呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝)   作:navaho

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話が長くなりますので、番号で振り分けます。

今回は、ちょっとオリジナルな事情があの二人に入ります。




第十一話「黒炎(1)」

 

見滝原の病院の一室に一人の少年がリクライニングシートに腰を掛けていた。

 

時刻は夕暮れであり、白を基調としたタイルはオレンジ色に染まっている。

 

「恭介~~、元気してる~~~」

 

「あ、さやか。そうだね、今日は少し気分が良いよ」

 

尋ねてきた幼馴染 美樹 さやかに対し、少年 上条 恭介は笑みを浮かべて彼女を迎え、応えるように彼女もカバンから袋を取り出す。

 

「はい、これ」

 

ここでの挨拶代わりなのか、さやかは一枚のCDを取り出した。

 

「うわっ、凄い。これ、ネットでも見つからない廃盤だよ。よく見つけてきたね」

 

「そ、そうなんだ。たまたま寄ったお店でいいかなと思って買ったんだけど・・・・・・」

 

ベッドサイドには、たくさんのCDが山積みされていた。これらは全てさやかが恭介のために購入したものである。

 

「いつも本当にありがとう。さやかはレアなCDを見つけるのが上手だね」

 

「あはは・・・・・・う、運が良かっただけだよ。アタシ、恭介のヴァイオリンは好きだけど、音楽はさっぱりで・・・」

 

「そんな事ないよ・・・・・・さやか」

 

早速であるが、CDを取り出してプレーヤーを回す。

 

「この人の演奏は本当に凄いんだ。さやかも聞いてごらん」

 

ヘッドホンの片方を嵌め、もう一方をさやかに杏子に差し出した。

 

「い、いいのかな・・・・・・」

 

「本当はスピーカーで聞かせたいんだけれど、ここは病院だしね」

 

イヤホンのコードの長さの為か二人は寄り添う形で音楽を聴く・・・・・・

 

優しい音色が聞こえると同時にさやかの脳裏に幼い頃の記憶が蘇った。この記憶は彼女にとって最も輝かしいモノ。

 

初めて行った演奏会で見た今までにない幼馴染の優雅な演奏にたくさんの拍手の中に彼はいた。

 

あの瞬間の幼馴染は世界で一番、最高に格好良かった。その時から、さやかは恋をしていた・・・・・・上条 恭介という少年に・・・・・・

 

過去を懐かしく思うのは、さやかだけではなかった。

 

 

 

 

 

恭介

 

僕もこの人と同じぐらいの演奏ができると言われていた。だけど・・・・・・今は左手が全く動かない・・・・・・

 

早く僕はこの手で音楽をしたい。大好きなヴァイオリンで・・・・・・

 

隣にいるさやかのように皆を喜ばせることができたのに・・・・・・今は・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「魔戒騎士は所謂、殺し屋だよ。ホラーという”呪い”を抹殺するための」

 

「キュゥべえ・・・・・・本当なの?」

 

確認をするようにまどかはキュゥべえに問う。ある事情でキュゥべえに関する事をそれなりに知っていた。”彼女”に次ぐ程に・・・

 

「本当に何も事実さ。というか、それ以外に言い様がないんだよ、彼らは・・・・・・」

 

困ったように首を振るキュゥべえはどことなく呆れているように見える。困惑したまどかとは別にマミの表情は険しかった。

 

「彼らは人間社会とはかけ離れた世界で生きていて、社会の法というものに縛られないし、それを護るということもない」

 

「でも・・・それは、魔女が他の人達には認識ができないからじゃないのかな」

 

まどかが思うに魔女は一般の警察で手に負える存在ではないと考えている。それを一般社会の法に当てはめて考えるのは、無理があるのではないかと・・・

 

「そうだね。魔女や”ホラー”に関しては仕方がない。だけど、だからと言って何をやっても言いというわけではないと思うよ」

 

彼らとは歩み寄ることはできない。そう言いたいのだろう、キュゥべえは・・・・・・

 

「佐倉杏子には注意したほうがいい。彼女は、魔法少女でありながら魔戒騎士の血筋でもある」

 

「・・・・・・佐倉さんがあんな事を言いだしたのは・・・・・・」

 

「そうだよ、マミ。彼女は魔戒騎士の血を引いている。だから、決して気を許してはいけない。気を許したらこちらを利用しようとするからね」

 

友達がここまで警戒する”魔戒騎士”。それと一緒に居る佐倉杏子に対し、マミの中で何かが割れたような音がした。

 

