シワババアっぽい名前の預言者が「地球がめちゃんこヤバい」という予言を残して死んだ。
半年以内に、地球がめちゃんこやばい、状況が訪れる。その微妙な情報に、この世界最強のS級ヒーロー達はどう対応するべきか困惑した。しかしその間隙を縫うように、巨大な衝撃が会議室を襲った。
ヒーロー協会が揺れの原因を確認したところ、信じられないことに、一瞬でA市が壊滅したという。そして上空には謎の巨大飛行物体。ヒーロー協会幹部シッチは「予言の日がまさか今日だったとは」と頭を抱えた。
会議に集まっていたS級ヒーロー達は急いで外へ出る。特にB級ヒーローであるサイタマの反応が早く、天井の壁を壊し屋上に到達。そのまま宇宙船目掛けて一っ飛びした。途中で直径10mもある質量兵器の砲弾がミサイルもかくやというスピードで飛んできた。が、サイタマは空気を蹴って反動で動き、それらを回避する。いや、うち1つは蹴って宇宙船に返した。
一方、サイタマと同じようにジャンプしていたアラレは、同様の質量兵器を回避できず、ぶつかって軌道を逸らされた。これでは船に届かない。
アラレは10数秒後に地面に着地する。少し考えて、上空のガッちゃんに声をかけようとする。しかしそこで別の妙案が浮かんだ。アラレはにこりと笑い、もう一度ジャンプする。
ガッちゃんは砲弾を避けながら宇宙船へ向かっていた。時々急旋回の勢いに負けてピースケやスッパマンが落ちる。ガッちゃんはその度にUターンして拾っていたので、なかなか進めなかった。なお、アカネはガッちゃんと船のほぼ延長線上にいたので、砲弾着地の度衝撃で吹っ飛ばされて、もみくちゃにされた。頑丈なので死にはしないが。
そんな折り、再びアラレに砲弾が迫る。
「んちゃ!」
アラレは口からんちゃ砲を放ち、砲弾を破壊した。んちゃ砲はそのまま砲身目掛けて直進し、ついには当たって砲身とその周囲を爆破させる。
アラレは作戦成功ににかっと笑う。しかしんちゃ砲の反動で自身のジャンプの推進が弱くなってしまって、船にはギリギリ届かない。そこでアラレは手足を大きく動かし、空中で平泳ぎ。さらには反転して小さなんちゃ砲を放ち、反動でやっと船へたどり着いた。
「ぐぴぽー!」
「ガッちゃん!」
ガッちゃん等もほぼ同時にアラレの隣に着地する。サイタマもほぼ同時に船に入ったが、場所はアラレ達から離れていた。
「わーいでっかい宇宙船だー! わくわくわくわく」
「おーし! やっと着いたがや! 宇宙船ゲットまであとは盗むだけ!」
「だ、大王様。しかし先程の攻撃の威力を考えますと、我々だけでは少し」
「わーっとるわ! せっかくおるんやからこいつらを利用したったらええんぎゃ!」
一先ず喜ぶ一堂。いや、ピースケだけは恐れや困惑の表情だった。
「ア、アラレちゃん! おかしいよ! どうして僕たち攻撃されちゃったの!?」
「ほよ?」
「だってヒーローの船なんでしょ? 僕たち何も悪いことしてないのに!」
「はっ。まさかやつら、このスッパマンの人気に嫉妬して……」
一行に不穏な空気が流れる。
がじ、がじがじという怪しげな音も聞こえる。
「ぐぴぽーーー!」
いや、それはガッちゃんが船を食べる音だった。
「こ、こりゃー! わしらの船を食べるにゃー!」
「ぐぴ?」
「ニコチャンの船なの?」
「こ、これからそうなる予定なんだぎゃ」
ニコチャン大王はばつが悪そうにぼそりと応えた。
「な、なあにやっとるかお前らーーー!」
と、ここで知らない男の声が聞こえた。
「侵入者発見! 侵入者発見!」
ぞろぞろと集う船員達。ナメクジっぽかったりタコっぽかったり、誰もが化け物じみた見た目だった。
「はーっはっはっは! なんて無様な見た目だ! それでは貴様らヒーローというより怪人だぞ!」
スッパマンはまだ彼らがヒーローだと思っており、見た目で勝った気になって笑う。
「うわあー! かっくいーーー!」
「あ、僕別の地球から来たんです。サインください」
しかしアラレとピースケの反応にがっくりきてしまった。
「わ、私の方がかっこいいだろう!」
怒鳴るスッパマン。
「なにい? サインだとお?」
サインを求められた宇宙人は、脅すような口調で言いつつ、照れたように頬を赤くする。結局サインに応じた。
「おいお前! 侵入者相手に何をしている!」
「だってさあ」
上官らしき宇宙人が怒鳴る。ピースケは彼らをよそにおおはしゃぎだ。
「わーいやったやったー! 宇宙のヒーローのサインだあー!」
ちょんちょん、アラレが上官らしき宇宙人の腰をつつく。
「なんだおめえ? 馴れ馴れしく触ってんじゃねえ!」
「あたしもサインちょうだい」
「なにい?」
「僕もサインここにくださーい」
「なっ、くっ。しょ、しょうがないなあ」
上官らしき宇宙人は、憧れの目で見てくるアラレやピースケにうれしくなり、結局してしまった。ピースケは他の宇宙人にもいちいちサインを求め、宇宙人の方も律儀に応じたので、ぐだぐだになってしまった。
