美は
”いつも悪いわね。貴女には汚れ役を押し付けて”
”気にすんなよ。アタシはこういうのが大好きだし、アンタに付いた方がアタシらしく居られるって奴だ”
豪快に笑いながら、杏 櫻は背を向けて施設にある自分の部屋へと向かっていった。
同じくして、蓬莱暁美も魔女の養殖場から別の施設へと移動を始めた。そこには、キュウベえに良く似た小動物がペット用のマットの上で眠っていた。
”貴方達インキュベーターの協力は大切だけど、やりすぎると貴方達も制裁を受けてしまうのよね”
”そうだね。だからこそのハイブリットなんだね”
”そうよ。人間とインキュベーターのコラボレーション。インキュベーターとの友情 ユウベえとでも名付けておきましょうか”
”それなら、僕はユウと名付けるよ。こんなにも可愛いのに間抜けな名前はカワイそうだ”
二人の会話に反応するようにユウは、感情を宿した瞳を二人に向けた。
”おはようございます。お父さん、お母さん”
目を細め、笑みを浮かべるユウに対し、二人は満足そうに笑みを浮かべた。
「……全ては、このままいけば間違いなく僕らにとっても魔法少女にとっても有意義な時間になるはずだった」
それは僅か一年足らずで崩壊してしまった。言うまでも無く、蓬莱暁美の死亡とその原因を作り上げたユウが契約した二人の魔法少女と一人の少年によって……
二人の内、一人は今も何処かに居るそうだが、少年はあの人形によって殺された。
カヲルの忌まわしい記憶に呼応するようにいくつモノ画像が浮かび上がる。そこには、魔女プラントが崩壊し、閉じ込められていた魔女達が一斉に暴れだし、施設から無数の使い魔と共に脱走していく光景だった。
さらには、そこで蓬莱暁美のソウルジェムを握り、勝ち誇ったように笑う少年の姿。
”ハハハハハ。暁美ちゃん、僕チンを舐めすぎだよ。君の計画は大崩壊だね”
”……素直に負けだけは認めてあげる。だけど、貴方はここを壊してどうするつもりなの?”
”何故って、こんなにも魔女が一杯いるんだよ!!こいつらがこの見滝原で暴れるなんて、凄いロマンじゃん!!!最高じゃん!!!”
何という狂った喜びであろうか?ここの魔女達を解き放ち、上に居る人々の怯える様を見たいという性質の悪い好奇心故の行為だった。
”ちょっと待ってよ!!!この魔女達はここから出しちゃいけないよ!!!
”要ちゃんだっけ?僕チンが何時何分何秒にそんな事を言ったの?僕チンは誰かさんのしてやったりな顔を歪ませるのが大好きなんだよ!!!”
抜け出していく魔女達を面白そうに見つめる少年に対し、蓬莱暁美は……
”貴方達には完敗ね。だけど、貴方を喜ばせるのは癪だけれど、ここにある呪いを全てぶちまけてあげるわ”
”待って、そんな事したら、この街はどうなるの!!?!”
この施設に貯蔵されている呪いと瘴気の量は半端ではないのだ。それこそ、これから先100年は魔女達を使い魔達を引き寄せる程の……
”そうね、私も悪意を持ってたわけじゃない。魔法少女にとって魔女狩りは死活問題。だから、ここを彼女達にとって最高の狩場にしてあげるわ”
レバーを引くと同時に施設の至る所から呪いが具現化した赤黒い液体がぶちまけられた。それに触れないように蓬莱暁美は背を向けて走り出した。
彼女を面白そうに少年は追いかけた。
”円さん!!!ここから、早く離れましょう!!!”
”ほのかちゃん!!!駄目!!!!”
桃色のお下げの少女が 円 要を救おうとしたが呪いが具現化した液体に巻き込まれ、ソウルジェムを黒く濁らせてしまった。
少女の絶叫が響く中、ユウは何が何だか分からないといった様子で戸惑っていた。
”お父さん!!!どうしてお家が壊れているの!?!なんで!!?!なんで!?!”
うろたえるユウに対し、インキュベーターは無表情なまま近づき……
”痛いっ!!!酷いよ!!!お父さん!!!どうして僕を食べるの!!?!どうして僕を殺すの!!!?!”
