アラレ、ハゲマントと戦う   作:GGアライグマ

9 / 9
そして伝説へ、の巻き

「ぴぽー?」

 

 ボロスのもとへ飛んでいき、ちょんちょんとつつくガッちゃん。返事はない。全く動かない。次いで、脈、息、瞳孔を確認する。

 

「ぴぽぴー」

 

 こりゃあダメだ。ガッちゃんはお手上げのポーズを作った。

 ボロスへの興味は失ったらしく、ぽけーっとした顔で浮く。周囲を伺う。

 この間、タツマキは全力で雲に突っ込み、隠れる。

 

「ぴぽー」

 

 しかしガッちゃんは、つまらなさそうな顔でタツマキの方へ飛んでいく。

 

 なっ! どうして!? 見えてるの!? 

 

 タツマキは心の中で叫んだ。再び汗がダラダラ流れた。

 ところがガッちゃんは、タツマキを素通りした。そのまま直進し続け、やがて見えなくなった。

 タツマキは10分ほど雲の中で待った。ガッちゃんは帰ってこなかった。

 

 アラレが消し飛び、ボロスが死に体で、ガッちゃんは退屈そうに宇宙へ消えた。どうだろうか。危機は去ったのではなかろうか。

 

「とっ、止め! あとはあいつに止めを刺せば!」

 

 タツマキは酷く興奮し、ボロス目掛けて飛ぶ。

 動けない今なら、私でも。

 様々な恐怖を振り切り、ボロスに念力をかけにかかる。彼女の得意技である捻りの念力を、ボロスの首へ。

 

「しっ、しししっ、死になさんひいいいっ! ぎゃあああああ!」

 

 が、殺そうと思った矢先、突然ボロスの頭が動いた。しかも目からブシュッと血が飛び出て、エグかった。

 タツマキは半狂乱で上空に逃げていった。

 

「どうだオラァ!」

 

 さて、ボロスが動いた理由は、金属バットによる攻撃だった。タツマキの攻撃を受けて気絶していたのが、先の協会へのボロスの衝突で目覚めていた。

 金属バットは血の中に倒れるキングを見て、彼がこの状況を引き起こしたのだと考えた。キングは持てる力を全て使い、気絶しながらも宇宙人のボスを追い詰めた。見事である。しかし、宇宙人はまだ生きているかもしれない。ならば自分が止めを刺す。

 金属バットはそう考えて、ヒーロー協会の階段を登っていった。屋上から出て、ボロスの首の隙間を通ってビルの縁にたどり着いた。そして己のバットを縦に構え、飛び出す。狙いはボロスの目のど真ん中だ。

 

「うおおおおお! 死にさらせえええ!」

 

 渾身の一撃が、ボロスの目を叩いた。目は表面が抉れ、血が飛び出した。頭はビルを支点として振り子のように揺れた。

 

「んぎゃああああ! きゃあああああ!」

 

 なんてことはつゆ知らず、タツマキは逃げていったのである。

 さて、振り子である。浮いたボロスの頭は、再び重力に従って落下する。そして勢いをつけてヒーロー協会ビルにぶつかった。

 

「どうだ? やったか?」

 

 言いながら、金属バットはボロスの生命のエネルギーのようなものを感じ取った。つまり、死んでいない。しかも、自分が抉ったはずの瞳の部分が、あっという間に修復されていく。

 

「上等だ。だったら死ぬまでぶっ叩いてやるぜ」

 

 金属バットはギシギシとバットを握りしめ、再び屋上を目指す。しかし、そこで彼の行く手を遮るものが現れた。

 

「ちょっと待て! これはどういうことだ!」

 

 協会の入り口に立ち塞がる、水色の髪のイケメン。A級一位のヒーローアマイマスクだった。

 

