アラレ、ハゲマントと戦う   作:GGアライグマ

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ガッちゃん教えるの巻き

 ガッちゃんがボロスに言う。

 

「ぴー! ぷぴぴー! ぷぺぴぽっぴ! ぷぺぽっぴぴぺぽっぴぴっぴっぺぴぴい! ぴぺぴぴい!」

 

 早口でまくし立てる。怒っているように見える。親友になんてことをしてくれたのだ、と。

 しかし実際は違った。『これはバレーボールごっこであり、今はハゲマントがボールの番だった。バレーはレシーブ、トス、アタックの段階を踏まなければならず、ボロスがアラレを打ち出すには先にレシーブとトスを行う必要があった。また、アタックはビームではなく、手のひらで上から叩くものである。このようなフォームで』と言いたかったのだ。

 

「ぴぽぽー! ぽー!」

 

 こう、こう、とガッちゃんはアタックの真似をしてみせる。

 ところがボロスには、それが脅しに見えた。よくもやってくれたな。殴るぞ、ぶっ飛ばすぞ、と。

 

「そ、そうよ! 私もあなたに賛成するわ! 思うようにやったらいいんじゃないかしら!」

 

 タツマキもボロスと同じ意味で受け取った。しかし彼女にとっては好都合だった。ビクビクと恐れてガッちゃんの後ろに隠れながらだが、ボロスと戦うよう声をかける。

 ボロスはふうと息を吐く。

 

「俺も腹は立っているのだ。俺とサイタマの戦いに横やりを入れたのはお前たちだぞ。命までは獲ることもないと言いたいのかもしれないが、そういう次元ではなかった。生死を懸けた戦いだったのだ」

「ぴぽ?」

 

 ガッちゃんは頭を傾げる。何言ってんだこいつ、と。しかしボロスのことを憐れに思ったので、口が止まる。静かになる。

 ボロスやタツマキには、ガッちゃんが納得して落ち着いたように見えた。

 

「なっ、だ、騙されちゃいけないわ! 彼はあなたを裏切った! 戦ってもいいのよ!」

「ぴぽ?」

 

 今度は焦るタツマキ。二人が和解したら地球は終わる。間違いないと思っている。

 ガッちゃんはやっと彼女の存在に気づいた。

 

「ぴぽ?」

 

 後ろに振り返り、じっとタツマキを見る。タツマキの心臓がドクンと跳ね上がる。

 

「えっ、私!? わ、私はあなたの味方よ! 本当よ!」

「ぴぽぴー?(バレーボールやるの?)」

「本当に本当に仲間よ! 協力してもいいわ!」

「ぴぽー? ぴーぷぷー?(できるかなあ? ルールわかるかなあ?)」

 

 ガッちゃんは首を傾げ、再びボロス側へ反転する。

 ガッちゃんは疑わしそうにボロスの側へ飛んでいく。

 

「おおっ! やっ! やっちゃって!」

 

 感激するタツマキ。

 

「何を……?」

 

 ボロスは今まともに動けない。ガッちゃんの行動の意味を考える。

 ガッちゃんがタツマキの言葉に心を動かされたとは思えないが、依然として敵討ちの可能性は高い。そしてその時、今の自分では死を受け入れるしかない。無様に命乞いする気には、なれない。運命を受け入れる。最後に邪魔が入ったのは残念だったが、心踊るすばらしい戦いができた。予言の通り対等、かどうかはいまいち疑問が残るが。強敵に挑む戦いに喜びを感じることができたのは事実である。

 この余韻が残っているうちに、あちらに逝くのも悪くなかろう。そんなことを思った。

 

 しかし、ガッちゃんはボロスの横を通りすぎた。

 

「えっ! ちょ、ちょっと!」

 

 かと思ったら反転し、ボロスの後ろに回った。

 

「は、はえっ! そうよ! やっ、やっちゃひなはい!」

 

 いちいちガッちゃんに振り回されるタツマキ。だが今舌を噛んだのは、ボロスの巨大な目と目が合ってしまったからだ。

 

 ガッちゃんはボロスのお尻の辺りをつかんで持ち上げる。

 

「ぴー! ぷぺぷぴー! ぴー、ぺー、ぱー! ぴ?」

「そ、そうよ! やっちゃいなさい!」

「ぷぽー?」

 

 ガッちゃんはタツマキに最終確認を取った。レシーブ、トス、アタックだよと。

 タツマキにはそれが、処刑宣言に聞こえた。友の敵だ、死ね、と。

 

「ぴー、ぷぺぽー(いくよー、そーれ)」

 

