「ねぇ、友鶴ちゃん。せっかくの休暇だから、ちょっとお出掛けしようか。」
出掛ける…どこにでしょうか。
「どこか遠い所ですか?」
「ううん、今日は町に出ようと思ってね。ほら、友鶴ちゃんはあんまり町とかいったことないでしょう?」
確かに言われて見れば着任してから外出なんてしたことなかったかもしれません。
「まぁ、少し前まで大本営の明石さんからドクターストップがかかっていましたからね。」
鎮守府の外で倒れられると対応に困るということらしいのですが、流石に艤装をつけたまま外出するわけにもいきません。そもそも、私の存在自体が海軍にとってあまり都合のよい物ではないので今回の外出も私は身分を隠した状態でということになるでしょう。
「今日の分の書類は金剛姉妹に丸投げといたから大丈夫。それに、外出届は日付をいじって昨日出したことにしておいたから問題ないはず。」
「…いいんですか?」
「まぁ、私的には大淀さんにバレなきゃセーフなのよ。」
コンコンコンコン
「提督、ちょっと書類のことで…。」
「友鶴ちゃん、逃げるよ!」
そう言いながら流れるような動作で私を抱き上げて窓から外にでる提督…いや、ちょっ!?
「ここ二階ですよ!?」
「さぁ、歯ぁ食いしばってぇ!」
…
……
初めての町です。たくさんの人がいて活気があって…今、戦争しているってことを忘れてしまいそうになるくらいに笑顔が溢れてます。
「あ、提督さんいらっしゃいませ!」
提督が店内に入ると
「トモちゃんってコレ食べたことある?(あわせて)」
と、トモちゃん?
「な、ないです」
「へぇ、提督さんの連れているその子って〝トモちゃん〟って言うんですね。
あぁ、トモちゃん。はじめまして、私の名前はアキっていうの…まぁ、この店の店長をやっているわ。」
「まだ若いのにすごいんですね。」
「(わ、若い?!)嬉しいこと言ってくれるのね!可愛いし礼儀正しいし、アキ姉ちゃんサービスするわ!!」
「アキ、落ち着いて。トモちゃんが怖がってる。
…トモちゃん、大丈夫?」
「ごめんね。ビックリしちゃったよね。」
「だ、大丈夫です。」
「んじゃ、気を取り直して御菓子を選ぼうか。
トモちゃん、何がいい?お金なら腐るぐらいあるから気にしないで良いよ。」
「え、いいんですか?」
「うん、選んで欲しいの。」
店内のショーケースの中には古今東西の様々な御菓子の数々があり、1つ1つがまるで芸術品のように丁寧に造り上げられています。
「アキさん、何かオススメとかってありますか?」
「オススメかぁ、例えば8番のプリンケーキとか12番のチョコケーキだね。」
「じゃあ、8番のでお願いします。」
「アキ、トモちゃんが選んだの奴を2個と棚のここからここまでを全部1つずつ。そんで、ラムネ二本。」
「ふぇ!?」
提督、どんだけ食べるつもりですか!?
「また豪快な買い方をするねぇ。」
「トモちゃんが選んだの以外は、1週間後の15:00に届けて欲しいのだけど…できるよね?」
「なるほど訳ありってことね…。」
「まぁ、そんなところね。ほら、コレで一括払いで良いわ。」
「毎度ありがとうございます、またのご来店をお待ちしています。」
「アキさん元気で良かったですね。」
「そうね、いつも通りのアキで安心したわ。」
「そうなんですか?」
「ええ。あ、友鶴ちゃんは気に入られたみたい。ほら、ラムネにメッセージがくっついてる。」
〝また来てね!〟
「また、会いたいですね。」
私たちは戦争をしているんだ。そんな事実さえ忘れてしまいそうだった。
「大丈夫、会えるよ。私たちが戦うのは国のためでもなければ義務でもなくて、そこに居る友人を助けるため、この町を守るため…そんな小さなことでいいと思うの。」
「そうですね。ただ、提督も疲れてしまっていませんか?私ができることがあったら何でも言って下さい。」
「ありがとう。」