「どうって、見りゃ分かんだろ。そこにいるデッカイ宇宙人とその宇宙船にやられちまったのさ。だがもう虫の息だ。後は止めを」

「何が虫の息だ! こんなありさまで勝ったと言えるのか!? A市は壊滅! 周辺地域にも地震、突風、騒音による被害が出ている! S級ヒーローである君達がいながらなんてザマだ!」

「うっせえな! 俺達はやれることをやった! 協会で会議中に突然轟音が鳴って、外に出たときには既にA市はこの状態だったんだよ!」

「だからどうした! 許してくれとでも言うつもりか!?」

「あん!? どっちの味方だてめえ!」

 

 金属バットは眉間を釣り上げ、ズカズカとアマイマスクに近づいていく。

 

「僕は民衆の味方だ。今回のことは協会が許してもマスコミが許さないだろう」

「んだとぉ! おめえも遅れてきたんじゃねえか! 周りにチヤホヤされたいだけの坊っちゃんがあ!」

「僕が何故A級一位に止まっているか分かるかい? 君みたいな雑魚をS級に上げないためだよ」

「んだとオラァ! 上等だァ! てめェからぶっ殺してやらァ!」

 

 一触即発。しかしそこで、新たな人間が現れる。

 

「な、何をやってるんだ君たちは! 地球の危機なのだぞ! 仲間割れなどと!」

 

 ヒーロー協会幹部のシッチだった。

 金属バットとアマイマスクはシッチへと視線を移し、そして驚愕することになる。

 シッチの後ろに、大勢のならず者たちがいたのだ。中にはアマイマスクや金属バットでも知っている有名な悪人もいた。

 その悪人の一人に、シッチは首根っこを捕まれてしまう。

 

「ぐっ、なにをっ」

「おいおいおっさん。S級ヒーローとA級一位が潰し会うなんてすばらしいショーが始まるところだったんだぜえ。邪魔すんじゃねえよ」

「そうだそうだ! やれやれえ!」

「バ、バカを言うな! 地球が終わったらお前達も死ぬんだぞ! ヒーローだ犯罪者だと言っている場合ではない!」

「なあに寝言言ってやがる! 地球が滅ぶわけねえだろォ! 現にデカいやつがいるにはいるが、死にかけじゃねえか!」

「そうだそうだ! 逆に俺達にとっちゃチャンスだぜ! S級はほとんど倒れてんじゃねえか!?」

「ぎゃはははは! そうだ! このままヒーロー協会を占拠しちまおう!」

「それがいい!」

「ぎゃはははは!」

 

 ならず者達は汚い声で笑う。シッチのボディーガードについていたA級ヒーロー達が、もう我慢ならんと犯罪者に手をかけようとする。

 しかしその前に、彼の付近にいた犯罪者の首が一斉に飛んだ。

 

「なっ、なにがっ」

 

 A級ヒーロー達にはただ影が張っていくようにしか見えなかった。しかし不意に気づいた。金属バットと相対していたはずのアマイマスクが、いつの間にかシッチの隣にいた。

 

「シッチさん。今の話は本当ですか?」

 

 アマイマスクは血濡れた手をシッチに見せながら言う。シッチは恐怖にビクンと跳ねたが、気丈に叫んだ。

 

「そうだ! ヒーローだなんだと言っていられる状況ではなかった! 君は知らないかもしれないが、あの大きなクレーターを作ったそこの大男は災害レベル神! だがな、同様に災害レベル神の危険な怪人が、あと二人もいたんだ! キング君、タツマキ君、金属バット君以外のS級ヒーローは、そのうちたった一人の女巨人に一瞬でやられたんだぞ! しかもまるで本気ではなかったと聞いている!」

「他に二体? ではそいつらはどこに?」

「情報が錯綜しているが、仲間割れを起こしたと聞いている。S級ヒーローを倒した女巨人はそこのボスに殺され、残っていた赤ちゃん巨人は、どこかへ飛んだらしい」

「らしい? なんていい加減な表現だ! 命を守るという仕事の重みが分かっていないのか! どうやら先に浄化されるべきは協会だったのかもしれないな」

 

