「差し入れです。」
友鶴という艦娘はよく飴玉を持ってきてくれます。工廠妖精にとってこれは日々の楽しみのひとつなので、友鶴が来た日は作業効率をあげるように頑張ったりします。
「元気でしたか?」
時々大ケガをして帰ってくる友鶴の艤装は他の艦娘と何かが違って歪に感じることもありますが、コツをつかめば直すことも簡単です。それほど資材と時間を消費する必要がある艤装でもありませんからね。
「そうですか、それならよかったです。」
…メロン味を手にいれた!
「お疲れさまでした。」
艤装の隙間から手を振る妖精さん達に何となく手を小さく振って応えて私は工廠の小さな従業員さんに会いに行きます。普段からお世話になっていますからね。…まぁ、今回は至近弾しか浴びてないですから大きくは壊れていないと思うのですが。
「やっぱりかわいいですね…。」
明らかに自分より大きな主砲なんかを数人で協力して外したり整備したりしている様子を見るとなんだか心が暖かくなります。
「あ、どうも…」
いつまでも見ていられそうな気がしますが、私も早くお風呂に入ってきたいので飴玉を置いて早くいきましょう。不意打ちを受けてバランスを崩し、勢いよく海面を転がることになったことについては触れないでください。対潜用の爆雷を使おうとした瞬間に砲弾が飛んでくるなんて誰も対応できませんよ。だって潜水艦しかいない海域だって大本営も発表していたじゃないですか。
「やった、メロン味だ。」
夕張さんが嬉しそうにしていますが、やっぱり夕張さんはメロンが好きなのでしょうか?好物は蕎麦だって聞いたことがありますが、そんな味の飴は…ちょっと想像できませんね。
「いやぁ、ありがとうね。」
「あの、目の下すごいことになってますが…。」
眠れない日が続くと私もそういう顔になりますが、夕張さんにもそういう日があるのでしょうか?
「あ、これ?」
自分の目元をさわりながら夕張さんが苦笑いしています。わかります、言いづらいこともありますよね。なんか、本当にすみません。
「いやぁ、仕事で楽しみすぎちゃって。」
…あれ?
「一回この鎮守府って空襲されたでしょ?それで対空用の設備が足りないってことになって対空用の高角砲とか古くなった駆逐艦の主砲とかを改造して作った高射砲擬きで次こそは撃退してやろうってことで新作を作ったり配置を考えたり…まぁ、そんな感じでやってたらだんだん楽しくなってきちゃって…最終的に五月雨ちゃんに怒られて今日は休暇になっちゃった。」
「…怒られるまでやるんですね。」
まぁ、工廠の仕事は夕張さんの趣味みたいなものですから明石さんだけでも問題なく回るんでしょうけど…五月雨ちゃんが怒る姿はいまいち想像できませんね。
「好きなことになるとやっちゃうんだよねこれが。」
あ、噂をすれば五月雨ちゃんが来ました。
「あの、夕張さんの忘れ物は見つかりましたか?」
「うぅん、ここじゃないのかもしれない。
…あ、そろそろ入渠してきたら?ごめんね、話し込んじゃって。」
あ、大変です。早くいかないとそろそろ遠征の人が帰って来る時間になってしまいます。
「えと、ありがとうございました。」
この後、お風呂場までの道の途中でマンホールに足を引っ掻けて転んだのは内緒です。