呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝) 作:navaho
本編と合わせて番外編も一緒に掲載です。
例の彼、上手くかけているか少し不安です。あとキュゥべえを書くのが楽しい。
見滝原警察署の資料室で一人の刑事が数年前に起こった事件を見直していた。
その事件の始まりは一人の少女の死亡から始まり、複数の少女達の死亡を経て、一人の少女の死で終わった事件。
当時、奇怪な噂が見滝原の街を巡っていた。それは、
”街に怪物たちが徘徊している。それは、ある素質を持った少女達にしか見えない”
”素質を持った少女達を戦士へと変える不思議な少女と生き物”
”それらが戦いを人知れず続けている”
あまりにも捜査が進まず、結果迷宮入りになってしまったこの事件に人々は突飛な物語の出来事と思うようになってしまった。
「事件は、蓬莱 暁美の死をもって終焉を迎えた」
刑事の名は、美樹 総一朗。見滝原中学に通う美樹さやかの父親である。
ここ最近、見滝原やその周辺で起こっている不可解な事件に目を通していた。
”見滝原の工業地帯の河川近くで、隣町の14歳の少女が変死体で発見される”
”三国議員の息女とその友人が失踪”
”週に3度以上発生する行方不明事件”
”見滝原に転校予定の少女 暁美ほむらの失踪”
これらの事件以外に、若い少女たちが失踪、さらには変死体で発見される事件が相次いでいる。
特にここ最近の見滝原では、不可解な行方不明事件が多く、そのほとんどが迷宮入りしている。
多くの刑事が諦め、背を向けた事件ではあるが、彼はその答えの一端を一度だけ見たことがあった。
あれは、まだ娘のさやかが小学校に入って間もない頃だった。
”なんだ?あれは……俺は幻覚を見ているのか?”
あの時自分を取り囲んでいた不鮮明なノイズのような影達。それらを背中の翼の羽ばたきで一蹴してしまった黒い髪が特徴的な冷たい表情の少女。
”これは、私達の仕事。アナタは迷い込んでしまっただけ”
”ま、まて…そういうのは大人のやることだ。子供が危険なことをするんじゃない”
”大人のやること?あなた達には最初から期待なんかしていないわ”
翼を羽ばたかせて少女は去っていった。その少女を見たという噂は時折聞いていたが、自分たちが暮らすマンションの近くに住んでいた蓬莱 暁美が亡くなったと同時にその噂は途絶えてしまった………
”警視庁 X白書”
警察組織が遭遇した不可解な事件を纏めたFILE。
その中の一文にこう書かれている。
”悪魔を見た”
この悪魔に関する証言は警察組織が結成される以前より報告され、時折、報告が上がっている。
悪魔達に関しては、”人を喰らった”、”絵の中の女が笑った”、”鏡の中に人が閉じ込められた”、”死体が動き出した”、”異形の怪物を見た”
という常識では考えられない報告がほとんどである。だが、ここ数年の間に目撃、報告が上がっているのは……
”少女と怪物”の報告である。その少女達とは、煌びやかな衣装を纏い、異形の怪物たちと戦っているという報告である。
この報告によると、少女達は希望から生まれた”魔法少女”であり、絶望から生まれた怪物”魔女”と対決する運命にあるというのだ。
その少女は、言う事だけ言って、職員の前から去っていったらしい。
「魔法少女か…女の子なら一度は夢中になっていたな」
幼少期のさやかが、その手の玩具をねだっていたのは良い思い出である。
彼女がそうであったかは、確信が持てないがもしかしたら、そうだったのではという考えがあった。そもそも自分があったあの”魔法少女”と”蓬莱暁美”とでは、全くと言っていいほど、正反対な印象であったからだ。
あの魔法少女は、朗らかで明るかった彼女と違い、一言で言うのなら厳格で冷静な少女だった。当時、蓬莱暁美はよくさやかと遊んでくれていて、彼女の覚えもよかった。
