呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝) 作:navaho
IS×GAROと一緒にこちらも連続投稿!!!
まどマギ新劇場版、ソフト化楽しみにしています!!!
病室の一室で少年 上條恭介はこれまでにない程の幸福感に満ちていた。
「ハハハハ……アハハハハハハ」
傍から見れば狂ってしまったのだろうかと心配されるかもしれないが、彼は正常であり、とても上機嫌なのだ。
動かなくなった指が動くようになり、自分が誇っていた”モノ”を取り戻すことができたことが嬉しかった。
繰り返し指を動かし、自分の頬を抓ったりを繰り返していて、これが夢ではないことを何度も何度も確認していたのだ。
「奇跡も魔法もあるか……そうだね。さやかの言ったとおりだ」
思えば、さやかにはずっと迷惑を掛けていたかもしれない。ヴァイオリンが弾けなくなってしまった事で周りの人達は、あっさりと自分を見捨てていった。
ヴァイオリンの先生、同じスクールの友達も、クラスメイトでさえ自分の事を見舞うことをしてくれなかった。
事故の当初は”気の毒なこと”と同情され、さらには、善意なのか、悪意なのか分からないクラスの寄せ書きを寄越されたときは微妙な気持になった……
そんな中でも両親とさやかだけは、ずっと自分を支えてくれていたし、構ってくれた。
音楽のCDだって、中学生のお小遣いからすれば大変な買い物であった。自分の家はそれなりに裕福であるが、お小遣いに関しては一般の家庭の子供と同じ額である。
「さやかは……もしかして、この奇跡の起こし方を知っていたのかな?だったら……今度、お礼を言った方が良いよね」
自分でも良く分かっているが自分自身、友人よりも音楽を優先したい人間だというのは良く分かっている為、こういう事を思うことはほぼ、稀だと思っている。
このように思ったのは、少し前に尋ねてきた鹿目 まどかのことだった。
”上条君!!!腕を見せて!!!!”
突然、病室に駆け込んできて腕を掴んできた彼女には、大いに驚かされた。彼女とは、それなりに交流があったがこのような行動に出ることは想像が付かなかった。
”な、なにをするんだ!!!鹿目さん!!!”
感じないはずの痛みを感じ、この時、初めて気づいたのだ。自分の指が動くようになっていたのを………
面会時間を過ぎていたのに病室に駆け込んできた鹿目まどかは、連行される囚人のように病院を追い出されてしまった。
「……なんで、あんな顔をしたんだろう……まるで僕の指が治ったのが悪いみたいにさ」
連れ去られる間際に自分を見たまどかの表情は、”どうして……”と言わんばかりに少し恨みがかった表情をしていた。
あの後、指が動くことは看護婦を通じて医師に伝えられ、明日には緊急の検査が入る予定である。
検査は単純なモノであるが、何故か妙に疲れてしまうことを上条 恭介は身を持って知っていた。
「志筑さんも鹿目さんと同じみたいだったし……良く分からないな。僕はこんなにも幸せなのに……どうして、喜んでくれないんだろう」
まどかの後に、指が動くようになったことを何処で知ったか分からないが志筑仁美から連絡が来たのだ。
この病院を出資しているのは、見滝原の名家 志筑が出しているのでこういう事もある意味許されるのである。
自分の今の喜びを伝えたのだが、志筑仁美も
”……良かったですね”の一言で電話を切られてしまった。やはり、この奇跡は歓迎されていないことが上条恭介は不満だった………
折角の気分を暗くしたくないと思い、上条恭介はさやかが持ってきてくれたCDを予備のプレイヤーに取り込み、音楽に身を委ねた。
その間、病院の隔離病棟の患者が死亡したことで大騒ぎになっていたことを知る由もなかった………
「へぇ~~、姐さんから聞いてたけど、これは魔女を発見することもできるんだ」
さやかは、自分の青いソウルジェムを興味深そうに見ていた。