「その魔戒騎士の中でも一際、性質が悪いのが”暗黒魔戒騎士”あっちは、あっちで見境がない。ほとんどモンスターだよ。マミも見たよね。あの恐ろしい姿を・・・」

 

キュゥべえの言葉にマミは体の芯から”恐れ”による震えを感じた・・・・・・

 

まるで体が溶けてなくなりそうな感覚、体から温もりが消えて行く・・・・・・そんな感じがしていった。

 

あの感じは・・・過去にキュゥべえと初めて出会った時に感じていた・・・

 

 

 

 

”た・・・たすけて・・・”

 

遠い日に自分が誰にも知れずに居なくなることへの恐怖が過去に存在していた・・・・・・

 

 

 

 

 

夕暮れ時、繁華街の片隅で二人の男女が”エレメント”と呼ばれているモノを封じていた。

 

少女は筆を持ち、撫でるように文字を描いて”オブジェ”に封印を施す。

 

「やはり筋がいいな。杏子ちゃんは、閑岱へ行って修行を行えばさらに筋が良くなりそうだ」

 

「そ、そうかな?ていうか、おじさんはどうしてアタシに術を?」

 

再開してしばらく経ってから、バドは杏子に術を教えていた。最近になりそれが本格的になっていったのだ。

 

「そのことだが、杏子ちゃんたちが使う魔法とソウルジェムの関係が少し気になってね。できれば魔法は使わないほうが良いかもしれない」

 

「代わりに術ってやつか・・・でも、アタシが男だったら絶対に騎士を目指していたよな」

 

おじからもらった筆を剣替わりにしてチャンバラをする杏子だった。

 

「その場合は、修行は断然きつくなるぞ」

 

冗談まじりに杏子に言葉を返す。

 

「へっ、そういうのは受けて立つさ。だけど……」

 

杏子は、自身の父の事を思い出した。彼は魔戒騎士の家に生まれながら、それを嫌った。何故魔戒騎士を嫌ったのだろうか?

 

「……元々、弟は魔戒騎士には向いていなかった。だが、俺達、家族にとっては一員であることには変わりはなかった」

 

兄弟で騎士を目指す家は珍しくはないが、片方は騎士には似つかわしくないほど繊細で優しかった。

 

「そうか……父さんは……」

 

優しかった故に騎士の家族に疎まれていたのではないかと言うのは杞憂だった。

 

「でも、どうして、父さんはおじさんや家族から……」

 

「それはな……少し重い話になるが、話しておこう。杏子ちゃんの祖母、俺達の母は病に犯されていてな…」

 

優しかった母の日を追うごとに衰弱していく姿は今、思い出しても痛々しく、そんな母を想ってか弟は付きっ切りで看病をしていた。

 

その頃、父と俺は魔戒騎士の務めに従事していた。時々、家族で過ごす時はいつも穏やかだった。あの時も家族で共に過ごす夜だったのだが……

 

 

 

 

 

 

”母さん?”

 

”グウウウウウウウウウッ”

 

”近づくな!!そいつは、もう母さんじゃない!!!”

 

”兄さん!!!早く父さんを止めてよ!!!母さんが!!!”

 

”兄さんっ!!!何でだよ!!!やめて!!!やめて!!!殺さないで!!!!”

 

”やめてよ!!父さん!!!”

 

”この人殺しっ!!!お前達は、人でなしの屑だ!!!あいつらと同じ血に飢えた怪物だ!!!!”

 

 

 

 

 

 

「……母は病によって弱った心をホラーに付け込まれ、それを父が斬った」

 

家族は、同じ家族の手にによって崩壊した……

 

「弟は家を飛び出した。俺と父さんは暫く二人で暮らしていたが……」

 

壊してしまった代償は大きかった。騎士としての父もあの夜に……

 

「・・・・・・ここから先は話すまでもないだろ」

 

振り返ると杏子がなんともやるせない表情で自分を見ている。やはりそれなりにショックはあったようだ……

 

「さあ、ここのオブジェはこれで大丈夫だ。早く帰って夕飯の支度でもしようか!!今日は何が食べたい?杏子ちゃん」

 

自分が話しておいてと思いつつも少しでも場を明るくしようとする伯父に杏子は

 

「そうだな、アタシ、ハンバーグが食べたい!!」

 

優しかった父は耐えられなかったのだ、矛盾に…少しながら父が杏子に言ったあの夜の言葉の意味が良くわかった……

 

 

”娘の顔で!!!声で!!!語るな、この悪魔め!!!”

 

”何故だ!!!あの家から出たのに!!!どうして、あいつらは、私達を!!!!”