だが、彼女が付き合っていた?といわれていた当時少年だった柾尾 優太に関しては、さやかは酷く怯えていた。
人を無闇に怖がる物ではないと言いたかったが、あの少年に対する第一印象は”気味が悪い”の一言である。
常に無表情で目に輝きは無く、感情の起伏すら全く無くただぼんやりとそこにいるだけの空気、いや空気以下の存在というのが周りの認識だった。当然、友人もいない。子供は彼が近くにいるだけで泣き出す始末だからだ。
そんな彼に色々と世話を焼いていくれた蓬莱暁美は好印象であったが、男の趣味だけはどうしようもなく最悪だった。
彼女が死んでから、無口無表情の少年は人が変わったように明るくなった。まるで彼女の分まで生きよう言わんばかりに…だが、彼の目だけは全く変わっていなかった。
曇ったガラス細工のような目だけは、全く変わる事は無かった。
その変わりように美樹 総一郎は吐気さえ感じた。まるで”人形”が人の真似をしているだけで、心など無いのに心があると思い込んでいる様はおぞましい光景であり、総一郎は彼とは関わらないようにした。
だが数年を経て、ある行方不明事件の容疑者に彼 柾尾 優太の名があった。久々に見た彼は相変わらず、気味の悪い青年だった。周りは好印象を抱いているようだが、それは周りに彼の本質が見えていなかったのだ。
調べれば調べるほど、彼の周りでは、十数人以上の行方不明者がいることが明らかになった。性質の悪いことの確実な証拠が何一つ無いという有様だったのだ。
ある時、匿名希望で彼の有罪を確定できる証拠を提供してくれた”人物”が居た。その電話記録は
”僕は、彼のこれまでの事件を解決できる証拠を知っている。だから、早く彼を捕まえて”
声変わりをしていない少年のような声で連絡をし、その指示された場所に”証拠”はあった。だが……
”警察側の証拠ですが、少し前に紛失したそうですので、今回の件では取り扱いません”
何という事であろうか、証拠が何者かに消されてしまったのだ。彼は無罪となり、今もあの気味の悪い青年は何処かで罪を犯している。
証拠を提供してくれた人物は、公衆電話からかけていたようだが、目撃者は居ない。もしかしたら消されたかもしれないのだ。
長いこと現場で刑事をしているが、犯罪者にはその罪を犯す背景という物があった。
自身の中の鬱屈とした感情、境遇、追い詰められ暴力に走ってしまった者、家庭や周囲に虐げられ、その復讐に走る者等……
彼らを許すわけには行かないが、どこかしら思うところは存在する。柾尾 優太もそういう背景があるかもしれないが例えあっても、もはや関係はないであろう。
彼らと違い、彼にはそういう根本が存在しないのだから……
そんな事を考えていると携帯電話が鳴り始めた。流行のスマートフォンではない携帯電話である。
画面を見ると”さやか”とあった。
「もしもし、さやか。仕事中に電話は掛けない様にと言っただろう」
<そうじゃなくってさ、お父さん。工場の方で人がたくさん倒れているの。よく分かんないけど柾尾 優太も居る>
「な、なんだって?分かった、すぐそっちに向かうから動くんじゃないぞ。それと彼を見ても何もするな」
<えっ!?!アイツ、何人かに暴力を振るってたよ!!!!今、捕まえないと!!!>
「さやか!!!お前にもしものことがあっては駄目だ!!!彼の事は俺が何とかする。だから、そこで待っているんだ」
感情的に怒鳴ってしまったが、娘が危険な人物の直ぐ傍に居るというのは親としては安心が出来ないのだ。
<………分かったよ。アタシ、ここで皆を介抱するからお父さんも早く着てね>
「ああ、分かった。すぐに何人かで行く。他に変わったことは?」
<まどかが気を失っているの。アイツが何かしたんじゃないかな、まどかの近くに居たみたいで……>