 ガッちゃんはボロスを軽く浮かせ、レシーブのポーズでタツマキ目掛けて打ち出す。

 

「ひっ、ひえええーーーっ! 私はダメええええ!」

 

 タツマキはビックリ仰天。ボロス自体怖いのに、ちょうど巨大な1つ目が迫ってきた。念力で慌てて後方へ逃げる。ボロスは足から地面に落ちるが、勢いを殺しきれず前のめりに倒れた。本当に体力がもう残っていない。

 

「はあ、はあ、はあ」

 

 な、なぜこんなことになったのかしら。

 タツマキは、だらだら汗を流しながらガッちゃんを見る。ガッちゃんはぽけーっとタツマキを見つめている。

 

「はっ」

 

 タツマキは思い出した。自分はあなたの仲間だと言ったことを。

 仲間を名乗るなら、お前が殺してみろ。

 ガッちゃんはそう言いたかったのではないだろうか。

 

「ぴー、ぷぺー! ぷぺーぴぽー! ぴー!(どうしてトスしなかったの! やっぱりルール分かってないじゃないか!)」

 

 ガッちゃんは早口でまくし立てる。

 

「やはり、そういうことだったのね……」

 

 タツマキには、ガッちゃんが「どうして殺さなかったんだ! やはりお前は敵なのか!」と糾弾しているように思えた。再び緊張感が増し、ダラダラと冷や汗が流れる。

 

「こ、これは違うのです! 私にはあの悪党を殺すほどの力がなく! 処刑は不可能だったのです! どうか! どうか! お許しください!」

 

 タツマキは念力でガッちゃんの目の前まで行き、空中で土下座のポーズをする。難度も必死に命乞いをする。

 ガッちゃんにすれば、何言ってんだこいつ、である。

 

「ぴぽ? ぴぺぽー!(ん? そうか分かったぞ!)」

 

 ガッちゃんは閃いた。彼女はトスではなく、レシーブとアタックがしたかったのだと。

 

「ぴぽぷー。ぷぴぷぺー(もう、言ってくれればよかったのに)」

 

 ガッちゃんは笑顔でタツマキには手を振った。

 

「ははーっ! ありがたき幸せにございます!」

 

 やった! 許された!

 タツマキは再び空中土下座をする。

 

「ぴぽ?」

 

 あれ? なんか違った? ガッちゃんは思った。

 

 不意に、別の男の声が響く。

 

「こっら宇宙人どもおおお! そこまでだ! ここからは地球の最終人間兵器、キングが相手だぞォ!」

 

 スピーカーによる大音量の声だった。発信元はヒーロー協会である。

 

「ぷぽっ?」

「キ、キング!」

 

 そしてヒーロー協会をちょっと出たところで、一人の男が腕を組んで仁王立ちしていた。

 強面のS級7位、地上最強と名高いキングである。

 

 ドッドッドッド。

 

 キングエンジン、キングが戦闘モードに入ったら鳴ると言われる、が遥か遠くのタツマキにまで聞こえる。

 いつになく怒っているということ。これは頼もしい。少し怖くもあるけれど。タツマキは思った。

 

 さて、当のキングである。彼は仁王立ちしたまま動かない。動けない。

 それも当然、実は彼はただの一般人だからである。幸か不幸か、サイタマの近くで怪人に遭遇する確率が非常に高く、サイタマが怪人を倒してすぐに現場を去ってしまうため、いつも彼が倒したと勘違いされてしまうという特性を持つが。

 

 こええーっ。超こええーっ。なんだあの化け物共。特に1つ目。今時のRPGのラスボスでもあんな雰囲気出せないぞ。俺なんかにどうにかできるはずないだろう。つーか人間じゃ無理! スーパーロボット持ってこいや!

 

「あ、あの人がいいわ! 私じゃなくてあの人ならあの巨体でも問題ない!」

「ぷぽっ?」

 

 う、うわーっ! でっかい赤ちゃんがこっち見てる。めっちゃ見てる。タツマキちゃん何言っちゃってんのーっ(遠すぎてタツマキの声は聞こえていない)!

 つ、使うか? あれを。しかし通じるか? 宇宙人の赤ん坊に?

 キングはスッと腕を解く。土下座の体制に入るつもりだった。相手の反応を伺い、ビクビクと怯えながら。

 

 しかし、キングの土下座の中間の動作、足を軽く開き、膝を曲げ、手を前に出す、が誤解を呼んだ。

 タツマキにとっては、キングが戦闘前の前傾姿勢に入ったように。ガッちゃんにとっては、バレーのトスを待ち構えるように。

 

「キング! やっちゃいなさい!」

「ぷぺぽー!」

 

 ガッちゃんは喜び、再びボロスの元へ飛ぶ。寝返りをうとうとしていたボロスは首の後ろを掴まれ、軽く上空に投げ飛ばされる。

 

「ぷぽー!」

「うっ」

 

 な、何に喜んだ? 何がやりたいんだ!?

