なざなざなざりっく!   作:プロインパクト

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“黄金の大墳墓”2

「い、いつまで、続くんだ、これ……」

 

「かれこれ何時間……」

「流石に辛い……」

 

「そろそろ終わりだと思うんだけどね……」

 

肩で息をしながら会話する【蒼の薔薇】一行は、余裕が出来たため休憩していた。

因みにお邪魔キャラであるゴキブリは、彼女らの数百メートル後ろでカサカサ言っている。

 

 

「だが、おかしいぞ。この建物」

 

「なにがだよ、イビルアイ」

 

回りの通路の壁をペタペタと触っているイビルアイが、不意にそんなことを言い出した。

 

「いや、直線に真っ直ぐ過ぎないかと思ってな。一度も曲がったりしてないだろう?」

 

「……確かにそうね。下手すれば十キロは走ってるわ、私達」

 

別に傲慢などで出てきた数値ではなく、普段の戦闘時で比較してみても、今回動いている時間の方が遥かに大きい。

ラキュースの言った十キロも、あながち嘘ではない。

 

 

『さぁ、ゴールはもうすぐだ!休憩もほどほどにしないと、お邪魔キャラに追いつかれちゃうZE★』

 

 

相変わらずイライラさせる石板に、叩き割りたい衝動を抑えつつ、【蒼の薔薇】は道のりを急いだ。

 

 

「――ちょこまかと鬱陶しいですねぇ」

 

エルヤー率いる“天武”は、とある空間に来ていた。

エルヤーの手には彼の愛刀――ではなく、ピンクの弓に先端にハートが付いた矢が握られていた。

 

『射落とせ、ハートのキューピッド!』

 

そう書かれた看板の向こうには、お菓子で出来た町のなかに裸の子供が数人、走り回っている。

彼がプレイヤーと同じ世界の人間ならば、それが某三分クッキングのマスコットキャラクターだと気付けたのだが、仕方がない。

 

『キューピッドの矢を、制限時間内にNPC全員に当てればゲームクリア♪ゲーム内のNPCには、矢でのみ接触は可能です。ルールが破られた場合、“処理班”が動きます』

 

そういうルールで始まったゲームだが、未だ一匹も当てれていなかった。

ちょこまかと動き回る上、捕まえて押さえつけるということも出来ないため、中々に難しいのだ。

 

その上――

 

「ふっ!」

『おーにさんこーちらー♪』

「……」

 

「はっ!」

『てーのなーるほーうへー♪』

「……」

 

狙いが外れる度に繰り返されるこの煽りに、エルヤーのストレスは最高潮に達していた。

入り口を振り返ると、サポートとして連れてきた奴隷のエルフが、こちらを暇そうに眺めている。

 

『プレイヤーは一人まで』

 

というルールがあるため、こちらへの干渉は期待出来ない。

 

 

舌打ち混じりにNPCを睨むと、蜘蛛の子を散らしたように逃げ出した。

 

「制限時間も残り少ない、急がないとならないな」

 

そう、エルヤーが呟いて歩き出そうとしたとき、彼の視界がぶれた。

顔に何かぶつかって起きたソレに、エルヤーは青筋を浮かべる。

触ってみると、お菓子の家の一部であるクリームパイが、エルヤーの顔にべっとりと付いていた。

 

微かに聞こえる笑い声に視線を向けると、奴隷のエルフがこちらを見て笑っている。

 

自分が惨めな存在になっているこの状況に、エルヤーの中で溜まっていたストレスが爆発した。

 

「こ、の糞がぁ!」

 

『ギュッ?!』

 

側でこちらを挑発していた天使の首もとを掴み上げ、ギリギリと締め上げる。

苦しそうに息を漏らすソレを見ながら、エルヤーは愉悦に顔を歪めた。

 

「そうだ、僕が、強いんだ!」

 