 

 

 

 

おじもおじで辛かったのだろう・・・・・・無理に明るくしようとするおじに気を使ってか杏子もむりやり明るく声を出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、見滝原の外れにある屋敷の一室でほむらは、自身の手帳を開いた。

 

「明日は、巴マミ・・・・・・巴さんが・・・」

 

彼女の脳裏に何度も見た光景、”お菓子の魔女”と呼ばれる魔女に首を噛みちぎられる光景が浮かぶ。

 

インキュベーターとの関係で険悪となって、相入れることができなかったことで・・・・・・

 

”物分りが悪いのね。見逃してあげるって言っているの”

 

”言ったでしょ。二度と会いたくないって”

 

最初から真実を伝えられればと何度も思った。伝えたとしても、それを信じる者はいなかった・・・・・・親友である まどかでさえも・・・・・・

 

”………誰も未来を信用することはないだろう。実際にその愚かさを自身が味わうまでな”

 

エルダの言葉が嫌に響く。この場に居なくともまるで居るような錯覚さえ感じてしまう。

 

(・・・・・・エルダの言葉の通りね。例え、真実を話したとしても・・・・・・)

 

”なんで、ちゃんと教えてくれなかったの!!!”

 

”みんな、死ぬしかないじゃない!!”

 

真実という名の現実に耐えられずに・・・・・・

 

ほむらの記憶にある皆は・・・・・・結局は、一人だけが生き残り、今も繰り返している。

 

「そういえば、最近は二人揃って出ていくことが多いわね」

 

屋敷にいるのは、現在ほむらと猫のエイミーだけである。以前は、自分を監視するようにどちらかが必ずいたのだが、最近は二人揃って離れている。

 

胸に刻まれた”束縛の刻印”もそうだが、二人は察してのだろう。

 

「わかっているのかしら。私がアナタ達から離れないことを・・・・・・」

 

エイミーを抱えて、ほむらはベッドに腰をかけた。夕暮れに近いのか屋敷の周りの木々は赤く染まっている。

 

お世辞にも綺麗とは言えない薄ガラスごしに見える太陽は西へと沈もうとしていた・・・・・・

 

夜が来れば、”彼”はこの部屋にやってくる。それまでの間は此処にいよう・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

バラゴに対して私が抱いている感情は危険極まりないイレギュラーという認識。これは今でも変わりはない。

 

だけど、彼と関わっていく内に親しみに似た何かを感じるようになった。

 

一心不乱にホラーを狩り、喰らい、力を付けていく様はおぞましいの一言に尽きるが、彼の行動に”純粋な想い”を私は見出した。

 

化け物を喰らい、その力をモノにする行為をほとんどの人間は嫌悪感を抱き、彼をこう呼ぶだろう・・・”悪”と・・・

 

事実私も巡った時間軸の中で”悪”と呼ばれたことがある。それは人の為の魔法を自身の為だけに使う魔法少女などあってはならないのだから・・・・・・

 

私は自分自身の願いのために魔法を望んだ。それは私自身が納得したこと。それを正当化するつもりもないし、免罪符を求めたいとも思わない。

 

彼も同じなのだろう。何のために”究極の力”を目指すのか分からない。それは、他の人から見た私も同じかもしれない。

 

何のために”魔法”を使うのかと・・・・・・答えは決まっている。私は変えたいのだ。あの光景を・・・この手で消し去りたい。ただそれだけのこと・・・・・・

 

そのためなら、様々なモノを利用し、邪魔になるようなら排除だってしてきた。それは、これからも変わらない、変えることはないのだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 エルダはある用事で東の番犬所に来ていた。三人の白い少女と向かい合うようにエルダはあるモノを執事服の男 コダマから手に取る。

 

「東の番犬所がこのような事に手を貸すとは…いつもながら信じられんな」

 

彼女が手にとったのは、一振りの短剣。これはホラーを封じたものである。

 

「私たちもあのお方。バラゴ様に惹かれてこうして協力をしています」

 

「そうです。長い間生きていますとこういう事に手を貸したくなるのです」

 

「特にあの方は掟に縛られた騎士たちと違います。故に騎士たちにはないモノに惹かれるのです」

 

三人の少女 三神官達は微笑むがエルダはそれに応えることなく無表情だった。

 

「いつものようにこれをバラゴ様に納めよう・・・」

 

三神官に背を向けてエルダは番犬所を後にした。彼女の胸中は彼女達への不信感があった。

 

 

 

 

 

 

エルダ

 

 なんなのだ?あいつらは、いや、奴は何を考えている。いくら占っても奴の行おうとしている”先”が見えない。

 

一人の神官の魂が三人の少女の体に宿っている故なのか、私がかつて見た神官達以上に得体がしれないうえ、この東の番犬所の神官は魔界騎士たちの間でも信用がない。

 

どうでもいいことだが、悪戯で騎士の命を犠牲にすることもあるらしい。そういう歪んだ性格ゆえにバラゴ様に手を貸しているとでもいうのだろうか?

