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序章序章
一歩、足を前に出しただけだった。たったそれだけの動作で、彼女を取り巻く世界は急激に姿を変えてしまった。
世界でも有数な四季があり、様々な風景が楽しめる国は、岩と砂に囲まれた常夏の国へ。
シャープペンシルを持っていた割と白く華奢な手には、太陽の光を反射する無骨な刃を持つ。
そして柔らかな女性として生まれたはずの体は、頑丈な男性の体となっていた。
髪と眼の色も変わり、名前さえも失ってしまった彼女は、それでも彼として生きていた。
「世界が違おうが性別が違おうが、私は私に変わりがないだろ?」
『彼』となった彼女は、自身に起きた出来事を些細なことだと笑う。
このとき『彼』は強がっていたのは確実だ。
彼女はそれなりに幸せな人生を送ってきたと自負をしており、家族や友人に会えないという事実は確実に彼女の心を抉ったはずだ。
だが、それでも彼女は快活に笑い飛ばしてみせた。どこまでも広がる青い空を背景にして、澄んだ水のような薄い青の瞳を、楽しそうに細めながら。
彼女だった『彼』は今日もこの世界で生きている。