 アマイマスクはシッチを一睨みし、再び犯罪者集団に視線を向ける。そのプレッシャーに、狂暴さで知られたはずのならず者達が誰も動けない。否、動く影が2つあった。

 

「何にせよ地球の危機が終わったのなら用は1つだけだ。サイタマに会わせろ」

 

 サラサラの黒髪と女のような細身が特徴的な忍者、音速のソニックが言う。ちなみに彼は捕まっていたわけではなく、騒動を聞いてちょうど今この場に着いた。

 

「おいおいおい! 災害はまだ終わってねえぜえ!」

 

 もう一人は、V字の金髪が特徴的な男、ガロウ。こちらは特赦を与えられた犯罪者の一人だ。

 

「仲間割れで死ぬなんて情けねえやつは本物の怪人じゃねえ! だが、俺こそは災害レベル神の怪人だ!」

 

 ガロウの演説の最中、アマイマスクが飛び出す。

 

「死ね」

 

 ガロウの後ろを取り、手刀を一突き。終わった。

 否! ガロウはギリギリ動脈を切られる前に反応した。しかも躱しながらアマイマスクの腕を攻撃した。

 流れるような動き、あらゆる無駄を削ったその型の名は、流水岩砕拳。S級3位ヒーローのバングが使うものと同じだ。それもそのはず、ガロウはつい最近まで彼の一番弟子だったのだから。

 

「な、なんだあの兄ちゃん! やるじゃねえか!」

「よし! 俺達は今のうちに本部、んぶふうううっ」

「行かせるかよ。てめえらの相手なんざ俺一人で十分だ」

 

 アマイマスクとガロウが戦う間、他の犯罪者がヒーロー協会へ駆ける。しかし彼等は金属バットによって防がれた。

 乱戦が始まった。もっとも、金属バット対犯罪者は圧倒的に金属バットが有利。ガロウ対アマイマスクもアマイマスクが有利だ。ガロウは他の犯罪者を盾にして、なんとかしのいでいる状態だった。

 

「クソッ、化け物め」

「正義の前に死ね」

「きいいいいいん!」

「ぴぽー!」

 

 しかし、不意に何かが群衆へ突っ込んできた。それと直にぶつかった犯罪者はすさまじい勢いで吹き飛び、そうでない者も突風に煽られる。

 

「うっほほーっい! うっほほーっい! あたしもプロレスごっこ混ぜてちょー!」

 

 アラレとガッちゃんだった。二人とも元のサイズに戻っていたが。

 アラレとガッちゃんの参戦で戦場は一気に加速する。アラレのとんでもパワーで次々と犯罪者が吹き飛ばされていく。いや、金属バットも標的となり、なす術なく飛ばされてしまった。

 

「ああああああ! あいつは! めがねっ娘はああああ!」

 

 また、シッチがアラレの顔を見て、気づいてしまった。殺されたはずの巨大な娘にそっくりだ。

 

「アマイマスクさん! あの娘! それと赤子! はやくどうにかしないと! 巨大化する前に!」

「巨大化? まあいい。悪は殺すだけだ」

 

 アマイマスクは逃げるガロウの相手を一端やめ、アラレに狙いをつける。首を手刀で一線する。

 

「ほよーーー」

 

 アラレはプロレスだと思っているので、攻撃を受けた。例によって首が舞う。ガッちゃんがその首を回収し、元に戻そうとする。そのガッちゃんへ、アマイマスクの手が伸びる。

 

「何をやっている?」

 

 が、ガッちゃんはなんでもないように飛んで躱した。

 そのままアラレに顔を渡す。

 

「何? ぐはっ」

 

 さらに、アマイマスクはいきなり背中に打撃を受け、勢いよく突き飛ばされた。

 

