呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝)   作:navaho

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久々の更新・・・・・・大変お待たせしました。

とりあえずは、こちらを優先的に更新したいと思います。

例の彼によく似た人がでました。期待に応えられたでしょうか?唐揚ちきんさん・・・・・・


第十八話「古傷」

 

 

数日前・・・・・・

 

『柾尾君!!!貴方って本当に最低っ!!!!』

 

周囲に木霊するのは彼の頬を叩く乾いた音だった。彼こと、柾尾優太は背を向けて去っていくかつての恋人を何の感慨もない視線を向けていた。

 

「分からないな~~。どうして、他の異性と一緒に居ただけであんな風に怒るのかな~~」

 

彼の視線は、興味深そうにまるで実験動物を観察するような視線を向けた後、使い古されたキャンパスノートに

 

”かずみ…離れる”と書き込んだ。そのページには、つい最近、撮影したと思われる写真が貼り付けられていた。

 

そこには仲つつましく肩を組んでいる柾尾と先ほど彼と別れた和美の姿があった。いや、和美だけではなく、隣のページには和美ではない別の女性のモノも。

 

「別に僕は、きみと愛し合っていたわけじゃないんだけれどね」

 

柾尾は不思議そうに自分とかずみが映った写真を眺めていた。写真の中の和美は満面の笑みを浮かべて自分の腕を取っている。だが、彼自身は口元の形を歪ませているだけで”笑っては居なかった”。

 

「不思議だな……どうして、他人は分かりもしないのに自分に都合の良い解釈で他人を見るんだろうか」

 

和美の笑顔に合わせるように頬に手をあて、口元をゆがめて笑顔を作り出そうとする彼の姿は、傍から見ればゴムのマスクをした人形が真似事をしているようだった。

 

「分からない……こんな僕に言い寄ってくる彼女達も……」

 

捲られたキャンパスノートのページには、彼がこれまでに付き合ってきた女性との日々が綴られていた。

 

彼女達との日々は悪くはなかったと感じていたが、彼はそれを”楽しい”とも思って居なかった。だからこそ、それを理解しようとも彼なりに努力をしてきたが、叶わなかった。

 

悩むように唸る彼は不意に頭上を何かが通り過ぎる影を見た。上を向くと黄色を基調とした衣装を身に着けた少女が飛翔している。

 

「…………なんだろ?あの子は」

 

普通の人ならば、呆然とする光景であるが彼は、まるで機械のセンサーのようにその光景を捉えて、後を追った。

 

いつの間にか少女は、自分が住まう自宅マンションのエントランスから階段を駆け上がっていく。

 

薄暗くなった通路を足早にかけていく影が自身が住まうとなりの部屋に駆け込む光景を見た・・・・・・

 

「巴マミ・・・・・・あぁ、あの子は確か・・・・・・」

 

数年前の交通事故で両親を亡くし、一人で暮らしている少女とだけ覚えていた・・・・・・・・・

 

「・・・・・・良くわからないけれど、面白いことをしているみたいだね・・・・・・巴マミちゃん」

 

共用通路の明かりに照らされた彼の影の表情が大きく裂けて笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巴マミが生活するマンションの一室に電話の着信音が鳴り響く。5コール後に、

 

<巴マミです、御用のある方はメッセージをどうぞ>

 

留守番電話用の音声の後に、数日前から同じ人物の声が

 

<巴さん、担任の保志です。ここしばらく、学校に来ていないようだけど……今日、そちらに伺います>

 

担任の保志という教師が心配の旨を伝えるメッセージが録音される。普段なら、留守電にメッセージが録音される前に彼女は電話を取るはずだが……

 

「……………」

 

彼女、巴マミはマンションの自身の寝室のベッドの上に蹲っていた。あの魔女との戦いの後、逃げるように部屋に閉じこもり、数日間食事さえ取っていなかった。

 

脳裏に浮かぶのは、自身があと少しで”死”を迎えていたかもしれない光景…

 

”死”から助けてくれた、”彼女”が傷つく光景……

 

一瞬で殺すことを良しとせず、相手を徹底的に嬲り、”死”を感じた寒気を思い出させた”闇色の狼”の悪魔のような白い目……

 

ここ数日繰り返される記憶の光景にマミは頭を抱えた。かつて、魔法少女になった頃、一人の少年を助けられずに思い悩んだこともあったが、今の悩みは……

 

