「…腐ってないといいんですが。」
船団護衛をしたご褒美が大量の魚介類とは…どういうことなのでしょうか。まぁ、届け先で嫌がらせを受けたりしたことがある私からすれば、今回の八雲提督はかなり良心的な人なのでしょう。
「おかえりなさい、どうだった?」
「ただいまです。無事に帰還しました。」
無事と言っても今回も敵の出没しない安全な海域を護衛することになっていましたし…船団護衛と言いつつ、今回の輸送船なんて2隻しかいませんでした。
「八雲提督、元気そうだった?」
「…はい、とても元気でした…。」
「そう言えば、八雲提督と提督って友達なんですか?八雲提督も〝敷島さん、元気にしてる?〟って言ってましたよ?」
「友達…まぁ、そんなところかな。一応、先輩後輩の仲でもあるんだけどね。」
「へぇ、そうなんですか。」
八雲提督は非常に優しい方で、私たちをわざわざ桟橋まで出て来て出迎えて下さいました。その上、親切にも空き部屋とお布団を貸してくれました。
「八雲のことだから無茶はさせなかっただろうけど、明日は非番にしておいたから好きにしてて良いよ。」
「そ、それじゃあ…提督とお布団、借りても良いですか?」
「いいけど、入渠してから寝てね。あと、私はちょっと遅れるから先に寝ててね。」
「了解しました。だけど、提督も早く来て下さいね。」
提督は毎晩、夜更かしをしている。時々、早く寝たりすることもあるし、無理をしない範囲で執務をしているらしいのですが…なんだか今日は特に辛そうな顔をしてる気がします。
「わかったけど、友鶴ちゃんは早く行かないと意識がおちちゃうんじゃない?」
時計を見れば03:00。
「…そうですね、急いで入ってきます。
それでは失礼しました。」
「はぁ…。」
友鶴が出ていってからため息がもれた。原因は単純に大本営からの報告書。
〝被検体の一部の深海棲艦化〟
「ずいぶんと難しそうな顔をしているじゃないデスカ。
はい、頼まれていた紅茶デース。」
「ありがとう、金剛。」
…うまいな。
金剛とはかなり長い付き合いだ。きっと私の好みもわかっているのだろう。
「私、君からのアドバイスが欲しいな。」
「oh、師匠から求められるなんてびっくりデース。」
「天下の敷島様も無敵じゃないのよ。この身体になってから悩むことばっかりだわ。」
コトッ。
「まぁ、提督も私達と同じで一介の艦娘に過ぎない訳ですからね。たまには弱さぐらい見せてくれたっていいんですよ?」
片言喋りをやめて私の目を覗き込む金剛は何時になく真剣だった。
「将がそれじゃあダメでしょ。
これから部下の体内に爆弾を埋め込もうとしている非情で無能でどうしようもない将校に泣く権利なんてないの。」
深海棲艦化した時に速やかに無力化させるための爆弾。私にはそんなことできない。部下を殺すなんてことできない。しかし、やらねばならない。
「なら、どうするんですか〝戦艦〟敷島?」
「…戦うしかないのか。」
戦艦なら〝戦う〟。敵が例え同士だろうと自分自身であろうと、守りたい者の盾となり敵を凪ぎ払わねばならない。
「大本営に抗議書を送り付けたり、頼りになる自慢の妹の力を使ったり、どんな手を使ってでも勝ちに持っていく…それが敷島って艦娘デショ。」
…無茶を言ってくれる。
でも、
「金剛もやっぱりそう思う?とりあえずまぁ、三笠ちゃん辺りから協力を仰いでいく感じかな。」
多少の無茶もできないで何を守れるというのだ。動かぬ戦艦は戦艦ではない、ただの置物だ。
「戦艦が簡単に沈むなんてあり得ない話しデース。」
権力闘争は大嫌いなんだが。
私とて軍人の端くれ、戦いで負ける訳にはいかない。
「金剛、これから忙しくなるわ。それこそ月月火水木金金よ。」
「そんなの海軍に生まれた時点で決まっていたことデース。それこそ海の娘の艦隊勤務ネ!」
…動くには早い方がいいはず。
「金剛、提督は私用があるから明日はいないって他の艦娘に通達しておいて。」
「了解ネ!」
「ついでに代わりに姉妹で協力してもいいから書類もお願い。第六駆逐隊の四人には大会議室の掃除の指揮をさせて欲しい。」
一部では被検体となっていた者は殺し尽くすべきだという過激な意見をあげている者もいるらしいが、…そんな事させはしない。いや、させてたまるか。
「「さぁ、戦の時間だ。」」
遅れてしまって申し訳ございません。
どうか、これからもよろしくお願いいたします。