「そうだよ、ソウルジェムが大きく反応があったら、それは魔女のモノだ」
「そうなんだ…じゃあ、ホラーとかは?」
”ホラー”という単語にキュウベえは押し黙った。まるで嫌なことを聞いたと言わんばかりに
「さやか……君は、それを何処で知ったんだい?」
「この間、アンタと契約するかしないかで、姐さんに相談したら教えてくれた」
「それは厄介なことを聞いた様だね。忠告の一つで言っておくけどホラーの呪いは、そこらの魔女の比じゃないよ」
「それも聞いたわ。おじ様もホラーと戦うのはいつも命がけで余裕なんてないって……でもね、アンタの事は絶対に信用するなって言われたけど……」
本来ならば、契約などすべきではないと言われたが、自分は契約をしなければならないと考えた。
あの時見た幼馴染は、大きな絶望の中に居た。たくさんの期待を寄せられたのに、事故で指が動かなくなり、ヴァイオリンが弾けなくなった事で皆が、掌を返して彼を見放したのだ。
いつかは治るかもしれないという淡い希望を胸にリハビリに励んでいたのに、それを無慈悲に”諦めろ”と突き放したことで彼がとても小さく見えた。今すぐに消えてしまいそうな程、儚く見えた。
だからこそ、放っておけなかった。今の自分の近くには彼を絶望から救い出す”術”がある。それを今、ここで使わないで何処で使うのだろうかと……
「そういうだろうね。彼らは……マミにも忠告したけれど、佐倉杏子とその伯父は魔戒騎士という血塗られた無法者の一族だ。あまり信用すべきじゃ「うっさい」
これまでにないほど、さやかは不機嫌な声でキュウベえの言葉を遮った。
「姐さんもおじ様もアンタの言うような血塗られた存在じゃない。アンタってさ、前から言いたかったんだけれど、本当はアタシの契約も他のこともどうでもいいんでしょ?」
「それはどういうことだい?僕は、魔法少女達のサポートに回っているんだけれど、それを邪推されるいわれはないんだよね」
「どうだか…三年生がピンチになってもアンタは悲鳴一つあげないし、あの助っ人のことも殺されてもどうでも良いようにみてたし、あの場を先に逃げ出したのはアンタなのよね」
このキュウベえは見た目こそは可愛らしいぬいぐるみを思わせるが、振る舞いを見ていると機械的で自分達の事を心配しているようで実は何とも思っていないように感じていた。
でもそんな奴でも”利用できる奇跡を起こせる”自分は、それを利用させてもらうだけである。
「……………」
「アタシを今まで馬鹿な子みたいに思ってたんでしょ?言っとくけど、アタシはぬいぐるみもどきに馬鹿にされる言われはないし……」
都合の悪いことを言われ、何もいえなくなったようにキュウベえはそのままさやかから背を向けて去っていった。その光景にさやかは”もう二度と来るな”と言わんばかりに厳しい視線を向けるのだった。
「さて、今日はさやかちゃんが頑張る日だね!!!!あんな奴と契約したのはアレだけど、ヒーローも悪い奴らに改造されたけど、それを正しいことに使ったから、アタシもそれに倣えばいいんだ」
幼い頃、男の子と混じってよく見ていた某特撮ヒーローの事を思い出し、さやかは夜の見滝原を見据えて
「変身!!!!」
自身のソウルジェムを輝かせたと同時に、白いマントを靡かせて夜の見滝原に跳んだ。
「へぇ~~。ここが良いところなのかい?」
「えぇ♪ここから、私達は天国へ…この理不尽な世界から旅立つのです♪」
妙に芝居が掛かった仁美に対し、柾尾 優太は目の前にある寂れた工場を見て興味深そうに眺めた。
掃除が行き渡っていないのか、あちこちに汚れが目立ち、工場内は様々な資材が放置されているという有様だった。
気がつくと周りには多くの人間が居た。そのほとんどが虚ろで陰気な顔をしていて、今にも自殺をしそうな表情だった。
以前も付き合っていた女性の一人を自殺に追い込んだことがあったが、その時の彼女もこのような顔をしていたと柾尾 優太は思い出した。
たくさんの絶望をした人間達が此処に集まっている。例え、呼びかけてもこのように集まることはない。