(怖い……なんでアレは……魔女を……)

 

魔法少女として率先し、人々を脅かす脅威と戦うことを誓った彼女であるが、遭遇した”闇色の狼”は自分の手に負える存在ではなく、魔女とは違う”恐ろしさ”を本能的にキャッチしていたのだ。

 

暴力性、凶悪性、残忍さ、さらには魔女を喰らうという狂っているとしか思えない行動に言い難い恐怖を覚えていた。彼女が恐れてやまない”死”そのものだった・・・・・・

 

さらに、自分の為に散っていった彼女の事も……

 

「ごめんなさい……私なんかの為に……ごめんなさい……ごめんなさい」

 

いつかは枯れてしまうのではないかというぐらいに涙を流していたが、涙がかれることはなかった。

 

自分の為に”一緒に戦ってくれる”と言ってくれた彼女は、自分を助けるために犠牲となり、思い出せないが、彼女は自分に命を助けられたと言っていた。

 

「どうして、助かった命を私なんかの為に…魔法少女になったの?」

 

命が助かったのなら、何故危険な魔法少女になった?どうして、命を危険に晒すような”契約”を結んだ?それはキュゥべえにお願いしなければならない程のものだったのか?

 

もし、自分が”彼女”の近くに居れば、間違いなく止めていたかもしれない・・・・・・

 

自分の場合は、どうしようもなく”死”が恐ろしかったから”生”への”契約”を結んだのだ。

 

「……何を言っているの?巴マミ……貴女は、鹿目さんを契約させようとしていたじゃない……」

 

自分の行おうとしていた事と今、思っていたことへの矛盾に呆れてしまう。彼女自身は気づいていないが、齢15の少女であるが故だった。

 

戦う力を得ても元々は大人の加護にある子供なのだ。彼女は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の部屋の前を一人の青年が佇んでいた。彼は、数日前に見た不思議な少女がこの部屋に入るのを見てから、頻繁に此処を訪れていたのだ。

 

「今日も来ないか……ちゃんと働いている?君は……」

 

部屋の前に巧妙に隠して設置していたカメラに話しかけた。常にここに居るわけにも行かないため、来れない時は、こうして”監視”を行っているのである。

 

さらには、かつて付き合っていた”彼女”達にも同様の行為を行っていた。悪趣味な行為であるが、これは彼なりに”彼女”達を知ろうという前向きな姿勢である。

 

「しっかり頼むよ。君にはそれなりにお金を掛けているんだから……」

 

彼は、知りたかったのだ。自分に好意を寄せていた彼女達がどうしてそのような好意を抱いたのかを……

 

表面上の付き合いだけでは理解は出来ない。それ故に”彼女”達を彼なりに知ろうとした。

 

スマートフォンのあるアプリケーションを開き、扉の前が映し出されたのを確認し、彼はその場を後にした。

 

その際に彼とピンク色の少女がすれ違い、彼は振り返った。見る人が見れば、分かるだろう・・・彼の目には何も写っていないことを・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・マミさん」

 

あの一件からまどかはマミの元を訪れていなかった。

 

(どうしよう・・・・・・何となくだけれど、顔が合わせずらかっただなんて・・・やっぱり私ってダメな子だな~)

 

あれ以来、まどかはマミと会うことができなかった。結界の中でのマミのまどかに対する不信感。

 

様々な後ろめたい感情に影響され、会って何を言えば良いのか分からないという自分に都合の良い言い訳をして・・・・・・

 

マンションのエントランスに入るが、そこから先に進むことができない。会ってどうしようというのだろうか?

 

何処にでもいる特別な才能を持たないちっぽけな”鹿目 まどか”に何が出来るのか?

