IS-refrain-   作:ソン

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かなり難しかったです……。やはり自分にアンチ物は無理なようですね。
何よりこの話だけ主人公が幼いので個人的に無かった方が良い気がします……。話の筋が凄く立て辛かったです。
ちなみに主人公が誘拐されたのは十歳の頃。つまりこの話では精神年齢十歳と言う事になります。
原作アインとの違いを比較しながら読んで頂けるとスコール達の業績を分かってもらえるかもしれません。
 そして今回の話に対する非難は一切遠慮させていただきます。感想ではなく非難です。「こんなのアンチじゃないだろ。もっと話しっかり書けよ」と言われる方には「ならご自分でその話をお書きください」としか答えようがありません。

 これからの予定ですが「温泉編」は外伝編を立ててそこで書く予定です。この補足短編はあくまで本編を補うカタチですので、関係ない話がかけないんです。楽しみにしてくださった方は申し訳ありません。
 次回は「優しい日々」。「もしISが生まれず、織斑夫妻がマドカを誘拐せず、争いのない世界で平和に暮らしていたら?」と言う物語です。アインが精神的にフルボッコにされます。

 短編も残すところ二話です。
 短編最終話である「ラストエピソード」まで、応援よろしくお願いします。


IF 復讐鬼へ成り果てた少年

 

「あ……がっ」

 

 空母の如きラボの一室で、白髪の少年が女の首を締めていた。

 倒れた彼女に跨り、決して逃がさないようにと両手で強く圧迫する。

 彼の顔は乾いた返り血で塗れていた。

 煤け破れた服がその生き様を物語っている。

 彼の眼はどこまでも紅い。

 その双眸には憎悪と言う悪意が業火となって盛っているようだ。

 

「――死ね」

 

 ゴキリと音が鳴る。

 女の首は歪な方向に曲がっており、二度と動き出す事はないだろう。

 この瞬間、ISの生みの親である篠ノ之束は死亡した。

 世界を変えた人物にしては余りにもあっけない最期である。

 だが未だに誰もその事を知らない。

 そしてその様子を一人の女性が見つめていた。

 

「……篠ノ之束の生体反応停止を確認しました」

「――あぁ、完全に殺した。だがまだ終わってない」

 

 少年は傍に転がっていた機材を拾い上げて、女性に投げ渡す。

 

「この施設を使ってIS学園の場所を解析しろ。全ての無人機を注ぎ込んで、学園を破壊する」

「……それでよろしいのですか」

「黙れ。それが俺の意思だ」

「……分かりました」

 

 少年は殺した女の死体に見向きもせず、ラボに貼り付けられた写真を見ていた。

 そこはIS学園の写真。

 そこに自分が殺すべき者がいる。

 今までどこにあるのか分からなかった。

 どうやって襲撃をかければ良いのかも知らなかった。

 だが篠ノ之束が使っていたラボを強奪した今、その手段がある。

 ようやく――求めていた願いが叶う。

 少年の口は不気味な笑みを携えていた。

 

 

 

 

 

 IS学園は混乱の極みにあった。

 突如として無数の無人機による無慈悲な奇襲は瞬く間にその学園を地獄絵図へと変えていた。

 逃げ惑う少女達に目もくれず、少年はただ獲物だけを狙いながら学園の奥へと歩いていく。

 彼の足が、瓦礫に潰されていた死体を踏み潰す。

 

「待ちなさい」

 

 一機の青いISが少年の前へと降り立つ。

 長身のライフルが目に付いた。

 

「貴方、ここの生徒ではありませんわね? この襲撃に関与しているのですか」

「……織斑一夏はどこだ」

「質問に答えなさい」

「織斑一夏はどこだ」

 

 長身のライフルが少年に突きつけられる。

 あぁ、なるほどと少年はどこか納得した。

 要するにこの女も偽者に誑かされた人形なのだ。

 だとすれば――殺しても構わない。

 

「死ね」

 