「!?!わかった。一応、救急車の手配もしておくから、まどかちゃんの傍に付いていてあげなさい」
<うん、わかった。また後でね>
さやかからの電話を切り、総一郎はコートを羽織って資料室を後にした。駐車場に向かう途中で一人の若い刑事とすれ違った
「あ、美樹さん」
「……並河か……こんな時間まで何をしていた?」
「何って、やだな~~。仕事ですよ、仕事」
「……そうか。だったら、さっさと報告書を書いて、とっとと上がってしまえ」
総一郎の刑事 並河 平治を見る視線は異様に厳しかった。何故なら、彼があの柾尾 優太の有罪を確定する証拠物件を紛失させた人物だったからである。
急ぎ足の総一朗の背に対し、並河はバツの悪そうな表情で
「本当に……アンタの言うとおりにしたほうが良かったよ」
忌々しそうに視線を手元に握っていたスマートフォンの画面に向ける。そこには柾尾 優太の名前があった。
ある所に小さな雑貨屋さんがありました。そのお店には様々な物が売られていました。
家具、衣服、お菓子、玩具、本とたくさんのモノを取り扱っていて、そのお店の奥の棚に一体の人形が置かれていることに誰も気がつきませんでした。
その人形はこのお店の主人も覚えていないぐらい昔からあり、誰もそれを手に取ろうとする者も居ませんでした。
子供達により残酷な悪戯の為、棚の上から落とされたり、酷い言葉を掛けられていました。
売り物であるはずなのに、時々衣装を着せられて人形劇に出されても悪い役ばかりをさせられ、その時もやはり子供から酷い言葉を掛けられていました。
その人形はあってもなくてもどうでも良い存在でした。いつかは、何処かで処分をされてしまう筈でしたが………
ある日、その人形を買っていった少女が居ました。少女はこの人形の友達になりたいと思い、あってもなくてもどうでもよかった人形に価値ができました。
その日から、人形はいつも少女と居ました。少女の生活を見守り、応えることはできませんでしたが、その話を熱心に聞いていました……
ですがある日、少女は家に帰ってきませんでした。何日も人形は待ち続けましたが、それでも少女は帰ってきませんでした……
ある夜、動くはずのない人形が動き始めました。居なくなってしまった少女を探しに家を飛び出したのです……
そこで人形は知ることになりました。少女は魔法使いであり、人々の為に戦っていた”戦士”だったのです。
そのことを知ったとき、人形は初めて願い始めたのです。
”人間になりたい”
人間になるために人形は、心を学ぼうとしましたが……食事、遊戯、睡眠等と人間の真似を行いましたが、
”どうしてだろう……何も感じない”
木で作られた人形は、物を食べてもそれを取り込むことはできない、遊んでもそれを楽しいとも思えず、睡眠も行うことなどできませんでした。
やがて人形は、人の暗い部分を知り、それの意味も分からずに真似を行うようになったのです。
人を騙し、モノを盗み、さらには人の命を奪うようになりました…死んだ人を見て
”僕と同じだ。僕は最初から人間だったんだ”
不思議そうに眺めていて、人形は自分を”人間”であったと思うようになりました。自分は人間であると思い込んだ人形は、人間達の中で暮らし始めました……
人形は人間と同じであると言いながらも彼は殴られても決して傷つかず、血を流すことなく、加減を知らず、自分の思うままに人々を傷つけることに喜びを感じていたのです。
時には、小さな子供の手を取ってはその腕をへし折り、悲鳴を上げる様を見ては喜色の声あげ、大人に対しては、痛みを感じない身体を良いことに殴りつけ、その人が持っているモノを取り上げました。
家、服、お金、家族、命と大切なモノを奪ってきていました。最初は”人形だ”と言えば、人形は激怒し、”僕は人間だ!!!人間だ!!!”と叫びながら暴れ、人々を傷つけ、傷つけられることを恐れて、人々は人形を人間と思うことにしたのです。
