呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝)   作:navaho

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第一話「夢幻」

 

 

黒いローブを纏った男が一人、少女をその腕に抱えながら夜の道を歩いていた・・・

少女は病院の入院患者が着る服を纏っている。

目深に被ったフードの奥の素顔には、醜い十字の傷が顔面に刻まれており、

その奥に見える黄色い目は少女の端正な顔に向けられている。

少女は病に犯されているのだろうか?その様もまた彼の記憶にある”母”の面影だった…

まさに生まれ変わりとしか言いようがなかった……

”バラゴは、本当に綺麗な目をしているね”

”父さんと同じ…”

”ごめんね。母さん、早く元気にならないとね”

”バラゴ……優しい子”

幼く無力だった自分を愛してくれた唯一の存在……

少女の顔を見ていると昨日のことのように母の優しい言葉が甦ってくる……

バラゴの記憶にある母の”面影”をさらに重ねる。

「……うぅ………まどか………」

自分が知らない誰かの名前を苦しそうに呟き、少女の瞼から涙が溢れた。

バラゴはそっと少女の涙を拭い、自身の拠点へと歩みを進めた…………

 

 

 

 

 

そのに目は、少女を苦しめる”誰か”に対しての怒りが僅かに存在していた。

「………ここまで似ているのか……」

母も同じだった。あの横暴な”あいつ”の為に身を削り、あまつさえその命をも奪われた………

バラゴにとってあの日ほど忌まわしい日はなかった……

月明かりのない夜の川辺に横たわる”母”……その母を問答無用で切り伏せた”あいつ”……

そして、”あいつ”をこの手で八つ裂きにしたあの日を忘れることはできなかった………

 

 

 

 

 

 

 

それから間もなくして、都市の郊外にある屋敷の一室に一人の少女 暁美 ほむらが寝息を立てていた……

傍らには、ほむらを見下ろしている一人の女性が居た。

 

 

 

 

 

 

 

”エルダ”

「この娘は何だ?バラゴ様は何を考えて………それにこれは……」

エルダは不思議そうに手に取った僅かに濁った”ソウルジュウム”とベッドの上で眠る暁美ほむらとを交互に見る。

ソウルジュウムをほむらの横に置き、何処からともなくタロットカードに似た22枚の”予言の札”を取り出し占った。

「………これは………」

エルダは正位置にある10番目の札”運命の輪”を見た。その意味は、”転換点”を意味していた………

 

 

 

 

 

 

 

”?????”

私は、不思議な場所に居ました……

そこは、私の知らない”森”でした……深々と茂った木々の中を誰かが走っています……

その人は必死で誰かを探しています。私も急いでその後を追いました……

私よりもずっと年上のその人は、必死な声で誰かの名前を呼んでいます……

森の奥にある洞窟の中で、彼は一冊の本を手に取り……

”汝、力を欲するか?”

とても怖い誰かの声が洞窟の中に響き、私は恐ろしくて耳を塞いでしまいたくなりました……

こんな時に、さやかちゃんが居てくれたらと……思うほどに………

”ああ、僕は力が欲しい。いや、究極の……誰にも負けない力が……そのためなら、この肉体も魂を、全てを捧げよう!!!!”

”良かろう……汝に力を……”

本は、自らの意思を持つかのように開いたと同時に溢れんばかりの闇が”彼”を包み込みました………

彼が闇に包まれたのは一瞬でした。その瞬間に彼は………怖いくらいに晴れやかな顔で笑っていました……

”……そうか、そういうことか……力は直ぐ手に届く場所にあったのか……”

不意に彼は振り返り、私と彼は目が合ってしまいました……

その目は、とても普通じゃなくて……恐ろしい何かに手を染めようとしている……そんな感じが……

彼が足早にこちらに近づいてくるのが怖くて、私は思わず逃げてしまいました。ですが、彼は私に向かってきたのではなく……私の背後に居た……今は正面に居る”悪魔”に向かっていったのです。

背後で何かが光ったかのように感じ、振り返ると……そこには、”黄金の狼”が居ました……だけど目は……何も映さない”黒い眼”でした

悪魔は怯えたように”彼”から離れようとしますが、逃がすまいと彼は剣を振るいます。彼はとても強かったです……

悪魔の反撃を尽くいなし、一方的とも言える”強さ”で……そして、それは突然……訪れました……

黄金の鎧が突如大きくなり……

”うわああああああああああああああああっ!!!!!!!!ぐぅあああああああああああああっ!!!!!!!!!”

黄金の鎧が生き物のように動き、彼を食べようとしているように……綺麗だった黄金は、闇色に変わって……

”ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!”