地面に投げ捨てると、天使はピクリとも動かなくなった。

シンと静かになった空間の中、エルヤーは背後のエルフに振り返る。

 

後で皆殺しだ。

 

怒りの形相で振り返ると、そこには異変があった。

 

「な、なんだ、お前たち」

 

 

「初めまして、私の名前はエクレア・エクレール・エイクレアーと申す者。ルール違反を確認した、これより処罰を行いましょう」

 

「「「イィー!」」」

 

 

黒いネクタイを締めた、ずんぐりむっくりな体型の鳥と、数人の黒いタイツをベースとした服装をしている者がこちらへと向かってくる。

 

本能的に危険を感じたエルヤーが刀を抜こうとするが、刀へと掛けた手が動かない。

刀を抜くという動き自体を知らないように、プルプルと震えているだけだった。

 

「な、なんでだ……ッ?!」

 

「……あぁ。至高の方々による“罰則”が働いているだけですので、ご安心下さい。やれ、お前たち」

 

「「「イィー!」」」

 

抵抗するための力を奪われたエルヤーが捕まるのは、そう時間の掛かることではなかった。

エクレアが手に持った物を見て、エルヤーが声を震わせて訊ねる。

 

グジュグジュと蠢く、幾重にも蛆を押し固めたような拳大の肉団子を。

 

 

「そ、そそそそれはぁ?」

 

「至高の方々のお一人、偉大なる“大錬金術師”であるタブラ・スマラグティナ様がお作りになられた。“カフカ”です」

 

「か、カフカ?」

 

「えぇ。なんでも、この蟲達が宿主を乗っ取り、その宿主を本体として、おぞましい蟲へと変身するらしいのです。どうなるか私は分かりませんので、それを目に出来る今日は、良い機会ですね」

 

言うが早いか、直ぐ様配下の黒タイツが、エルヤーの装備品を全て外しに掛かる。

ピクリとも身動きできなくなったエルヤーは、なす術なく裸にされた。

 

では、というエクレアの言葉に、エルヤーは歯を食い縛る。それを抵抗と感じたのか、エクレアは朗らかに言った。

 

 

「大丈夫ですよ。コレは、――臍から体内に侵入しますから」

 

 

ピトリと腹に触れた瞬間、波を立てて蛆団子、“カフカ”はエルヤーの臍の中へと這いずった。

 

「あ、ぁああ。ぃぎぃあ?!」

 

例えようのない生理的な嫌悪感と激痛に、エルヤーは地面にのたうち回った。

身体中をナニかが這い回っている。身体の皮膚が抉れるくらい、身体中をボリボリとかきむしるが、痒みは一向に落ち着かなかった。

 

「やダ、くわれる、オレがクワレ――」

 

最後に頭頂部へと登ってきたソレを感じたとき、エルヤーは糸が切れたように動かなくなった。

 

 

 

 

 

後は時間経過を見守れ。と部下に指示を出した後、エクレアは部下の一人に抱き抱えられて移動する。

入口にいたエルフ達に気付くと、そこまで移動させて口を開いた。

 

「お嬢さん方。ゲームに参加なさいますか?」

 

ゲームに参加するのなら、それは立派なお客さまだと思い訊ねた。

だがエルフ達は顔面蒼白な様子で首を降る。

少し考えて、ならば、とエクレアは口を開いた。

 

「サレンダーされて、ナザリックを出るか、……いっそのことナザリックで働きますか?そのつもりなら、私から至高の方々にお話いたします」

 

エルフ達は顔を見合わせる。ここから出たところで、またすぐに奴隷に戻るだけだ、ならば――。

 

コクり、と肯定の意思を出したエルフ達に、エクレアはにこりと微笑んだ。

そして、通信用に渡された羊皮紙を起動させ、創造主である餡ころへと繋げる。

 

『やっほー、エクレアお疲れ様。どうしたの?』

 

「我が創造主たる餡ころもっちもち様。少々お話が御座います、お時間宜しいですか?」

 

