なざなざなざりっく!   作:プロインパクト

22 / 28
都市伝説とか、結構好きです。


“黄金の大墳墓”1

冒険者の中で都市伝説のように広まっている、ある“噂”がある。

 

 

「“ナザリック地下大墳墓”?」

 

切り分けた丁度良い焼き加減の肉を、口の中に放り込んでガガーランは訪ねた。

 

「そうなの。まぁ、噂程度の物なんだけど。知ってる?」

「……あー、聞いたことはあるな。確か、“黄金の大墳墓”だっけか?」

 

ガガーランの言葉に、正面にいたラキュースが顔を綻ばせる。

隣に座っていたイビルアイが、嫌なものを見たかのように顔をしかめるのを見て、ガガーランは理解した。

 

やべぇ、地雷を踏んだ。と。

 

 

「む。先に食べてる」

「仕方ない。私達はじゃんけんで負けた」

 

そんな時、自分達のテーブルにやってきたのは、それぞれ赤と青を基調とした装備を着けたものがトレードマークのティナとティアだった。

彼女達はギルドの方で、何か良い依頼がないか探しに行っていたのだ。

 

 

双子である二人は同じようにヘソを曲げて、ぶつくさと呟く。

 

 

「それにしても、私達のは無い」

「ひどい扱い。これは争いの種」

 

 

「お前らの分もあるよ」

 

テーブルに備え付けられたベルを鳴らすと、従業員の一人がステーキを乗せた盆を二人前、持ってきた。

 

冷めては美味しくなくなるため、二人が来るまで保存してもらっていたのだ。

 

「流石筋肉、ムキムキは伊達じゃない」

「私は筋肉のことを信じていた」

 

「よーし、お前らの分は俺が喰ってやる」

 

ガガーランがそう言うと、二人は奪い取るかのように盆を受け取り、さっさと食べだした。

 

「――ねぇったら。ガガーラン、聞いてるの?」

「おーおー、聞いてるよ。それで、どうすんだ?」

 

 

そういえばラキュースの話がまだだったと、視線をラキュースに戻す。

彼女は不満そうにしていたが、ガガーランが謝るとすぐに機嫌を直した。

 

「だから、その“黄金の大墳墓”に行ってみようって」

「私は反対だ。そんな美味しい話、普通に考えて罠だろう」

「そう?でも本当だったらどうするの、冒険の宝物はいつでも不確かな物じゃない」

「そうは言うがな……」

 

どうやらイビルアイは反対らしい。

どうするか、と考えていると、ティアとティナの二人が口を開いた。

 

「“黄金の大墳墓”って何?」

「金銀財宝ざっくざく?」

 

「おぅ、実はな――」

 

 

 

 

“黄金の大墳墓”

 

とある草原にある大墳墓には、金銀財宝が見渡す限りに存在するらしい。

だが、それに至るまでには無理難題の数々があり、未だ到達出来たものは数名しかいないという。

 

 

 

「――というわけだ。どうだ?」

 

説明も終わり、二人の様子を見ると、目がキラキラと輝いていた。

どうやら、行く気満々らしい。

その事に気付いたのか、反対していたイビルアイも渋々といった様子で頷いた。

 

“都市伝説の検証”

 

彼女達アダマンタイト級冒険者、【蒼の薔薇】の今回の依頼は、それに決まった。

 

「何か、引っ掛かるんだがな……」

 

ぽつりとそう言うイビルアイの言葉は、周囲の喧騒に溶けていった。

 

 

「“黄金の大墳墓”……?」

 

「知らないかい? ここに来たら教えてくれる人が居るって話なんだが」

 

王国より少し離れた場所、そこにある村落は、カルネ村という場所だった。

頑丈そうな外壁と【ゴブリン】の集団を見たとき、数瞬場所を間違えたかと思ったが、間違ってはいなかった。

 

【ゴブリン】と戦闘を開始するか否かというところで、ガガーランが今話しているエンリという少女が待ったを掛けたのだ。

 

「この村からそう離れていないらしいんだが……」

「……あぁ、なるほど。ナザリックのことかな?」

「聞いた言葉が出たな、知ってるのかい?」

 