痛みを知らない人形は例え腕が取れても直ぐに治ってしまい、斧で切りつけても人のように死なず、痛がることもなかったのです。
綺麗な服を纏い、宝石を木の指に散りばめさせ、食べ物を悪戯に振り回し、綺麗な女の子がいれば、恋人として扱い、あきれば捨てました。
人形にとっては幸せな、人間にとっては地獄のような日々が続いていました。
「……人間というのは面白いものだね。在りもしない虚構の存在に感情を移入するなんて」
深夜の閉館した図書館の片隅でキュウベえはその絵本を興味深そうに眺めていた
暗い館内に赤い目が爛々と輝き、その絵本に描かれている”人形”は、シンプルな木製の人形であり、見ようによっては気味が悪かった。
彼ことキュウベえは、一部の人間だけが知る特徴がある。それは感情と呼べる物が存在しないのだ。
具体的に言えば、合理的に物事を抑え、自身と他者のどちらの都合に寄ることなく目的を遂行する。
キュウベえはある目的の為に存在する歯車のような物であり、自身もそれを自覚している。
その為、感情豊かな人類に”悪魔”と罵られても、その人類を傷つけることになっても心を動かすことはないのだ。
全てが自分も含めて役割を果たすための”歯車”でしかない。キュウベえの事情に限ったことではなく、この世界に存在する全てにそれは適用される。
だが、最近は害悪にしかならず他との協調、役にさえ立てない”壊れた歯車”にキュウベえは心当たりがあった。
「最近のエネルギー回収も以前と比べれば格段に落ちているが、今の事情を考えれば仕方がないか……」
ある少女を勧誘すれば、それは達成されるのだがキュウベえは積極的に勧誘を行うことはある種の危険性を孕んでいると予想していた。
言わずともその少女の異常性を考えれば、何をされるか分からないのである。その願いにより取り返しがつかなかったら、大変な事態に陥るからだ。
自分達”インキュベーター”の目的達成の為に”各地に散らばる同士”達からは、この機会を逃すなと声が上がるのだが……
「……訳が分からないよ。僕達は全ての存在に対して平等でなくてはならない。それなのに、こちらの都合を優先させるとは……いつから僕達は精神を病んできたんだ?」
あの少女と契約すればノルマは達成されるが、確かめなければならないことがある。その懸念が当たっていれば、あの暁美ほむらや暗黒騎士以上に厄介なことになるかもしれないのだ。
人によっては憂うように見えるキュウベえの後姿にそっと近づく影があった。その影は黒い執事服を着ており……
「やあ。コダマ、久しぶりだね。君のお母さんは元気かい?」
目を細めて無表情な執事服の男 コダマは、応えるようにキュウベえを丁寧に抱きかかえるのだった。
遠くでパトカーのサイレンが見滝原の夜空を木霊していた………
柾尾はあの晩の後、殺人をまた一件起こしてしまった。
「ダメだ。こいつは・・・・・・」
彼はベッドの上に横たわる女性の死骸を横目に悪態を付いた。その女性は、少し前に付き合っていた女性であった。
昨日肉体関係に至ったのだが、いつもなら殺人同様、僅かな興奮を覚えていたのだが、それを覚えることはできず、喘いでいた女に苛立ちを覚え、そのまま処分してしまったのだ。
昨晩の”魔女”の件が忘れられなかった。あの魔女は自分に応えてくれなかった。
(自分は人間なのに・・・あんな人間離れした者に興味を示すなんて・・・・・・)
「アレは応えてくれないから………」
いつも自分を気に掛けてくれたあの人なら……と思い、早速メールを”QB”に送るが、直ぐに返信される返事は来なかった。
「…………」
苛立ったのか柾尾はスマートフォンを床にたたきつけると同時に玄関のチャイムが鳴り響いた。不機嫌な様子で玄関に行き、訪問者を迎えた。
「………柾尾さん。こういうのは、もうやめにしてくれませんか……」