『うん、いいよー』

 

来たるナザリック転覆に向けて、部下を増やすのも悪くない。

 

一生叶わないその企みに、エクレアはその顔を歪ませた。

 

 

『ゲームセットォォォ!』

 

闘技場に響いた音声の中、ヘッケラン率いる【フォーサイト】一行は膝を付いた。全員、やっと解放されたという表情で、涙を流す者も居る。

 

掲示板に目を向けると、50-666という点数が表示されていた。

相手チームの面々は、その点数を見てはしゃいでいる。

 

「見てくださいよー。ぴったり止めましたよ、見ました?俺のバッティングスキル」

「点数的には僕の勝ちですけどね」

「……だが、張り合いがありませんでしたね。これならプレアデスの連中とやった方が楽しそうだ」

 

そんな言葉にも、もう何も思わない。勝とうと狙うこと、勝てるかもという思いが、そもそも間違っていたのだから。

 

何も考えれなくなっていた【フォーサイト】に、実況の声が響いた。

 

『負けた冒険者チームには、罰ゲームとして、地下労働施設で約一月、働いて貰います』

『【精神支配】で強制的に動かすので、疲れることはありんせん。働いた分の報酬も、至高の方々からのお慈悲で出すため、張り切って労働に励むように』

 

せーの、という小さな声のあと

 

『『冒険者、ボッシュート!』』

 

ガバン!と、ヘッケラン達の居る地面に、穴が空いた。

何が起こっているか分からないまま、穴に落ちていく自分達を省みて、一つだけ思う。

 

来るんじゃなかった。

 

目元に、あらゆる感情が入り交じった涙を浮かべながら、ヘッケラン達【フォーサイト】は落ちていった。

 

 

「最終問題だ!」

 

イビルアイの言葉に、疲弊しきっていた【蒼の薔薇】の面々に光が差す。天井から下がっている石板には、確かに『最終問題』と記されていた。

 

問題、と表示され、【蒼の薔薇】に緊張が走る。

最終問題だから、相当な難問が来るのでは、という不安からだ。

お邪魔キャラ(ゴキブリ)との距離はそうない、時間を掛けすぎれば手遅れになってしまう。

ゴクリと喉を鳴らす一同に、石板はピッと機械音を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

『今、何問目?』

 

 

「「「知るか!」」」

 

全員の心が重なった。

 

ブー、と律儀に不正解の音が鳴り響き、全員は頭を抱える。

冷静になれ、今何問目だ。と必死に記憶を辿った。

 

「100!」 『ブー』

「意外性で1問目!」 『ブー』

「間をとって50か!」 『ブー』

 

皆が口々に答えるなか、ラキュースは自分でも初めてと思えるほど集中していた。

 

「(思い出せ、思い出せ……。――ッ!)」

 

青天の霹靂。と言うのが正しいか、まさにラキュースへと答えが舞い降りた。

 

「問題は等間隔で設置されていた、今まで走った大体の距離と、時間を計算すれば……」

 

ブツブツと呟いて、必死に計算をする。

 

ラキュースのその整った顔に、手応えありと笑みを浮かべる。それを見た皆がラキュースの答えをを待った。

 

 

 

 

 

 

「79!」 『ブー』

 

 

「「「引っ込んでろ」」」

 

 

一同から気合いと殺意の入った罵倒をくらい、ラキュースはその場に膝を付いた。

よよよと泣くラキュースを横目に、今まで考え事をしていたイビルアイが口を開く。

 

「もしかして、“最終問題”か?」

 

『ピローン♪』

 

石板に表示された正解という文字と、あっさり正解したイビルアイに一同は唖然とする。

その中でも一番ショックを受けたラキュースが、イビルアイへと訊ねた。

 

「イビルアイ、何で……?」

 

「ん?さっきお前が出した答えが不正解だったからな。数字が違うとは思えなかったから、もしかして、と思っただけだ」

 

