「大本営が、どうして…?」
私の提督が大本営に呼び出しを受けるほどのことをしただろうか。
『同じような被害が出てて、観測所と小規模な基地がいくつか夜襲されたの。他の指揮官はミンチになったり行方不明になったりで復帰できる可能性が低いの。だから、詳しく話が聞きたいってことだと思う。たぶんだけど意識が回復するまで待ってくれるし、海軍の病院に入れられるから安心して。』
あぁ、あの大きな病院か。それにしても変だ。
「ありがとうございます。」
あと少し遅かったら提督も生きてはいなかっただろう。象に向かって鼠のような素早さを求めてはいないけど、せめて象のように大きな耳を持っていてほしいものだ。
『叢雲達も提督の付き添いになる。まぁ、緊張しなくても大丈夫だけど下手なことを言うと面倒なことになるから寛大な心をもって接してあげてね。お年寄りが多いから。』
「あはは、そうですね。」
生き字引みたいな人もいるけど、耄碌しちゃったみたいな人もいる。
『…で、どうなの?』
「まだダメそうです。寝起きが悪いものですから。」
軍人らしくはないかもしれないけど、この鎮守府では前線の鎮守府のような厳しい規則は必要ない。前線に出るわけでもないし、人数も多くないから最低限の規則で運営できている。
『あ、ごめん…。また後でかけ直すね。』
「はい、わかりました。」
…ガチャン
大本営なんて久しぶりだ。最後に呼ばれたのは反艦娘派の活動家に襲撃を受けて提督が買ったばかりの色鉛筆で撃退した事件以来だろう。まぁ、完全にやり過ぎて出世コースから外れちゃったんだけど。あれは私もビックリした。ナイフが腹部に突き刺さった状態から色鉛筆で反撃して相手を殺しかけた。
思えば最初にあった時から軍人っぽくはなかった。ドジを踏むことも多いし、寝ぼけて階段から転げ落ちたりするし。何度もやってるのにいまだに演習の砲撃とかで飛び上がることとかあるし。小心者というか何て言うのか…。ただ、怒らせると何をするかわからないとこで定評がある。あの襲撃事件の時もそうだったし、先輩の顔をたてるべき演習で本気になって潰しにかかったりしたこともある。
まぁ、やればできる子なのだ。スイッチさえ入れば優秀な提督なのだ。ただ、本人がスイッチの場所を知らないだけで。
彼女とは長い付き合いだ。初期艦になる前から学校にいる頃からなんだから。まだまだ新米だけど私の提督は小林榛名だけでいい。私を疎んじる生徒もいたけれど、彼女は真剣に私の話を聞いてくれた。彼女は私を必要としてくれた。
提督には私が必要だし、私には提督が必要だから。
…だから
「…早く起きなさいよ。」