「……俺は、駄目な奴なんだ…こんな町工場一つ、経営できない」
「仕方がなかったんだ……アレは、赤信号だと気がつかなくって……」
「僕が悪いんじゃない。アイツが……アイツが……」
「あの糞女……目玉焼き一つで怒り狂いやがって……」
「鬼嫁め……爺さんが生きていたら……」
老若男女問わず、集まっていた。ほとんどが過去にあった忌まわしき記憶を刺激されて、恨み言を吐いている。
この光景に柾尾 優太は、興味深そうに笑みを浮かべたと同時に彼らが儀式と表して、中性洗剤と酸性潜在を大量に用意しているのを察し……
(此処にいる人達は、”何か”にトラウマを刺激されているんだ…じゃあ、僕も……)
アトラクションに入った子供のように彼は周りを見渡した。自分にも恐らくは人並みのトラウマはあるだろう。それを刺激する何かを探しださなくてはならない。
自分の中に眠っている”何か”を起こすために……あの時から、他の人間の行動を真似するだけで何も得ることはできなかったが、今の異常な状況を引き起こしているそれに近づけば……
希望を見つけたように柾尾 優太は担いでいたまどかを放り投げて、他の人間を掻き分け
「何処に居るんだい?出てきてよ!!僕の中にある”大事なもの”を呼び出してくれ!!!!」
狂おしいほどに彼は期待に満ちた表情で、ここに居るであろう、”何か”、”魔女”に呼びかけた。
「っ!?!!はぁっ!!!!」
いつものように呼吸が荒い目覚めにまどかは額の汗を拭った。此処のところずっとこの調子なのである。常に悪夢を見ては、目が覚める。
だが、今日は目が覚めても悪夢のような光景が目に入ってくる。今の状況は、あの魔女の齎した悪夢の光景だ。
”記憶”が正しければ、
”いいか、まどか。これだけは絶対にやっちゃいけない”
ある洗剤と洗剤を混ぜてしまうと致死性のガスが出てしまうのだ。此処にいる人達は確か……
「駄目っ!!!!」
誰が見ても、今、行われている光景は止めなければならない。一般常識に従わなければならない状況である。
まどかは、人々の中央に向かって駆け出したが、その行く手を阻むように
「まどかさん。何をされるつもりですか?」
仁美が立ちふさがる。その表情は、先ほど見せた”般若”を思わせる険しい表情をしていた。
「何って、アレはやっちゃいけないから……」
「それは、駄目ですわ。私達は此処から旅立つのです。この理不尽な世界から……」
「理不尽って……何を言っているの?仁美ちゃんは、そんな子じゃなかったよ」
まどかの友人である志筑仁美は、穏やかで思いやりのある少女だったはず……
「あなたに私の何が分かっているというのですの?私と違って、資格のあるさやかさんと一緒で……」
更に忌々しそうに”さやか”と口にする仁美は、今まで見たことのない程、負の感情を爆発させていたのだ。
「アレは駄目だよ!!!もし、契約したら、取り返しが付かないんだよ!!!」
「それでも構いませんわ!!!!私一人の命で上条君を救えるのならば!!!!!!」
”魔法少女”の真実を知るまどかと”魔法少女”に盲目的な理想を抱く仁美では、意見は平行線を辿るしかなかった。
特に仁美は自分が決してなることの叶わない”魔法少女”と”その奇跡”に対して、強い執着を持つようになっていたのだ。
「っ!?ごめんっ!!!仁美ちゃん!!!!」
このまま口論を続けても何もならないと考えたまどかは、急いで集団自殺を防ぐために走った。
「な、何をするつもりなのですっ!?!まどかさんっ!?!」
まどかは急いで集団の輪を駆け抜け、バケツを持ち、勢い良く外に投げ出したのだった……
「……何てことを……」
「まどかさん……」
ここに集められた人々にとっての希望を摘み取ったまどかに対し、殺意と怨嗟の声が上がった……
窓ガラスが割れる音を工場内を徘徊していた柾尾 優太は”何事か”と思ったが、自分の優先すべき用事に比べれば大したことはないと思い、再び工場内を徘徊し始めたのだった。