それに、今まで問題の数は書かれてなかったしな。とイビルアイは締め切った。

 

 

「……まぁ、何はともあれ」

「問題クリア!」

「金銀財宝ざっくざく!」

 

「……ったく、あいつらは」

 

やっほー!と喜び回る三人に、イビルアイは苦笑した。だが、自分の隣でメソメソとしているラキュースに言う。

 

「何を泣いてるんだ、お前は」

 

「泣いてないし、イビルアイに答えられて悔しくなんかないし」

 

「子供かお前は……。ったく、聞け、ラキュース」

 

イビルアイは膝を曲げると、ラキュースに目線を合わせていった。

 

「リーダーであるお前が、あの正確な数値を出してくれていなかったら、私はクリア出来ていなかったんだ」

 

だから、お前のおかげだよ。とイビルアイは笑っていった。

 

「……イビルアイー!」

「なっ、何をする、お前はぁ?!」

「貴女のそういうツンデレなところも好きよ、結婚しましょう!」

「いきなり何言ってるんだ!」

 

という所で、突然視界が闇に包まれた。

 

「ッ!何事だ、皆無事なの――」

 

その理不尽なまでの出来事に、誰もが有効な抵抗も出来ず、ただただ、意識を闇に落としていった。

 

 

 

「――こんなものですかね」

「えぇ、データとしては充分な物でしょう」

 

薄暗い部屋のなか、魔法アイテムのモニター(タブラ自家製)を眺めているモモンガが呟いた。

隣にいたタブラが、書類のようなものを紐で纏めて 、机の上に放る。

そこには各冒険者のデータが、細かく書かれていた。

 

「それにしても、彼女たちこれで何回目でしたっけ?」

「5回目ですね。……ウチに関する記憶を、全部取り除いては?」

「あー、それをするとですね、ナザリックの事を聞いて細かい記憶がフィードバックするんですよ。最悪廃人コースなんで、したくないです」

 

両手を上げるモモンガに、タブラは笑った。まぁ、別に良いかと会話を切り、あるモニターへ目を向ける。

 

「ほぅ、あの子達、結構やりますね」

「ん? ……あぁ、お客さまですから」

 

はぐらかすように話を背けるモモンガを見て、タブラは数瞬の後理解した。

 

 

要するに、普通に遊んで貰っているだけか

 

 

「良かったですねぇ、凄く楽しんでもらえて」

「ちょ、何ですか、その生暖かい笑顔は!」

 

モニターに映る、アトラクションを楽しむエンリとネムを見ながら、タブラは別のモニターへと切り替えた。

 

 

「それにしても、“都市伝説”としてナザリックの事を流すとは、モモンガさんも思いきったなぁ」

 

「あぁ、【アミューズメントパーク・ナザリック】だっけ?」

 

「違いますよ。都市伝説の方は、“黄金の大墳墓”の筈です」

 

やまいこの言葉に、茶釜と餡ころは思い出したように頷いた。

三人は今別件で出ており、バハルス帝国の中を探索していたのだ。

 

「どう、良さそうな場所ある?」

 

茶釜の言葉に、他の二人はうーんと唸った。

その別件の用事では、“そこそこの広さを持った、隣り合う住宅”が条件だった。

 

時間は経てど中々見つからず、不動産を探そう、となったところで、餡ころに【メッセージ】が入った。

 

「あ、エクレアからだ」

 

「あれ、ボクもだ」

 

そう言って話始めた時、丁度やまいこにも【メッセージ】が入る。

表情から察するに、相手はユリのようだ。

 

「あ、もしもし?うん、どしたの」

 

二人の通信が終わるまで適当に見て回るか、と茶釜が腰を上げた時、やまいこが声を上げた。

 

「えぇっ、あの子達が来てる?!」

 

「(アカン)」

 

それを聞いて、茶釜の中で警鐘が鳴った。

 