「無邪気なガキや赤子を殺す! それがおめえらの正義かオラアアアアア!」

 

 怒り狂ったガロウだった。ガロウはそのままアマイマスクのもとへ突っ込んでいき、さらなる打撃を浴びせる。アマイマスクに方も応戦する。

 

「ぐっ。悪などに負けるものか! 死に損ないが!」

「上から目線の正義はここで終わる! 俺が終わらせんだよオラア!」

 

 激しい打ち合いが始まった。

 

「ほよよー」

「ぴぽー」

「すごーい! どっちも頑張れー!」

「ぴーぴぽぴー!」

 

 ふつうに無傷なアラレとガッちゃんは、ガロウとアマイマスクの応援を始める。

 犯罪者達も、逃げるのを忘れて見入ってしまうくらい、高いレベルで拮抗した見事な戦いだった。

 

「はあ、はあ、はあ。うおらああああ!」

「はあ、はあ。ぐっ。まだまだあ!」

 

 全身アザだらけ、血だらけになりながら、両者とも譲らない。もう終わりと思っても立ち上がる。

 

「が、頑張れ兄ちゃん!」

「アマイマスクさん! 正直見くびっていました! 頑張ってください!」

「ふれーふれー! ヒーロー! ふれーふれー! 怪獣!」

「ぴぽぽー!」

「が、頑張れー!」

「頑張れ二人ともー!」

「おめえらやるじゃねえがや! どっちが勝っても立派だがや!」

「ぐっ。ぐぬぬっ。しかしこのスッパマンには劣る!」

 

 二人の戦いに魅せられたヒーロー、犯罪者の両方が応援を始めてしまう。アラレの応援も熱を帯びる。いつの間にかピースケやニコチャン大王も加わった。

 

 倒れ、立ち上がり、拳を振るう。倒れ、立ち上がり、蹴り飛ばす。倒れ、立ち上がり……。

 

 ひょっとしたら、戦いは10分もなかったかもしれない。しかし観衆は一瞬が万秒に感じるほど二人の戦いに酔いしれた。

 ところが、この戦いは意外な乱入者によって終わりを告げる。

 

 ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ。

 

 どこからか鳴り響く妙な音。しかしこの独特な音はあまりにも有名だった。

 犯罪者の一人が気づいた。ヒーロー協会の手前、血だまりに伏せていた男が、のっそりと起き上がるのを。

 彼等は知っていた。この男が地上最強と呼ばれていることを。考えたくなかったが、頭にはあった。災害レベル神、S級ヒーローを一瞬で全滅に追いやった巨人を倒したのは、彼という一個以外にありえないと。

 血だまりが戦いの激しさを物語っていた。キングでさえ、立ち上がれなくなるほどの強敵。しかし勝者はキングだった。彼は今、巨人より先に目覚めたのだから。

 

 ヒーロー協会を襲うことができる唯一のチャンスは、今終わったということ。

 

 一瞬時が止まったように、誰もが動けなくなった。ガロウもアマイマスクからキングへと視線を左右にさせる。味方であるはずのアマイマスクさえ空気に飲まれて動けなくなった。

 

「ほよよ。何か聞こえない? ガッちゃん」

「ぴぴぽぴぴー」

 

 アラレには関係なかったが。 

 

「キ、キング。君というものがありながら、この被害は……」

 

 アマイマスクは自身に沸いた不安を否定したくて、キングに上から目線で話しかけた。しかし内心はしまったと思っていた。

 対するキングは、血に染まった己の両手をじっと見つめた。目が飛び出すかと思うくらいパッチリまぶたをあげていた。そして、吠える。

 

「ンギャアアアアアアアアアアア!」

 

 血に飢えた恐竜もかくやという雄叫びだった。

 

「うっ、うひゃあああああ!」

「ぎゃああああ!」

「いやああああ! おかあさあああああん!」

「ママーーー!」

「き、鬼神モードだああああ! 皆殺しだあああ!」

 

