転生したら始祖で第一位とかどういうことですか   作:Cadenza

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お久しぶりです、皆さん。まず最初に言うと、タイトルでわかる通り本編ではありません。
活動報告でもいいましたが、終わりのセラフ原作や小説の方での新事実発覚によってしっちゃかめっちゃかになり、執筆できずにいました。
このままの設定で続けるか、いっそ大修正するか。迷っていましたが、決めました。
発覚した新事実を取り入れつつ、このまま続けます。

次回更新は一周年となる30日を予定しています。いつの間にかお気に入りも10000件を超え、当初の私の予想をぶっちぎりプレッシャーも大きいですが、今後ともよろしくお願いします。

今回は番外編第三弾。転生先が違っていたらver東京喰種
尚、書いたはいいものの喰種キャラが一人も出せなかったので、アカメ同様何話か続ける予定。
ではどうぞ。


あ、アークライトとキスショットの完成版ステータスができたので明日にでも投稿します。まさか6000字もいくとは。


番外編
トーキョーヴァンプ 1


 この世には、人の及ばぬ存在がいる。

 

 それは何か、と聞かれれば、大抵の者はこう答えるだろう。

 

 喰種(グール)、と。

 

 食性が人間のみに限定された肉食の亜人種。それが喰種。

 外見そのものはほぼ人間と言えるが、数メートルを跳躍し人体を素手で貫くなど、平均して人間の四倍から七倍の身体能力を有している。

 擦過傷などの軽傷なら一瞬、骨折でも一晩で完治し、また銃弾や刃物では傷付かないなど耐久性にも優れている。従来の火器で殺そうとするなら最低で重機関銃や対物ライフル、確実性を求めるなら戦車砲やロケットランチャーが必須だろう。

 なるほど、確かに喰種は人の及ばぬ存在と言える。しかし、それは過去のこと。

 人とは適応する生物である。何百年も前から喰種に対処する組織は存在し、専門の法を以って人々を守護してきた。

 それは喰種が世間に公表された現代でも変わらず、むしろ世界規模での公認組織となったことで力を増している。

 対喰種用のクインケと呼ばれる武器、人間側のバケモノと称される特等捜査官、並み居る喰種を蟻を潰すかの如く屠る白い死神。

 

 今となっては喰種も絶対的な脅威とは言えなくなってきていた。

 確かに恐ろしいが、対処できない訳ではない。謂わば指名手配犯のようなものだ。普通に生活していれば遭遇することなど滅多にないし、いずれ捕まるだろうと、そんな認識。

 

 責めるのは酷かもしれないが、甘いと言わざるえない。知らないから言えるのだ。喰種など闇の上っ面に過ぎないことを。

 この世には確かにいる。人がどう足掻いても及ばない、人智を超えた超常の存在が。

 

 知らない方が幸せだろう。知らないのなら、怯えることも怖れることも、絶望することもない。

 

 だが、忘れるな。心せよ。

 遭遇するのは滅多にないかもしれない。言い換えれば、”彼ら”はどこにいてもおかしくないのだから――――。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 喰種は世界中に存在しており、どんな大国も例外ではない。

 最も巨大で絶大な力を持つ対喰種組織は日本の喰種対策局(CCG)であり、喰種との対立や戦闘も日本が最前線と言える。それに応じて対喰種兵器クインケの質も高いし量も多い。

 

 だが日本以外の国に於ける喰種対策が万全かと言うと、そうではない。

 確かに喰種捜査官はいるにはいるが、日本程の実力は備わっていないのだ。CCGが定めた喰種のレートと呼ばれるランクに当てはめれば、Sレートまでなら対処できるだろう。しかしそれ以上となると困難を極め、数に任せた戦法をとらざる得なくなる。それもSSレートとなれば通用しない。にも関わらずどの国でも強力な喰種は生まれてしまう。

 クインケに関しては技術提供で質の良い逸品は作れるが、それを使う捜査官の質が足りない。

 日本から捜査官を派遣してもらっているのが現状である。

 

 故に各国は日本、正確に言うならCCG、より正確に言うならCCGの元締め和修家に頭が上がらない。

 それが気に入らない者達も多くいるだろうが、だからと言ってどうしようもないのだ。下手に和修家を怒らせれば痛手を負うのは己である。

 

 