 

(ワルプルギスの夜を・・・・・・今も頑張っているほむらちゃんの為にも…・・・私は、どうしたらいいんだろう)

 

一発逆転のグッドアイディアをひねり出せるほど、自分の出来は良くない。あの後、ほむらを探したが何処にも居なかった。

 

魔女によって倒されたのだろうかとも考えたが、あの少女は弱くても一つの目的のためならば、達成するまでは死ぬようなことはない。

 

これはまどかが持っている”記録”によるものである。それに結界が消える瞬間、彼女は見たのだ。

 

闇色の狼が鎧を解き、ほむらを抱えて去っていくのを・・・・・・

 

おそらくは生きているだろう・・・・・・だが、どこにいるかはわからない・・・・・・

 

(何が出来るかはわからないけれど、私も頑張ってみよう。今は、マミさんと会わないと・・・・・・)

 

軽く拳を握り、自身を奮い立たせて一歩を踏み出した。

 

(できれば、杏子ちゃんも一緒に居て欲しかったんだけれど・・・でも、マミさんは・・・・・・)

 

異常にまで彼女を敵視するマミに何も言えなくなってしまう。二人の間にあった出来事は、ある程度察しているが、ここまで拒絶する時間軸はなかった。

 

この時間軸の杏子は、家の用事の為、早退し、二日ほど見滝原をおじと共に離れている。さやか曰く”姐さんはおじ様と一緒にポートシティに行くってさ”。

 

大抵は、マミをアイドル視するさやかによって、妙にこじれてしまう。さやかという言葉でまどかは我に返った。

 

(待って・・・・・・!!!今日は、さやかちゃんが契約してしまう日だっ!!!どうして、こんな大事なことを忘れていたの!!!!)

 

ノートを取り出したまどかは、今日の重要項目である”上条恭介”を見た。自身の”予定”では、さやかと共に見舞いに行く予定だった・・・・・・それなのに・・・・・・

 

(バカっ!!!私のバカ!!!何やってんの!!!)

 

今、マミに会うことも大事だが、それ以上に彼女の契約だけは絶対にしてはいけなかった。もし、契約をしてしまえば”取り返しのつかない”ことになってしまうからだ。

 

ほとんど、キュゥべえが・・・インキュベーターが作り上げた残酷なルールにより、さやかは絶望し、世を、人を呪い始める・・・・・・

 

それを未然に防ぐ為には、何としてでもさやかの契約だけは止めなくてはならない・・・・・・マミも大事だが、こちらのほうがもっと重要だと判断し、勢いよく駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

マンションから勢いよく駆け出していったまどかより遅れて、入れ違うように黒髪の少女がエントランスに入ってきた。

 

手元にバスケットを持って来たのは、暁美ほむらであった。

 

「巴さんにこれを振る舞うのは、初めてね」

 

バスケットにあるのは、かつての時間軸で”友人であり家族でもあった彼女”が教えてくれた”アップルパイ”である。

 

(不思議なものね・・・・・・貴女が教えてくれたコレを巴さんに振舞うなんてことがあるなんて・・・・・・)

 

これを持ってきたのは、自身の無事をマミに伝えることと出来ることならば、他の魔法少女と連携をとり、例え相いれなくとも歩み寄って欲しいとお願いがしたかったからだ。

 

手土産を持っていくことも”彼女”から教わったものである。かつての自分ならば、このような事を考えもつかなかったであろう・・・・・・

 

こう考えるようになったのは・・・・・・

 

(バラゴ・・・・・・彼と一緒にいる影響なのかしら・・・・・・・・・)

 

不思議と溜息を付いてしまった。彼ことバラゴの件は確かにある。シャルロッテの時に、自分が倒れた後に彼女たちも暗黒騎士 呀と会っている。

 

そして、あの残虐な戦い方も当然の事ながら見ているだろう。魔女を喰らうという悪夢のような光景に恐怖を抱かずには居られない。

 

マミも呀の事を警戒し、必要以上に自分を追い詰めてしまう可能性が高い。この時間軸では分からないが、いくつかの時間軸では”ワルプルギスの夜”への対策に向けて動き出していたことも・・・・・・

 

(……巴さんは必要以上に背負いすぎてしまう。性質の悪いことに私達がそれに甘えてしまい、さらに追い込むから……)

 

ベテランの魔法少女という事でほむらも彼女を絶大に信頼して居た時があった。

 

だが、いくつもの”時間軸”を重ねることによって、自分達があまりに彼女に重みを与えていたことと、マミもマミで自分から重みを背負う。

 

だからこそ、彼女には必要以上に物事を背負って欲しくなかった。過去に”他の子を魔法少女にするのは反対”と言っていたが、いつの間にか”まどかを魔法少女にすべきではない”にすり替わってしまった。

 

(それにバラゴの存在が、巴さんにどんな悪影響を齎しているか……)

