「…以上、報告終わり。」
開いた口が塞がらない。大淀の報告が本当だとすれば、電話してきた頭の悪い将校が敵の出所を探り当てたらしい。24人もの艦娘の命と引き換えに。より詳しく言うならば死者24人、大破1人、行方不明5人。大破しながら戻ってきたのは峯風型の島風のみだったという。
「…なんてことを!?」
紅茶がこぼれて軍服が茶色くなっていた。報告を受けている間に冷めてしまったために火傷はなかった。
「提督、相手方が執拗に手出し無用と伝えてきたのは自分の不正を暴かれたくなかったからだそうです。」
そんな、そんなことで仲間の命を海に投げ入れられるのか?馬鹿げてる!そんな鬼畜の所業…。
吐き気が込み上げてくる。
「つまり、私は騙された…?」
艦隊を引き上げさせたのは不正が露見しないための手段。権力を振りかざして強引に小林鎮守府にいた艦娘を大本営に召喚したのもそういうことだったんだ。
「そう、なりますね。」
謹慎+降任という処分が下ったようだ。奴は確かに不正を働いていたが、免職を逃れた。普通これだけのことをしたら免職を避けられたとしても、しばらくは大本営特製の壁の中でのお勤めをすることになるか懲罰部隊で働くことになるだろうと思うのだが…。
「資材の横領に艦娘の不正運用。これだけやっておきながら、こんなに甘い処罰でいいのだろうか。」
わけがわからない。
「どうしようもないですね。」
奴が上に無断で運用していた艦娘は97人。上手い具合に騙して運用していたようだ。この闇艦娘を使って届け出をしていない遠征を行うことで資材を獲得。それを何も知らない新人提督や仲間に転売。こういう方法で金に変えていたらしい。
「本当に大変だった頃はこんなことをしなかったんだけどなぁ。」
みんな目の前に精一杯で必死で…。
「おそらく、謹慎が解かれると同時に届け出をして退職金を受け取って姿を消すかと。」
最近の不正は目に余るものがある。経費の不正利用なんてかわいいもので、何も知らない駆逐艦娘を利用して違法薬物を運んだりしたりなんてことも起こっている。それでいて問題が起こると“秘書がやりました”なんていうのだ。そのうち、深海棲艦じゃなくて身中の虫に内側から食い荒らされそうだ。
「厄介なことばかり残して逃げるなんて…。」
あぁ、本当にどうしようもない。
「…む、らくもぉ?」
気の抜けた声で私を呼ぶ。死にかけたというのに提督は父でも母でもなく私を呼ぶんですね。
「何よ、ようやく目が覚めたの?」
どうしてか素直になれなくて強い言葉ばかり浴びせてしまうけれど…。
「あぁ、心配させちゃってごめんね。」
「べ、べつにそんなことないし!」
包帯だらけになりながら優しく私の手を握り返してくる提督。何故これほどに優しくて善良な提督がこんな不幸にあっているんだろうか。
「そぅ?でもありがとう。」
死んでもおかしくないくらいの大ケガだったのになおってしまうなんて、素直にすごいと思う。提督を治療してくれた軍医さん達には本当になんてお礼をいったらいいのだろう…!
「もう、バカね!」
…こういう時、素直になれない自分の口を少し恨めしく思う。