エンリは少し考えて、口を開いた。

 

「えぇ、ここカルネ村と交友関係を結んでいるところです。確か、大墳墓という名前もあったかと」

「なるほど。……良ければ、道案内をしてくれないかい?道中の護衛なら任せてくれ」

「良いですよ。もう一人、あそこにいる妹のネムも一緒に良いですか?」

「おう。もちろんだ」

 

エンリの視線の先を見ると、ネムと呼ばれた少女はラキュースら四人と遊んでいた。

話がまとまったガガーランに気付いたのか、ラキュースがネムを抱き上げてこちらにくる。

 

「可愛らしい妹さんね!」

「ありがとうございます。ネムも、お礼を言ったの?」

「ありがとう、ラキュースさん!」

 

ネムの言葉に、ラキュースが弾けるような笑顔になった。

イビルアイによく構ってやるとは思ったが、やっぱり子供が好きなのだろうか。

 

 

 

「やばい、ロリに目覚めそう」

「私は既に目覚めてる、ティナはショタだけにして」

 

「お前達、仮に目覚めたとしたらすぐにいってくれ。全力で距離を開ける。物理的にも心の距離も」

 

「「BBAには興味ない」」

 

「よく言った。武器を構えろ」

 

馬鹿なやり取りをしてるのが数人いるが、放っておこう。

 

〰〰〰

 

「ここですね」

 

「……大、墳、墓?」

 

そこを見て最初に思った感想がそれだった。

どう見ても、城か何かにしか見えない。

墳墓という名前は、一体どこからきたのだろうか。

 

「そこの門が入口です。……誰か居ますね」

「ありゃぁ……、なんだっけ、忘れた」

「知ってる。“フォーサイト”、“天武”」

「ワーカー稼業では、それなりに有名」

 

そう話していると、こちらに気付いたのか、二つのチームの代表らしい二人がこちらへと来る。

エンリとネムを他に任せ、ラキュースとガガーランは数歩前に出た。

 

 

「よぉ、【蒼の薔薇】さん。アンタ等も黄金目当てかい?」

「えぇ。冒険者として、財宝を探すのは当然のことでしょう?」

「はっ、そんなことしなくたって稼いでんだろ?まだ金が欲しいのかよ」

「あら、【フォーサイト】だって最近は名が売れてるじゃない。相当稼いでるんじゃないの?」

「俺らの稼ぎなんか、お前等からすれば小遣いみたいなもんだよ」

 

茶化すように言う【フォーサイト】リーダー、ヘッケランに、ラキュースは軽くおどけてみせた。

 

「初めまして、【蒼の薔薇】のラキュースさんですよね。お噂はかねがね聞いております」

「あら、【天武】のエルヤーさんだって、噂は色々聞いておりますわ」

「おやおや、僕のような者の情報も知っているとは、流石はアダマンタイト級ですね」

「情報が武器となるのは、冒険者なら常識でしょう。天才と称されるエルヤーさんだって、それは知ってますでしょう?」

 

紳士的に、好青年をイメージさせるエルヤーだったが、ラキュースの中では一番警戒してる男だった。

ワーカーという荒くれ者稼業の世界において、“非道”というジャンルなら彼ほどの人間はいない。

ガガーランも勘づいたのか、ピリッとした空気を漂わせていた。

 

 

「――皆さま、先程から門前でお話し中ですが、何か御用で御座いますか?」

 

突然の話し声に、ラキュースは心臓が止まるかと思った。

振り向くと、メイド服を着た女性が数名立っている。

皆が皆それぞれ美形であり、よく美人だと言われるラキュースだが、彼女達には敵わないと素直に思った。

 

「――おぅ、お姉ちゃん。ここがナザリックって場所かい?」

 

ヘッケランが、単刀直入にそう言った。

すると、メイドは思わず魅入るほどの綺麗なお辞儀をして言う。

 

「お客様でしたか。――いらっしゃいませ、本日は【アミューズメントパーク・ナザリック】にようこそいらっしゃいました」

 

