暗い廊下を走る。
何処までも何処までも走る。
速く…速くしないとアイツが来る。
暗闇の中で赤い目を光らせ、血を流しながら
怨みのこもった目で私をにらむアイツが。
息が切れて視界が霞む。
喉が音をたてて、血の臭いがする。
足がもつれて転び、また走る。
止まることは出来ない。
アイツは止まらない。
ズタズタに引き裂かれた皮膚から滴り落ちる赤い液体さえも無視して私を追う。
窓がある。
躊躇うことなく飛び込んだ。
ガシャーンッ!!!
地面に転がり落ちて顔を上げる。
月明かりに照らされる顔。
ア イ ツ は 目 の 前 に い た。
「大丈夫っ友鶴!?」
し、時雨ちゃん?
「……。」
「すごく魘されてたけど…大丈夫?」
「大丈夫、だと思う。
心配してくれてありがとう。
寝汗かいちゃったからお風呂に入って来るね。」
「僕も行くよ。」
え?
「こんな時間から?」
夜中である。
「君だって行くんだろう?
それに僕だって心配になるよ。
君の場合、お風呂で溺死しかねないじゃないか。」
「…そう?
流石に風呂で溺死はないでしょ。」
深いところにいくと確かに足はつかないが…。
「ほら、行こう?速く行って出て早く寝ようよ。」
手を引く時雨。
「う、うん。」
なんか立場がおかしくなった気がする。
結果的に時雨ちゃんの部屋に寄って時雨ちゃんの着替えを取ってからお風呂に行くということになった。
廊下を歩き1つのドアの前で止まる。
部屋のプレートには<白露型>の文字があった。
時雨ちゃんが着替えを取りに入ろうとする。
「ちょっと待っててね。」
「ごめんなさい、独りは無理です…。」
「じゃあ、静かについてきてね?」
「わかりましたっ。」
ポイ~。
ポイ~ポイ~。
「…。時雨ちゃん…!」
「あれは、夕立のいびき。」
いびき!?
いびきでもあの娘ぽいぽい言うの?
服を脱いで素早くタオルを巻く。
「二人っきりなんだからタオルなんか巻かなくても良いんじゃない?」
「いままでずっとこうやってたから癖になっちゃた。」
シャワーの音が響く。
隣の時雨の後ろに回って言う。
「時雨ちゃんの頭、洗ってあげるよ。」
「ありがとう。」
シャンプーを泡立ててやさしく洗う。
地肌を傷つけないように髪を傷めないように丁寧に。
「髪、きれいなんだね。」
「そう?気にしたことないけど。」
「痒いとこある?」
「ないよ。上手なんだね。」
「そうかな?
っとそろそろ流すね。」
シャワーで泡を落とす。
「はい、終わったよ。」
「ありがとう。」
自分の椅子に戻ろうとすると
「待って。僕も洗ってあげるよ。」
「え?ありがとう。」
時雨ちゃんの柔らかくてきれいな手が
とても気持ちよかった。
ふたりで背中を洗いあい、その後に湯船につかる。
「温かい。」
「そうだね。」
「時雨ちゃん、私が敵の新型艦にまけたら…怒る?」
「いいや。怒らないけど?」
「よかった…。」
「でも、君も留守番部隊でしょ?」
「アイツはたぶん来る。アイツならそんな気がする。」
「何で?」
「わからない。」