「何処に居るんだい?出てきてよ。君のことを知りたいんだよ」
不気味に響く彼の声に誰も応えることはなかった。
まどかが魔女の結界の近くに来ていた頃、ほむらとマミは、魔女の口付けにあった人をパトロール中に発見し、その反応を追っていた。
「巴さん……これで三人目です」
「そうね………ここまでの人数に口付けを……」
口付けだけではなく、使い魔も見かけ、これを倒したが町中に放たれた数がかなり多いのだ。
「ほむらさん、急いで大元を叩きましょう」
「もちろん、そうすべきです。ですが、今回の魔女は私達にとって、少し厄介かもしれません」
「どういうことかしら?」
マミの疑問にほむらは、これまでの”時間軸”の経験と”今回の件”を踏まえながら答えた。
「はい。魔女は精神的に弱った人間を誘い込みますが、今回はそれに加えて使い魔もいます。ほとんどの人がうわ言の様に愚痴を…後悔を口走っています」
間を置き、ほむらはわずかに胸が痛むのを感じながら
「今回の魔女は、おそらく私達の嫌な記憶……トラウマを刺激するタイプです」
「精神攻撃を行うという事?私も長いこと、魔法少女をやってるけど、そういう敵は初めてね」
「でも、攻撃はほむらさんがいれば大丈夫ね」
マミは右腕を出し何かを回すような仕草をする。それは、ほむらの魔法である時間停止の動作である。
「はい……ですが、あの魔女は意外と攻撃が速いんです。私も以前、それでやられかけたことがありましたから」
自嘲するわけではないが、様々な時間軸で強烈なモノを見せ付けられたきた為か、ほむらはこの魔女が非常に苦手になっていたのだ。
「貴女が苦手な魔女が居るなんて……でも行くしかないわ。この程度の魔女で躓くようだとワルプルギスの夜に勝つことなんて無理だわ」
「そうですね。一人では難しくても私達、二人ならば……」
二人は互いのソウルジェムの反応を確認し、倒すべき魔女の元へと向かうのだったが……
「アレっ?あの三年生と一緒に居る子って……」
二人のすぐ傍まで来ていた美樹さやかは、数日前の”病院での一件”で自分達を助けてくれた少女が居たことに驚いていた。
彼女もソウルジェムの反応を頼りに此処にたどり着いていたのだ。
「まさか……幽霊じゃないわよね。三年生、取り付かれているとかって話はやめてくださいよ」
内心、魔法少女、魔女、さらにはホラーという魔獣もいるのだから幽霊も居るのではと勘ぐってしまった。
「足はあるわよね…見たところ……取り合えず、アタシも行こう」
死んだ人間が当たり前のように目の前に居る。考えてみると、かなり怖いことなのではと思うさやかであった。
もし幽霊だったら、”こんな所で迷ってないで、成仏してください”と懇願するつもりである。
まどかは、暴徒と化した人間達から逃げていた。かつて映画で見た”ゾンビ”の群れのように感じる。
口々に自分への恨みを叫びながら追って来る彼らに対し、
「でも、アレは絶対に駄目なんだよ!!!絶対に!!!!」
誰が何と言おうが絶対に自分は間違ったことはしていないとまどかは叫んだ。
階段を駆け上り、そのまま目の前の扉を開け鍵を閉める。
追ってきた暴徒達が扉を開けようと激しく叩いてくる。さらには自分への罵声も
「どうしよう……この部屋は……」
他の”時間軸”で着た部屋と違う部屋に戸惑いを感じつつ、まどかは向かい側の扉を見つけた。
幸い扉の向こう側には非常階段に繋がっている。急いでここから、抜け出さなくてはならなかった。
(私がこれ以上、此処にいても何の役にも立てない。後は、ほむらちゃん、マミさんが此処の魔女を倒してくれるのを……)
何も力に成れない自分を情けなく思いつつ、まどかは扉の向こうへと駆け出すのだが……
「鹿目 まどか」
不意に声が背後から聞こえてきた。振り返るとそこには、どういうわけか一人の女性が佇んでいたのだ。
異様に青白い肌をした奇妙な衣装を纏った妙齢の女性 エルダが……
(魔女?)