 アメリカ合衆国。この国もまた和修家に逆らえないでいる。当初こそ得意の物量で喰種に対処しようとしたが、それが通用しない喰種が現れた事で一気に瓦解した。

 赫者と呼ばれる喰種側のバケモノの出現だ。

 歩兵の弾丸など意味をなさず、遠距離からの狙撃を躱し当たっても無傷で防ぎ、他の重火器は当たりもしない。

 方法によっては倒せるだろうが、リスクに対するリターンがあまりに合わな過ぎる。

 そうしてこの国も、和修家に頼らざるを得ない状況になったのだ。

 

 某所。

 既に日は沈み、危機感が強い者は決して出歩こうとしない時間帯だ。薄暗い裏通りで人も少なく、周りを照らすのは表通りから射し込む僅かな街路灯の光のみ。

 そんな危険地帯を一人の男がフラフラと歩いていた。

 

(クソッ……)

 

 男は人間ではない。喰種である。

 危険地帯とは人間にとってであり、そして男は喰種。つまりは狩る側だ。だからこう堂々と歩ける。

 

 しかし捕食者である筈の男は危機に瀕していた。

 

(食い物……食いものくいものクイモノ……ッッッ!)

 

 腹が減った。死ぬほど腹が減った。

 

 喰種の飢餓感は人間のソレとは違って、感じる飢えは想像を絶すると言う。それこそ文字通り、死ぬほど腹が減るのだ。

 脳内を直接かき回されるような激しい頭痛が襲い、それによって判断力が低下し、正常な思考を奪っていく。

 ただひたすら食い物、クイモノと心身が求め、他は何も見えていない。

 

 本来ならばこんなに飢えることなどなかった。飢餓状態の危険性は何より己自身が承知しており、最低でも三週間に一度は食事をするようにしていた。男はここらを仕切っていた喰種の組織に所属していた為、安定して喰場にありつけた。

 

 それが崩れたのが数ヶ月前。突如として現れた男女三人組が率いる集団によって組織が壊滅し、所属していた喰種も殺されるか捕獲された。男は末端であったが故に逃れ、何とか生きている。

 

 恐ろしかった。狩る側の喰種が恐怖を抱いた。人間とも、喰種とも思えなかった。

 

 腕の一振りで男より強者の喰種が引き裂かれ、SSレートという遥か高みのボスですら一蹴される。喰種の高い身体能力もそれ以上の身体能力で圧倒され、赫子の攻撃すらも通じない。

 いったい人間共はどんなバケモノを派遣してきたんだ、と数日は悪夢にうなされた。

 故に目立つ行為を避け、食事を控え、人目につかないよう隠れてきた。

 

 だがそれも限界。もう耐えられない。誰でもいい、餌をよこせ。

 ふと、飢餓状態で更に敏感になっている聴覚へ足音が聞こえてきた。同時に芳醇で濃厚な匂いが嗅覚を刺激する。誰かが路地に入ってきたらしい。

 抑えきれない興奮を抱いたまま、最後の理性をもって息を殺し、路地の闇に隠れる。

 見れば、路地に入ってきたのは男だった。フード付きの黒いロングコートをスッポリとかぶっていて顔はわからないが、背格好から若い男だとわかる。

 

(餌……ッッッ!!)

 

 思考を染め上げたのは歓喜。

 

 喰種の(同じ)匂いはしない。つまりは人間。つまりは、餌。

 

「エサァアァァアッ!」

 

 尾てい骨の辺りから飛び出すように尾が生え、赤く鋭い槍――尾赫となる。目は充血したかのような赫眼となり、路地の闇に赤く光る。

 

 何故わざわざ危険な路地に入ってきたのか、何故この時間帯に一人で出歩いているのか、男の匂いは喰種ではないが人間でもなかったではないか。

 

 そんな疑問は食欲に支配された思考で抱ける筈もなく、欲望のまま尾赫を振り抜き――

 

「またか……」

 

 呆れたような、うんざりしたような声と共に、喰種の男の意識は闇に落ちた。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 今の時代はとても生きにくい。それがアークライトの現代に対する印象だった。

 

 吸血鬼として転生して早二千数年。伴侶と言える女性と出会って最初の眷族にしたり、領主だった頃に補佐をしてくれたスーパーメイドから告白されて二人目の眷族にしたり、三人で気ままに世界中を旅してみたりと、昔はとても楽しかった。