多分エンリとネムの事だろう。普段ならあの二人が来るのは大歓迎だが、今はタイミングがちと悪い。

 

確かモモンガさん居たし、対処は任せよう。と思ったところで、通信を終えたやまいこが茶釜へと向き合った。

 

「……」

「……」

 

見つめ合うこと数秒、特に恋愛に発展しなかった代わりに、やまいこが茶釜と餡ころの腕をガシリと掴む。

 

まさか、と思ったのもつかの間、やまいこの指輪の力で、三人の姿が掻き消えた。

 

 

――それが、数分前の出来事。

 

 

「あのね、床がすっごくふわふわで、追いかけるのが大変だったの!」

「そうなんだ。それでもクリア出来たなんて偉いねぇ」

「えへへ~♪」

 

「ネム、本当に凄かったんですよ。ほとんどネムの弾で倒しちゃって、私は全然……」

「まぁ、運動神経の良さで決まるゲームだからね。そんなことより、楽しかった?」

「はい、それは勿論!」

「そう、なら良かったよ」

 

 

スイーツを囲みながらのその光景を、モモンガは遠目に見て目を細めた。

そんな様子を見た餡ころが、モモンガへと近付く。

 

 

「さっき、デミー(デミウルゴス)から聞いた話何ですけどー」

「はい?」

「あの子達のゲームの担当をしてたデミーのシモベが、“あの子達にかすり傷でも付けたらぶち殺すぞ”って、誰かさんに脅しを受けたらしくて」

「…………」

「しかも【絶望のオーラ】垂れ流しで言われたらしく、そのシモベ、今トラウマで寝込んでるらしいですよ」

「……後で見舞いと謝罪に行きます」

 

数名のシモベにトラウマが刻まれたが、今日も概ね通常営業のナザリックだった。

 

 

「……ぅん?」

 

ラキュースは、いつもと違う起床に眉をひそめた。

疲れが取れた感じはなく、身体中がギシギシと軋む感覚に包まれている。

 

「痛つつ……、何だぁ?」

 

近くで寝ていたガガーランが、そんな風に起き上がった。そちらも身体が痛むのか、何だか動きがぎこちない。

 

「ガガーランもなの?私も何だか痛くて……」

「何か、ずっと走り回ってた感じだな。特に足回りがやべぇ……」

 

二人でそう言い合っていると、部屋のドアがガチャリと開いた。そちらに目を向けると、イビルアイとティアとティナが、ぎこちない動きで入ってきた。

 

「り、リーダー、今日はお休み」

「動きたくない。身体中がギシギシ」

 

「私は別に出ても良いが……、お前たちも不調な様だし、今日は休息に当てるか」

 

イビルアイの言葉に、全員が同意の意を示した。

休息と決まり、ティアとティナが部屋のソファーへと飛び込む。一瞬でゴロゴロしだした二人を苦笑いして眺めていると、ガガーランが声を上げた。

 

「ラキュース、その枕元にあるものは何だ?」

 

「……何かしら、これ」

 

「そんな物、リーダー持ってた?」

 

ラキュースが持ち上げたそれは、ズシリと重い皮袋だった。全員の視線が集まる中、ラキュースはそれを開ける。

 

「……え?」

 

袋の中には、多種多様な金銀財宝がギッチリと詰め込まれていた。金の延べ棒から、見たこともないネックレスなども入っている。

 

「ラキュース、まさか、お前……」

「第一に犯行を疑うなんて、仲間へする仕打ち?!」

「でも、証拠はバッチリ」

「してないから!昨日は遅くまで一緒に居たでしょ?!」

「その後で、こう、さくっと?」

「出来るかぁ!」

 

冗談と分かっていても、疑われるのは辛い。

 

嘘泣きをするラキュースに謝りつつ、でもよぉ、とガガーランは言った。

 

