「あぁ、つかれたなぁ…。」
学校の校舎の影で艦娘達が楽しそうに話してるのを見ながらスケッチブックを開いた。授業では使わない筆箱を開ければ私が家を追い出される前に買い揃えた色鉛筆が顔を出す。
「なんだって私は…。」
暇があれば絵ばかり描いていた。小さい頃から私はそうだった。いつからか風景画を多く描くようになった。たぶん上手にできなくても風景は文句をいったりしないからだろう。
「あんた、こんなところで何してるの?」
そんなことをぼんやりと考えていたのが悪かったのかセーラー服ワンピースの艦娘さんに声をかけられてしまった。頭の上に浮いた変な機械が気になるけど、今はそれどころじゃない。
「えと、私ですか?」
「そうよ。あんたのこと。」
何か言わないと。でも、暇だから絵を描いていたなんて言ったら怒られるかもしれない。“上手でもない癖に絵なんか描きやがって!画用紙を汚したもので飯が食えると思うなよ!”って怒鳴られてスケッチブックをゴミ箱に入れられてしまうかもしれない。
「き、休憩をしています!」
私は筆箱を閉じて鞄の中に突っ込んだ。
「へぇ、こんな湿っぽいところで?」
慌てて撤収しようとしたのが悪かったのかスケッチブックが鞄に上手く収まらない。欲張ったりしないでもう少し小さいのを購入すればよかった。
「ほら、白の鉛筆落ちてるわよ。」
「ひぇっ!?」
赤鉛筆なら言い訳ができた。授業で使うとか鉛筆派なんですとか。丸つけに使いますとか。でも、白は無理だ。普通に勉強するんじゃ白は使わない。
「落ち着いて、深呼吸しなさい。別に怒ったりなんかしないわ。」
「す、すみません。」
勉強も運動もそれほどできる訳じゃないし、人の名前すら覚えられない私に話しかけるなんて暇な人だと思う。
「ほら、謝んないの。あんたはこれから艦娘の上にたって仕事をするようになるんだから。」
「すみません…。」
白い色鉛筆を筆箱に戻して顔をあげれば、彼女は呆れたような顔をしていた。
「謝んなっていってるそばから謝らないの!そうだ、私はこれを届けに来たの。明日からあんたの担当は敷島教官になるわ。教室は旧校舎の一階だから。忘れずにいくのよ?」
「はい、わかりました。」
プリントを受け取ってファイルにしまう。
「一応、自己紹介だけしておくわ。
特型駆逐艦五番艦の叢雲よ。」
そう言いながら叢雲は私に向かって手を差し出して
「えと、小林榛名です。」
私はその手を恐る恐る握った。
今更こんな夢を見るなんて、叢雲は何て言うかな?笑われるのか、照れ臭そうな顔をするのか…。
砲弾の破片にやられた腹部を焼けた軍刀で止血したら叢雲に泣かれてしまった。もしかしたら、まだ泣いてるかもしれない。教官が助けに来てくれたのかもしれない。やることは山積みだ。…寝てる場合じゃない。
早く現実に戻らなくては。