「ご、ごらあ! いつまでも食ってんじゃねえ!」
怒鳴り声が、そんな空気を壊した。ガッちゃんはまだ宇宙船を食べていた。宇宙人がガッちゃんに銃口を突きつける。しかしガッちゃんは反転し、うれしそうに銃口をつかむと、口を開けてがじがじがじがじ。銃を丸ごと平らげてしまった。
「ひ、ひええっ」
後ずさりする戦闘員達。
「な、何もんだおめえらあ!」
上官らしき宇宙人が叫ぶ。
「あたし? あたしアラレだよ」
「僕は空豆ピースケって言います」
「ち、ちがーう! 名前なんぞ聞いとらんわ!」
上官が怒鳴ると、ピースケはびくんと緊張する。アラレは特に反応なし。
「あっ、そうだ! ガッちゃん! あれあれ!」
「ぐぴ? ぴぽー!」
アラレは突然背中のバックを下ろし、ファスナーを開く。ガッちゃんはアラレのもとへ飛ぶ。
バックから出てきたのは大きな服だった。いや、着ぐるみだ。アラレとガッちゃんはせっせとそれを着ていく。
「わーい怪獣だ怪獣だー!」
「ぐぴぽー!」
それはアラレがこの日のために用意した怪獣の着ぐるみだった。
「だ、ダメだよアラレちゃん! ヒーローの船で怪獣なんて! もっと戦隊ものとかウルトラマンみたいなスーツ着ようよ!」
「ほよ?」
ピースケが慌てて諌めるが、アラレはいつものぽけっとした反応だった。
「ご、ごらあ貴様らあ! 何をヒーローだ怪獣だわけの分からんこと言っとんじゃあ! 俺たちを無視すんなあ!」
「ほよよ」
「ちっ。舐めやがって。もういい! お前達やってしまえ!」
上官らしき男がそう言うと、宇宙人達は雄叫びを上げながらアラレ達へ突っ込んでいく。
「んなあっ!」
アラレとガッちゃんを除き皆驚いた。が、一番ビビったのはスッパマンだった。ピースケを押し退けてアラレの後ろに回り、さらに揉み手をして腰を30度傾ける。
「じ、実は僕、あなた達のファンだったんです。さきほどの失礼な言葉もこいつらに無理矢理言わされただけで」
「うっせえ死ねえ!」
「ひいっ」
アラレの傍まで来た戦闘員が剣を振りかぶる。スッパマンは目をつぶり頭を抱え、敵に背を向けてしゃがみこむ。
「ほい」
「んぎゃあああああ!」
しかし、アラレの拳一突きで宇宙人は飛んでいった。その勢いやすさまじく、迷路になっている船内の壁を何層も突き破り、遂には見えなくなった。
「す、すびばせん。間違えまちた」
上官らしき男はてへっと舌を出しながら言った。しかし瞬時に真面目な顔に変わる。
「撤退! 戦略的撤退だ!」
彼は全ての兵を連れて大急ぎで逃げていった。
途端に船内が静かになる。
「ぎゃあーっはっはっは! こっちの宇宙人は数が多いだけで大したことねえぎゃ!」
「のようですね」
ニコチャン大王の笑い声が静寂を破った。
「い、行ったのか?」
「ア、アラレちゃん。まずいよお。どうしてか分からないけど、ヒーローを敵に回しちゃったみたい」
「ほよよ」
ピースケは不安がるが、アラレは相変わらずほわわんとしたままだ。
その頃、サイタマは宇宙船を壊し、戦闘員を舜殺しながら、迷路をあちこち走り回っていた。
「うーん。RPGならそろそろ親玉が現れてもいい頃なんだがなあ」
『し、侵入者に告げる! 侵入者に告げる! 今すぐ引き返せ! 我々は貴様の入船を許可していない!』
「なんだこりゃ? 声が直接聞こえてくる?」
サイタマは少し考え、いいことを思いついた。
「帰れっつっても道が分かんねえんだよなあ」
『なんだ帰るのか? よおし私が案内しよう。まずはその先の分かれ道を右に曲がって階段を上に上がれ』
「そっかあ。右が出口かあ。じゃあ左に進もうっと」
「なにい!?」
サイタマは意地悪げな笑みを浮かべて言った。驚いたのはテレパシーを送っていた宇宙人だ。己の失態と、侵入者が間近に迫っていることに危機感を抱き、怒鳴ったり頼み込んだりする。しかしサイタマは止まらなかった。
「ゆ○けゆけゆ○おー! 皆でゆ○お! つおーいヒーローやってくる!」
「ア、アラレちゃん! その歌は不吉だよお」
一方、アラレ達はアラレが吹っ飛ばした宇宙人が開けていった穴を真っ直ぐ進んでいた。ピースケとスッパマンはアラレの後ろに隠れている。厳密には、アラレの後ろがピースケで、さらにその後ろがスッパマンである。
ふと、すさまじい衝撃が宇宙船を襲った。一度ではない。ドドドドド、と続く。
「ぎゃああああ! ママーーー!」
「ア、アラレちゃん! この船なんだか変だよお!」
「ほよよ」
「おいごりゃあー! おみゃあらが食ったり暴れたりしたせいで宇宙船が爆発したんじゃないんぎゃあ!」
「ほよ?」
スッパマンはピースケに抱きつき、ピースケはアラレに声かける。ニコチャン大王はアラレとガッちゃんを責める。しかしアラレとガッちゃんはそれらを一切気にせず船を進んだ。