 その迫力に押され、犯罪者達も思わず叫んでしまう。中にはキングの鬼神モードの噂を知っている隠れファンもいた(もちろん勘違いから始まった噂)。ある者はそのまま気絶し、ある者は背中を向けて全力で去っていく。

 

「チッ、やべえのが起きやがったか」

「サイタマ! 見つけたところだが、場所が悪い! 今日のところは退いてやろう! 覚えておけ!」

 

 ガロウ、音速のソニックも逃げていった。アマイマスクは彼等を追わず、キングの暴走を止めることに注意を向けていた。

 しかしそのキングは、フラッと倒れ落ちる。そして動かなくなった。

 

「既に力を使い果たしていたということか? その状態で、怒声だけでやつらを追い払ったと? なんという」

 

 アマイマスクはキングの仕出かしたことに驚愕する。そして、不覚にも恐怖を感じてしまった。

 

「ほよよ。どうするガッちゃん。皆いなくなっちったね」

「ぴぽー」

 

 しかし、まだアラレとガッちゃんが残っていた。アマイマスクはハッとして彼女らに突っ込んでいく。しかし、不意にその体が止められてしまった。

 

「ぐっ、うっ。なんだ? 急に体が?」

 

 周りには何もない。しかし金縛りにでもあったように体が動かない。

 

「あ、赤さまああああ! お嬢様あああああああ! おっ、お怪我はありませんかあああああああ!」

 

 そこへ、タツマキが叫びながら突っ込んできた。しかも全力で連続土下座をしながらである。額が割れ、血が流れても止めない。

 

「きゃははははは! おもろいおもろいおもろいー!」

「ぴぴぽー!」

 

 アラレはタツマキを指差して大笑いした。ガッちゃんもうれしそうだ。

 

「あ、ありがたき幸せえええーー! ありがたき幸せええーーー!」

 

 タツマキはさらに勢いよく土下座した。

 

「タツマキ、ぐっ。どういうことだ? こ、これは、君がやったのか? まさか裏切……っ!?」

 

 アマイマスクはなんとか口を動かし、タツマキに尋ねる。しかし言い終わる前に念力で飛ばされてしまう。

 

「汚い口を閉じろ! 愚か者が! 赤さまお嬢様をどなたと心得る!」

「なっ、なにがっ」

 

 A市のクレーターの方へ勢いよく吹き飛んでいくアマイマスク。しかし、不意に超スピードで何かが彼の隣に行き、彼の体を止めた。

 

「そうだ。その二人は怪人でも敵でもない一般人だぞ」

「何!?」

 

 サイタマだった。服は燃えつき、完全に全裸だった。

 アラレは大喜びでサイタマを指差す。

 

「ちんこちんこー! ハゲのちんこー!」

「ぴぽー!」

「んだとオラァ!」

「き、貴様あああああああ! 頑丈なだけのハゲがお嬢様に失礼な口をおおおお!」

 

 笑うアラレ。怒るサイタマ。サイタマに怒るタツマキ。ぐちゃぐちゃな状況になってしまった。

 不意に、サイタマは超スピードでアラレに近づいた。

 

「おいたが過ぎるぞ。めっ!」

 

 そう言ってアラレの頭を張り手で叩いた。さすがに悪戯の度を越え過ぎているので、叱ってやった方がいいと思ったのだ。しかし、女の子に対する手加減した攻撃だった。アラレにとっては屁でもない。

 

「ほよ?」

 

 アラレは頭を叩くゲームかと思い、軽くジャンプする。そしてサイタマの額を勢いよくシバいた。

 

「ほい」

「ぐおおおっ」

 

 空気が割れるような打撃音が響き、サイタマは地中の奥深くまでめり込んでいった。

 