我が子の問いかけに答えることなく、インキュベーターはその身体を処理すべく悲鳴を背に食らった…………
「何時見ても嫌な光景だ。人間の愚かさがよく分かる。だけど、この狩り場こそが彼女が生きた証であり、ここで活躍する魔法少女が居てこそ、彼女の存在は無駄ではなかった」
ある映像には施設を脱走した魔女がある高速道路で一台の乗用車にぶつかっていた。それは、巴マミと両親を乗せていた。
正確には運転していた父親のすぐ傍を通り抜けたため、その瘴気に当てられ操作を誤ってしまったためである。
そして………
”た、助けて”
”契約は成立だよ。巴マミ”
同時刻………
”優太君……ごめん。私、貴方を置いていって……でも、これって私の自業自得……魔女よりも怖かったのは……人間……でも、人間に希望を……”
その瞬間、弾けたように彼女の身体が倒れてしまった。衣装も消え、見慣れた制服へと変わった。
”アレ?魔法少女っていうからさ…もう少し丈夫かと思ったんだけれど”
”あぁ、君だったんだ。その子の彼って……他の子は僕に靡いてくれたのに、そのこは僕を拒んだんだよ?”
”色々とやってくれたよ、僕が信用できないって、自分から悪者になって仲間をまとめようとしたけど、まあ無駄だったけど”
”アレっ?僕をまた殴るの?君、それで居場所を失くしたのに?どうせ君の事を信じる人なんて居ないのに?大した価値もない、生きているだけ無駄な消耗品の分際で?”
”あの女も大した価値がなかったのに、僕のような人間の価値が分からないなんて……ほんとに無駄で価値のない……”
その瞬間、少年の意識が飛んでしまった。気がつかなかったがいつの間にか持っていたシャープペンの切っ先を彼の喉元に突きたてていた。
これが柾尾 優太が最初に起こした殺人であった……
何故、このような行動を起こしたのかは彼にはわからなかった。耳障りな呼吸音が響くが、彼はそれを見ても何も感じることが出来なかった。
”罪悪感””後悔”といったそういうモノが感じられないのだ。
”暁美……おかしいよ。ねえ、君が死んだら、普通は悲しく思うよね?何でだろ?何も感じないし、何とも思わないんだ”
耳障りな音を出すかつて親友だった少年を痛めつけても何も感じられず、彼は迷子になったかのようにボンヤリとしていた………
かつての思い出に浸る柾尾 優太の目前に一組の親子連れが歩いていた。少年は幸せそうに笑い、父親はそれに応えていた。
「まろかにおみやげ、おみやげ~~♪」
「そうだね、タツヤ。今晩は久しぶりにご馳走にしようか」
二人は柾尾 優太をいや、タツヤの父親である知久は彼に気がつくと息子の視線に映すのが汚らわしいのか、近くまで抱き寄せてそのまますれ違っていった。
振り返りざまに柾尾 優太を見る知久の目は何処までも冷たかった。まるでこの世に存在することを許さないように……
その親子を眺めていた柾尾 優太は、数年前に殺した少年に続いて二度目の殺人 自らの父親を殺した光景が脳裏に浮かんだ。
少女を失った後、葬儀は行われる事がなかった。何故なら、蓬莱暁美は天涯孤独の身だったため、その遺体は警察が引き取ることになったが
”暁美は僕と一緒にいなくちゃだめなんだ!!!駄目なんだ!!!!暁美に会わせろ!!!!会わせろ!!!!”
警察に詰めかけ喚きたてる少年に対し、父親は
”馬鹿者!!!!死体を引き取るなど!!何を考えている!!!!この大馬鹿者!!!!”
容赦なく殴られるが、少年の目に感情の色はなかった。その光景にわが子ながら気味の悪さを憶えつつ、喚きたてる息子を引きずり、父親は警察署を後にした。
結局少年は少女の遺体と面会することは無かったが、蓬莱暁美の遺体がその日の内に盗まれたことは警察上層部によって揉み消されていた事を少年は知る由も無かった。
自宅に戻った父は、少年を厳しく説いた。死んだ者は帰らない事を、いつまでも囚われるなと…彼女の分まで生きることを……
だが、少年にはその言葉は届かなかった。いや届くはずなど無かったのだ……
我が子可愛さゆえに、盲目的に一方的な信頼を押し付けていたが故に少年が何者かであることを知らなかった………
”ウルサイ!!!お前と居ても何も感じない!!!僕の心は暁美が居たからこそ感じられたんだ!!!お前と居ても!!!!居ても!!!!何も感じないんだ!!!”