 少年の跳躍に、気づけなかったISは地面へとたたきつけられる。

 突如として背中に焼けるような痛みが走る。

 レーザーだと気づいた時には、少年の拳は只管少女の頭部を殴打し続けていた。

 

「……」

 

 無表情な瞳でただ殴り続ける。

 最初こそ少女は抵抗していたもののやがてその体はピクリとも動かなくなった。

 見れば頭部から血を流している。

 

「……ちっ」

 

 せめて彼女がもう少し頑丈であれば、織斑一夏がどこにいるのかを聞けたのだが。

 ISごと少女を蹴り飛ばして、周囲を見渡す。

 唐突に感じた圧力に、その場から飛びのく。

 見えぬ砲弾が少年の立っていた場所を貫いていた。

 

「セシリア! 逃げなさい、早く!」

 

 背後を振り返る。

 赤いISがそこにいて、片手には巨大な武器を握っていた。

 あれは――ISを潰すのに強力だ。

 

「セシリア! 早く……」

 

 その少女もようやく気づいた。

 呼びかけているIS操縦者の頭部から真紅の血が迸っている事を。

 彼女の顔色が、既に生を失っている事を。

 

「……」

「答えろ、織斑一夏はどこだ」

「よくも……よくも!」

 

 猛進するISに対して少年はその両手にナイフを展開する。

 そして擦れ違い際に少女の白い首を切り裂いた。

 鮮血が噴き出る。

 

「嘘……。何で……絶対防御が……」

 

 唖然とした表情のまま、少女は倒れる。

 少年は再び舌打ちする。

 また質問する前に殺してしまった。

 ナイフで首を狙うのは早計だったかと納得する。

 だがまだ幸いにも戦いの音は聞こえており、尋問する対象はいくらでもいる。

 ガシャンと何かが墜落する音がした。

 

「……」

 

 見れば出撃させた無人機が下半身を破壊された状態で地面に横たわっていた。

 腕に装着されているISブレードを少年は力任せに剥ぎ取る。

 絡み付いたケーブルを引き剥がす同時に二機のISが少年の視界に映る。

 黄色いISと黒いIS。

 どうやら二人係りで無人機掃討に当たっていたらしい。

 既にその装甲は所々が破損しており、それまでの激戦を物語っていた。

 そしてその周りに教師部隊も出現する。

 少年は唇を舐めた。

 どうやら質問の相手に困る事はないらしい。

 

 

 

「……」

 

 様々な残骸があちらこちらに散らばっている。

 機械の破片、肉片、瓦礫――それらは全て破壊という行動によって生み出された副産物だ。

 アルカはその残骸の中からISのパーツを探し出し、現在拠点として使用しているラボに転送していた。

 二人によって襲撃されたIS学園は最早全滅に近く、恐らく学園としての機能は二度と取り戻せない。

 しかもこの事を隠しとおす事が無理なのは火を見るよりも明らかだ。

 そしてIS学園にいた生徒の内の多くは死亡していると見て間違いない。

 つまり――世界を巻き込んだ戦争がその火蓋を切って落とされるだろう。

 だからこそ、覚悟を決める。

 

「私も、貴方と共に地獄に落ちましょう。……御独りにはさせません。決して」

 

 

 

 

 

「……ちっ」

 

 最後まで口を開かなかった金髪の少女の首をゴキリと折って、投げ捨てる。

 全身を返り血で染めたまま、彼は辺りを見渡す。

 そこは死屍累々だった。

 様々な数のIS操縦者たちが血を流して倒れている。

 狙った獲物はそこにはいなかった。

 ただ無駄な的ばかりがそこに倒れているだけ。

 仕方なく場所を変えようとしたとき、少年の耳に風の切る音が響く。

 ――あぁ、ようやく訪れた。

 この時を、待っていた。

 少年は振り返る。そこには紅いISと白いISがいた。

 ようやく――見つけた。

 

「……鈴?」

 

 人形は、先ほど少年が殺した少女を見る。

 彼女は首から血を流して倒れていた。

 

「……セシリア?」

 