メイドの声に合わせて、重厚な門扉が、音を立てて開いていく。

門の上に据えられた杯に、蒼い炎が音を立てて灯った。

 

「それでは皆さま。中へとお入り下さいませ」

 

〰〰〰

 

「え、えと、シクススさん。私たちも入って大丈夫でしょうか」

「エンリ様!ネム様まで……。申し訳ありません。現在やまいこ様方は外出中でして、お会いできないのですが」

「あ、そうですか。なら、また今度――」

 

日を改めて来ます。と言おうとしたところで、ネムが口を開いた。

 

「シクススさん、アミューズメントパークってなぁに?」

「はい。るし★ふぁー様が考案された、各種ゲームを行ってゲームクリアを目指すシステムの事です」

「わー、面白そう!」

「冒険者用に作ったものなので、お二人に出来るかどうかは……」

 

そこまで言ったところで、シクススが頭に手を当てた。そして、何も無い場所へペコペコしたかと思うと、こちらへと向いた。

 

「モモンガ様から、お二人を入れるよう承りました。こちらへどうぞ」

 

もしかして何処からか見てるのか、と上空を見渡したが、白い雲以外何もなかった。

 

 

「……、何処だ。ここ」

 

扉に入ると、薄暗い見知らぬ場所へと来ていた。周囲を見ると、【蒼の薔薇】以外誰もいない。

 

「多分、転移トラップ」

「警戒して」

 

ティアとティナが即座に武器を構えるのを見て、三人にも緊張が走った。

周囲を見ると、闇に目がなれて来たのか、自分達がどんな場所に居るのか理解できる。

 

「なんだここは、王宮の通路か……?」

 

不思議そうにイビルアイが呟いたとき、一気に照明が点いた。

急だったため目の前が眩むが、すぐに回復したラキュースが声を上げる。

 

「見て、何か天井から出てる」

 

指差した場所には、一枚の石板が出ていた。数秒して、大きな音楽と共に文字が表示される。

 

『【アミューズメントパーク・ナザリック】へようこそ!今日は、楽しくて仕方がないくらい楽しんでいってね!』

 

ピッ、ピッという音と共に、石板の文字が変化していく。

 

『まずは、ルール説明だYO★これを見逃すと、大変なことになっちゃうから、ちゃあんと見ててね!』

 

『ルールは簡単。これからここの通路をひたすら走ってもらいます。時間は無制限!お邪魔キャラが出てくるから、早く逃げないと大変だZO★』

 

「「「………………」」」

 

途中途中で出てくる馬鹿にしたような表示にイラッとしながらも、一同は石板に目を通す。

 

『そして、これが重要!このナザリックの中にあるものは、許可が下りた物以外は壊したり、殺さないでね!もしルール違反が起きた場合は、処理班が出動します』

 

『さぁ。それでは、宝物目指してレッツGO!』

 

 

その瞬間。

 

四人の後ろの方から、カサカサと音を立てて出てきたモノがいた。

 

「――ッ?!」

「なっ……?!」

「うげぇ?!」

「ひぃぃ?!」

「ぅお?!」

 

普段アダマンタイト級冒険者として数々の強敵と戦い、まさに怖いもの知らずの彼女達だったが、ソイツは対象外だった。

 

黒光りする体、生理的に無理な足音、――そしてその巨体。

 

「デカすぎでしょ、あのゴキブリぃ?!」

「人よりデカイ!蕁麻疹でそう!」

 

ラキュース達はそう叫んで、一気に走り出した。

 

それに続く三人だったが、イビルアイが動かない。それどころか、魔法でも使うつもりか、何か口に手を当て集中している。

 

ガガーランは急いでイビルアイへと駆け寄った。

 

「よせ、イビルアイ、何するつもりだ!」

「私には蟲関係に絶大な効果を持つ魔法がある、それを――」

「バカ野郎、石板に書いてあったことを忘れたか!」

 

“処理班”

 

その言葉が、イビルアイの中で警鐘を鳴らした。

 

「俺たちを知らない間に転移トラップにはめれる連中だ。もしそれが本当なら、本気でヤバイぞ!」

「……くっ!」

 