訪問者は彼よりも少し年上の刑事 並河であった。柾尾の機嫌を伺うような視線を向けていた。
視線をこの部屋の主である横たわっている女性に向ける。
「ま、またって……今度はって、幾らなんでも早過ぎですよ!!!」
この刑事、以前、柾尾 優太の事件を担当していた時、容疑者として食って掛かったのだが……
ある事情により、柾尾 優太にとっての都合の良い”ゴミ処理業者”になってしまったのだ。彼の言う”ゴミ”とは、何なのかを言うのは野暮であろう。
(美樹さんの言うとおりにして置けばよかった。僕が迂闊だった)
悔やむように持ってきた大き目のスポーツバックに女性を詰め込んだ。その何ともいえない嫌な感触に顔を歪めながら……
昨晩の彼は酷く荒れていたようだ。何故なら女性の顔は見るも無残に腫れ上がり、歯は折れ、白濁とした目が見開き、皮膚は異様に青白いという凄まじいモノだった……
顔に視線をやりたくないのか刑事はなるだけ見ないように、手の感触だけで作業を行う。
刑事を柾尾 優太は、いつものように観察をしていた。彼にとって全てが観察対象である。この刑事には色々と無理難題を振りかけては、その反応を見ているのだ。
「ねえ、どうしてそれを触るのが嫌なの?」
また、その質問かと刑事はウンザリした表情で”また、いつものアレが始まるか”と嘆いた。
「………だって、死体は気味が悪いでしょ。好き好んで触りたくないですよ」
特に目の前の死体は、今まで見た中でも最悪な部類に入る。
「そうなんだ……こんなの唯の肉の塊なのに……どうやって動いているんだろうね」
いつの間にか持っていたハンマーで女性の頭を突然、割り始めたのだ。異様な打撃音と共に頭部が割れ、血が一瞬だけ吹き出た。
頭蓋骨を割るだけに飽きたらずか、その脳を取り出し手に取り
「頭の悪い女だったけど、意外と中身あるんだ。これの何処に”ココロ”が詰まっているんだろう」
意外と白い脳にウッと吐気を催し、刑事は洗面所に駆け出し吐き出した……
(っ!?!もうこんな生活イヤダ!!!!!)
あの時、功名心が先走り、さらには保身しか考えなかった自分が恨めしかった。この男は、無理難題を振りかけてくる。
死体の処理はまだしも、死体だけではなく刑事である自分に殺しさえも強要した。断れば、恐ろしい仕打ちが待っている。
おそらくは、殺されるだろう。用済みになったら、観察対象でなくなったら、平然と捨てるのだ彼は……
その光景を真後ろで柾尾 優太は感情のない視線で観察していた。鏡に映る柾尾 優太が一瞬だけだが、無機質な人形に見えたのは一瞬の気の迷いなのだろうか……
普段なら並河の反応に薄ら笑いを浮かべているのだが、それすら浮かべて居らず、寧ろ不機嫌さを増していた。
「ダメだっ!!!!こんなんじゃだめだ!!!!」
いきなり声を張り上げ、彼は並河の頭を掴み、力任せにそのまま何度も洗面台の蛇口に叩きつけ始めた。
「ぐっがあっ!!!?!がぁっ!!あ、アンタ、何考えているんだ、ぶべっ!?!」
何度も何度も叩きつけ、血が飛び散るのが見えないのか、悲鳴を上げるのが聞こえていないのか
「ダメだ!!!!だめだ!!!!こんなんじゃダメだ!!!だめだ!!!ダメだ!!!!お前もダメだ!!!!ダメだ!!!!!」
「や、やめてくれ!!!!」
金属独特の硬い感触と襲ってくる衝撃に顔を歪めながら並河は、悲鳴を上げた。
何とか柾尾 優太の拘束を抜け出し彼を突き飛ばした。その間も彼は”こんなんじゃダメだ”と叫んでいた。
「な、何なんだよ!!!何が、ダメなんだ!!!アンタ、俺にこれ以上、何を望むんだよ!!!!」
「僕の心が何も感じない!!!昨日から、皆、皆、何も感じない!!!!今までのことじゃダメだ!!!ダメだ!!!ダメだ!!!ダメだ!!!ダメだ!!!!ダメだ!!!ダメだ!!!ダメだ!!!!僕の心が!!!心が!!!あああああ!!!」