今までにない怖さでした。あの悪魔よりも”彼”の方がずっと怖かった……彼は、どうなるのと……

”そのままお前の肉身を鎧に食わせるがいい、そしてお前の魂が鎧に打ち勝つ時……お前は……”

闇色の獣の叫びが終わった時、そこには”闇色の狼”が……感情のない白い眼で”悪魔”を見据えていました………

悪魔は逃げられないと悟ったのか、一矢を報いようとしたのか……”闇色の狼”に対して、襲い掛かりました……

”闇色の狼”は、悪魔を嬲ることを楽しむかのようにその腕を力任せに引きちぎり、黒い返り血を浴びながら、近くの巨木にその身体を叩きつけ……

片腕をなくした悪魔の上に跨って……見るもおぞましい”食事”を始めました……

”闇色の狼”の姿が徐々に薄れ、悪魔の喉笛を噛み切り、その身体を”彼”は食べていました………

全ての肉片を喰らい終わった後、”彼”は、いつのまにか胸に着けていた”アクセサリー”を掲げ、赤紫の光でもう一度”闇色の狼”に姿を変えました……

”今からお前は、暗黒騎士 呀となるのだ”

あの怖い声に応えるように”闇色の狼”は、いつのまにか持っていた剣を掲げた後、何事もなかったように去っていきました………

 

 

 

 

 

黒い騎士を見送った後、この場から逃げ出したくなった私の背後にまた、誰かが……

振り返るとそこには……綺麗な女の子が居ました………

”………まどか………”

とても悲しそうで、それでいて嬉しそうな顔で私の名前を……

 

 

 

 

 

 

「………………」

目覚ましがなる前に少女は目覚めた……

はっきりと思い出せるのは、あの女の子の顔……

「……あなたは……誰なの?」

夢の中の少女に対して、鹿目まどかは問い掛けた………

 

 

 

 

 

 

 

 

バラゴは、ある騎士から奪った秘薬を手に取っていた。

何故かは分からないが、自身の顔に刻まれた十字傷を少女に見せたくないと思った。

母の面影を持つ少女に対して………

秘薬を口に含んだと同時に彼の”顔”が変化する。先ほどの十字傷は消え、黄色い目は焦げ茶色の物へと……

自身の変化を確認することなく、バラゴは少女が眠る部屋へと向かう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほむら

 

 

当時の私は、”友達”と言うものが分からなかった……いえ、理解できなかったかもしれない……

生まれつき心臓が悪かった私に家族はいつも”大丈夫、きっとよくなるから”、”今度は大丈夫”と言ってくれているが、いつものように私の症状が良くあることはなかった……

いつものように治療の為にこの”見滝原”へやってきた。症状も半年前よりも良くなったので、久方ぶりに見滝原中学校へ転校し、私は”鹿目 まどか”と出会った……

私は自分の名前が嫌いだった……冴えない私に不釣合いなこの名前は、何かの嫌がらせかと思ってしまう。

でも、あの子は…

”……私その、あんまり名前で呼ばれたことなくて……凄く変な名前だし……”

”え~?そんなことないよ。なんかさ、燃え上がれ~って感じで、かっこいいと思うな”

”……名前負けしています……”

”そんなの勿体無いよぉ~、せっかく素敵な名前なんだから、ほむらちゃんもカッコよくなっちゃえばいいんだよ”

初めて人にそんな事を言われた……いつも後ろ向きに物事を考えている私には、とても思いつくことなんてできない……

 

 

 

 

 

 

 

 

私は普通の人ができる事ができない……例えば、体育。

私の心臓は生まれつき心臓の血管が細く、急激な運動をしたり、極度に緊張すると胸が苦しくなってしまう。

何でもないときでも無意味にプレッシャーを感じてしまい、極度の人見知りになった。

当然のことながら、私には友達がひとりも居なかった……

 

 

 

 

 

 

 

転校し、まどかに初めて出会った日の放課後にに…私の”運命”は大きく変わった……

自分自身の情けなさを嘆きながら一人で帰宅していた時に、”それ”は私に語りかけてきた。

”じゃあ、死んじゃえばいいんだよ”

その声は、私にとって凄く魅力的な響きを持っていた。生きていたって、誰かに迷惑を掛けるぐらいなら………いっそのこと……

”じゃあ、はやくこっちにきてよ”

いつのまにかそこは、先ほどまでいた場所ではなく、奇怪な人形が描かれた石畳が足元に広がり、空は赤く、雲はとぐろを巻いていた。

”アハハハハハハハハハハハハ”

少女のような甲高い笑い声が響くと同時に遥か向こうから、巨大な石の門が迫ってくる。

”さあ、死のうよ。そしてこっちにおいでよ”

