「…可愛かったなぁ。」
敷島さんがカードと一緒に渡してきたメモを読めば事情はわかった。〝アキさん〟はここまで。ここから先は〝戦艦安芸〟の時間だ。
とはいえ、やることは簡単だ。メモに書いてあった通りに退役艦娘達にあって署名を集めて一週間後にお菓子と一緒に敷島さんに渡せばいい。
「へぇ、そんなに可愛かったんだ。いいな、私も愛で…見たかったなぁ。」
「薩摩姉さんも手伝ってよ。ロシア組とか話しかけるの辛いんだから。」
日露戦争でロシアから戦利艦として日本に来ることになった艦の艦娘達に声をかけるのは石見さんと仲がいい薩摩姉さんの役目になることが多い。
「まぁ、敷島さんからすれば話しかけづらいよね。」
それに敷島さんはマークされている恐れがあるので下手に動くことはできない。
「しょうがないなぁ。私達、ワシントン組に期待しちゃうなんて…頑張りたくなっちゃうじゃん。」
「姉さん、ケータイここに置くよ。」
「お、丁度さがしてたんだよ。」
色んな艦娘がこの店には来る。色んな物を買いに来る。でも、それだけじゃない。私達の店は少しでも現役の艦娘達の力になるために立っている。
「うわっ寄り道したら遅くなっちゃったね。もうすっかり暗くなっちゃった。迷ったら嫌だから手でも繋ごうか。」
太陽は海に沈んで代わりに星と月が空を彩っている。夜になって少し冷えてきたけれど提督の手は暖かい。
「…綺麗ですね。」
「そうだねぇ…。ねぇ、やっぱり持とうか?」
「大丈夫ですよ。この体になる前はもっと重たい物を運んだりしてましたから。」
小さい頃から全てを完璧にこなせと言われ、様々な事をやって来た。それでもやっ「そぉおい!」…!?
「て、提督!?高い!高いです?!」
視界が一気に高くなった。
「しっかり掴まっといてね。まぁ、肩車されたことあればわかるかな?」
肩車なんてはじめてです。視点が凄く高くなり、色んなものが新鮮に見えます。
「早く帰らないと淀殿が怒るから少し急ぐよ。たぶんそろそろ金剛のケータイ使って淀殿が私に電話してくるから。」
「すみません走るのは…。」
「いや、いくら私でも肩車した状態で走ったりなんてしないって。ちょっと裏道使って早歩きするだけだって。」
手で足を押さえられてるので抵抗なんて無意味です。こうなったら提督の頭にしがみついているしかありません。
「そんなにくっつかなくても大丈夫だよ。(と、友鶴ちゃんの太ももが…やばい鼻血出そう。)」
ちょっと酔ってしまったけれど無事に帰れました。