 彼女は頭部から血を流して倒れていた。

 IS装甲の随所が砕けている。

 

「……ラウラ?」

 

 彼女は心臓から血を流して倒れていた。

 地面に横たわる彼女の虚ろな瞳は何を見ているのか。

 

「……シャル?」

 

 少女は首を折られて死んでいた。

 変な方向を向いた頭部だけが学園の外を見ている。

 

「……」

「――」

 

 少年は笑う。

 狂うほど、愛しいほど、ただどこまでも笑う。

 この気持ちをなんと言うべきか。

 狂気か、愉悦か、歓喜か、滑稽か。

 いやどれにも当てはまらない。

 ただ、殺すだけの事なのだから。

 

「おおおぉぉぉっっ!!」

 

 人形と少女が二つに分かれて、少年を挟む。

 恐らくそれぞれの方向から攻めるのだろう。

 ――だが無意味だ。

 

「っ!」

 

 少女の腹にナイフが投げつけられる。

 

「がっ!」

 

 人形の腹にISブレードが突き刺さり、彼を縫いとめる。

 

「――」

 

 笑みを浮かべる。

 三日月のような、どこまでもただ黒く不気味な笑み。

 それはまるで――死神だ。

 そして少年が泥に包まれる。

 

「織斑、篠ノ之! 無事か!?」

 

 凛々しい声が響き、織斑千冬がその場に姿を現す。

 彼女は一夏に刺さっていたISブレードを引き抜いて投げ捨てた。

 

「千冬姉! シャルが、鈴が、セシリアが、ラウラが……!」

「……分かっている。もう、この学園は全滅に近い。謎の無人機は掃討したが……戦える戦力はここにいる三人で最後だ」

 

 すなわちIS学園の警備も防護も、全て死亡もしくは破壊されたという事である。

 それを察して一夏が強く拳を握り締めた。

 ここにいる三人が、最後の生き残りなのか。

 千冬は手にしたISブレードを持ったまま泥を見つめる。

 

「今、各国の軍隊に援軍を要請している。五分もあれば到着するはずだ。……ところで、アイツがこの襲撃の張本人か?」

「……多分、シャル達を殺したのもアイツだ」

「……織斑、篠ノ之と共に下がれ。お前らの適う相手じゃない」

「死ぬ気なのかよ、千冬姉」

「誰が死ぬか馬鹿者。私はお前の姉だぞ。最後まで弟の生き様を見届けてやるのが役目だ」

 

 千冬が笑みを浮かべた瞬間、一つの声が響く。

 それはまるで地獄を形容したかのような声だった。

 

「――違う。そいつは偽者だ」

「何?」

 

 泥がはじける。

 右手に赤い刀身が握られた。

 左手には騎士のような篭手を。

 そしてその総身は黒い鎧に覆われていた。

 

「俺が――俺が本物なんだよ。千冬姉」

 

 少年の素顔が明らかになる。

 それは織斑一夏とまったく同じ顔だった。

 

「……クローンにしては話が出来すぎているな」

「違うッ!」

 

 左手から放出された黒い帯が箒の首を締め上げる。

 彼の姿は出し切れぬ激情をぶつけているかのようだ。

 

「クローンはそいつだ! そうでなければ、何でISが起動できる!?」

 

 帯がさらにきつく箒の首を締め上げる。

 千冬がその帯を切ろうとするが、ブレードはエネルギーだけを虚しくすり抜けた。

 

「……箒を放せよ、てめぇッ!」

 

 帯が薙ぎ払われ、箒ごと二人を巻き込み吹き飛ばす。

 千冬は受身こそ取れたが、足を負傷した。

 破片が、くるぶしへ食い込んでおり動かそうとするたびに激痛が走る。

 そして投げ飛ばされた箒は、ただ虚しく地面を転がるだけであり、言葉を発する事も起き上がる事もしなかった。

 それを察した一夏が、零落白夜を起動させる。

 

「うおぉぉっ!!」

 