駄々を捏ねる子供のように柾尾 優太は、感情のない目で自分の頭を掴み嘆いた。あの夜に感じた衝動は、今までの日じゃなかった。これまで通りの探求では物足りない。
「おぎゃあ嗚呼嗚呼あああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!あああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
泣き叫ぶ赤子のような甲高い声を上げ、柾尾 優太手当たり次第に周りのモノを壊し始めた。
姿見に映った自分の姿が一瞬、糸が外れたマリオネット人形とダブった。木製で生気のない顔、瞳のないポッカリと開いた穴の目は心を感じさせない。
「違う!!!!僕は人間だ!!!!人間だ!!!!!人間だ!!!!人間だ!!!!人形じゃない!!!!!!」」
執拗に鏡に攻撃し、狂ったように自分の姿を映し出すものを壊した……数分ほど騒ぎ立てた後、落ち着いたのか。
「……アレは、どういう風に心を感じているんだ。人間じゃないくせに……心があるなんて……」
脳裏に浮かんだのは、白いマントを靡かせ、サーベルを突き立てて希望を打ち砕いた少女の姿。
人間じゃない力を持った不思議な少女。自分の部屋の隣に居る巴マミとあの美樹という壮年の刑事の娘………
そう思うと少し愉快になったのだが、実際に行おうとすれば多大なリスクが降りかかるる。あの力に自分などあっという間に捻られてしまうだろう。
息の荒い刑事の元に歩み寄り上着の内側に忍ばせた拳銃に手を伸ばし……
「ねえ、お願いがあるんだけど。聞いてくれるよね」
刑事を見つめる目は、作り物のガラスそのものだった………
見滝原より東に遠く離れたその場所は、一般人が感知できない居空間に存在していた。
その場所を”東の番犬所”と言う。
ブランコにすわる三人の少女とその内の一人の少女に抱えられている白い小動物の姿があった。
三人の少女の名をケイル、ベル、ローズ。この東の番犬所の神官である。白い小動物はキュウベえ。
「前にあった時とは少し違うさまだね、ガルム」
「そういうアナタも同じじゃないですか。以前は、もう少し気品のある姿をしていたのに・・・」
「今では、間抜けなぬいぐるみのような姿をしている」
「魔法少女なんてネーミング。まるで子供のお遊戯のようですわ」
彼女達とキュウベえはお互いによく知っている関係のようである。知り合ったのは、遥か古の時代まで遡る。
「今は、ケイル、ベル、ローズと呼んだ方がいいかな?僕と同じく三つの肉体を一つの意思でリンクさせているんだね」
この三人の少女は、一人の神官の魂が彼女らを寄り代にしてこの世に存在している。元々は一人の人間であることをキュウベえも知っていた。
「そうですわ。長い間生きてきて、アナタを思い出して」
「アナタもいくつもの身体を同時に動かしているということを」
「ですから、こうして適当に三人の少女を選び、その体を動かしているというわけです」
だから真似をしてみたんですと笑みを浮かべるが、キュウベえは特にリアクションを出さずに
「君も相変わらずだね。魔戒騎士、法師を束ねる神官がそういう風に場を乱すのは少し考えものだと思うよ」
風の噂で聞いていたが、この神官は退屈しのぎに法師や騎士をゲームの駒のように扱い、死なせてしまうことがあるそうだ。
当然のことながら騎士達の忠誠は低い。
「君の退屈しのぎに突き合わせれると命がいくつあっても足りないんじゃないよ」
「アナタも相変わらずの生真面目さ。感情がないと言うのは、どういうことですの?」
「簡単に言えば、機械を思ってくれればいい。効率の良い方に物事を間違いがないよう進めるだけだよ」
「そうですの?アナタに関しては元老院は忌まわしいモノと呼ばれるだけの事をしているじゃありませんか?」
「星を食いつぶす外道」
「ある意味ホラーの同類ですね」