 

ほむらの中では、やはりバラゴは危険極まりない存在であり、魔法少女にとってはプラスにはならない。

 

さらには、自分があのような失態を見せてしまったのだから……感じなくても良い罪悪感も感じているだろう……

 

数歩進むたびに腹部が痛むのを感じてしまう。先日のシャルロッテの時の傷の影響がある為である。

 

目覚めた時にあまり得意ではない治癒魔法を使い、ある程度は動けるようにしたのだが……

 

(やっぱり、こういう方面は不得意なのね。私は・・・・・・)

 

この先にいる巴マミ、魔法少女の契約を果たした美樹さやかは、治癒魔法が得意である。過去の時間軸で何度かお世話になったこともあった。

 

(こういう所は見せないほうがいいわね。巴さん・・・・・食べていると良いけど・・・・・・)

 

必要以上に自分を追い詰めているであろう”先輩”に対し、ほむらは思いを巡らすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女は夢を見ていた。

 

それは、何処かわからない不思議な場所だった。いや、ここは彼女が幼い頃に来たかった場所・・・・・・

 

「パパ。ママ!!」

 

そこは、彼女が大好きな御伽の国の住人が住まう園。多くの家族連れが行き交い、絵本から飛び出してきたキャラクター達が子供達を楽しませていた。

 

「ねぇ、パパ、ママ。ちゅーた君がマミに握手してくれたよ!!!」

 

両親が彼女の手を取ろうとするが、その手はすり抜けてしまう。

 

「どうして、パパとママの手が取れないの?ねえ、マミに教えてよ!!」

 

二人の両親は表情を困惑させるだけで何も語らない。それどころか、少しずつ両親が離れていく。急いで追いかけようとするが、一瞬にして襲った浮遊感と共に離れてしまった。

 

自分をサーカスの空中ブランコ乗りのようにリボンを使い、移動する少女が彼女を抱えていたのだ。

 

「だ、だれっ!?!ま、マミをどうするのっ!?!

 

黄色を基調とした衣装を着た金髪の少女は何も応えない。まっすぐに彼女をある場所に連れて行った。そこは、様々なお菓子で彩られた奇妙な空間の中央に一体の魔女が鎮座していた。

 

それは、先日彼女を”死”に至らしめた・・・・・・

 

「嫌だっ!!!!嫌っ!!!!嫌ああああああああああああっ!!!!!!!」

 

悲鳴を上げるマミに対し、黄色の少女は冷淡に突き放した。少女に表情、顔すらなかった・・・・・・

 

ぬいぐるみのような愛らしい外見から変わり、蛇のようにうねる体を持った”本体”が現れ、その鋭い牙を付きた立てるが・・・・・・

 

”巴さん!!!巴さん!!!!”

 

突如、頭に響いた声と同時に彼女は夢から覚めた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは・・・・・・あ、貴女は!?!!」

 

先ほどの奇怪な空間ではなく、見慣れた部屋であり、そして、あの魔女空間で自分を助けてくれた少女だった。

 

「あ、貴女!!!!い、生きていたのっ!?!!」

 

「は、はい。と、巴さん、落ち着いてください!!」

 

勢いよく迫ったためにほむらは、マミに押し倒されてしまった。

 

押し倒されただけに飽き足らずか、マミは彼女の両頬を触り、さらには体をこれでもかというぐらいに確認した。

 

「ゆ、幽霊じゃないわね?よかった・・・・・・本当によかった」」

 

ほむらの生存が嬉しいのか、マミは思わず涙ぐんでいた。

 

「は、はい・・・私は一応は生きていますので・・・巴さん、とりあえずどいてくれますか?」

 

「あ、ごめんなさい。私ったら、おっちょこちょいで・・・・・・」

 

”知っていますよ”と内心、呟く。この先輩は魔法少女としては頼りになるのだが、私生活ではかなりだらしないというか、お茶目な所がある。

 

起き上がった時に、ほむらは腹部に痛みを感じた。先日の傷が僅かだが開いてしまったのだ。

 

「貴女。そんな怪我をしていたのに、態々此処に来たというの?」

 

「はい。勝手にあなたの部屋に入った事は謝ります。どうしても貴女のことが気になって・・・」

 

傷が開き衣服が赤く染まる。マミは、彼女の傷に手を当てて治癒魔法を施した。

 