踏ん切りがついたのか、イビルアイも猛ダッシュで走り出す。

先に行った三人に追い付いたのは、すぐの事だった。

 

 

『問題。これから出す魔法アイテムを使用しなさい』

 

「えぇーと、これはこうで」

「早く、鬼リーダー!」

「ヤバイ、絶体絶命!」

 

先程と同じような石板に記された内容をこなしている。見れば、町中で高価な値段で売ってある魔法アイテムだった。

 

「貸せ、私がやる!」

 

知っているのか、イビルアイが奪い取るとすぐさま起動させた。

それに反応し、石板からチャイムがなると、塞がれていた通路の壁が開く。

 

「ありがとうイビルアイ、今あなたは最高に輝いてるわ!」

 

「イビルアイ、マジパネェ」

「天使、天使!」

 

「そうかい、さっさと行くぞ!」

 

カサカサと嫌な気配を感じ、次の壁を目指して走る。百メートル程先の方に、同じように壁が出来ていた。

 

『問題、これから出てくる藁束を、武技を使用して破壊せよ』

 

足元のブロックが数枚外れ、藁束が出てきた。

これは自分の役目だと、ガガーランが前に出る。

 

「行くぜぇ!武技【剛撃】!」

 

ガガーランの持つウォーピックが振り回され、けたたましい音を立てて藁束が破壊された。

 

すると石板に『特別ボーナス!』と表示され、通路脇の壁から数個のコップがせりでてきた。

手に取るとひんやりと丁度良く冷えており、立ち上る香りは柑橘類のものだった。

 

「……これ、飲んで良いのか?」

 

警戒心からくるそれに、ガガーランは周囲に訪ねた。

 

 

「うまい。もう一杯」

「要らないなら貰う」

 

「早いな?!もうちょっと警戒しろよ……、うまっ!」

 

ふぅー、と全員が飲み干し、元の位置へと戻す。

このゲームのやり方を理解した全員が顔を見合わせた。

 

「取り敢えず、アイツから逃げながら問題をこなしていくという訳ね」

「そうだろうな……、だが、これは明らかに何者かの策略だ。用心はしておこう」

「そうだな。……さて、行くか!」

 

懐に仕舞っている【ポーション】の本数を確認して、【蒼の薔薇】は走り出した。

 

 

「ここはなんだ。……闘技場か?」

 

【フォーサイト】リーダー、ヘッケランは、周囲を見て呟いた。

暗い通路が続いた先に、外への明かりが見える。ここからでも聞こえる喧騒に、眉をひそめた。

 

「多分、何かある。警戒しろ」

 

ヘッケランの言葉に同じ【フォーサイト】の面々、ロバーデイク、アルシェ、イミーナがコクりと頷いた。

ゆっくりと進んでいくと、その闘技場の全貌が明らかになった。

 

目の前に広がる地面には、四点のポイントを結ぶ大きな四角形の線。

その奥の観覧席だと思われる壁には、数字が書かれていた。

そして、自分達を待ち構えるように立っている数名の人間。

 

ヘッケラン達全員が入ると、会場に歓声が沸いた。

 

『さあ、始まりました!【ナザリック・べいすぼうる・クラシック】。今回の相手出場選手は、外部から来た冒険者四名!』

 

声と共に、ヘッケラン達全員を包むようなライトが、ドラムロールと共に照らされた。

 

『対するナザリックからは、我等が至高の方々、建御雷様、ペロロンチーノ様、タブラ様、ヘロヘロ様です!実況放送はこの私、アウラと、抉れ胸に定評のあるシャルティアでお送りします!』

 

誰が抉れ胸だゴラァ!と、聞こえてくるが、ヘッケラン達は目の前の人間に釘付けになっていた。

正直に思ったのは、次元が違う、と感じたことだ。

転移トラップにせよ、この状況にせよ、圧倒的な力と能力を持つ者にしかできない技だ。

 

 

「ゲームをする前に、お前達の願いを聞こう」

 

ペロロンチーノと呼ばれた男が、ヘッケランに向かってそう言った。

言わないと始まらないと感じ、正直に言う。

 