 

”先”が見え次第、もし、バラゴ様の障害になるようであればこの私の手で息の根を止めてくれる・・・例え、刺し違えたとしても・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 エルダが去った後、三神官達は息の合ったようにぴったりと笑った。エルダの思うように彼女たちの肉体は三つだがその魂は一つなのだ。

 

「たかだか、魔戒導師が随分と大きな態度をとっていますね」

 

「それも良いのではないのですか?ああいうのが居ないと退屈で退屈で仕方ありませんからね」

 

「そう・・・退屈を紛らわすには新しいもの、変わり者が必要なのですよ」

 

ブランコの背後に彼女たちは視線を寄せる。薄暗い回廊の奥にそれは安置されていた。それは・・・・・・一つの”グリーフシード”だった。

 

そのグリーフシードの周囲に奇妙な渦が舞っていた・・・規則正しく時を刻む 時計のように・・・・・・

 

「あちらの方に出ている”アレ”もそうですが、これはこれで中々、面白そうですね」

 

「そうですね。まさか”魔界”以外から、このようなものがこの世界に紛れ込むとは・・・・・・」

 

「これが持つのは、この世界の陰我では到底賄いきれない”呪い”。これほどの陰我。どのようにして生まれたのでしょうか?」

 

三神官は”グリーフシード”に期待に似た視線を寄せている。あまりにも目新しく、彼女たち、いや、彼女の好奇心を大きく擽るのだ。

 

姦しく騒ぐ三神官に対して コダマは相変わらずの無表情だった・・・・・・

 

 

 

 

 

ほむらの居る屋敷はお世辞にも綺麗とは言えず、どことなく幽霊屋敷を思わせる様相であった。実際、見滝原の学生達からはそういう風に思われている。

 

先程まで部屋にいたのだが、眠ってしまったエイミーを起こさないように彼女は屋敷の庭に足を運んだ。

 

かつては庭園であったであろう痕跡があちこちに存在していた。割れた花瓶、朽ちた草花、メルヘンのキャラクターを思わせる陶器製の人形たち・・・・・・

 

それらを横目に彼女は華やかであるはずの魔法少女も、いずれは人知れずに朽ち果てていくことであろうという想いを抱いた。

 

「あの光景を変えることができれば、私もいつかは・・・・・・」

 

「いつかがどうしたというのかい?ほむら君」

 

いつの間にか黒いコートをなびかせたバラゴがほむらの背後に立っていた。

 

「何でもないわ。今日は何処へ私を連れ回すつもりなの?」

 

本人は少しであるが親しみを感じていると言っているが、そうとは思えないほどほむらの態度は頑なであった。

 

「ホラー狩りと言いたいが、今日はグリーフシードを集めておきたい。だから来てくれるね」

 

笑みを浮かべ、目に法衣を纏ったほむらを映す。表情はバラゴ自身が大切にしている”対象”と少しばかり違うが、瓜二つの写身が手元にあるだけで彼は満足だった。

 

それを手放すこともしないし、ましてや、魔女という存在にさせるつもりもなかった。

 

「もちろん。ワルプルギスに備えてね」

 

「嘘ね。あなた一人でもワルプルギスの夜は、十分に倒せるわ。あなたがグリーフシードを集める理由にはならないわ」

 

理由を言うバラゴに対し、ほむらは彼の言葉とは別に真意があることを察していた。

 

「あえて言うなら興味を持った。元々あれは人の魂だというじゃないか。ホラー狩りに使えるのなら使ってみたいという個人の興味さ」

 

そう言いながらコートの下に忍ばせていた数個のグリーフシードを弄んだ。

 

「っ!?、アナタって本当に人間じゃないのね」

 

バラゴの行いに怒りを感じたことは何度もあるが、これもまたほむらの中にある怒りを刺激するものだった。

 

「前にも言っただろ。僕に”人間”じゃない。”闇”そのもので道を外れた外道なんだよ」

 

笑いながら屋敷をバラゴは背を向け、この場をあとにする。ほむらもまた、ただ付いていくことしかできない自身の不甲斐なさに苛立ちながら続くのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




個人的にですが、バラゴって敵役であって悪役ではないと思うんですよね・・・・・・


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