三人の少女達の言いたい放題に対し、キュウベえの反応は薄い。
「ホラーと一緒にされたくないよと僕は返したいね」
「そうですわね。ホラーと違い、アナタの行いは他の方々との共同でしたっけ」
愉快そうに少女達は笑う。番犬所の短剣を納める祭壇に一つのグリーフシードが納められていた。キュウベえはそのグリーフシードに対し。
「まさか、これを君たちが持っているとは……休眠状態の”ワルプルギスの夜”を見るのは、初めてだよ」
興味深そうにグリーフシードにを見つめる。
「あら?魔法少女達の間では有名な”ワルプルギスの夜”ですよ?」
「調べなかったわけじゃないのですの?」
「まさか、自分たちが作ったものなのに分からないなんて、見た目と同じ間抜けなんですね」
三人の口の悪さは可憐な容姿とは違い、年老いた人のそれを感じさせる。
「確かに”ワルプルギスの夜”は有名さ。だけど、僕らにとっては良くわからないイレギュラーなんだ」
キュウベえの意外な言葉に少女達は視線を彼から、グリーフシードに眼を向けた。
「そもそも何処からやってきたのか?僕らは魔女誕生の瞬間を全て把握しているけど、ワルプルギスの夜に関しては不明なんだよ」
そもそもこんなグリーフシード見た事がないと言わんばかりに視線をキュウベえは向ける。
「イレギュラーならば、さっさと処分しては?」
「そうそう、基本的にこういう良く分からないものを排除するんでしょ?」
「出来るモノならば、速やかに処分したいところだけれど」
いつものようにグリーフシードを処理するために進み出るが……
”グワァッ”と言わんばかりに黒い影がキュウベえの身体を一瞬にして飲み込んでしまった。番犬所内に肉を喰らう音だけが響き渡る……
「やれやれ、代わりがあると言っても。アレを処分するのはそうとう骨が折れるよ。それに加え……」
グリーフシードの近くには、ホラーを封じた短剣が納められており、そこから”陰我”を取り込んでいるのか、グリーフシードが僅かであるが脈打っていた……
「君達のおかげで、”ワルプルギスの夜”は伝説に伝わるメシアか、レギュレイス、ギャノンに匹敵する程の脅威に成長するだろう」
何故、こんなモノをこういう場所に置いておくんだと言わんばかりにキュウベえは視線を向けるが……
「まあ良いじゃありませんか」
「ホラーだけを見るのも飽きてきたところですし」
「そのワルプルギスの夜が現れるとき、お祭りのように騒がしくなると聞きますわ」
「やれやれ、事が大変なのに君はどうしてそうも気楽に抑えるのかな?」
「「「うふふふふふふふ。長いこと生きていますと退屈を紛らわすために色々と魔が差してしまうのですよ」」」
同時に答える少女たちに対しキュゥべえは、彼女達の感情は理解できないと判断した。
「まあ、君がそれでいいのなら僕はいつものようにこの世界のために働くとするよ。ワルプルギスの夜をここまで厄介だと感じたのは初めてだよ」
「あなたと契約する交渉につかえるかもしれませんのに……」
「出来ることならそうしたいけど、”鹿目まどか”も”ワルプルギスの夜”も本来ならば、僕らが関わってはいけないモノだからね」
キュゥべえはそのまま番犬所を後にするように姿を消した。その後ろ姿を見ていた三神官は笑みを浮かべて見送るが、傍らにいるコダマは無表情であった。
彼は、クロスキャラの単なるヤラレ役にはしないつもりですので……少しは存在感があってもと思います。
意外と顔が広いキュウベえさん。長いこと地球に居るようですので、牙狼の世界と一緒ならば、あの神官と知り合っていてもおかしくないかなと思います。
補足ですが、この時間軸では、キュウベえの存在は元老院、番犬所も知っています。ホラーとほぼ同類と認識していますので、見つけたら殲滅のお達しが触れ込まれています。
後は、今のインキュベーターの姿は、ガルムと会ったときとはかなり違います。