「俺達は、このナザリックにあるという財宝を狙いに来ました」

「なるほど、金か……。さて、挑戦者。この【べいすぼうる】で俺達に勝てれば、それは叶う、約束しよう」

「……負けた、場合は?」

「おいおい、始まる前から負ける心配か?つまらないな……。別に殺したりはしない、それは約束しよう、それ以上はダメだ」

 

死にはしないが、とんでもない目に遭うということだろうか。

 

では始めよう、とペロロンチーノが言うと、会場からファンファーレが鳴り響いた。

 

奥の巨大な掲示板のような物に、“一回表”と表示される。

訳が分からないでいると、ピッチャーのヘロヘロが言った。

 

「これから私がそこに座っている者にこのボールを投げる。これを君達は打ち返し、あの奥にある数字が書かれたボードへと叩き込んでくれ」

「ま、待ってくれ。こっちには女性も居るんだ、ハンデをくれないか?」

「バットは魔力、または武技系統の力を込めればその分強く振れるが……、仕方ないな。おい、アウラ、向こうに点数を50点追加してくれ」

 

ヘロヘロのその言葉に、会場に拍手喝采が起こった。

 

『おぉっとぉ!ここでナザリックチーム、ハンデを与えたぁ!至高の方々、余裕がありすぎだぁ!』

『歴然とした力の差でありんすね、これでも足りないでありんせんか?』

『なるほど、それもそうか。早く勝負が着いたら、面白くないもんね』

『そうでありんす。……まぁ、弱いのが頑張ったところで、結果は見えてるでありんすけど』

 

その実況を聞きながら、ヘッケランはバッターボックスと呼ばれたところへ入る。

ヘロヘロがマウンドで構えると、大振りで腕を振った。

 

「ストラーイク!」

 

「へ?」

 

後ろに座っていた者が着用しているグローブに音が鳴ると同時に、審判が声を上げた。

間抜けな声を上げて見ると、先程までピッチャーが持っていたボールがグローブに収まっている。

 

「どうした、もうゲームは始まっているぞ」

「……ぐぅっ!」

 

掲示板のカウントが一つ点灯したのを見て、後猶予が二つしかないと分かる。

 

「(良く見ろ、ボールに思いきり当てれば飛ぶ筈だ!)」

 

ヘロヘロが投球フォームに入る。

タイミングを合わせ、思いきり振った――が、当たらない。

 

ツーストライッ!と審判から声が上がり、ヘッケランは焦る。

結局打てることは出来ず、続くイミーナもアウトとなった。

 

 

 

 

「(……そうよ。こっちは50点もハンデがある。ギリギリを投げて、飛ばされないようにすれば……)」

 

一回裏、ピッチャーはアルシェだ。

魔力を込めれば威力が上がると聞いて、アルシェ自身が立候補した。

優秀な魔術師であるアルシェの提案に、他の【フォーサイト】メンバーも快く頷いたのだ。

 

投球フォームを構え、捕手へと思いきり投げ付ける。魔力を込めれば威力が上がるというのは本当のことで、その球速は中々のものだった。

例え化物染みた力を持っていようと、向こうの攻めを抑えれば勝てる筈だ。

 

「(よし、行け――)」

 

カァン、と。

木製の何かを打ち付ける音がすると同時に、掲示板の得点ボードへとボールが叩き付けられた。

外野にいたイミーナが、何が起こったか分からない様子で目を見開いている。

 

「あ、5点かぁ。もう少し左だったな」

「チャンスですね、僕が一歩リードさせてもらいますよ!」

 

和気藹々とやり取りをしている彼らを見て、アルシェの中で何かが砕けそうになる。

 

ダメだ、話にならない。

 

この先の展開を考えた上で、かなりの魔力を込めたボールを軽々と打ち返されたのだ、もう他に武器はない。

踏ん張って落ち込みたくなるのを我慢するが、次の一言でそれも終わった。

 

「さーて、さっきの球じゃ遅すぎるな。もう少し早く投げてくれ」

 

こちらを気遣うように言われた要求に、今度こそアルシェの中で何かが砕けた。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。