自分が知る魔女は、どちらかというとモンスターと言ったほうが良い外見だった。この女性こそ魔女ではないかと思えるほど魔女らしい。
「鹿目まどか、お前に私は見えていたか?」
ゆっくりと歩みを進めてくるエルダに対し、怯えたようにまどかは後ずさった。先ほどの青年もそうだが、この女性も”今までの時間軸”に存在しなかった。
表情を変えずにエルダは、まどかに対し手を伸ばした。
.
先の騒ぎに対し、柾尾 優太は煩わしそうに暴徒が集まっている場所まで来ていた。
彼は珍しく苛立っていた。言うまでもなく求めるそれは決して自分の呼びかけに応えてくれなかったからだ。
「ちょっとまって、この奥に居るんだね。開けてあげるから、静かにしてよ」
暴徒を掻き分け、柾尾 優太は扉を破壊するため、適当な資材を手に取りそのまま扉目掛けて勢い良く振り下ろした。
扉のドアノブが破壊されたと同時に柾尾 優太が現れた。柾尾 優太はいつもの穏やかな青年である彼らしくない煩わしそうな視線を向け、
「ねえ、ここで騒ぎを起こさないでよ。君のせいで此処にいる”希望”が出てこられないじゃないか」
その手には金属製の資材が混紡のように握られている。彼と同時に現れた暴徒達がまどかに襲いかかろうとするが、
「お前たちは、もういいだろ!!!僕はまだ、なんだから!!!」
資材で暴徒達を殴り始めたのだ。鈍い音を立てて倒れる人を気にすることなく彼は、人々を滅多打ちにした。
(なんなの?この人……何を気にしているの?怖い)
彼に抱いたまどかの第一印象は、”マリオネット”であった。今の姿は、誰かに操られているように何も映らない綺麗なガラス細工のような瞳が鈍く輝いているだけ……
「……アレは、ただ単に刺激に反応しているだけだ。お前が怖いと思うほどの者でもない」
「そ、そうなの?」
意外にも自分に声を掛けてくれたのは、魔女のような女性であった。彼女もまた先ほどの彼同様、まともな人物とは言いがたい……
魔女のような女性 エルダは近くにあるモノが近づいているのを感じていた。
(………魔女か。ここで出てくるとは………)
ほむらと共に魔女結界を巡ってきたためかエルダも魔法少女ほどではないが魔女の気配を感じ取れるようになっていた。
そしてこの魔女は自分もほむらの運命を占う過程でよく知っている。そう確か”箱の魔女”……その能力は……
「来たか……」
「?……っ!?!!!」
その時だった。部屋の空間が奇妙に歪んだと同時に奇妙な笑い声が工場全体に響き始めた。
『AHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAッ!!!!!!』
笑い声と共にまどかの両腕をがっちりと使い魔達が抑え、さらにはエルダの前にも現れた。
「……私にも、忌まわしいと思えるものが残っているとでもいうのか?」
使い魔達に取り囲まれる彼女達に対して、柾尾 優太には使い魔達は見向きもしなかった。はっきりと怯えた表情のまどかは、使い魔達が自分に何をするかと思うと恐ろしくなり、
「嫌だよ!!!!私の中を見ないで!!!!入ってこないでよ!!!!」
その叫びと共に魔女結界の入り口が開き、まどかとエルダを巻き込むように歪に変化した空間に対し、
「ちょっと、待ってよ!!!なんで、お前達ばっかり!!!!僕もここにいるんだ!!!僕を見てよ!!!」
かつての仁美同様、彼も魔女の姿ははっきりとは見えず、黒くぼやけた何かが見えるだけだった……
無理やり空間に彼は飛び込んだ。自分にもある筈の”何か”を求めるために……
魔女結界にまどか、エルダ、柾尾 優太も飛び込んだ。それらに紛れるように白い小動物 キュウベえも魔女結界に飛び込んでいた。
「……鹿目 まどか。君がどうして魔法少女の事情を知っているのか?確かめさせてもらうよ」
怯えるまどかの目の前に今はほとんど見られたいCRTモニターと少女の頭部が掛け合わさったような魔女が姿を現した。
PCに電源が入るように画面に線が走り、そこにあるモノを映しだした。
それは、かつて誰かが見たかもしれない、体験したかもしれない光景だった。
”皆、死ぬしかないじゃない!!!!”