 

 神秘が薄れてしまった現代は少し違う。別に今が退屈だとか生きるのに飽きたとかではないし、現代は現代で新しい物はあるのでつまらない訳でもない。

 喰種(グール)、と呼ばれる人間の亜種が原因だ。

 

 まだ裏の世界の存在だった昔とは違い、現代は喰種と人間の争いが表面化している。

 まぁそれは良い。吸血鬼で不老不死のアークライト達には正直言って関係ない話であるし、何より元同族より身内の方が大事なので、やるなら勝手にやっててくれと基本関わらないスタンスだった。

 だが、どうやら自分達吸血鬼は喰種にとって人間以上に美味しそうな匂いがするらしく、喰種が表の世界に現れた約百年前から襲撃されるようになったのだ。

 あくまで人間の亜種である喰種が、超常の存在であり完全な上位種族の吸血鬼に敵う筈もなく、その吸血鬼の中でも最上位のアークライトとその眷族ならば何千何万とこようと一蹴することは可能だ。

 

 しかし、しかしだ。考えてもみて欲しい。

 折角眷族と楽しく旅行していると言うのに、そこへお邪魔虫が入ってくるのだ。それこそ行った先々、場所によっては昼夜関係なく、悪い時には夜のそういう雰囲気になった時まで。

 

 吸血鬼にとって何が必須か、と聞かれれば、大半はその名の通りに血と答えるだろう。

 だが、本当に必須なのは、娯楽なのだ。

 退屈こそ吸血鬼の天敵。悠久の月日が与える『飽き』は、世界から未知を奪い、色を失わせる。最後に待っているのは諦め――即ち死。

 アークライトにとっての至宝とは、眷族たちと世界を周り、先々で共に過ごすこと。

 だから敢えて人間たちの方法で海を渡り陸を越え、力を抑え込む。不便ながらもその過程も楽しむ。

 

 これを邪魔されるのはアークライトといえど看過できない。なのに何度も何度も、撃退しても撃退しても、奴等は懲りずにやってくる。流石にキレた。

 最大の要因は、寛容で器も大きいキスショットや冷静沈着で正にメイドなエリアスまで不快そうにしていたことだろう。

 

 まず考えたのが喰種の言う匂いを消すこと。これは失敗だった。

 どうやら匂いというのは比喩で、本当に匂いがする訳ではないらしい。調べたところ体内の生命活動の過程で発生する魔力反応だとわかったものの、吸血鬼の生命活動とは血の循環であり、それを止めるとは死を意味する。抑えることはできるが、アークライトたちは最上位の吸血鬼である故に匂いが強く、抑えてもあまり意味がなかった。

 

 次に考えたのは阻害すること。消せないのなら見えないようにしてしまえという訳だ。だがこれも失敗。

 そもそも喰種がどうやって魔力を感知しているのか不明であるし、調べようにも実験体が必要になる。実験体については襲ってくる喰種には事欠かないので問題ないが、実際にやるとなると躊躇う。これは別に実験体となる喰種を慮っての事ではなく、単に気持ちの問題だ。三人共に根は善性寄りな上で絶対強者なので、拷問や嬲るといった無駄な行為を必要としていない。それをこれまでもこれからも変える気はなかった。

 

 本当のところ、アークライトが空想具現化か真世界を使ってしまえば全て解決なのだ。だがわざわざこれしきのことに使うべきなのかと問いかければ、三人共々首を傾げる。極端な話、強盗を捕まえるのに軍隊を持ち出すようなものなのだから。

 

 そして最後。思いついたものの、これをやるべきか些か迷った。

 この案は単純明解で、喰種から恐れられようというものだ。それこそ名を聞けば蒼褪め、出会えば恐れ慄き、絶対に手を出したくないと恐怖される程に。

 それは同時に吸血鬼のアークライトが表に出ることを意味し、誤れば今以上の厄介事を招く可能性も出てくる。人間から見れば喰種も吸血鬼も大差ない。どちらもバケモノであり、むしろ吸血鬼の方が遥かにその度合が高い。

 だが今の時代、平穏に暮らすにはある程度の厄介事も受け入れ、表の世界に溶け込むのも必要だろう。

 

