「あと少し。あと少し…。」
鍋を使ってカラメルを作ります。使うのは砂糖と水だけです。単純に煮詰めるだけではなく、加減が大切な繊細さを問われる作業です。
「ここです!」
今日はケーキの型を使った大物を作るので少し大変ですが…。自分で食べるものではなく、誰かに食べてもらうのですから。少しでもいいものを準備していきたいものです。
コンコンッ
「…?」
こんな時間に誰でしょう?今日も皆は忙しそうでしたし…。
「ドアの隙間から明かりが漏れていたものですから。」
赤城さんですか。きっと提督から私のことを見てきてほしいって頼まれて見に来てくれたのでしょう。
「ところで、この凄くいい香りは…?」
「今、プリンのカラメルを型に流し込んだところなんです。」
「プリン、プリンですか!いいですねぇ。あの甘くて柔らかくて溶けるように優しい味。癖になりますよね。」
赤城さんってプリン好きだったんですね。知りませんでした。
「あの、材料なら余ってますから一緒に作りますか?」
「いいんですか?やりました!ふふふっ、実は私も料理は好きなんですよ?」
赤城さんは楽しそうに食事する人ですし、お母さんも<赤城さんの残念なところとしては味見しすぎることくらいかしら?>って言うくらいですから料理の際には繊細な味付けを楽しむ人なのでしょう。
「加賀さんと半分こですから…。寸胴とかありますか?」
「食堂までいけばありますけど…。えっと、流石に寸胴プリンはやりすぎじゃないですか?」
寸胴って大きい鍋のことですよね?一応、お母さんのお手伝いをしているときに見かけたことがありますが…。
「そうですよね、バケツプリンならぬ寸胴プリン。面白いとは思うんですけどねぇ。あ、ちょうど面白いものを思い出したので少し待っていてください。」
赤城さんの矢は零戦になって飛んでいきました。懐から出して放り投げるまでの動作は洗練されていて赤城さんのレベルの高さを物語るようにも感じました。流石は一航戦です。
「じゃあ、お借りしますね?」
赤城さんが鍋の中でカラメルを作っている間に卵をよく混ぜておきましょう。一度、網を通すので無駄にならないようにきめ細かくなるように念入りに混ぜておきます。この卵に牛乳が加わるのはもう少し先のことになります。牛乳を熱して砂糖を溶かして粗熱を取る。そうしたら網を通してボールに移すのです。
「そうそうこれこれ。」
人差し指と中指ではさんで矢になった零戦を受け止める赤城さん。一瞬手のひらに刺さったんじゃないかと心配になりました。
「これって…升ですか?」
節分のときのやつですけど…。結構大きいのもあるんですね。
「はい、私はこれでいきます。」
…結局、上手く固まらなくてお母さんにオーブンを借りました。