「随分と無茶をしたのね。どうして、傷が治るまで待てなかったの?」

 

「時間をあまり無駄にしたくなかったんです。私はいつまでも倒れているわけには・・・・・・」

 

「魔法少女としての仕事に熱心ね・・・貴女の願いはそれに値する程、尊いものなの?」

 

マミは”生きるために選択肢がなかった”自分とは違い、彼女は考え抜いて、契約を結んだのだろうと察した。

 

「はい、私はある願いのために契約をしました。その願いと同じようにどうしても果たさなければならないことがあります」

 

「それは・・・・・・」

 

「はい。ワルプルギスの夜を倒すことです」

 

「貴女も知っているのね。最大級の魔女を・・・・・・」

 

回りくどいことを言わずにほむらは自身の目的を語った。

 

「はい・・・・・・私は、ワルプルギスの夜に”仲間”を・・・”友達”を奪われました」

 

ほむらの脳裏に今も焼きついているあの光景が浮かぶ。何度やっても倒すことは叶わず、そして仲間、友達が死んでいく光景が・・・・・・

 

その度にいつも呪い、恨めしかった。自身の弱さが憎かった・・・・・・こんな自分を何度嫌悪し、抹殺したいと願っただろうか…・・・

 

思い返すたびにその時の感情がリアルに蘇る。

 

震える手と怒りに染まった表情のほむらにマミはそっと近づき、彼女の震える手を取り、そっと抱きしめた。

 

「私には、何も言えないわ。本当に辛い思いをしてきたのね・・・・・・」

 

慰めの言葉をかけても何にもならない。

 

「私も同じです。自分がどう言われようとも目的だけはどんなことをしてでも果たしたいという願いしかないんです」

 

ほむら自身も自分を哀れんだりしたくはなかった。

 

「そう…だからこそ、貴女は契約したの?亡くなった方の復讐がしたくて・・・・・・」

 

”そんなことをしても亡くなった方は喜ばないし、望んでいないわ”とマミは言いたかった。だが、言うことはできなかった。

 

彼女は、おそらくは何もできなかった自分自身を恨み、憎んでいるのだろう。そんな悲しい思いを抱え込まないで欲しかった。

 

生きているのだから、きっと素晴らしいことがあるのに・・・・・・と・・・・・・

 

「そ、そうかもしれません。私は、どうしても自分が許せないんです。あの子には生きていて欲しかったのに、戦うことが怖くてただ見ていることしかできなかった自分が・・・戦わなかった自分が!!!!」

 

最初の時間軸で、自分が契約すれば”もしかしたら”を考えてしまう。だが、契約し、やり直しても結果は変わらなかったのだ・・・・・・

 

「そんな事を言ってはダメ。貴女を守ろうとして戦ったその人だって・・・・・・」

 

「そうですね・・・ですが、もう過ぎてしまったことです。どうあがいてもあの時の”あの子”には会えないんですから・・・・・・」

 

震えているほむらに対し、マミは何も言わずに抱きしめた。

 

(・・・・・・巴マミ。貴女は何を哀れんでいたの?一人ぼっちが寂しいからって、自分一人だけが不幸だなんて思い上がりもいいところじゃないのよ)

 

「でも、生き残っている貴女もまだ生きている私もまだ、前に進めるわ。貴女は言ってくれたわよね、一緒に戦ってくれるって」

 

先程まで、孤独で泣いていた自分を叱咤した。ここにも独りで戦おうとしている子が、後輩がいるのに、何を独りで悲劇のヒロインを気取っているのかと・・・・・・・・・

 

「・・・・・・私、巴さんのことを心配してきたのに、どうして私が巴さんに励まされているのでしょうか?」

 

「う~~~ん。そういうことも稀にあるんじゃないかしら?」

 

困惑気味に答えるマミに対して、ほむらもほむらで

 

(はぁ~~~。結局私は、繰り返すだけで何にも変わらなかったかしらね・・・・・・)

 

普段なら、もっと自分を強く見せようと高圧的に振る舞い、このように話すこともなかった。

 

(結局はバラゴの影響なのかしら・・・・・・あいつの影響って悪影響ぐらいしかなさそうなのに・・・・・・)

 