 三人で相談した結果、そう決めたのだ。

 差し当たり交渉相手として選んだのは当時最大の勢力を誇っていたCCGの元締め――和修家。彼等と繋がりを作れば、必然的に各国の喰種対策組織との繋がりも持てる。

 交渉担当は万能(ゼネラル)メイドのエリアス、交渉材料として技術担当のアークライト、そして万が一の為の実力行使担当のキスショット。

 こう役割を分担し、交渉に臨んだ。

 結果的には交渉は成功した。かなり骨が折れた上、一触即発な状況になりもしたが。エリアスの交渉スキルに感謝である。全体的に優秀な者が多く、少しばかりキナ臭いものの和修家が賢明だったこともあるだろう。

 

 立ち位置は傭兵に近い。戦力的に不安な作戦や強力な喰種が出現した時、要請を受けてその地に向かう。代わりに和修家の協力者という立場を保証し、成功時の報酬として必要な情報や物資を融通する。金銭については正直あまり必要ない上、神代や領主時代の金貨などが未だダイオラマ魔法球内のレーベンスシュルト城にあるので、それを換金してもらう事にした。あまり出すと金融を崩壊させかねないので自重しているが。

 いきなり出てきた金銀財宝に当時の局長が素っ頓狂な声を挙げたのは余談である。

 

 

 これが五十年ほど前の話。和修家との協力関係はまだ続いている。

 

 時が過ぎる程に喰種は減るどころか、その勢力を人間の社会の奥深くまで伸ばしていた。

 今回もそう。アメリカの裏社会を牛耳っていた喰種のギャング。数ヶ月前に潰したのはその傘下組織で、トップはSSレート。傘下ですら多数のSもしくはSSレートの喰種を擁し、トップである親組織のボスに至っては赫者のSSSレートと凶悪極まりないものだった。

 

 まぁそれは最早過去の話。悉くが日本から派遣された捜査官とアークライトたちによって壊滅していた。最近は残党狩りがメインだ。

 アークライトにとってはSSSレートもただの喰種に変わりないので、被害が増える前に瞬殺が殆ど。倒した喰種のクインケの素材となる赫包も必要ないので全てCCGに渡している。

 その戦闘能力からCCG最強の白い死神こと有馬貴将と比較し、『黒い魔王』などと呼ばれ、喰種からはあらゆる国家のあらゆる場所に現れることから『黒鳥』と称され、恐れられていた。

 

「まったく……これで何度目だ?」

 

 五指の延長線上に伸びる断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)により、一部を残して消滅した喰種を一瞥し、アークライトは呟いた。

 

 和修家を介したアメリカ政府からの要請で喰種のギャングを潰したのはいいものの、アメリカの裏を牛耳る程の巨大な組織だったので取り逃がしはどうしても出てしまう。

 範囲を狭めつつ順調に駆逐しているようだが、それでも運良く抜け出す者がいる。

 そういった奴を仕留めるのが、アメリカでの最後の仕事だった。

 

「――エリアス、他にはまだいるか?」

 

 アークライトのすぐ側に、一人の女性が現れる。まるで空間から滲み出たかのよう突然に。

 

「いえ、半径二十キロ圏内に喰種の反応はありません」

 

 陶磁器のように滑らかで綺麗な白い肌、頸で軽く結った純白の髪。切れ目の顔立ちはとても端麗で、肌の色も相まって人形のような完成された美しさを感じさせる。

 些か無表情ではあるが、逆にそれが魅力を醸し出しており、もし笑みを向けられでもしたら大抵の男は瞬時に堕ちるだろう。

 

「はぐれの討伐はあらかた完了したかと。何より後は我々が関与する域ではありません。依頼はあくまで高レート喰種を受け持つこと。これ以上は現地の捜査官の領分です」

「なら報告を最後にして、拠点に帰る……前にキスショットと合流だな。高レートのはぐれが出たとかで、一番足が速いキスショットに行ってもらったけど」

「イヴ様なら討伐自体はすぐに終わるでしょう。経過時間的にそろそろかと思われます」

「なら、軽く歩きながら待つとするか。行こうか、エリアス」

「Yes, Your Majesty」

 

 

 そうして暫くして、建物の屋根同士を飛び越えながら人影が夜の空に舞ったかと思うと、静かに音を立てず二人の前に降り立った。

 顔を確認するとアークライトは頰を綻ばせ、エリアスは軽い礼をとる。

 