”こんなの嫌だよ!!!”
”うぅうううううううううううっ!!!!!”
”神様…こんなのってありなのかよ……”
”誰が愛してくれるの!!こんな体で、魂を石っころに変えられて!!!”
見知った声が響くと同時に結果内に複数のモニターが現れ、様々な場所、魔法少女達を映し出した。
崩壊した見滝原、見知った校舎で行われた殺戮を行う白い魔法少女によって放たれた魔女、打ち砕かれる赤いソウルジェム。
最近、見た病院での魔女結界で見せつけられた”ほむら”が傷つけられる光景……
「っ……うぅうううう……やめてよ……こないで……会いたくないよ……」
それらの光景の先にいるであろう”何か”をまどかは知っていた。それは、何処かの”時間軸”に現れた”自分の可能性”の一つ………
白い羽をもった今のまどかよりも少し大人びた姿をした金色の瞳を持った”彼女”の顔は影になっていてはっきりとしないが、この時間軸のまどかにとっては、毎夜悩まされる悪夢の中でも最悪な物であった。
「ここじゃ会いたくないよ!!!!誰かっ!!!早く、消してよ!!!!私の心を汚さないで!!!!」
泣きじゃくる彼女に対して、魔女は執拗にその心を攻め立てるが……
「凄いよ!!凄いよ!!!すごいよ!!!!君は、心を生き返らせるんだね!!!!」
場違いといえる歓喜の声が魔女結界に響いた。柾尾 優太である。彼が、泣きじゃくるまどかとその原因である魔女をみて興奮していたのだ。
その興奮は、様々な人々を殺害して感じた僅かな刺激どころではなかった。彼は居てもたっても居られず、まどかの元に飛び込んだ。
乱暴にまどかを押しのけ、魔女の正面に立った。
自分の行為が中断されたため、魔女は困惑したように画面を歪ませる。それに合わせる様に結界内に展開されていた光景もまた閉じられてしまった。
「僕の番だ!!!さあ、早く僕の心を見てよ!!!僕にそれを感じさせてよ!!!!!」
両手で受け入れるように柾尾 優太は魔女に笑みを浮かべるが………
魔女は目の前に突然現れた青年に対し、困惑したように首を傾けた。いつものように獲物のある部分を刺激するのだが、それがまったく彼からは感じられなかったのだ。
本体にある画面もまったく何も反応をせず、魔女はそのまま青年に何をするまでもなく、まどかを追おうとしたが、すぐ傍に居たエルダに反応するかのようにある光景を映し出した。
”シンジっ!!!”
”お前達も魔戒騎士であろう!!!なのに!!!”
