「……。」
研究所の最下層には死臭が漂っていた。薄暗い廊下に靴音が響くが部屋から漏れる悲鳴や呻き声を掻き消すほどではなかった。
「いい検体がいくつか入ったんですよ。復讐に駆られた殺人鬼。まだ完成していませんが、見せる価値は充分にあります。」
「…改造中ですか?」
「そうです。今、ちょうど記憶の植え付けをしています。」
どういうことだ?
「洗脳ってことですか?」
「いえ、そんな恐ろしいことしてませんよ。
脳の記憶というものは電気信号です。コンピューターで記録し、新品の脳に書き写す。戦闘データ、記憶、生活、人間関係…全部書き写せます。
そして今回は小学生にして12人を殺傷した殺人鬼の脳を手にいれたわけで…は、ははっははははは!!!
いやぁ、もう最高ですよ!」
確かに研究所はクローンを使って人体実験をすることを秘密裏に認められている。しかし、これは酷すぎる。
「…悪魔だ。」
人間とは呼べない。
「その悪魔とあなたは契約をしてしまったのです。
…今回、大本営の堅物を打ち破る手伝いをした我々が何か見返りを求めても文句はありませんね?」
「あなた方にしても自分の研究結果が不当な評価を受けたことで処分され、研究所の信頼性や評価が下がるのは避けたかったんじゃないの?不祥事のあとにリコールなんて立場が酷いことになりそうね。」
誰がこんな悪魔なんかに協力してやることか。
「これは手厳しい…。
おっと、目的の部屋はここでした。」
ガチャッ
「……。」
「て、とく……。」
「怖かった、ですか?」
…と、とと友鶴ちゃん?!
んな、ななぜに私はベッドで幼女抱き締めてしかもこんな格好!?記憶が記憶は…響ちゃんからもらったお酒を飲んだところまでしかない。
や、ヤバイ…とりあえずバスローブどこいった?
「ご、ごめん!」
うん、とりあえず謝ろう。酔った勢いとはいえ、やっていいことと悪いことはある。
「い、いえ…あの、大丈夫ですか?」
…なんか心配されてる?さっきも私に何か言っていたような気がする。
「さっき〝怖かった〟って言ってました。」
「気にしないで、研究所の施設でなんか気持ち悪いオヤジに絡まれただけだから。夢にまで出てくるとは思わなかったわ。」
気づかれないように探しているのに…どこ行ったんだバスローブ!
「あと、ありがとうございました。ここにいられるのは提督のおかげです。わ、私…提督のためだったらなんでもします!」
言えない、酔って転けたなんて言えない。
「まったく大袈裟なんだから…。なんでもしてくれるの?それじゃ、添い寝でもしてもらおうかな。」
「えっとじゃあ、パジャマを…ふぇ!?か、風邪引きますよ?」
…もう、いいや。バスローブは諦めよう。いいじゃん、透け透けだけど服着てるし…いいじゃん、下着の上下が揃ってなくても…
あ、友鶴ちゃん暖かいな…
(み、みちゃいました!)
後日、鎮守府新聞で写真つきの記事を書こうとしていた重巡が高速戦艦に逮捕され、写真は回収された。