少年は一度目の殺人を犯した凶器を持って父親に飛び掛った。突然の事に父親は呆気に取られ、視界が紅く染まると共に凄まじ痛みが胸に走った。
”やめろ!!!……やめろ!!!!……”
”ああああああああああああああああああああああ!!!!!!!おぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!”
一心不乱に凶器を振り下ろす少年の姿は人間のそれではなかった。そう木で出来た人形が一心不乱に自分を殺そうとしているのだ。
瞳だったところは窪んだ空虚な穴だけが自分を見ていた。
”柾尾 優太……息子は何処に行ってしまったんだ?”
いつ少年は、人形と入れ替わってしまったのだ。この人形は一体、何を求めている?
その疑問を解消するまでも無く、父は物言わぬ屍と化した。そう、まるで人形と変わらぬ冷たい身体へと……
そして二人を背に柾尾 優太は、歩き始めた。
(暁美。僕は絶対に君を魔法少女なんかにさせたキュウベえを見つけてやる。そして、心を……)
既に居なくなった少女に誓うが、その決意は事情を知るものからすれば滑稽であった。
”恋は盲目”とは、よく言ったものである………
柾尾 優太の小さくなっていく背中をキュウベえは視線を向けていた。
その視線は、嘲りを含んだそれであった……
「いずれ時が着たら姿を見せてあげる。その前に柾尾 優太君も君でやることをやっておきなよ。君自身の舞台の為にもね」
一般人には聞こえるはずの無い笑い声が辺り一体に響き渡った……
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!」
次回予告を………
どうして、こんなことが……
アタシが何をしたっていうの!?!
呀 暗黒騎士異聞 第弐拾弐話「崩 壊」
誰かの為に祈ることがそんなにも悪いことなの!?!
キュウベえさんが凶悪化したかな……これは……笑うキュゥべえてあまり見たことないですよね。
蓬莱暁美についてのダイジェストでした。
この時間軸では、見滝原には何故、アレほど多くの魔女が居たかという理由については、蓬莱暁美が大量の魔女を飼っていて、それがヒョンナことから逃げ出し、悪あがきを行ったためという事にしています。
ハッキリ言うと彼女は人間ではないかもしれません。出自については今回、省きましたが、見滝原での活動とその目的についてのみをキュウベえ視点で語らせました。
補足すると、魔法少女の一応の救済を目的にはしていたのですが、その方法はあまりにも悪辣でした。
擬人化したキュウベえは、それなりの美少年で源氏名”カヲル”です(笑)元ネタは、わかる人じゃなくても分かりますよね。
キュウベえさんことカオルさんは、割と寛大で一人二人男と別に作っても咎めませんが、彼だけはどうしても受け入れがたかったのです。
所謂ペットのような認識で見ていたという具合です。
キュウベえは、そんなのよりももっと良いのがあるから今度一緒に探しにいこうと誘ったりと(笑)
彼女については、詳しく書くと本編がややこしくなりそうなのでこの辺で・・・ただ、書いていると円環の理には絶対に組みはしないだろうなと思う次第です。
インキュベーター側の魔法少女。さやか辺り、いや本編の魔法少女達とは間違いなく敵対する存在として蓬莱暁美は描いています。
さやかはさやかで優しいお姉さんが実はこういう事をしていたのを知ったらしったでショックを受けるでしょうな……
もしできるのであれば、”魔法少女 あけみ★マギカ”というスピンオフをやってみたい物です。
柾尾 優太さんにフォローを入れるとしたら、キュウベえことカヲル君は蓬莱暁美の事を誰よりも理解していると言っていますが、実を言えばキュウベえも言うほど理解していなかったり………
蓬莱暁美「人の事を完全に理解したなんて、よくもまあ……まあいいか、二人とも可愛いし♪」
こんな少女ですけど、かの少年は似たような人である柾尾 優太さんになんていうのかしら?
唐揚ちきんさん、特別コラボ、楽しみにしていますよ!!!