画面に飛び散る血潮と崩れ落ちるかつての”愛しい人”の光景にエルダは冷めた視線を向けていた。
一般人ならば苦痛に歪めてしまう光景であるのだが、エルダにとっては、過ぎてしまった事であり、冷め切ってしまった思いだった……
「どうした…私が怯まないから、戸惑っているのか?」
エルダは余裕なのか笑みすら浮かべて魔女に言葉を返した。さらにエルダに攻撃をすべく魔女は臨戦態勢を整える。
二人のやり取りを柾尾 優太は呆然としていた。本来、人間には一つや二つ、触れられたくないモノがある。それは人が”ココロ”を持つが故であるのだが……
自分にとって、暁美を失ったことに悲しむこともそれに対して怒ることも出来なかった。それを何とかしようとしてきたのだが、どれも成果を挙げることはできなかった………
「何でだ!!!なんで、僕はああじゃない!!!!おい!!!!お前、ちゃんと僕を見ろよ!!!!!!何もないなんてふざけんな!!!!!そんな筈はないんだ!!!!!!!」
”人間に絶望しないで……”
これでは、蓬莱 暁美の遺言ともいえる言葉に応えることができないではないか。
「ふざけるな!!!!!お前!!!!ふざけるな!!!!!僕は、人間だ!!!!!心があるんだ!!!!!!何もないなんて!!!!!そんな馬鹿なことがあってたまるか!!!!!!!」
彼の叫びに誰も耳を傾ける存在は、この場に居なかった……
五本の爪を指先から出現させたと同時に魔女に対し、攻撃を行おうと態勢を整えたと一瞬の違和感と同時にいきなり、魔女が真っ二つ切り裂かれていた。
「?……時間停止か」
そういつの間にか魔女結界に侵入していた さやかと何故か一緒に居るほむらの二人だった。
「ほんとうにほむらの能力は最強だよね!!!!アタシと姐さんと三人なら、絶対に最強のチームが組めるよ!!!」
「バランスが偏りすぎるわ。二人とも近接ばかりじゃない!!!それよりも早く!!!」
「分かってるって!!!!そこの魔女、覚悟!!!!!」
サーベルを片手にダメージを負った魔女に対し、さやかはさらに追撃すべく飛翔し、
「これで終わり!!!!!!」
魔女の頭部と思われる部分を切り裂いた同時に黒い血を思わせる液体が飛び散ったと同時に魔女結界が晴れていった……
「やはり此処にきていたか、ほむら。少ししたら、また会おう」
自分の事を確認されたくないのかエルダは背を向けてこの場を去ろうとするのだが……
「お前……なんで、悲鳴を上げない?」
柾尾 優太がエルダの前に立っていた。その表情は納得がいかないことへの不満の色が浮かんでいた。
「……さあな。私にとって、もう過ぎたことだからな」
「答えになっていない!!!!」
柾尾 優太は、持っていた資材でエルダに襲い掛かるが、手刀でそのまま首を当てられ、勢い良く壁にぶつかってしまった。
「っ!?!……」
「お前が何を考えているかは知らんが、お前にとって過去は、何もなかったのだろう。今もな……」
柾尾 優太は、あの時、彼女を失ったが自分はそれを悲しむことも嘆くことも出来なかった。
さらには、原因となった者達を恨み、憎しみも抱かなかったのだ。普通ならば、復讐を行うだろう……
「……なんでだよ……どうして僕は、そうじゃない……なんでだ……」
自分に良くしてくれた蓬莱暁美を失ったことと、彼女に対する特別な想いもなく、彼女の居た意味は……
柾尾 優太は、己の存在は何の価値もない、ただ居るだけの何の役にも立たなく、ただ害悪にしかならない存在でしかないことに絶望すら感じなかった……
これで諦める程、彼は物分りの良い人間ではなかった。今回のケースは、特別だと納得させ、普段どおり自分の探求を行うべきと判断するのだった。
だが、次からは少しばかりリスクが大きくなる。相手は自分が腕力任せで捻じ伏せられるか弱い存在ではないのだから……
「……………」
そんな柾尾 優太に対しエルダは道端の石ころを見るような視線を向けた後、その場を後にした。
魔女結界が晴れていき、さやかは巻き込まれていた親友の下へ一目散に掛けだした。
「まどか!!!まどか!!!」
返事をしないまどかにさやかは必死に呼びかけるが
「大丈夫よ。美樹さん。気を失っているだけだから……」