「お、お嬢様! お怪我は!」

「ほよ? ないよ。それよりもおもろかったー! あんたもやる?」

「い、いえいえいえいえいえ! 非常にうれしい申し出ですが、私はそのようなことは向かず!」

「ほよ?」

 

 タツマキはまた激しく土下座を始めた。アラレはガッちゃんと目を合わせた。

 と、そこへまた別の乱入者が現れる。

 

「うーん。どうやらシャイタマしゃんはお姉しゃん相手だと強く攻撃できないみたいでしゅね」

「くうーっ! ギャフンと言わせられると思ったのにぃ!」

「散々な目にあった。高級和牛じゃ足んねえぜ」

「ターボ君! 博士! アカネちん!」

 

 やってきたのはターボとせんべえとアカネだった。博士は物語世界を移動するための機械も持っていた。その後ろでは、ピースケ達も走って向かって来ていた。

 

「さあ帰るぞ、アラレ」

「ほよよ」

 

 せんべえがアラレの腕を引く。しかしアカネが待ったをかける。

 

「なあせんべえさん。旨いもん食ってから帰ろうぜ」

「うん? そりゃ魅力的だが、この世界の金がないだろう」

「なあに言ってんだ。この街を見ろよ。盗んでいったって誰も文句言わねえぜ。部分的に動いてるスーパーとかがまだあるんだ」

「ぶぶっ、ぶあっかもおーん!」

 

 せんべえは、唾を撒き散らしながらアカネの耳元で怒鳴った。さらに拳骨のおまけ付きだ。

 

「いてっ! いいじゃねえかよお!」

「なあにを泥棒などしようとしておるか! この不良娘が! しかも被災地で! 罰当たりな!」

 

 結局、彼等はすぐさま帰ることになった。

 

「申し訳ありません。うちの妹たちが迷惑をかけました」

 

 せんべえは申し訳なさそうにいそいそとタツマキとアマイマスクに頭を下げる。ターボくんも父に倣った。

 

「なあ、S級ヒーローって金もってんだろ? 俺にちょっとくれよ」

「あっ、僕も全員分のサインが欲しいなあなんて」

「こらっ! 何をやっとるかお前たちは!」

 

 アカネとピースケはもう少し粘ろうとしたが、せんべえに怒鳴られて諦めた。

 

「ではな諸君。こちらの平和は諸君に任そう」

「娘よ。わしはあいつの宇宙船が欲しかったがよ。よく考えたらこの世界の船もらってもわしの故郷には帰れんがや。だからよ。あいつの目えが覚めたら、大王がやっぱいらんと言っといた、と伝えといてくれや」

「大王様、ですから私は初めから」

 

 ニコチャンとスッパマンも言いたいことを伝える。タツマキはポカンとして聞いていない。

 そして最後の締めは、やっぱりこの娘。このセリフ。

 

「ばーいちゃ!」

「ぴぽー!」

 

 そしてアラレ達は去っていった。

 

 しかし、二人がまだ生きていて、仲間もたくさんいるという事実は、後々までこの世界のタツマキを苦しめることになる。

 生き残っていたボロスは、サイタマが止めを差した。ボロス自身で、殺されるならお前に、と指名したのだった。口は動かなかったので、眼差しでだが。

 

 なお、ボロスとキングの戦いは、伝説として語り継がれることとなった。サイタマの行った戦闘は、全てキングの念力とボロスが戦っていたということになった。ボロスに瀕死の重症を負わせた技は、キング流合気道術、真空地獄投げ。全身の生命エネルギーを敵にぶつけ、1000mも離れた相手を投げつつ内側から破壊していく。キングで無ければ使った瞬間に自身の全身が粉々になるほどの負荷がかかり、キングであっても気絶するほどの禁術、という設定となった。




アラレ「ねえねえねえねえ! おもしろかった!? 次はねえ。たぶん卑劣な忍者かロリコンテロリストの世界に行くよ。次作も絶対に見てちょ。ばーいちゃ」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。