「死ぬかと思った。」
素直な感想はそれだけである。月月火水木金金なんて歌がある時点で海軍はブラックなのだが…。いや、それにしてもひどかった。
「お疲れさまでした。」
途中で姉妹からの援助がなかったら本当に干からびていたかもしれない。夢の中では沈んだ初瀬がいい笑顔で手を振っていた。…というよりも出迎えに来た人やっぱり多かったわ。軍艦旗どころか横断幕とか出してたわ。
「少し、部屋で休みます。代行、よろしく。」
目が痛む。というより、全身が不調を訴えている。これは、夕飯の時間には間に合わなそうだ。
「わかりました。」
もうしばらくは印鑑押したくない。ペンも握りたくない。ついでに言うと、受話器もとりたくない。視察に来ていた憲兵の見送りも本当なら私の仕事だけど。最低限こなせばいいや。
過労死とか笑えないわ。資材を海に捨てるような使い方をするなんて新人研修だったのだろうか…。新人だってもう少しまともな動きをしそうなものだけど。まぁ、過ぎたことをいっても仕方ないか。
“潜水艦型モニター”、つまり敵は戦艦並みの主砲を搭載した潜水艦だった。敵の主力は潜水艦や水雷船体だった。そんな相手に戦艦やら空母やらを並べたところで勝てるはずがない。最終的には敵の援軍としてPT小鬼群まで参戦して大騒ぎだった。
最後は敵に占拠された拠点ごと敵を迫撃砲や空襲、対地攻撃に特化した武器で吹き飛ばしたらしい。
「て、てて提督!?」
視界が歪む。何故か目の前には淀殿がいる。まるで私を抱きしめようとするような感じで…。
自分の膝から力が抜けているのに気づいた。なんだか、他人事のように感じる。ゆっくりと近づく地面。
「ちょっと、そこで大人しくしていてください!」
抱き止められて地面に寝かされて。呆然とする私に向かって叫んでから…明石でも呼ぶのだろうか?黒電話(内線)を手にとって指示を出している。
せっかく一緒に整理した書類が地面に落ちるのも気にせずに動いてくれている。…いや、仮にも指揮官である私が床に伏せてるのは良くないだろう。
「大人しくしていてください!動かないでって言っているんですよ!」
「いや、なんか鼻血が出てきちゃって…。」
喉の奥に血液が流れ込むと気持ち悪いし、危ないと思う。それに軍服とか床とか汚れる。
「じゃあ、そこの本棚にでも寄り掛かっておいてください。」
長門の模型が上に飾られている本棚。長門が作った長門の模型。横においてあるのは敷島の模型。これは、妹からの贈り物だった。
…いけない。そんなことをぼんやりと考えていたら目がチカチカしてきた。瞼が重たい。目を開けてられない。
「ただの過労かと思われます。」
そんな声が聞こえた気がした。
崩れ落ち、大淀に抱き止められた提督。何やら叫ぶように明石を呼ぶ大淀。明石に連れ出される気絶した提督。その胸元は真っ赤に染まっていた…。
「あきつ丸、見てしまったのであります…。」