ほむらは、自身の心の中で存在が大きくなっていく”闇色の狼”について、穏やかな感想を抱いた・・・・・・

 

もしくは、同族嫌悪を抱く彼と同じになりたくないという反抗心なのかまでは、はっきりしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原病院に勢いよく駆け込む影があった。時刻は既に面会時間はギリギリであるのだが、彼女 鹿目 まどかは居ても立ってもいられなかったのだ。

 

そんな彼女につかず離れずと柾尾優太は病院まで跡を付けていた。彼は病院に視線を向け、思い出したようにスマートフォンの端末を操作する。

 

自身が制作したアプリを起動させ、その中にある情報を取り出す。そこには、”楓 ナオ 入院中 見滝原病院”

 

跡をつけてきた少女も気になるが、こちらの用事も済ませておくべきだろうと判断し、彼はどういう訳か、入口からではなく病院の裏手に回ったのだった・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

面会謝絶の病棟にひとりの女性がベッドに横たわっていた。彼女は、全身が包帯で巻かれ、さらには両手両足が無くなり、まるでイモムシのようであった。

 

ただ息をするだけで顔は完全に焼きただれているという有様。僅かに残った視界は薄暗い病室の天井を映し出していた。目は閉じたくなかった。閉じれば、またあの悪夢を思い出すのだから………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日、私は付き合っていた柾尾優太と一緒に肝試しとしてある”心霊スポット”に来ていた。そこは、昔、軍の収容施設があったと噂されるところだった……

 

柾尾優太は、何処にでも居る普通の青年と私は思っていた。だけど、それは違った。彼は、一言で言うなら”人でなし”だ……

 

私をこのような目に合わせたのも、彼を”人でなし”と気がつかなかった私の運の悪さと人を見る目の無さだった………

 

良くわからないけれど、そこは妙に焼け爛れた跡があちこちに残っていた。そこで私は、あの”人でなし”にとんでもないことを言ってしまったのだ。

 

”ねえ、此処ってさ、突き落とした兵隊さんをそのまま油で焼いたんだって”

 

それを物語るように廃棄されずに残っている油の入ったドラム缶がいたるところにあった。

 

”どんな気分だったんだろうね。突き落とされて、焼かれるのってさ”

 

自分でもここまで悪趣味な発言はないと思うが、笑って済ませるか、あるいは引いてしまうだろが……

 

”………………”

 

この時、私は彼の表情を見なかったが恐らくは、新しい玩具を買ってもらった子供のような表情をしていたかもしれない。

 

突然、黙りこんだ彼に対し私は、あろうことか自分からその穴の傍まで近づいたのだった。

 

”ナオ、君はそんな目にあったら、どんな表情をするんだい?”

 

穴を覗き込んだ私の背後を彼は思いっきり押したのだ。突然、身体の力が抜けるようなそんな感じがし、私は気がつけば堅い岩の感触を感じ、さらには手足がありえない方向に曲がるのを感じそのまま十数メートルしたの穴のそこに落ちてしまった。

 

あまりの痛さに声が出なかった。手足を動かそうにも全身が痛いし、骨が折れているのか激痛がはしった。

 

痛みにのたうち回っている私の前にいつの間にか、柾尾優太が”人でなし”の姿が。

 

彼は私の表情を興味深そうに見ていて自分の表情をそれに似せようといじっていたのだ。痛みに歪む表情と、この人でなしが許せない気持が混ざり合っていた。

 

改めて見たこいつの目には何も映っていなかった。感情を知らない人形が、それを知ろうとしているというのは何処となく愉快な話だろうが、実際はそうじゃない。

 

感情は痛みや、怒り、苦しみも問うのだ。それを知ろうとしているのか、彼は今の私の表情に似せようとしていた……それはあまりのも不気味で嫌な物だった…

 

その私の思いが彼を刺激したのか、彼はいつの間にか持って来ていたドラム缶をつるはしでそれを叩き、中に入っていた油を私に掛けてきた。

 

油独特の臭いと感触に表情を歪めてしまった私を見た瞬間、彼はあろうことか火をつけたのだ。

 

”!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!”

