「ええっと、薬は…。」
あ、もうなくなりそうですね。明石さんにもらってこないとです。忘れると大変ですから覚えているうちにもらってきましょう。
「そういえば、この鎮守府の明石さんって凄い人ですよね…。」
まぁ、私が知ってる他の明石さんは研究所で血の染み付いた白衣を着て私達に酷いことをしたあの明石さんだけなんですが。
ここの明石さんは、優しいし仕事も完璧です。まぁ、趣味の開発では大淀さんから“地球を滅ぼすつもりですか!”とか“不可です、絶対に許可しません!”とか言われてることもありますが、色んな意味で凄いものを作ってます。
「これが完成したなら、大きな進歩ですよ。」
“列車砲”
これなら余剰になった艦砲の再利用としてロマンと実用性の両方を兼ね備えた理想的な装備が開発できます。
「夢が広がりますね、明石さん。」
目指すは世界最大最強の列車砲【ドーラ】っていいたいところですけど私達は海軍装備の再利用を目指してるので最終目標は46㎝列車砲の作成としておきましょう。まずは、中口径の20.3㎝砲からいきましょうかね。
「えぇ、これはすごい考えですよ!」
迅速な陣地展開。線路さえあれば配置転換が簡単。発砲位置を変えてしまえば撃ち返される前に逃げることもできるかもしれない。…んんっ、素晴らしい考えです。
「じゃあ、やっちゃいますか。」
「やっちゃいましょう!」
量産を目的とした装備を開発するならできるだけ簡単な作りにしないと不都合が生じることになります。まぁ、仲間内で使うのみなら整備も製作も私たちがやるので好き勝手にやらせてもらいますがね。
「そういえば、磯風ブレンド比叡カレー煙幕も化学兵器を作るなって叱られましたね…。」
「…平行して小口径バージョンも作ってみましょう。対空戦闘なんかに需要があるかもしれません。」
前回の<バラける61㎝三連装魚雷3号>なんかは大淀という壁を乗り越えても大本営というラスボスから“こんな魔改造を見せつけられても困る”とか“正規としての採用には無理がある”とか、さんざんな評価でしたからね。あれで北上さんなんかが先制雷撃をしたら楽しいことになったでしょうに…。
「なら、小口径主砲の12.7㎝も使っちゃいましょう。」
「動力は廃棄予定の偵察機から流用しようかしら…。」
「わわわっ…」
なんか、お仕事みたいです。盗み聞きするのは悪いことですが何を作ってるのか気になります…。
<旋回機能は要らないでしょ。>
<いや、やっぱりここは無限軌道で!>
<連装砲をそのまま使用っ!?
何て素晴らしい言葉でしょう!>
<三式比叡カレー弾も装填したい<それだ!>っ…!>
こ、これは…。ノックをしても気づいてもらえないやつです。それどころか、また暴走してるみたいです。明石さんと一緒にいるのは夕張さんでしょうか。夕張さんも趣味として新装備の開発をすることがありますから。
以前、【12.7㎝単装超速射砲(通称、夕張マシンガン)】なるものを使って演習相手だった長門さんと提督に思いっきり怒られてました。その時の夕張さんの他の装備は【バラける61㎝三連装魚雷2号】と【夕張式強化タービン】。結局、大淀さんに没収され封印されましたが一種の伝説になっています。他にも【磯風サンマ魚雷】とか色々なものを開発しています。
「ごめんね、先に入っていいかしら?」
あ、大淀さん。…なんだか、今日は機嫌があんまりよくないようですね。
「ちょっと、耳を塞いでてね。」
「…あ、はい。」
ちょっと普段より強めなノックをして勢いよくドアを開けて飛び込んでいきました。
「明石ぃいいいい!!!」
さすがは、大淀さん。慣れています。
「げっ、大淀さんっ!?」
また明日出直しましょう。