「あ、うん。そうだね。それとありがとうね。ほむら」
畏まってさやかはほむらに礼を述べた。
「お礼を言われるほどではないわ」
「協力してくれたのは、事実じゃん」
肩を気さくに叩くさやかは、はっきりいって馴れ馴れしい。しかしながら、ほむらは僅かながら居心地の良さを感じていた。
少しばかりの気苦労はあるかもしれないが、今のところは問題はない…自分とそれに関わる彼らを除けば………
<ほむらさん。魔女の口付けに当てられた人達はもう大丈夫よ>
<そうですか、巴さん。もう魔女も狩り終わりましたから、このまま引き上げましょう>
<そうね。美樹さんはどうするのかしら?>
、
彼女は、巻き込まれた友人に付き添うみたいですから…>
<分かったわ。ここで待っているわ>
「ねえ、ほむら。三年生と一緒に戻るわけ?」
「三年生って…巴さんは、あなたのいう姐さんよりもベテランよ。そういう態度はあまりいただけないわ」
「姐さんに続いて、ほむらもですか……良いですよ。その内、ちゃんと理解するから、小言はいいでしょ」
うんざりと言った表情で応えるさやかに対し、内心、ほむらは溜息をつきながら、
「お願いするわよ……じゃあ、私はここで……」
振り返りざま、ほむらはまどかに視線を向け
(まどか……あなたはどうして、こうも日常からはみ出してしまうのかしら。でも、あなたは絶対に護りたい。そのためなら……)
脳裏に自分の目的の為に”様々な”モノを利用する同属嫌悪を抱くあの男と同類になりたくないのか……
(分かっている。そんな甘さでは、誰も守り通すこともできない……バラゴのようになることを私は許せない)
矛盾する感情を持て余しながら、ほむらもこの場を後にするのだった。
後に残されたさやかは、先ほど魔女結界で見た一瞬の光景を思い出し……
「それにしても……まどか。魔法少女に虐められたのかな?」
まどかが拒絶していた光景に映った白い翼を持った長い髪の少女……ただ、さやかもまた……
「悪口を言うわけじゃないんですけど、あの子に付いて行ったら二度と皆に会えなくなる気がしたんだよね……」
良く分からないが、アレは自分達を何処かに連れて行こうとしていた。そんな気がするのだった。
あの光景をほむらは見ていない。魔女はトラウマを持つ者に真っ先に反応するという性質があるらしく、ほむらは敢えて視覚をシャットダウンさせていたのだから……
さらには、まどかへの干渉が途中で中断されたことも理由であるが………
「さぁ~~てと、此処の人達は警察にお任せしますか。警察はアタシの身内みたいなもんだしね」
彼女は携帯電話の電話帳にある刑事のフォルダにある 父にカーソルを合わせ
「もしもし、お父さん。工場でたくさんの人が倒れていて……」
しばらくして、工場周辺に複数のパトカーが訪れ辺りは騒然としていた。野次馬が群れている一方でそこから離れた所で柾尾 優太は……
「あの子…刑事の子供だったんだ……」
自分の事を蛇蝎の如く嫌悪する壮年の刑事の事を思い出し、騒がしくされたくないこともあって彼はその場から背を向けるのだった…
「今度は……今度は………大丈夫だ……僕は人間だ……心があるんだ………そうだよね、暁美」
あとがき
今回、話がかなり長くなってしまったので、カットした部分がマミ、さやか、ほむらの掛け合いですが、次回出す予定です!!!!
ある程度、進んできたのですが呀の設定集のようなものを出すべきでしょうか?
最初の頃は、折り返し地点で出す予定でしたけれど、ネタばれになりかねませんので最終回の後に個人的な感想を入れてやるほうがよろしいかと?
この時、杏子はポートシティーにバドと一緒に用事で離れています。
何のために離れたかは、お察しと……杏子は牙狼キャラとそれなりに絡む予定です。
次回より、杏子も合流です。
願いを叶えた。私も恭介も幸せだ。
後は、アタシ達のこの幸せをどう続けていくか
私は家族も居るし、友達も居る。そして戦ってくれる仲間が居る。
だけど……
呀 暗黒騎士異聞 第二十一話「亀 裂」
新しく手に入れたこれは、これまでのアタシ達の日常に大きな傷を齎していたことに
手遅れになるまで気がつかなかった………