 表情を燃え盛る炎のような怒りへと染め上げて、一夏が少年に疾走した。

 ――その瞬間、黒い刀身が肥大化し、織斑一夏を斬り潰す。

 黒い刀身によって総身をひき潰され、肉体を乖離され、存在を乖離された彼は――まるで塵の様に消えうせた。

 最初から、何もいなかったかのように。

 彼の僅かな血飛沫だけが千冬の顔に降りかかっていた。

 

「……お前は、本当に一夏なのか?」

「あぁ、そうだよ千冬姉。貴方の大切な弟だ」

「なら、その体は何があった」

「攫われて、実験体にされたんだ。怖くなるくらい、何度も何度も。必死に千冬姉の名前を呼んでも、貴方は助けに来なかった。ほら、偽者に騙されていたから。だけどもう大丈夫だよ、偽者は俺が殺した。だからもう一度一緒にいられるよ。もう一人にはならない。ずっとずっと二人でいられるから」

「……そうか」

 

 千冬が微笑む。

 少年はおぼつかない足取りで彼女の元へ歩んでいく。

 彼の表情は恍惚としていた。

 

「もう一度、もう一度俺を一夏と呼んでくれ」

「あぁ――」

 

 千冬の体が少年を抱き締める。

 そうして彼の心を安堵が満たした瞬間、冷たい何かが貫いた。

 見れば、千冬は持っていたISブレードを少年の胸へ突き刺している。

 

「……えっ」

「本当のお前は、そう容易く人を殺さない。私の弟は人を殺すという重みを理解しているはずだ。だから――もうお前は一夏とは呼べない。呼ぶつもりもない」

 

 少年の心が砕け散る。

 そうして――彼を一つの衝動が突き動かした。

 声を荒げて、千冬の首を強く締める。

 もう二度とその声を聞きたくないと。

 必死に現実を否定しようとする子供のように。

 狂ったように叫びながら、彼はその首を強く締めた。

 まるで――篠ノ之束を殺す時のように。

 

「……」

 

 気がつけば、織斑千冬もまた事切れていた。

 目を閉じて、どこまでも美しい表情のままゆっくりと眠っていた。

 元の姿に戻っていた少年は立ち上がる。

 その白髪を鮮血に染めて、その頬を、その両手を怨嗟に染めて。

 死体の中で彼は自分の両手を見る。

 何故だ、何故こうなってしまった。

 ただもう一度一夏と呼ばれたかっただけなのに。

 何が悪い。何がいけない。

 ――あぁ、そうだ。

 ISが悪い。

 自分と彼女を引き離した根源であるISこそが元凶だ。

 だが既に篠ノ之束はこの世にいない。

 ならば――世界だ。

 ISを受け入れた世界に、この牙を。

 

「……これで、終わりですか」

 

 アルカが歩いてくる。

 ドレスの裾を血に染めて、彼女は少年を見つめた。

 

「……」

「……」

「まだだ」

「……」

「俺はISを根絶する。ISを受け入れた世界全てに復讐する」

 

 そうして、再びおぼつかない足取りで少年はどこかへと歩いていく。

 その魂に次なる充足を満たすために。

 ――アルカはふと周りを見渡す。

 織斑千冬の姿が目に付いた。

 彼女の元まで歩み寄る。

 ポタリとその頬に一粒の雫が垂れた。

 

「……やはり、私達は生まれるべきではなかった。もし生まれなかったら……死ななくて良かったのに……」

 

 破壊しつくされた学園。

 もうそれは戻らない。

 まるで少年が生まれた地獄が再現されたかのようだ。

 やがてこのような光景が世界中に広がるのだろう。

 他の誰でもない。

 自分達のせいで。

 彼女は泣き崩れる。

 その心に後悔を抱いて。

 少年は笑う。

 その心に怨嗟を閉じ込めて。

 

 

 

 

 そんな彼らを、一人の少女が見つめていた。

 白いドレスを着た少女は悲しげな表情を浮かべた後、まるで光のように消えて、その場から姿を消す。

 その事に気づく人物などいるわけがなかった。

 

 


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