 不安いっぱいにガッちゃんを見つめるキング。落ちていくボロス。ガッちゃんは満面の笑みを浮かべ、先程より高めにレシーブをした。

 

「ぐうっ」

 

 ボロスのうめき声が響く。巨大な赤ん坊は、自身より遥かに巨大な怪物を、いとも簡単に雲の高さへ打ち上げた。

 

「あっ、ああっ」

 

 黒い巨体が放物線を描く。山が飛んでいるようだ。あまりに非現実的な光景に、キングは目を奪われてしまう。しかし、上昇が止まり、落下が始まって気づいた。

 

「あっ、あっ! アアーーーッ! ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーッ!」

 

 ボロスは、真っ直ぐ自分へ向かって落ちてきている。200mを超える巨体である。当たったら確実に死ぬ。また、それだけ巨大なので今から逃げても間に合わない。つまり確実に死ぬということ。

 

「アアーーーッ! うわああああああ!」

 

 キングの絶叫むなしく、ボロスは地上へ衝突した。

 爆音が辺りを包む。大地は震え、時には割れ、砂ぼこりが舞う。

 

「うっ。ごほっ、ごほっ」

 

 終わった。何もかも終わった。俺は死んだんだ。

 ……あれ? 何で思考ができる? もしかして生きてる?

 

「ごほっ、かほっ」

 

 キングは砂ぼこりにむせながら、自身の体をあちこち触る。股が濡れている。チビってしまったようだ。ほっぺをつねる。痛い。

 やっぱり生きてる。どうして? あっ、もしかして今までのこと全部夢だったんじゃ!

 

「ごふっ」

 

 後ろから咳のような音が聞こえた。数秒後、バチャリ、と何かの液体が後頭部から背中にかけて振りかかった。バケツの水を被せられたような。

 

「今度はなんっ、だぎいいっ」

 

 キングは液体の正体を見て、目をあんぐりと開けた。

 黒っぽい赤だった。しかも生暖かい。血、にしか見えない。しかも完全に致死量の。

 

「いっ、うぎいいくうううっ」

 

 しかも、キングの周囲いっぱいにその血のようなものが貯まっていた。まるで水溜まりか小さな池のように。

 ばしゃん。キングは恐怖で尻餅をつく。

 

「う、うわあああ!」

 

 真っ赤になった自分の手。自分の服。殺人現場を思い出し、叫んでしまう。

 

 誰か、誰か助け……っ。

 

 周囲を見る。記憶にあるように、A市は瓦礫の山となっている。空は、ん? 黒? 暗いな。夜か?

 いや、おかしいぞ。夜だったら血がこんなにはっきり見えるはずがない。ほら、よく見たら、上と前は黒なのに、左右の空は青いじゃないか。後ろも光ってるような……。

 キングは振り替える。そして見てしまった。

 

「あっ。あああっ」

 

 ヒーロー協会の後ろに、ビルからはみ出るほどの巨大な1つ目があった。目には涙ではなく、血が滲んでいる。それが、じっと自分を見つめている。

 

「あばばばばばばあああ! んばああああああ!」

 

 あまりにもショッキングな光景。キングは泡を吹いて気絶してしまった。

 

 さて、ボロスに何があったか解説する。ガッちゃんに打ち上げられたボロスは、うつ伏せでキングを覆い尽くすように落下した。しかし付近にはヒーロー協会のビルがあった。そこは特殊な材質でできており、ボロスの宇宙船の質量兵器の衝撃にも無事耐えられるほど頑丈だった。ボロスは首の下あたりをそのビルの屋上にぶつけた。そこが支点となって頭は回転し、ビルの側面にぶつかった。首から下はビルの部分だけ盛り上がって地面に落ちた。その衝撃がダメージとなり、血を吐いた。それがキングにかかった。という流れである。

 

 さて、その頃宇宙では。

 

「んちゃあああ!」

 

 アラレはボロスのエネルギー波から脱出し、んちゃ砲の推進力で地球を目指す。

 

「ふうううう!」

 

 サイタマは、マジ息吹きかけ、の推進力によって近場の隕石を目指す。そこを足掛かりにして、ワクチンマンが言っていたようにジグザグにジャンプし、地球を目指すつもりだ。


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