「ご苦労さん、キスショット」

「お帰りなさいませ、イヴ様」

「うむ、戻ったのじゃ。毎度思うが、エリアスよ。アークにも儂にも、もう少し砕けた口調でよいのじゃよ?」

 

 手を振ってきたアークライトには笑みを、いつもと変わらぬ丁寧口調なエリアスには苦笑いを返し、キスショットが帰還した。

 

「その様子だと、問題はなかったみたいだな」

「然り。Sレートだと騒いでおったが、例の如く刀を使うまでもなかったわ。素手一つで事足りる。その場にいた者にバケモノを見るような目を向けられたがの。まぁどうでもよいことじゃ」

「昔からわかってることだけど、やっぱりそうなるか。こっちは微塵も力を出してないし、バケモノ具合で言うなら俺の方が上だと思うけどな」

「気にする必要はないかと。周りがどう思い、どう判断しようとイヴ様はイヴ様です。何より我々は吸血鬼。喰種以上に人外の存在。いちいち気にしていてはきりがありません。それで不信感を抱き、喰種に次ぐ駆逐対象に指定するならよし。大元(和修)を潰すなりして、隠れてしまえばいいのです」

「異空間というか異世界であるレーベンスシュルトかブリュンスタッドに篭りでもしたら、向こうが探すのは不可能だからな。昔は見たいものがまだ多くあって取れる手段じゃなかったけど、今ならそれもありだな」

「うむうむ、エリアスの言う通りじゃ。と言うか、中々過激なことを言うようになったの」

 

 危険な時間帯というのに、そんなの関係ねぇとばかりに喋りながら歩くアークライト、キスショット、エリアスの吸血鬼三人。しかもその内容はかなり物騒ときてる。

 もちろん三人ともに本気ではないだろう。しかしやろうと思えばできてしまうのだから何も言えない。

 

 批判すれば個人であれ集団であれ、即座に潰されると噂される和修家ではあるが、アークライトたちと比べてしまうと何十段と落ちてしまう。

 物量で立ち向かえば圧倒的な質で摺り潰し、ならば質で挑んでも更に上回る質で圧殺される。それがアークライト、それが吸血鬼。

 たとえ和修家が敵になろうと、何の気落ちもせず今を変えないだろう。なにせ策謀や陰謀といったものを相手がかけてきた手間暇諸共粉砕してくるのだ。どれだけ策を弄しようと迫り来る巨大隕石をどうしようもできないよう、弱者故に身に付けた小細工など圧倒的絶対強者には通じない。それどころか気にもしないだろう。

 

 こういう類の対処法は一つ、決して余計な事をしないことだ。

 

「さて、アメリカでの仕事は終わったな。エリアス、和修からは何か言ってきてるか?」

「報酬は指定の場所に、次の依頼の詳細は戻り次第。常々何時も通りです。しかし、ここ最近、依頼の件数が増えてきていると感じます」

「確かにのぉ。ここ十年の間に何ヶ国飛び回ったか。随分とこき使ってくれるわい。CCGの上層が今代になってからどうもキナ臭さが増しておる。そろそろ潮時かもしれんぞ」

「イヴ様に賛同します。私的に言わせてもらいますと、協力関係を結んだばかりの五十年前なら兎も角、今の和修は我々を良いように使っている印象を受けます。あくまで我々と和修は協力関係であり立場は対等。どうやら今のトップは我々を甘く見ているようです」

 

 歯に衣着せない二人の物言いに、アークライトは苦笑を浮かべた。

 

「俺は俺から協力関係を壊す気はないよ。和修に色々の融通してもらっているのは事実だしな。まぁ本音を言うと、やらかすにしても俺たちからじゃなくあっちからやらかして貰いたいな。少なくともそれまでは今の関係を続ける。穏やかにいこう」

「いやいや、うぬも負けず過激じゃよ」

「さすがはアークライト様」

 

 やっぱり平常運転の三人。

 人間と喰種が生存をかけて争い、その裏ではドス黒い陰謀が渦巻いている現代でも、彼らは変わらない。

 

 いつの時代においても悠然と振る舞い、世の理から外れた道を歩み、運命にすら縛られず自由に生きる。

 故にその行動は予想不可能。あらゆる定めを打ち砕き、逆らえない筈の(ルール)すら踏破する。

 