「コレ、どうすっかなぁ」

「良いじゃない、貰っちゃえば」

「……ま、いっか」

 

面倒くさいし、と話を打ち切ったガガーランに、ラキュースがそういえば、と声を上げた。

 

「ねぇ、金銀財宝で有名な噂があるの。“黄金の大墳墓”って言うんだけど――」

 

彼女達の無限ループが解ける日は、一体何時なのだろうか。

 

その後、何度もナザリックに来る【蒼の薔薇】にプレイヤー陣は頭を悩ませるが、また別のお話。

 

 

ナザリック地下大墳墓、玉座の間。

そこにはその場を埋め尽くさんばかりの、異形の者が集結していた。

皆、片膝をついてうつむき、石像の如くピクリとも動かない。自分達に命令する者が来るまでこうすることは、至極当然のことだからだ。

 

「――皆の者、顔を上げよ」

 

自分達の絶対的な支配者の言葉に、スッ、と全員の頭が上がる。

そして、その言葉を発した者の姿に驚愕した。

 

「今回集まってもらったのは他でもない。これからの、ナザリックの運営に関わることだ」

 

支配者の一人、モモンガの言葉に、異形の者達に歓喜ともいえる電流が走った。

遂に、我らの力を振るうときが来たか、とその身を奮わせる者も居る。

 

「皆、心して聞け。我らは――この世界を牛耳る頂点へと君臨する」

 

瞬間、爆発的な歓喜の波が荒れ狂った。皆声には出さないが、表情には期待で溢れている。

 

そんな中、一つだけ上がる手があった。

 

「何だ、デミウルゴス」

 

「はっ。僭越ながら、侵略の際の指揮や戦略は、私共にお任せいただけませんでしょうか」

 

そのこと言葉とは裏腹に、既にどういう風に動くべきかのシミュレーションは出来ている。

それがどのようなものか大体察知したセバスが表情を少しだけ歪ませるが、デミウルゴスは無視した。

 

だが。

 

「――お前達は勘違いしているな」

 

モモンガのその言葉に、シモベ達一同は唖然とした。

勘違い、と言われた言葉の意味を、よく理解できない。

その表情の意味を理解したモモンガが、口を開いた。

 

「我らが人間に扮し、冒険者として行動しているのは知っているな。その際に、この世界の常識、いわゆるルールだな。それを学んだ」

 

「はっ、それは存じ上げております」

 

「うむ。その際にな、思ったんだよ。――なぜ、最強である我らが、人間ごときに尻尾を振らねばならないのか、とな」

 

「――なるほど」

 

「流石はデミウルゴス。計画の内容を理解したか。――つまりだ」

 

モモンガが指を鳴らす、すると、他のプレイヤー陣も突然現れた。それと同時に、玉座の間に飾られているそれぞれの旗に炎が灯り、一気に燃え上がった。

そのことにどよめきが上がるなか、モモンガは一本の旗を掲げる。

その旗は、ギルド【アインズ・ウール・ゴウン】のものだった。

 

 

「【アインズ・ウール・ゴウン】の名において、これからの我々の進路を発表する」

 

 

モモンガの言葉に、一同は押し黙り、言葉を待つ。

 

「人間共の生活において、我々が頂点だと認識させよ。居住、食事、身なり振る舞い、その全てにおいて、我々より上を蹴落とせ。そして、人間共が我々を崇め、奉る存在とせよ!」

 

バサリとはためくギルド旗が、その場にいたシモベ達の目に映る。全ての者が目を奪われたその時に、モモンガは言った。

 

 

「我々【アインズ・ウール・ゴウン】は、この世界を掌握する」

 

 

さぁ、進軍だ。

 

玉座の間が崩れん限りに轟く歓声の中、モモンガはその異形の姿で微笑んだ。




こういう支配の形もありなのかなぁと決めました。
次回は古田さん一行の登場を予定しております。
新たなナザリックの同行をお待ちください。

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