 

声にならない叫びを上げる私の耳に彼の悲鳴が聞こえた。いや、笑い声にも似た悲鳴が……

 

自分の身体が焼かれているのに頭は妙に冷静だった。彼は、私を見て観察し、真似ていたのだ。私の悲鳴を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恐ろしい数日前の出来事を思い返していた女性であったが、悪夢は再び彼女の前に現れた………

 

「っ!!?!!」

 

声の出すことの出来ない自分を彼は興味深そうに見ていた。彼を視界に入れたくなくて、視線を逸らすが

 

「………………」

 

無言のまま彼女の視界に入っていった。

 

「はっ、はぁ、ぁあああっ」

 

声帯も焼かれてしまい、声すら出ないのだ。精一杯”人でなし、さっさと出て行け”と抵抗するが、その抵抗が彼を刺激した。

 

「ねえ、ナオ。昨日ね…猫が死んだよ…あの子さ、車に跳ねられて死んじゃったんだ」

 

突然、穏やかに語りかけてくる彼に薄ら寒さを感じるが、彼のやろうとしていることが理解できなかった。彼はバックにある三脚を取り出し、そこに小型のムービーを取り付け始めたのだ。

 

「多分、即死だったと思うんだけど、生き物ってさ。どうして、簡単に壊れちゃうんだろう」

 

その言葉と共に首に嫌な感触が走った。彼を両手で自分の首を掴んでいたのだ。

 

「壊れなかったナオなら、僕にその答えを教えてくれるよね」

 

彼はそのまま一気に彼女の首に力を込めたのだった。

 

「っ!?!っ!?!!!!!」

 

込められた力により、息が出来なくなった。酸素が脳に回らなくなり、苦しくなる。そんな彼女にお構いなく、首に掛ける手の力を緩めない……

 

そのまま視界は暗転し、二度と彼女の意識が戻ることはなかった……

 

「ああ、また死んでしまった。まだ他に教えてもらいたいことがあったのに……」

 

あの時、死ななかった彼女ならと期待したのにと内心、愚痴りながら彼は興味が失せたのか、三脚とムービーを片付けて病室を後にした……

 

病室を後にした柾尾優太は、偶然か再び鹿目まどかの姿を捉えた。

 

意気消沈したかのように病室を後にする彼女に何を思ったのか、首を傾けて不思議そうに眺め、彼女の後に続くのだった………

 

 

 

 

 






次回予告

私って本当に、誰かに迷惑ばかり掛けていたんだ……

他の”私”達も余計な事を良くしていて、頑張っている人たちの気も知らないで……

だからこそ、この時間軸でも私は、とんでもない人を巻き込んでしまったんだ……

呀 暗黒騎士異聞 第十九話「悪夢」

私は、何も役に立てずにただ、大切な人を傷つけていく………


あとがきというか弁解……

柾尾優太は、感情というか人間の大事な部分が無くなっていて、それを取り戻そうとしているという純粋な人なんです。

ただ行き当たりばったりに色々と行ってしまう為、かなり恐ろしい目に遭わされます。例の彼に割と良く似た人として描いてみましたが、期待に応えられましたでしょうか?

最初のかずみはまだいい方です。病室の彼女よりも酷い目にあった子はそれなりに多いです・・・・・・ついでに男も・・・・・・

感情のないインキュベーターと感情が無くなった故にそれを取り戻そうとしている青年。結構いいコンビになれそうですね(お近づきにはなりたくありませんが)

マミさんのお隣にいましたが、顔見知り程度で挨拶をする程度の関わりです・・・ただ、関わりが少なかったのは・・・マミさんの両親がキーワードだったりします。


裏タイトル ほむら「うちのバラゴが迷惑をかけました」

ほむらは、なんかツンデレみたいになってしまいました(笑)彼女はバラゴには一応の理解はもっています。

ほむらの時間軸の詳細については何も語られては居ないんですが、こちらではある時間軸で、両親と一緒に生活し、さらには織莉子と暮らしていたという設定があります。

父親が”弁護士”をやっていて、織莉子の父親と縁があって、彼女を引き取ったという具合です。更に言えば、と初めて遭遇した時間軸の後だったりします。

この時のほむらは、意気消沈していて能力を隠すことなく魔法少女であるさやかとマミ、まどかを助けたりしています。ただ、キリカと対立しているマミを立てようとさやかからやたら勧誘されています。

アップルパイは織莉子から、教わったという具合です。何となくですが、ほむらが本編とめがほむを足して二で割ったような感じになってしまったような気が……

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