 彼らが何をもたらすかは、恐らく誰にもわからない。

 しかし少なくとも、この世界は史実から外れた結末を迎えるだろう。それが良いか悪いかどちらであれ。

 

「それでアーク。どうやって帰るのじゃ? 何時も通り飛行機か? それとも大跳躍で……」

「目的地が消滅してしまいます。それにイヴ様、私にはお二人程の身体能力はありません。海面を走るくらいならできますが」

「冗談じゃ、冗談。たまに思い切り身体を動かしたいのじゃ。なぁアーク、久々にやらぬか? 朝までぶっ続けじゃ」

「言葉だけ聞けば誘われてるんだろうけど、実際はバトルなんだよなぁ……」

「うん? そっちを所望かの? 儂は構わんよ。ならエリアスも混ぜてさん――」

「言わせねぇよ!? ほんと唐突だよな毎回!」

「何を言うか。儂はただオープンなだけじゃ!」

「胸を張るな凶悪だから! 根は純情の癖に。エリアスも何か……なんで目を逸らす? なんで頰を赤らめる?」

 

 などなど。夫婦漫才みたいなやりとりを繰り広げるお二人。

 胸を張ってその見事な胸部装甲が凶悪に揺れたり、同意を得ようとエリアスに振ったが目逸らし紅潮で満更でもなさそうだったり、最強の代名詞であるアークライトが突っ込みになったりと。

 

 暫く実に仲睦まじいじゃれ合いをした後、アークライトが仕切り直す。

 

「オホン……おふざけはここまでにして。帰りは転移ゲートだ。さっさと帰ろう。今回は長期だったからな。日本食が恋しい」

「儂はミ○ドじゃな。やはりドーナツは日本に限る」

「私は海鮮ですね。テンプラやスシ、サシミは譲れません」

「ははは。ホント、楽しいよ」

 

 最愛の眷族二人を連れ、アークライトは進む。

 

「さぁ帰ろうか――日本へ」

 




アークライト
相変わらずのチート吸血鬼。セラフやアカメ、ネギま以上の世界観違いのバグ。ぶっちゃけ赫者であろうと拳一発で十分。
他の世界との一番の違いは、アヴァロンは存在していたものの十字軍の襲撃がなく滅びておらず、十数年かで次代に任せて隠居したところ。その時、一番世話になったエリアスだけに真実を話し去ろうとしたのだが、知ってましたとばかりに受け入れられたばかりか、絶対に離れませんと眷族になることを望まれた。最初は説得しようとしたものの、とんでもない気迫と本気ぶりに承諾。現在はキスショットと共に悠久を過ごす伴侶と認識している。
喰種世界のアークライトは、他世界に比べて最も他人にドライ。アヴァロンがあったセラフやアカメ、魔法世界や異能が存在し何かと巻き込まれたネギまなどと違い、喰種世界は良くも悪くも最も普通に近い。その為キスショットとエリアスだけが一緒にいられる存在なので、身内主義が強まっている。
喰種に対する対応はかなり冷たい。まぁ第一印象からしてあれなので、真戸さんみたいに喰種絶滅主義ではないが、敵としてきたら即殺は確定レベル。喰種からは『魔王』や『黒蝕』などと恐れられている。

キスショット
同じく世界観違いのバグ。隻眼だろうと梟だろうと、確実に秒も保たない。純粋な身体能力のみで十分。
他と変わらずアークライトの正妻。喰種に対する対応は冷たい。やはりアークライトとの時間を邪魔されるのは相当ご立腹らしい。しかしアークライトと同じく無闇に殺したりはせず、あくまで明確な敵に対してのみ。
エリアスを受け入れるなど寛容さは健在。ただ和修からいいように使われる気はないらしく、GOサインが出たら吶喊する所存。


エリアス
アークライトがアヴァロンから離れる時に真実を聞かされたもののが、実は薄々気づいていて今更といった心境だった。それよりも長く一緒にいた分、恋心をちゃんと認識していたので、どうやったらアークライトについていけるかの方が重要だった。結果、眷族入り。
こちらではアークライトの内面まで知っている。普通なアークライトもカリスマなアークライトもどっちも好きです、と言えるくらいアークライト至上主義。もちろんキスショットも好き。何度も夜を一緒にしているからね。
和修と交渉したり、戦術を立てたり、情報収集をしたりと大活躍。おそらく喰種世界が一番あってあるのかもしれない。




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