いつのまにか現れていた落書きのような怪物達。

私は、怖さのあまりに悲鳴を上げた。だけど、こんな訳の分からない場所に救いの手が来るとは思えない……

だけど、そこへ眩い光が私の前に降り立った…

”間一髪だったわね”

”大丈夫、ほむらちゃん”

現れたのは、黄色い鮮やかな衣装を着た女の子ともう一人は、まどかだった。

ピンクの可愛らしい衣装に身を包んだ彼女は、私を見て微笑んでくれた。

”もう大丈夫だよ”

安心させるように微笑んでくれた後に、迫ってくる巨大な門、いえ、”魔女”と向き合った……

その魔女を狩る彼女達は”魔法少女”……

 

 

 

 

 

”ほむらちゃん、心が弱くても、これから強くなっていけばいいんだよ”

 

 

 

 

 

人々の心の弱さに付けこむ”魔女”に対抗する唯一の希望 魔法少女……

だけど、それは……独り立ちすら出来ていない私達少女が盲目に見た”幻”……

 

 

 

 

 

 

最初の時間軸で最期にまどかを見たのは……瓦礫の上で横たわるかつて、彼女だったもの……

街は崩壊し、そらは赤く燃えている。あの地獄の光景は、今での覚えて……いえ、今も繰り返している………

 

 

 

 

 

 

いつも私を助けてくれたまどかが居なくなったことに私は、ひたすら泣いた……

そして願った……

”鹿目さんとの出会いをやり直したい!!!守られるだけの私じゃなくて、彼女を守る私になりたい!!!”

私は、あの”悪魔”に魂を差し出した………

”契約は成立だ。君の祈りは………エントロピーを凌駕した”

 

 

 

それから、私はいくつもの”時間軸”を渡った……

 

 

 

”ほむらちゃん、過去に戻れるっていったよね。こんな結末にならないように歴史を変えられるって……”

”だからね、お願いがあるの”

”キュゥべえにだまされる前の馬鹿な私を助けてあげてくれないかな”

”よかった……あと、最期にね。もう一つだけお願い。私……××になりたくない”

”ほむらちゃん…やっと名前で呼んでくれたね……嬉しいなぁ”

 

 

 

 

 

 

 

「まどかああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!」

飛び起きたほむらは、苦しむように自身の胸を押さえていた。

「………何度でも繰り返す…絶対にあなたを救い出すまでは………」

涙を堪え、ほむらは自身の決意を新たに枕元にある”ソウルジュウム”を手に取った。

「そういえば……ここは……」

あの晩、気を失った後のことは知らない。このような場所に連れられたことなど”今まで”の時間軸にもなかった。

あの晩……

”お前達”人間如き”の武器が我ら”ホラー”に通じるものか”

今までに見たことも聞いたこともない魔女とは違う化け物……

培ってきた”力”が一切通用しない”力”。

その後に現れた”闇色の狼”……

”俺はお前を喰らいに来た”

感情のない白い眼は、情け容赦がなく怪物を見据え……喰らった……

そのときの光景を思い出したのか、ほむらは再び”生理的嫌悪感”に襲われる。

「…………あれは、一体。何だったのかしら……」

自分が手も足も出なかった”化け物”を一瞬にして切り伏せた”剣技”、”高い戦闘能力”。

”闇色の狼”について、様々な憶測をたてるが……

「何について、言っているのかは知らんが、私から見ればお前こそ何だと言いたい」

不意に発せられた声に対して、ほむらはそちらへ向く。

そこに居たのは、彼女が知る”魔女”よりもずっと”魔女”らしい不自然なほどに青白い肌の女性が居た……

「…あなたは……」

女性に問い掛ける前に扉の向こうより足音が近づいてくる。

「っ!?!!」

おそらくは自分を此処に運んでくれた誰かであろうとは思うが、油断は出来ない。だが、武器は何もない。

ここは堂々と構えて、相手を見据えようと覚悟を決め、扉の向こうから来る”人物”を待つ……

扉の向こうから現れた人物は、一人の青年……いや、見た目こそは青年であるが、年齢はそれ以上のモノを感じさせる……

「目が覚めたようだね……」

青年に対して、女性は恭しく頭を垂れて迎える。

「………あなたは………」

「僕の名前は、バラゴ……君には聞きたい事がある」

バラゴはほむらが所有していた楯を片手に、話を切り出した………

 

 

 

 

 

ここに”二人”は出会った……

 

 

 

 

望みを叶えられずに心身ともに限界を迎えようとしている少女と唯一の望みを叶える為に、自らの魂を闇に委ねた男

 

二人の”運命”が交錯するとき、”絶望”と”希望”は、黒き闇一色に染まる………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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