「はい、はい…えぇ、こちらとしては最善を尽くしているつもりなのですが…。」
メモするために持っていたボールペンが不吉な音をたてています。声こそ冷静なままですが、ペン先はメモ帳に突き刺さり顔は紅潮しています。
「それはそれは…手厳しいですねぇ。
あ、わかりました。」
折れた。折れちゃいました。しかも片手で。
「我々は大本営の皆さんの邪魔をしないように動けばいいのですね?」
ペンの破片が傷つけたのか少し血が出ています。
「はい、わかりました。それでは失礼致します。」
…ガチャン。
「あの、提督…?」
小林提督が意識不明の重体だと聞いてから、部屋の空気が一気に重たくなりました。それに加えて空気の読めないことで定評のある大本営の偉い人からの電話。火に油を注ぐと言いますか、ガソリンを注ぐと言いますか…。
「淀殿?あぁ、ごめんね。冷静になるべきだったね。」
口角が上がるものの、目に光はなく…。今の提督を見たら完全武装して部下を従えた港湾水鬼だって泣いて許しをこうでしょう。
「まったく…。」
文句をいいながらも赤ペンは踊るように作戦の変更点を書き上げていく。
「ハラワタ…」
その目は真剣で
「ナワトビ…」
恐ろしくて
「淀殿、加賀さんに連絡してくれる?腕利きの零戦21型を用意してほしいって。」
提督の相手をすることになる深海棲艦を哀れに思った。
「零戦21型ですね?」
「うん、矢文を飛ばしてほしいんだ。通信をとってもいいんだけど、言葉だけじゃ伝わらないでしょ?」
「わかりました。」
これは、加賀さんも緊張するかもしれませんね。
「できれば少数精鋭でいきたいな…。」
なるほど、敵に発見されるのを防ぎたいのですね。
「あと、古い種類の艦娘が載ってる図鑑とかほしいな。」
「えっと、なんのためにですか?」
たぶん、資料室の本棚に納められていたと思いますが…。何に使うのでしょうか?
「いや、引っ掛かるところがあってね?」
「わかりました。探してきます。」
明石だって頑張ってるんですから私も頑張らなきゃ行けませんね。
「あと、そろそろ茶菓子を買いにいった金剛が戻ってくるから途中で捕まえて仕事を分担してもらってね。」
あぁ、なるほど前日の秘書艦は赤城さんでしたか。間宮さんと伊良湖さんのところに金剛さんを買い物にいかせたのはそういうことでしたか。
「襲撃された小規模鎮守府は三つになった。海上で撃破される定期船も出てきた。
これ以上の被害が出る前に下手人の首を飛ばす。」
「…いってきます。」
ここまで来てようやく大本営も動き出しました。それを見越しての作戦変更なのでしょうけど…。
「いってらっしゃい。」